キャンペーン・リプレイ

第 九 話 「 激 突 ! 王 子 と 皇 帝 」  平成10年8月30日(日)

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 ライバの街外れで操兵同士の決闘が行われていた。すでに闘技場も完成し、操兵武闘大会開催の噂で街中が持ちきりであり、操兵による決闘は今更珍しいものでもない。だが、たまたま見物していたクサナギとアリスの視線は片方の操兵に釘付けになった。両肩に大盾を装備したダークグレーのその機体は、マディを倒し、サイラスと出会ったときに見たあの紅蓮の機体だった。
 先の決闘は(危なっかしい場面もあったが)紅蓮の圧勝に終わった。だが、見物人は誰一人歓声を上げなかった。それもその筈、紅蓮……「紅蓮の狩人」デューク・フリーディオは、この辺りでは悪名高い操兵乗りだったのだ。
 竜の牙亭に戻ったクサナギとアリスは、紅蓮の狩人についての詳しい話を聞いた。今から四年前、まだ駆け出しだった紅蓮はとある操兵乗りと決闘し、善戦むなしく敗れた。操兵による決闘において敗者は命を取られることがない代わりに、自分の操兵の仮面を取られてしまう。そもそも、操兵での決闘は、これが目当てで行われるのだ。だが、たいていは今までの勝負で得た他の仮面や仮面以外の部品で勘弁してもらえるものだ。
 ところが、錯乱したらしい紅蓮はとんでもない暴挙に出た。彼は何と、操手槽から対操兵用銃を持ち出して相手の操兵の仮面を狙い撃ち、割ってしまったのだ。生死の境目である戦場ならいざ知らず、命のやり取りのない操兵の決闘において、仮面割りは禁止されていた。紅蓮はその禁を破った挙句に逃亡した、というのだ。
 それからの紅蓮は負けることを知らなかった。そして戦い撃ち破った相手の操兵を必ず、完膚無きまでに破壊したという。特に、あの[イリューディア]という操兵に乗るようになってからはますます腕に磨きがかかっていったという。
 その日の昼過ぎ。二人は噂に聞いていた操兵武闘大会の受付開始を知り、早速闘技場へと向かった。闘技場は選手登録のための行列ができてごった返していた。その中に、クサナギは知っている顔を二人ほど見つけた。一人は、先日偽の亡霊退治をクサナギたちに依頼した、ラゾレ商会の番頭ムワトロ。彼はルシャーナの代わりに、彼女の選手登録の手続きに来たという。
 そしてもう一人。以前の人狩り退治の際に出会った工房都市のエージェント、ゼノア・リングバール。やはり、自分のところの操手の代理で登録に来たらしい。さらにゼノアは、クサナギとアリスにも大会に参加することを強く勧めた。どうやら今回も、何か裏がありそうだ……。
 その時、一台の豪華な馬車が闘技場の受付の前にやってきた。馬車からは四人の屈強な男たちに守られた、美形の青年が降りてきた。そして並んでいる行列に割り込んで登録を済ませた。どうやら、この青年も出場するつもりのようだ。
「この大会も、大したレベルじゃないわね!」
 一人の女騎士が、あからさまに嘲笑した。隣の町、リナラの有力者の娘、メリエンヌ。彼女は本来操手ではなく、剣士だった。だが、自分のすぐれた剣技は操兵戦においても敵はないと自負し、参加することにしたそうだ。大した自信だ。
 同じ頃、受付で一人の男が登録の手続きをしていた。釣り目が特徴の痩せたその男は手続きを済ませると、突如ニタァ、と笑った。傭兵隊長ザクネーン。噂によると、性格的にかなりアブナイ奴らしい。
 そのほかにも、この大会には様々な操兵乗りが参加の名乗りを上げた。その中にはおそらく、あの紅蓮もいることだろう、と確信をいだくクサナギだった。
 ゼノアの頼みもあって選手登録を済ませたクサナギとアリスは、大会出場の依頼の理由を聞くためにゼノアの元に向かった。二人を出迎えたゼノアは、二人を自分が借りたガレージに案内しながら、 「どうやらこの大会の裏に王朝結社の陰謀があるらしいんですよ」
 と語る。目的はまだわからないが、何かを企んでいることは間違いない。二人が見たあの美青年と、紅蓮の狩人ことデューク・フリーディオがどうやら奴等の関係者らしい。
