キャンペーン・リプレイ

第 十二話 「 仇 敵 か ら の 依 頼 」  平成10年11月22日(日)

123

 リナラの御前仕合のゴタゴタから一週間が過ぎ、クサナギ、ゼロ、セフィロスはあれから憂鬱な日々を過ごしていた。そんな時、一人の翼人がクサナギを訪ねてやってきた。鳥のように空を飛べる翼人はそれを生かして飛脚の仕事をしているものがいる、と聞いたことがある。彼女もそんな一人で、その少女はクサナギに一通の手紙を手渡して立ち去った。
 手紙を受け取ったクサナギは、差出人の名前を見て驚愕した。サイラス・ウィルラーティ。あの、サイラスからであった。手紙の内容は意外にも穏やかな文章で書かれており、どうやら果たし状の類いではないようだ。それによると彼はクサナギたちに何か頼み事があるらしく、今夜街外れの廃墟で待っているとのことだ。
 罠か……。そう考えるのも無理はない。だが行ってみなければわからない。不幸にもゼノアとモ・エギは、何か大事な用があるとかでライバを離れている。仕方がないのでクサナギは操兵ファルメス・グラーテで、そしてゼロとセフィロスもそれぞれ完全武装で指定された廃墟に向かった。ライバの街から半刻程離れたところにその廃墟はあった。そしてその入口には約束通りサイラスが一人で、しかも武器をもたずに一行を出迎えた。グラーテの感応石にも特に反応はなく、周辺からも特に気配は感じられない。どうやら、罠ではないようだ。
 クサナギは警戒しながらも操兵を降りた。そしてサイラスの側に近づいた。
「……一体どういうつもりだ。敵である、私たちに頼み事など……」
 サイラスはゆっくりと口を開いた。
「……一週間前の御前試合。その時、きさまたちが捕らえたリガーブという男のことは憶えているな……。その男が直後に脱走し、仲間を募ってここから北西の樹界の麓にある小国[ウィンの谷]を襲撃したのだ。目的はわからないが、このままでは谷は全滅してしまう……」
 クサナギはサイラスに憎悪の視線を向ける。
「虫のよい話だ……。それなら、そなたがそなたの手駒を使えばよいだろう……」
「訳あってそれはできぬ。それにこれは、きさまにとっても関係のない話ではない。マディがきさまの国[グラーテの谷]を襲ったのも、その時マディに雇われていたリガーブが奴を唆したからだ……。それに、ウィンの谷を、きさまのグラーテの谷の二の舞にしたくはあるまい……」
 その言葉に触発されたか、クサナギはその依頼を受けることにした。それを聞いたサイラスは、報酬を要求するゼロとセフィロスに渡世人斡旋所宛の手紙を渡すとその場を立ち去った……。
 複雑な気持ちでライバに戻った一行は、街の入口でゼノア商会、そしてモ・エギと出会った。彼らは工房都市組合から、なんらかの依頼を受けて出かけていたらしい。
 立ち話の後宿に戻った一行は、ゼノアから彼の受けた依頼の内容を聞いた。それによると、今から三日前に街道で、輸送中の試験用試作操兵が何者かに強奪されたので、その調査、奪還を依頼されたということだった。その操兵は特に際立った装備はないが、通常の操兵の機体よりも巨大な、2リートを越える巨体から繰り出される膂力、耐久性は侮れないものがあるという。
「……結局、何の手がかりも得られなかったのですがね……」
 一行はゼノアにウィンの谷について訪ねた。するとゼノアは、
「そのことでしたら、彼女に聞いてみたらどうです?」
 と、一人カウンターで酒をたしなむラゾレ商会の用心棒兼、トランバキア帝国第四皇女のルシャーナ殿下のほうを指さした。意味深な笑みを浮かべて……。
 三人はルシャーナに詳しい事情を話した。すると彼女は、
「……あの谷には、借りがあるのでな……」
 と、遠い目をする。ウィンの谷はライバの西方にあるノウラの街から北の樹界の麓に位置する、人口五百人ほどの小さな独立国だ。ルシャーナとラゾレ商会はかつてこの谷を訪れた時、何か大きな借りをつくったらしい。だがルシャーナはそれについては何も語らなかった……。
「だが、今の私は動くことができん……。できれば、そなたたちが私に変わって何とかしてはくれぬか……」
 そう言ってルシャーナは宿を後にした。やがて商会の使者としてムロトワが一行を訪ねてきて、一行に報酬を全額渡していった。
「あ〜これ、[殿下]からです」
 と、言って…………。
 それから一行は斡旋所へと赴いた。サイラスの方の報酬が本物かどうか確かめるためだ。窓口の係員はゼロが渡したサイラスの手紙を見ると、ああ聞いてますよと行って一行に銀貨の詰まった革袋を手渡した。どうやら、本物のようだ。係員は、依頼達成後にはさらに後金が出る、と付け加えた。喜々として銀貨を分け合うゼロとセフィロス。クサナギは、その金を一枚たりとも受け取ろうとはしなかった……。
