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その夜。出場者のための宿泊施設で食事を済ませた一行は、特にすることもないのでそれぞれ別れた。セフィロスと阿修羅は自室に戻り、本戦に備えてさっさと休むことにした。相手が誰だろうと自分の体調さえ整えておけば問題無い、という豪胆な二人だった。 イーリスは街に繰り出して一軒の居酒屋に入って本戦の出場者に関する情報を集めようとした。そこで彼女は雷の流派の使い手である剣士ナズマと話を交わした。ちなみにこの雷の武術はイーリス達と同じく武繰の一派で、かつてゼロがフラウの街で戦った戦士もこの流派の使い手だった。このナズマの話によると、本戦に勝ち残ったのはやはりかなりの実力者ばかりで、特に注意すべき相手は鎖鎌のシシド、ライバの近衛隊長ラシュアン、このリナラ自慢の三剣士の一人メリエンヌ、そして、流れの武者トシロウ。特にトシロウの腕は群を抜いており、あのゼロの師匠である剣聖ニーツ・カークと引き分けたほどだそうだ。 アリスもやはり街に出て、イーリスとは別の居酒屋に出向き、そこで働く踊り子を観察してその踊りを研究しようとする。だが、特に何も得られなかった。 そんな中、クサナギとゼロは彼女らより少し遅れて街へ出ようとしていた。その時、施設の受付でクサナギを呼び出そうとしていたゼノアと出会う。彼はクサナギに何か頼み事があって、わざわざライバから追いかけて来たらしい。と、いうことはこの大会も唯では終わらない……。クサナギはそんな予感がした。 請われるままに足を運び、クサナギとゼロはイーリスやアリスのいるところから少し離れた居酒屋の二階の部屋でゼノアの話を聞いた。彼の得た情報によると、どうもこの御前試合の裏で[奇面衆]なる武闘集団が暗躍し、何かを企んでいるらしい。奇面衆とは、ある種の裏武術暗殺組織でその実働部隊は必ず奇妙な面で顔を隠しているという。だが、ゼノアの情報網をもってしても、組織の構成、その規模といった肝心なものはつかめてはいない。 だが、この奇面衆が暗殺組織だと言うことははっきりしている。目的はおそらく、誰かの暗殺。では、その目標はいったい……。 「おそらく、ライバの現国王レイ・ライバ十六世陛下でしょうな……」 ゼノアがあっさりと言った。 「あのお方には暗殺の標的にされる理由が多いのですよ。クサナギさんならご存じでしょうが……。それに最近、こんな情報を仕入れました。ライバの街に、この辺り国々の戦力の均衡を崩してしまうような、とある品が極秘裏に運び込まれた、というものです……」 そこでクサナギはピンと来た。 「あの[ロケットモーター]のことか?!」 ロケットモーターとは、円楼の攻防戦において操兵ファルメス・グラーテの背部に装備し、空を飛ばせた、あの装置のことだ。確かにあれならば、今までの操兵戦の常識を覆してしまうだろう。 だが、ゼノアはクサナギのその推理を否定した。 「確かに、あれが実用化されれば脅威ではあります。ですが、ライバに運び込まれたものはそれよりもっと脅威的なもの……。どうやら、操兵の仮面製造機か、修復機のどちらからしいのです……」 クサナギは息を飲んだ。このゴンドア大陸において、操兵の仮面製造は古代の英知が作り出した仮面製造機を用いるか、あるいは発掘された仮面を修復して流用するしか方法がない。質でいえば、長い間放置されておりかつ完全な使用法がわかっていない製造機を使うよりも、古代の仮面を発掘して修復したほうが高い。また、古代にはこれ以外の、何か呪術的な方法で仮面を製造する技があったとされているが、それがどんなものかはわかってはいない。 だが、この仮面製造機は本来工房都市しか所有していない。そしてライバは工業がかなり発展した大都市。しかも街の周辺からは古代の操兵の部品や仮面、その他の機械などが毎日のように掘り出されており、それらを利用したギルダームやレストアールと言った再生操兵を生産している。そのライバが仮面製造装置を手に入れたということは当然、自国での操兵の完全製造が可能になる……。 その上、今ライバの貴族達は旧クメーラ王朝派と新ライバ派に別れて争っている。そして国王は新ライバ派だ。また、戦力均衡が崩れるとあってはその周辺の国々も黙ってはいられまい……。 「そういうわけで、おそらく狙われるとしたらレイ・ライバ王しか考えられないのです。それで、あなた方に暗殺の阻止をお願いしたいのです。この件の背景からして、王朝結社の関与も考えられることですし……。それと、ライバ王室の近衛隊の動きにも注意してもらいたいのです。実は彼らの中に一人、まだ確定はできないのですが、最近の行動などに不審なところが見受けられる人物がいるらしいのです……」 重い気分に包まれた二人はゼノアと別れ、繁華街に出た。街は予選に破れた戦士や武芸者、そして商人や旅人などでにぎわっていた。二人が何気なくうろついているとその時、建物の影から一人の男がぼろぼろになって現れた。 その男は、今日の予選を突破して明日の本戦の第一戦に出場する剣士リムスだった。彼の話によると、酒場から出たところを奇妙な面を着けた集団に襲われたという。連中は小剣と短剣で武装し、そしてその護拳で殴りつけてきたのだ。その面は一つ目で、それが暗闇の中不気味に赤く光っていたという。おそらく、奇面衆……。 そして試合当日。