キャンペーン・リプレイ

第 十 話 「 遠 い 記 憶 の 呼 び 声 」  平成10年9月20日(日)

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 その後一行は、それぞれ円楼防衛のための準備を開始した。そんな中、持ってきた武器を戦える住民に渡し終えたゼノアがミオのところにやってきた。
「ミオさん、ちょっと手を貸してくれませんか?」
 この村に残された唯一の操兵戦力である旧型操兵[イドゥラ]の整備をしていたミオは手を休めて整備台から降りてきた。
「何?あたし今忙しいの。イドゥラの次はスクラップかき集めて案山子作らなきゃいけないんだから」
「実は私の持ってきた荷物をグラーテに装備してもらいたいのです。何、手間は取らせませんよ」
 そういってゼノアは、部下が馬車から下ろしている大きな木箱を指さした。ミオがその蓋をバールでこじ開ける。すると中からは長さ1リートほどの金属性の円筒が現れた。片方の先端が丸く、もう片方にはノズルのようなものがついている奇妙な物体。これを見たクサナギとミオは思った。まさかこれは、ロケット弾?
「最初はその目的で研究されました。これは、とある工房都市で発掘されたものを元にして製作されたのですが、通常のロケット弾の何十倍もの推力を発揮するもののその分費用や手間がかかりすぎてロケット弾として使用したのではとても採算が取れないのです。そこで思いついたのが、このすばらしい推進力を生かして……」
 ゼノアは一息ついてからにやりと笑みを浮かべて言葉を続けた。
「操兵を……飛ばすのです……」
 そのころファルスはメルカの案内で円楼の中心部にある古い祠の前にいた。体が大きすぎるモ・エギは、少し離れたところでこの様子を静かに見つめていた。
「いったいどういう風の吹き回しなの?あれほど見るのを嫌がっていた[御神体]を見たいだなんて……」
 そういいながらメルカは扉を開け、その中に鎮座している龍の下半身を持つ女神の像に向かって柏手を打つ。そしてその女神像の後ろから大きな木箱を引っ張り出した。メルカがゆっくりと蓋を開くと、その中には長さ半リット強の円錐状の白い物体が収まっていた。モ・エギの角だ。それを見たモ・エギは言い様のない衝動にかられた。その角を今すぐにでも取り戻したい……。だが、モ・エギはそれをこらえる。無意識のうちに拳に力がはいった。
 そんなモ・エギの様子に気づいたのは、ファルス一人だった。
「これが、あなたと一緒に来た[神様の落とし物]。これが来てから、村はとっても栄えたわ。偶然だって言う人もいるけど、私はそうは思わない。これはあの時のあなたの怪我を治してくれたし、弱った作物にもう一度育つ力を与えてくれたりもした……。今はもう力を使い果たしてしまったけど、これのおかげで私達は今まで生きてこられたのだから、こうして今でもお祭りしているの。私達の希望の印として……」
 ファルスは黙ってモ・エギを見た。その拳からは力が抜けていた。彼女はそのまま振り向くと、そのまま円楼の外に出てその壁の壁にもたれるように地面に座り込んだ。
 その後、相談の末に作戦が決まった。この円楼の回りは樹界ともつながる深い森に囲まれており、操兵を使う以上奴等は間違いなく正面の門がありかつ開かれているところがある南から攻めてくるだろう。相手の戦力は操兵が五機と傭兵二十人ほど。対する味方は、動ける操兵がグラーテとイドゥラ。イドゥラの操縦は、村の操手が怪我をしているためにミオが担当することになった。そして操兵と戦える巨人、モ・エギを加えて一人と二機。戦闘可能要員は、まず村人が十名とゼノアの部下が五名。そしてファルス、メルル、ゼノアの計十八名。
