キャンペーン・リプレイ

第 十一話 「 そ の 心  奇 面 に 隠 し て 」 平成10年11月1日(日)

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 そして本日最後の試合である第八試合。剣を用いた突きを得意とする剣客ガートの相手は、どうして予選を突破できたのか分からないようなひ弱そうな少年トミィ。その木刀を構えた姿も全く様にならない姿にガートはすっかりあきれ返った。
「……こっちは取り込んでるんだ。悪いが、手早く終わらせるぞ……」
「は、はい!よろしくお願いします!」
 この勝負、誰もがガートの勝利で終わると思った。
「とりゃあぁあぁあぁあぁあぁ……!」
 こっちが拍子抜けしてしまうような、情けない声を上げながらガートに向かっていくトミィ。
「……阿呆が!」
 ガートは躊躇なく必殺の鋭い突きを放った。いかに木刀とはいえ、まともに受ければ最悪は相手を死に至らしめることもある。そして、勝敗は一瞬で決まった。が、それはあまりにも予想外の結果だった。
 勝者は何と、トミィ少年だった。ガートの突きが決まる瞬間、トミィはひゃあ、とその場にしゃがみ込んでしまった。その時、上に向いたトミィの木刀がガートの顎にものの見事に命中、その一撃を受けてガートは気を失った。今自分の身に何が起きたのか、分からないまま……。
 まさに、運命のいたずらか。しかし周囲の人間にトミィのことを聞いた一行は驚いた。何と彼は、前日の予選も全部こんな幸運に助けられて勝ち進んだということだった。手からスッポ抜けた木刀が相手に命中したとか、転んだ拍子に相手の急所に命中したとか。
 一行は思った。いくらなんでもここまで幸運が続くのはどうもおかしい。だが、いくら注意してトミィを観察しても怪しいところは見当たらない。お付きと思われる祖父と勝利を喜び合う、普通の少年にしか見えなかった。

 その夜、一行はゼノアの誘いで食事に出かけた。最初は行かない、と主張したセフィロスも、ゼロのドウドウ鳥ピジョンに引きずられて仕方なく出向いた。ゼロは町に出たら、トミィを捜すつもりだった。彼は昼間の試合のあと、祖父とともに町に行ったきり、施設に戻っていないのだ。
 町に向かって続いている夜道を進む一行。その時、その行く手を阻むように十人の人影が一行を取り囲んだ。その集団は全員、顔に奇妙な面をかぶり、その一つ目は不気味に赤い光を放っていた。連中はその手に小剣と短剣を構えると、一斉に襲いかかってきた!。
 さては奇面衆!。迎え撃つ一行。だが、戦いが始まってみると奇面の男達はクサナギ、ゼロ、セフィロス、阿修羅を牽制しつつ、イーリスに攻撃を集中してきた。どうやら最初からイーリスが目的らしい。奇面衆は暗闇をものともせずに鋭い攻撃を繰り出してくる。対する一行は、闇の中を巧みに動き回る敵に翻弄されて思うように攻撃できない。だがそれでもクサナギは、その大太刀で敵の一人を斬りつけ、セフィロスとゼロ、そして阿修羅も奮戦する。
「誰か一人でもいいから捕まえて!」
 アリスが必死に叫ぶ。だが、戦っている身からすればそんな余裕はない。そんな中、イーリスが敵の刃を受けた!。幸いにもかすり傷で済んだ。しかし……。
 激戦の末、苦戦しながらも一行は奇面衆のうち半数近くを倒した。形勢不利と判断したのか、残った奇面衆は撤退を開始した。そうはさせまいと阿修羅は十三節紺で敵の一人を捕らえた。イーリスも逃がすまいと追いかける。だが、奇面衆は懐から何かを取り出すと、それを地面に叩きつける。すると、ものすごい爆発とともに周囲に煙が立ちこめ視界を遮った。その煙に紛れて奇面衆は姿を消した。
 とりあえず戦闘は終了した。だがその時、イーリスの体に異変が起こった。先ほど斬られた箇所に突如激痛が走り、体の動きが鈍くなったのだ。どうやら連中の剣には毒が塗ってあったらしい。ゼノアの見立てによると、毒の種類は[プロフォス]。ある魚類から抽出された毒で、注入されたものの体力を奪い動きを鈍らせてしまうものだ。一行は解毒剤を捜すが、捕らえた奇面の男も、倒された者達も解毒剤を持ってはいなかった……。
 連中はもう一つ、変わったものを残していった。奇面だ。倒した時に壊れてしまったが、この面には暗闇を見通すカラクリが仕掛けられていたらしい。ゼノアの説明によると、これは星の瞬き程の光でも増幅して闇の中を見通すことができるようにする機械で、これと同じものが時折古代の遺跡から発掘されることがあるという。
「おっさん!これ同じもの作れないのか!」
 詰め寄るゼロにゼノアは肩を落として答えた。
「……研究費を出してくれるなら試みましょう……。今までも発掘されたものを研究しているんですが、複製不可能な部品も多くて実用に耐えうるものはできてはいないんですよ……」
 その後一行は、無事に繁華街についた。ゼノアは持てる自分のコネを駆使して解毒剤を入手し、イーリスの体内の毒は解毒された。幸い毒が弱かったおかげで体の動きもすぐに回復した。クサナギとゼロは町の中をくま無く捜したが、トミィを見つけることはできなかった。

