キャンペーン・リプレイ

第 十一話 「 そ の 心  奇 面 に 隠 し て 」 平成10年11月1日(日)

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 時はさかのぼり、ちょうどライバ操兵武闘大会が開かれていたころ。一人武者修行の旅を続けていたセフィロスは久しぶりにライバの街に戻ろうと街道を歩いていた。そんな時、街道沿いの一軒の茶屋で、一人の戦士風の男が五人のチンピラに取り囲まれているのを見つけた。側で腰を抜かしている店番の老婆に事情を聞くと、茶屋で一休みをしていた戦士にチンピラたちが突然剣を抜いて取り囲んだのだそうだ。
 セフィロスは戦士に向かって叫んだ。
「手助けが要るか?!加勢するぞ!」
「片じけない!相手が五人ではちと、荷が重すぎる!」
 そして、二人対五人の戦闘はセフィロスと戦士の圧倒的な勝利に終わった。チンピラは決まり文句を吐き捨てて逃げ去った。
 戦士の名はラシュアンと言った。セフィロスは、今の戦いぶりから彼がかなりの手だれだと見た。ラシュアンはセフィロスに礼を言い、目的地が同じと知るや道連れにならないか、と持ちかけた。セフィロスは快く承諾した。
 それから二日がたち、二人は無事にライバの街に着いた。ちょうど操兵武闘大会は例の事件で中止となっていた後であった。街の大門についたセフィロスは、ラシュアンが実はライバ王室近衛隊長であることを知った。だが、ラシュアンは身分の差を全く気にしてはいなかった。
「今となっては、時代遅れな存在だからな……」
 ラシュアンが空を見上げて呟く。このライバに限らず、今都市国家群のほとんどの軍隊が騎士や騎馬を中心とした古い戦術を捨て、銃火器や大砲、ロケット弾を使用し、そして歩兵による占領戦が主流の近代戦へと移行しはじめていた。かつては騎士の乗り物として戦場の花形だった操兵も、大砲やロケット弾の性能が向上している今となっては徐々に一機動兵器へと変貌しつつある。今では戦場において、操兵同士の一騎打ちは一部の例外を除いてほとんど行われなくなっていた。
 そんな中、誇りと伝統を重んじる近衛隊は戦場では浮いた存在になり、今では儀礼的な集団と化しつつあった。
 ラシュアンは、セフィロスに士官しないか、と持ちかけた。これは渡世人に過ぎないセフィロスにとってはめったにない幸運であった。確かに軍の体系から外れつつあるとはいえ、近衛隊はまだまだ特別な地位にある。その近衛隊の隊長の紹介で士官すれば、たとえ操兵に乗れないことを差し引いたとしてもかなりの待遇が期待できるだろう。
 だがセフィロスは、自分はまだ修行の身であるから、とその申し出を丁重に断った。
「……そうか……まあ、気が変わったらいつでも城を訪ねるといい。拙者の名前を出せばすぐに取り次いでくれるだろう。それから、ちょうど二週間後に、隣国のリナラで毎年恒例の御前試合が開かれるという。よかったら、行ってみるとよい……」
 そしてセフィロスとラシュアンはその場で別れた。