 数的には不利だが、連中も地形の関係上そうからめ手は使えないので、円楼を砦にして戦えば十分こちらが有利だ。問題は操兵戦だった。タクマの話から推定すると、相手操兵は一般に普及している量産機のアルキュイル型が二機とアムイード型が一機。そして新機種の部類に入る重装機ブルガイン。後の一機はゴーグル男の操縦する作業用の[ワークマンデ]。こちらはモ・エギを入れても三機。相手の腕によってはこちらが不利だ。さしもの円楼にも操兵を食い止めるほどの強度はない。つまり、操兵戦に負けたら後がない。
 そこで、グラーテに装備された新装備[ロケットモーター]が役に立つ。モ・エギとミオのイドゥラ、それにミオがスクラップをかき集めて組み上げた案山子操兵を囮にして敵を誘い、二人(+案山子)を取り囲んだところでグラーテが円楼から飛び出して敵の背後を取る。そうすれば逆にこちらが敵を挟み撃ちにできる。まさか連中も操兵が空から攻めてくるとは思うまい。一行は最終準備に入った。
 夜。壁にもたれて星空を見上げるモ・エギのところにファルスがやってきた。円楼の屋根の上にはクサナギとメルル。クサナギはちょうどモ・エギのすぐ上にいた。さらに近くにはイドゥラで見張りをするミオもいた。モ・エギは静かに呟いた。
「今更、返せなんて言えないわよね……。あんなに大切にされてたんじゃ、今更私の角だ、なんて……言えないわよね……」
「すまない……」
 ファルスは角を見たときに思い出した記憶のすべてを語った。正体不明の病に襲われた故郷の村ラザ、その病に倒れた妹。誘ってきた二人の渡世人とモ・エギとの不幸の出会い……仕組まれた仲間割れ、そして裏切りの銃弾……。
 モ・エギはファルスをそっと、掌に乗せた。そしてファルスを自分の頬に寄せた。
「ごめんなさい、ファルスさん……。私、あなたが自分の故郷を守るために辛い気持ちで角を切ったことを知ろうとしないで自分のプライドの事ばかりを考えていた……。私、もうあの角は要らない。あれがこの集落の人たちに希望を与えているんだもの。だから、もういいの……。クサナギさん……」
 モ・エギは屋根の上にいるクサナギにそっと手を伸ばす。おとなしく掴まれるクサナギ。モ・エギは手の中にいる二人の小さな青年を自分の頬に寄せ、そっと抱きしめた。そして、その温もりを肌に感じた。
「……角を取られたあの時、私は人間全部が信じられなくなった。でも樹界を出てからいろいろな人たちに出会って少しづつ信じられるようになった……。そしてあなたたちに出会って私、もっと人間を信じることができるようになったわ。本当にありがとう……」
 この光景に、ミオは思わず貰い泣きをする。そして、もう一人。円楼の門の影でこの話を聞いていたメルカがモ・エギのほうに向かって深く頭を下げていた。そのひとみに涙を浮かべて……。その時、メルルが遠くから聞こえてくる操兵の足音に気づいた。
 円楼に緊張が走る。すると、南のほうから操兵五機、そして傭兵の一団がこちらに進軍してくる。円楼の全体が戦闘態勢に入る。屋根の上にメルルとファルス、ゼノアとその部下、そしてメルカをはじめとした村人たちが展開し、門の前にはミオのイドゥラとモ・エギ、そして案山子操兵が構える。クサナギのグラーテは壁の内側でひかえる。時が来たら一気に飛び立つつもりだ。
 距離をおいて操兵が止まる。両脇に傭兵団が展開し、四機の操兵を前に立ててワークマンデが後ろに控える。そのワークマンデから拡声器を通じてあの、ゴーグル男の声が聞こえた。
「ほう、また用心棒を雇ったか。だが、そちらは三機、こっちは五機、はっきり言ってそちらに勝ち目はない。おとなしく君たちの[神体]を渡してくれたまえ……」