リナラ国王マクダリア・リナーラの開催宣言のあとに始まった第一試合は、あのリガーブと昨夜奇面の集団に襲われた戦士リムスの試合だった。直接的な斬り傷こそはないものの、目立たぬところを負傷していたリムスに勝ち目はなかった。痛みで思うように動けぬリムスをいたぶる様に攻撃するリガーブ。そして結果は、当然の如くリガーブの勝利に終わった。 「はーっははははは……。貴様如き、このオレ様の敵ではないわ!」 リムスが夕べ襲われていたことをクサナギとゼロから聞かされていた一行は、この成り行きから当然リガーブを疑った。だが、それを裏づける証拠は何もなかった。 第二試合はイーリスと鎖鎌使いのシシドの試合であった。開始と同時にシシドは、手にした分銅を大きく旋回させる。分銅に阻まれて間合に近づけないイーリス。だが、何とか隙を見つけると一気に近づき、鋭い剣撃を放つ。 だが、シシドにはもう一つ戦術があった。イーリスの剣をかわしながらシシドは試合会場のあちこちに小石をばらまいていた。イーリスの剣の間合をはずし、距離を取ったところで再び分銅を旋回させ、そしてその分銅で小石を弾き飛ばしてイーリスを遠くから狙い撃とうというのだ。 しかし結局、イーリスとの間合をはずすことができずにシシドは彼女の必殺の剣を受けて倒れた。その戦術の全容が誰にも知られないまま……。 第三試合は、近衛隊長ラシュアンと単節棍使いの拳法家リュンの試合。奇声を上げながら繰り出される鋭い棍の動きに翻弄され苦戦しながらも、ラシュアンは的確に剣をリュンの急所に当てていき、この試合に見事勝利した。 第四試合はセフィロスと細剣使い、マザの騎士ロトリエフとの試合。開始早々ロトリエフは素早い動きで針金のような剣を突き出してきた。このロトリエフの構えは変わったものだった。自身の体は完全に横を向き、顔は対戦相手に向けている。確かに、突きを主体とした細剣を扱うには丁度よい構えだ。だが、この時相手から見て彼の左腕全体が全く見えないのが気になる。 セフィロスは武繰の技の一つである[見切り]でその突きをかわそうとする。しかし[見切り]切れずにその鋭い剣先にとらえられてしまう。幸いにもそれは致命傷には至らず。だが、ロトリエフの攻撃はそれで終わりではなかった。彼はセフィロスが反撃に転じる間もなく体をひねり、今度は左手で攻撃してきたのだ!その手には、短剣が握られていた。先の構えはこれを隠すためだったのだ。 セフィロスはそれを何とかかわすと、その自慢の破斬槍を突き出した。ロトリエフも両腕の細剣と短剣を交互に繰り出してくる。が、一度不意打ちにしくじったらもうあとはない。そして、セフィロスの技が決まり、ロトリエフは地に伏した。 第五試合は波乱含みのものだった。阿修羅はよりにもよってあの、トシロウと当たってしまったのだ。そして試合開始。十三節棍を構える阿修羅に対し、トシロウは右手にもった穂先刃をだらりと下げたままで対峙した。だが、それでいて全く隙がない。 その実力の差は歴然としていた。だが阿修羅は、運に助けられたとはいえ意外にもトシロウ相手に善戦していた。トシロウは特に改まった戦術を取らなかったが、鋭い動きで木刀を繰り出してくる。まるで真剣のようなその木刀の攻撃を受けながらも阿修羅は、わずかに生じた隙を見つけてトシロウに打撃を与えた。 この数回の攻防の間にお互いかなりの打撃を受けていた。もし、次の阿修羅の攻撃が確実に決まれば、トシロウを倒すのも恐らく不可能ではないだろう。が、しくじればトシロウの反撃で阿修羅は確実に倒される。 阿修羅は覚悟を決め、その勝利への思いを十三節棍に込めた。そしてトシロウよりもわずかに早く、その棍をたたきつけた!。それは辛うじてトシロウの方に命中した。が、当たりどころがよろしくない。とても致命傷とはいえない。――もうだめだ――そう思った時、奇跡は起きた。阿修羅の思いが強かったのか、その大したことのない一撃でトシロウは気絶した。阿修羅の勝利だった。 第六試合。リナラ三剣士の一人、メリエンヌと斧使いグラハの試合。メリエンヌは剣と盾を装備し、攻防一体の構えで挑む。それに対しグラハは、戦斧一振りの攻撃重視。その斧の一撃は侮れないものがある。その重量ゆえに取り回しは悪いがもし命中すれば、盾や鎧でも防ぎ切れない致命的な打撃を与えるだけの力を持っていた。 そして、試合が始まった。グラハは雄叫びを挙げながら両手持ちの大きな斧を振りかざし、メリエンヌに向かって突進した。その必殺の一撃をメリエンヌは素早い身のこなしでかわすと、そのまま剣を繰り出して確実にグラハに命中させる。結局、試合は終始メリエンヌの流れで進み、そして彼女の勝利に終わった。 第七試合はゼロにとって、まさに因縁の戦いだった。相手は[雷]の継承者ナズマ。ゼロはかつて、この[雷]を名乗る武繰使いと戦い、そして勝利したことがある。その時の相手は名も言わぬまま絶命した。もしや、このナズマはその時の男の縁者なのだろうか……。 試合が始まった。数回の剣撃のあと、二人は互いに武繰使いであることに気づいた。そして、そうと知るや二人はそれぞれの流派の持てる技の限りを尽くして全力で戦った。信じられぬ速度で剣を繰り出し、[気]を込めた強烈な一撃がうなる。 だが、武繰の技はその強力な威力と引換えに自身の体力を著しく消耗する。まさに文字通り、その身を削りながらの死闘だった。そして最後に立っていたのは、またしてもゼロだった……。 |