キャンペーン・リプレイ

第 十 話 「 遠 い 記 憶 の 呼 び 声 」  平成10年9月20日(日)

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 複雑な心境になったモ・エギは、気分を換える為市内を散歩していた。上の空で街をさまよい、思わず人を踏んでしまいそうになるモ・エギを見兼ねたミオが親身になって慰める。そんなミオをいとおしく感じてモ・エギは彼女をそっと手に取り、肩の上に乗せてその体を自分の頬によせた。そして、こんな話をミオに聞かせた。
「人間たちにはこんな話を伝わっているって長老から聞いたことがあるの。"私たち御仁の頭の角にはどんな怪我やどんな病気でも癒してしまう"っていうの。でも、それは人間たちの思い込み。確かに切られた直後の私たちの体の一部は再生しようとしてもてる[力]を放出するわ。そしてその放出された[力]はそれに触れたものに限定的な再生の[力]を与える……。でもそれはある一定の期間で消えてしまうわ。あくまでも残るのは本体だけだから……」
 その夜、あらかた準備を終えた一行は宿に屯していた。その中でファルスは、昼間の出来事を話せずすっかり黙り込んでいた。そんなファルスをクサナギとミオは複雑な心境で見ていた。その後ファルスは、皆に黙って一人出掛けた。持てるだけの装備をもって。行き先は、モ・エギのいるガレージ群。
 モ・エギはガレージの屋根の上に腰かけ、星空を見上げて思いに耽っていた。ガレージの入口に立ったファルスは、一瞬ためらいつつもモ・エギに声をかけた。
 その声が聞こえたモ・エギは特に表情を変える事なく屋根から降りて、そのまま膝を崩して座り込む。そしてファルスの前にゆっくりと大きな手の平を差し出した。乗れ、と言うのだろうか……。考えあぐねていると、モ・エギはその心を読んでか、
「何もしないから……もっとよく顔が見たいだけ……」
 と呟いた。
「……話しておきたいと思った。思い出せたことだけでも……」
 ファルスが掌に腰かけると、モ・エギはその手をゆっくりと持ち上げてファルスを自分の顔の近くに寄せた。
 モ・エギは声を押さえてファルスに話しかけた。
「まず聞かせて。あの時、何で半泣きで……あんな思いをしてまで私の角を切ったの……。少なくとも、単純な欲望のため、じゃないわよね……」
 ファルスはモ・エギの大きな瞳をまっすぐ見つめた。その輝きがファルス=ラルクの記憶の封印をさらに解いていく。
「誰か大切な人と故郷を守るため……。それははっきり思い出した。そして、結局助けることができなかった……。それは多分、妹だったと思う……。故郷の場所は、この街のマザの先にあったラザの村。そこも、みんな病で全滅した……」
 ファルスの言葉からだんだん力がなくなっていくのがよくわかった。彼にとってこの出来事はずっと忘れていたかったことなのかもしれない。モ・エギは心から怒りと憎悪が消えていき、同時にこの掌の小さな青年に対して同情と愛しさがゆっくりと芽生えてくるのを感じた。
 ファルスの言葉に急に覇気が戻った。
「実は、俺が記憶を失ったときに世話になった集落がマザの近くにあるんだ。メークルといって、クゼンの山の麓にある。そこが今、襲われようとしている。あのとき俺と一緒に君の角を取った連中に……。手遅れかもしれないが、俺は今すぐにも行きたい。いや、今すぐ行く!一人ででも……。そこには君に返さなきゃならないものが、多分……あるから……」
 その時だった。
 「……そういうことならなぜ私達に話してくれないのだ」
 クサナギが装備一通りとグラーテの仮面を抱えて立っている。
「全く、抜け駆けなんて水臭いわよ!」
 ミオも荷物を持って出てくる。
「…………」
 メルルも来ていた。そしてさらに一台の馬車。ゼノアだった。
「やあ、私が一番乗りだと思っていたのに……まあ、いいでしょう。私も及ばずながら力を貸しましょう。ただし、やはりマザには立ち寄ってもらいますよ。ひょっとすると、そこで私が受け取ることになっているある物が役に立つかもしれませんからね……」
 こうして合流した一行は、夜の内にライバを後にした。