 ファルスは屋根の上に立ち、ゴーグル男に向かって叫んだ。
「また、逢ったな……[ファルス]……!!」
「フ……どうやら、記憶を取り戻したようだな、[ラルク・ロイド]」
 側にいたメルカは驚き、困惑した。ファルスが相手の名をファルスと呼んだことに……。
 ゴーグル男はファルスに話しかけた。
「どうだラルク……三年前のことは水に流して、もう一度手を組まないか?」
 ファルスの答えは決まっていた。それを示すかのようにファルスは敵に向かって散弾銃の引き金を引いた!が、弾詰まり……。そして、それを合図に戦闘が始まった。
 敵の操兵四機が一斉に前進、それに続いて傭兵も散開、前進を開始した。操兵はミオのイドゥラとモ・エギこと御仁姫紅葉を取り囲むように散開する。おそらく、それぞれ二機掛かりでいたぶるつもりだろう。さすがに案山子操兵のことは見破られたらしく、誰一人寄ってこない。ゴーグル男のワークマンデはその場を動かない。高みの見物を決め込むつもりなのか?そして、四機の操兵は完全に二人を取り囲んだ。
 その時、轟音が当たりに鳴り響いた、そしてそれと同時に円楼の壁の裏側から一機の操兵が飛び出した。いや、飛び立った。もはやそれは跳躍とはいえなかった。背部に装備された[ロケットモーター]が火を吹き、操兵ファルメス・グラーテが今、大空へと飛翔したのだ!そして敵の操兵の上を軽々と飛び越えると、ワークマンデとの間に着地した。驚愕する敵操兵達。この時点で戦いの優劣は完全に決まった……。
 不意打ちで背後を取られ、しかも挟まれた格好となった敵操兵はもろかった。グラーテとモ・エギはものの二秒足らずでアルキュイル二機を沈黙させる。そして、それぞれクサナギはブルガイン、モ・エギはアムイードへと向かっていく。
 一方、円楼のほうは傭兵との銃撃戦となっていた。ファルス、メルカが村人を指揮しながら銃を撃ち、メルルは確実に敵傭兵をねらい撃つ。ゼノアも部下とともに必死に戦っている。そして、操兵戦でこちらが押していることにより、相手の指揮は完全に下がっている。流れは完全にこちら側にあった。
 操兵戦は山場を迎えていた。グラーテとイドゥラはブルガイン、モ・エギはアムイードと戦っている。イドゥラを駆るミオの牽制で攻撃に転じられない重操兵ブルガイン、操手のイクゥは反撃の機会ができるまで自機に防御行動をとらせる。その隙を突いてクサナギは爆砕槍の充填に入った。そしてすぐさまその蓄えた蒸気を開放した。二股の槍が旋回しながら突出、受け止めようとしたブルガインの刀を粉砕し、その分厚い装甲を砕いた!
 だが、さすがは重操兵。刀で相殺されて決定的とはいえなかったとはいえ、爆砕槍を受けながらも辛うじて動いた。イクゥは爆砕槍を放って大きな隙の生じたグラーテに向かってブルガインを突進させた。両腕を突き出して掴みかかるつもりだろう。が、隙ができること知っていたクサナギは既にグラーテに全力で回避運動を取らせていた。グラーテの思わぬ機動力に思わずつんのめるブルガイン。そこにイドゥラの鉄棍が叩きつけられ、ブルガインは完全に沈黙した。その隣ではモ・エギがアムイードを撃破し、ワークマンデに向かっていった。
 円楼では、被害を出しながらも村人たちが傭兵たちを押さえていた。そんな中、メルルが銃弾を受けた!が、幸運にも軽傷で済んだ。彼女は再び敵を狙撃し続けた。
 ファルスはこの戦いに、そして自分の過去に決着をつけるためにむき出しになっているワークマンデの操手槽に狙いを定めていた。その時、目標との距離がありすぎたためにファルスは大事なことを見落としていた。ファルスのボルトアクションが火を吹いた!その銃弾はワークマンデの座席の背もたれに命中した。奴が……いない……。