 そこでゼノアは、クサナギのファルメス・グラーテとアリスのユニホーン・カムナに大会へ出場してもらい、とりあえずは奴等の優勝を阻止しようというのだ。では、あなたの操兵はどうしたのか、という問いにゼノアは、
「……何せ、私の操兵は……」 と、口ごもる。
 ゼノアは、ガレージの扉を開けて二人を中に招き入れた。ガレージの中では数名の整備士と思われるものが操兵用の装甲を点検している。だが、なぜ装甲だけ……。クサナギは中を見渡した。そしてそこで見たものは
「あ、クサナギさん、お久しぶりです」
 以前出会った御仁の姫、モ・エギだった。
 気を取り直したクサナギは、アリスとゼノアにモ・エギを加えて、大会における行動指針を話し合った。その話の中で、王朝結社の捜している王家の操兵のことが話題に持ち上がった。ゼノアの話では、連中がもし、あれを見つけた場合、その性能よりもむしろ操兵そのものの権威のほうが恐ろしいという。
「ク・メーラ王朝の権威は、いまだに強いですからね。連中があの操兵を後ろ楯として持ち出せば、かなりの国が連中に従うでしょう。それに連中、既にファルメス・エンペラーゼの仮面を所持していると豪語して、それで人を集めていますからね」
「ちょっと待ってくれないか。操兵が見つかっていないのに、なぜ仮面があるのだ?」
「それでしたら、調べはついてます。結論から言えばあの仮面はエンペラーゼのものではありません。ただ、厳密にいえば偽物でもありません。あれは、王朝時代中期に製作されたエンペラーゼの複製機のものなのです。それを所持しているだけでも、連中の黒幕がクメーラ王家ゆかりのものであることの証ではありますがね」
「ところで、あのエンペラーゼは本物の[ファルメス]なのか?」
 その問いにゼノアはかぶりを降った。
「あの、伝説のファルメスのことですか?確かにエンペラーゼは王朝時代以前の操兵ではあるらしいのですが。でも、私は[フィールミウムの石]の伝説は信じていないんです。あれは所詮、神話みたいなものですから……」
 クサナギはグラーテの仮面をゼノアに見せた。仮面の額に付いたフィールミウムの石の青い輝きを見たゼノアの顔から笑顔が消え、驚愕の表情へと変わった。これをどこで手に入れたのか、とのゼノアの問いにクサナギは、ある方から譲り受けたとだけ答えた。
「その仮面、ちょっと見せて……」
 差し出されたモ・エギの大きな手のひらにクサナギはグラーテの仮面を乗せた。モ・エギは青い輝きを見つめながら指で仮面をなぞる。
「確かに初めてこの仮面を手にしたときより強い意志を感じる。昔、長老様から聞いたことがある。ファルメスとヴァルパスの戦いの後、ファルメスの長である[ファルメス・ドラグレーア]は全てのフィールミウムの石を操兵から取り上げ、樹海の奥にある秘境[クワスティカ]に持っていってしまったって。でも、いくつかの石はこの地にとどまったとも言ってた……」
 その夜、二人の宿泊している竜の牙亭は試合見物客や操兵乗りでいつになくごった返していた。そこには、ラゾレ商会の用心棒、ということになっているルシャーナの姿もあった。クサナギとアリスはルシャーナと雑談して時間を過ごす。
 そんなとき、クサナギの隣の席にターバンとマントで身を包んだ一人の青年がおもむろに腰を掛けた。そしてクサナギに声をかけてきた。
「……あのときの負けに、言い訳はしない。だが、あんたとは違った場所で決着を付けたかったが……」
 初めてみる顔、だがその声は忘れることはできなかった。紅蓮の狩人、デューク・フリーディオ。なぜここに、との問いに今は自由時間だから自分の好きにしている、とそっけなく答える。クサナギはこう問い掛けずにはいられなかった。
「何故、そなたは王朝結社の仲間などになっているのだ……」
「俺は傭兵だ。雇われればどこにでもつく……」
 呟くように答える。だが、クサナギは何か釈然としなかった。果たして、あれは本心なのだろうか?
 深夜。クサナギとアリスはモ・エギを連れ出して、次の日の試合に備えて郊外で操兵による稽古を行った。その中で、今までの戦いを得て鍛えられたクサナギとグラーテの強さにモ・エギとアリスは舌を巻いていた。
「そろそろ終わりにしましょう。明日も早いですし……」
 ゼノアのその言葉で、三人は稽古を終えた。