 翌日、二回戦。一行は会場に赴いた。門をくぐったイーリスは、早速リガーブの元に向かった。彼女の今日の対戦相手はリガーブなのだ。昨日の状況から考えても、奇面衆を差し向けてきたのは多分この男だろう。イーリスはリガーブに躊躇なく話しかけた。
「昨日はどうも……」
 リガーブは一瞬戸惑った。
「……何の……ことだ……」
 リガーブの顔からいつもの自身たっぷりの笑みが消え、落ちつかなげにイーリスを見る。その後二人の会話が続き、やがて今日はよろしく、とイーリスはリガーブと別れた。その間、リガーブの顔に笑みは戻らなかった。そしてその表情を読み取ったイーリスは確信した。やはりこいつがやらせた、と……。
 一方ゼロは、トミィを見つけると早速話しかけた。何せ、ゼロの今日の相手はこのトミィ少年なのだ。緊張しているひ弱な少年に握手を求めるゼロ。トミィは照れながらゼロの手を握り返してほほえむ。しかしゼロは見逃さなかった。素人のはずのこの少年の掌に、本来熟練者にしかできないはずの固い剣蛸があったことを。ゼロはクサナギにそれをそっと告げた。
 そして本日の第一試合、ゼロとトミィの試合が始まろうとしていた。一行はお付きの祖父の動きにも注意を払う。もしトミィが怪しいなら、おそらく祖父も共犯だろうから……。だが、今のところは特に異常はなかった。試合が始まった。先んじて動いたらやられる。そう考えたゼロは、剣を構えたままトミィの出方を待つ。対するトミィは、いかにもな素人剣術で、情けない声を上げながらゼロを牽制する。
 やがてトミィが木刀を振りかぶってゼロに向かって突進した。身構えるゼロ。だがトミィはゼロの直前で足を滑らせ、ものの見事に転んだ。そして、手にしていた木刀は彼の手を放れてゼロめがけて飛んでいった!。だが、ゼロはこれを予想して木刀をかわす。そしてトミィにこう、呟いた。
「いい加減、芝居はやめたらどうだ?」
 その言葉を聞いたトミィはうつむき、そして動きを止めた。後ろに飛び退くゼロ。だが、足を滑らせそのまま転ぶ。その時、それを待っていたかの様にトミィはその隙を突いて貴賓席に向かって疾走した。まるで別人のような動きを見せる彼の顔にはいつの間にか、あの奇面がかぶせられていた!
 異変に気づいた一行、そして護衛の者達はそれぞれの王を守るべく行動を起こす。その時、塀の外から次々と煙玉が投げ込まれ、視界が遮られた。様子を見るために塀によじ登るイーリス。そこで見たものは、煙玉を投げ込みながら塀に縄を掛けてよじ登る奇面衆の一団だった。
 一方、今まで静かに試合を見ていたトミィの祖父は、周囲が煙に包まれると同時にトミィの元に向かって走り出した。それに気づいたセフィロスが老人に槍を突き立てる。だが、老人はその槍に倒れる瞬間トミィに向かって小剣と短剣を投げ渡す。トミィは飛び上がって無言でそれを空中で受け取る。そしてその勢いで二つの剣の鞘を抜いて、そのまま護衛の守る貴賓席に突っ込もうとする。
 塀の上ではイーリスが奇面衆の掛けた縄を斬って回る。が、あまりにも数が多く、十数人が塀を上りきり試合場の中に入り込んだ。そして、内三人がイーリスに向かってきた。塀の上での不安定な戦いだったが、イーリスはそれでもその三人に挑み、勝利した。
 煙に包まれた試合場はまさに地獄と化していた。さまざまな剣撃、さまざまな怒号が響き渡る。「待て!オレはここまでやれって行ってねえぞ……!わあっ!何でオレまで襲うんだ!助けてくれぇ……」
 リガーブの哀れな叫び声が聞こえる。やはり一枚かんでいたようだが、この男は連中にとっても捨て石だった、ということらしい。
「周りを固めろ!王は私が守る!」
 ラシュアンもライバ王を守って奮戦している。メリエンヌを含む三剣士やロトリエフ、その他の出場者もそれぞれ戦っている。
 そんな中、貴賓席に向かって走るトミィを阻止するために阿修羅とゼロが彼に追いつこうと走った。セフィロスもそれに続こうとする。が、その目の前に死んだと思われたトミィの祖父が立ちふさがる。その顔には、やはり奇面が被せられていた……。
 ゼロはトミィに追いつくと試合用の剣を捨て、クサナギから手渡された愛用の破斬剣を引き抜いてトミィに挑む。トミィも手にした小剣と短剣で反撃する。その剣裁きはさっきとはまるで別人のようだった。鋭い攻撃がゼロを襲う!。だが、ゼロは落ち着いてその攻撃を見切ると、反撃の剣をたたき込んだ。そしてその攻撃で、トミィは気を失った。
 ―もしトミィが操られているのなら、この衝撃で目を覚ますはず―そう考えた阿修羅はトミィに[気]を送り込む。彼女の宗派の扱う[気功法]の中には、怪我や病気などを治療する技も含まれているのだ。トミィは間もなく目を覚ました。が、突如目の前の阿修羅めがけて剣をふるった!。不意を突かれた阿修羅はその攻撃をまともに受けて負傷する。大した怪我ではない。そう判断したのもつかの間、阿修羅は体中が痺れていくのを感じた。そしてその場に倒れてそのまま動けなくなった。やはり剣に毒が塗ってあったのだ。
 その光景を目の当たりにしたゼロは、声にならない叫びを上げてトミィに剣をつき刺した!。トミィはそのまま絶命し、奇面が顔から地面に落ちた。その顔に表情は、やはりなかった。ゼロはその死に顔を見たまま動かなかった。そしてそれを見つめるその異様に血走る瞳からは、少年の純粋な輝きが失われていた……。