 次にセフィロスがラシュアンと出会ったのはそれから一週間が過ぎたときだった。その日は休暇を利用してセフィロスと酒を酌み交わしに来たのだ。その中で彼はセフィロスにこんな話をした。
「一週間後の御前試合、実は拙者も出場することになったのだ。わが国の国王、レイ・ライバ十六世陛下が国賓として招かれてな、その関係上、やはりわが国も出場者を出さねばならない、ということになってな。そこで、近衛隊長である拙者が選ばれたというわけだ。叶うなら、ぜひともお主と当たりたいものだが……」
 さて、円楼に留まったファルスと別れてからは特に何も起きぬまま、クサナギ、ゼロ、イーリス、そしてセフィロスはすることもないまま日々を過ごしていた。しばらく街にとどまり踊り子の仕事を続けていたアリスもまた、最近稼ぎがあまりよくないようだ。
 そんな時、一行が寝泊まりしている竜の牙亭の入口で何やら人だかりができていた。見てみると、その中心にはフラウの街で別れて以来久方振りに見る阿修羅の姿があった。彼女はこともあろうに宿の入口前で十三節棍を使って芸を披露し、それを芸人の元締めであるナバールに見つかってショバ代を請求されていたのだ。阿修羅はナバールを片手で持ち上げるもちゃんとショバ代を払い、結局この場は何事もなく収まった。
 その時、表通りのほうから地響きがした。外に出てみると、城のほうから操兵の一団が門のほうへと歩いてくる。近衛隊仕様の重操兵ブルガインが五機、そして王室御用の四脚操兵[ディルワン]。ライバ国王レイ・ライバ十六世と王室近衛隊がリナラの街に向かって出発するところだった。セフィロスと阿修羅から御前試合の話を聞いた一行は、自分らも参加してみることにした。
 再会を祝してのドンチャン騒ぎをやらかしたその翌日、一行はリナラの街へと旅立った。リナラまでは街道を西へと向かって馬や操兵などで二日。一日目は特に何もなく無事に過ぎた。そして二日目。一行は間もなくリナラの街に着こうとしていた。
 その時、街道沿いの茶屋で二人の男が対峙しているのを一行は見つけた。一人はかなりの大男で、片刃のだんびらを構えている。その態度から察するに、どうやら仕掛けたのはこの男のようだ。もう一人は、この辺りでは珍しい、だいぶくたびれた着流しに身を包んだ髭面の男で、腰に差した穂先刃を抜きもせずに両手をだらん、と下げて構えもせずに立っている。
 髭面が大男に向かって呟いた。
「……どうしてもやるのか。抜けば、どっちかが死ぬだけだ。つまんねえぞ……」
 男の目は鋭く、まるで鷹のようだ。そしてそれでいて澄んでいた。邪念は見受けられない。
 大男は今の言葉に耳を貸さずに、だんびらを大きく振りかぶるとそのまま雄叫びをあげて髭面に切りかかった!。
 勝負は一瞬でついた。髭面は大男のだんびらを軽く身をひねってかわすと、腰の穂先刃を抜き放ち一刀のもとに男を斬り伏せた!。その一撃で大男は絶命した。その死に顔はまるで、自分の身に起きたことを理解していないかのようだった……。
 刃にべっとりとついた血糊を拭き取っているその男に、ゼロとイーリスが近づいた。良い腕ですね、とその太刀筋をほめるイーリスにムッとした表情になり、
「聞いた風な事を抜かすな!」
 と、そっけなく答えてその場を立ち去った。どうやらこの男も御前試合に出るつもりのようだ。一行が男の名を問うと、男は振りかえりもせずトシロウと名乗った。
 その日の夕方頃、リナラの門をくぐった一行は早速、選手登録のために試合会場へと向かった。試合会場はリナラの城の側に設営されており、3リート四方の試合場は高さ1リートの壁に囲まれていた。この御前試合は本来儀礼的な催し物であり、決して単純な見世物ではない。従って、一般の見物客はいない。
 ゼロとイーリス、そしてセフィロスと阿修羅は早々と選手登録を済ませる。が、クサナギとアリスは参加せず。アリスはともかく、クサナギまでも……。ゼロがブーたれるが、クサナギの決意(?)は固く結局ついに登録をしなかった。
「クサナギさまー!」
 一人の剣士風の女性がクサナギの元に駆け寄ってきた。リナラ近衛隊の筆頭[三剣士]の一人、そしてライバ操兵武闘大会第二回戦において、クサナギとグラーテの前になす術もなく敗北したあの、メリエンヌだった。彼女は当初見下していたクサナギに一太刀も与えられずに破れ、最初は恨み、ライバル視していた。が、その後のクサナギのファルメス・グラーテと王朝結社首領、皇帝レオンナールの操兵ファルメス・ロードレイとの、そして紅蓮の狩人デュークの操兵ヴァルパス・ヒラニプラとの一騎打ちを目の当たりにし、それ以来クサナギを心の師匠としたのだ。
 メリエンヌはクサナギの不参加を知ると、
「何故でございますか……?クサナギ様でしたら、お出になられても十分な腕前ですのに……」
 と、非常に残念がった。
「ケッ!ガキどもが意気がるんじゃねえ!」
 後ろからドスの効いた男の声が響く。振り向くとそこには、トレンチコートを着こんで腰に派手な長剣を下げた赤いボサ髪の大柄の男が、鋭い目付きで一行のほうを睨つけていた。自信家か、あるいは自信過剰かわからないその男は一行を蔑むように一瞥をくれると、さっさとその場を立ち去った。受付の話によると、彼も大会出場者の一人で、名はリガーブ。流れ者の戦士ということだ。
「セフィロス!やはり、来てくれたか……」
 セフィロスの元にラシュアンが訪れた。彼は近衛隊隊長としての礼服に身を固めていた。ラシュアンの話によると、この大会にはさまざまな戦士や剣士、武術家が参加するそうだ。[雷]と呼ばれる流派。細剣使いの騎士。槍の名手。果てはケモノビトまで参加しているそうだ。しかも選手はかなりの数で、決勝に残るのはかなりの実力者だけである。どうやら、簡単には優勝はさせてはもらえないようだ。
 翌日、試合場のすぐ側に設けられた特設会場で予選試合が行われた。試合は一人四戦。ゼロ、セフィロス、イーリス、阿修羅の四人は仲間を含む強敵とは当たらず、難なく全試合を勝ち残った。
 そしてその日の夕方には、シードを加えた十六名の試合出場者が決定した。その中には、あのトシロウ、リガーブの姿もあった。