 そして翌日。早速ウィンの谷に向けて出発しようとしていた一行の元にゼノアとモ・エギがやってきて、この旅に同行させてくれと頼み込んできた。一体何故、との問いにゼノアはこう答えた。
「いや何、貴方方の側にいれば王朝結社となんらかの形で接触できますからね……」
 ……返す言葉がなかった……。
 出発した一行は、通り道の関係上ノウラの街に立ち寄った。彼らは以前この街の危機を二度ほど救っており、グラーテの姿を見るや街の住人は総出で一行を歓迎した。困惑する一行。
 歓迎会もそこそこにクサナギはこの街の領主ワールモン伯爵の側近ハラグ・ロイゼル卿に、ウィンの谷について訪ねてみた。するとロイゼル卿は、そういえば最近谷の商人が街に来ていないと言った。卿の話によると、このノウラの街とウィンの谷はそれぞれの交易品である鉄製品と農作物を持ち寄って交易をしているという。
 ところが、このところ谷からの連絡がぱったり来なくなったというのだ。街で軍を派遣しようと思っても、以前の死人の軍勢との戦闘でかなりの打撃を受けておりとてもそんな余裕はないという。
 その次の日。ノウラを後にした一行は北の樹界の麓をめざして進んだ。そして谷まであと半日、というところで一行は野営することにした。モ・エギの獲ってきた熊の肉で夕飯を済ませた一行は交代で見張りを立てながら眠りについた。
 すっかり夜もふけたころ、見張りについていたセフィロスは自分の背後で誰かが転んで倒れる音がするのに気づいた。夕方のうちにゼロが仕掛けた、草を結んだだけの原始的な罠に何物かが引っかかったらしい。油断なく様子を見ると、そこには一人の老人が草むらから立ち上がろうとしていた。音に気づいた全員が目を覚ます。
 老人は誰何するセフィロスに逆にお前たちこそ何者だ、と一行に問いかけてくる。全員が辺りを見渡すと、この老人のほかに何人かの人影が見える。服装や装備からして野党やリガーブの手下とは思えない。どうやらウィンの谷の人々らしい。
 クサナギは老人に、ルシャーナが谷の代表に宛てた手紙を手渡す。それを読んだ老人は緊張を解き、一行に非礼を詫びた。老人の名はリト。谷の族長であるヤラ姫に仕える城ジイの長であるという。やはり彼らはウィンの谷の住人だった。
 ウィンの谷の住人たちは谷を離れて、森の中にある大きな遺跡の中に隠れ潜んでいた。クサナギたちがサイラスと出会う二日前に[竜魔王]と名乗るリガーブとその一味、傭兵五十人前後と操兵五機が突如攻めてきたという。それから数日間、谷の人々は族長のヤラ姫を中心に抵抗を続け、敵の操兵二機を破壊したが、その結果谷の操兵[レフタル]も機体の損傷がひどく、リガーブの駆る巨大な操兵に追い詰められて、住民総出で谷を離れてこの遺跡に立てこもり、逆襲の機会を模索しているというのだ。
 ゼノアはリガーブの操兵の特徴を聞いて驚愕した。その機体は何と数日前に奪われて、自分がその調査を依頼されたあの、巨大操兵[ギガスメイア]だったのだ。
 一行は、谷の人々とともに遺跡の中で一夜を過ごした。そういえば族長のヤラ姫の姿が見えない。クサナギのその問いにリトは、姫は今、敵の様子を探りにいっているのだ、と何故か空を見上げる。
 やがて朝を迎え、谷の人々は朝食の準備を始めた。するとそこに、その朝食の匂いと陽気に誘われたかのように何と、阿修羅がふらりとやってきたのだ。あんまり物欲しそうに見ているので料理番が思わずお粥を差し出す。よっぽどお腹が空いていたのか阿修羅はそれを平らげる。
 どうやら彼女は、先に出発した一行を追いかけてきたのだが、途中で道に迷ってしまい、森をさ迷っているうちに気がついたらこの場所に出た、という。ちょうどよいので、阿修羅にもこの依頼に乗ってもらうことにした。
 一行が阿修羅に倣って朝食を取っていると、空に大きな白い鳥が翼を羽ばたかせずにこちらに向かって滑空してくるのが見えた。いや、それは鳥ではない。凧だ。大きな白い凧が風に乗って飛んでいるのだ。そしてその凧の背には一人の少女が腹ばいになって乗っていた。
 その凧は、空中で数回輪を描くとそのままゆっくりと降下し、そして着陸した。少女が凧から降りるや、谷の人々はその周りにどっと集まってその少女の無事を確認して喜んでいた。リトは一行にその少女を紹介する。彼女こそ、このウィンの谷の族長である[風使い]ヤラ姫だった。 ヤラ姫は加勢してくれるという一行に礼を述べると、挨拶もそこそこにリガーブ一味のより詳しい情報を一行に伝えた。連中の戦力は、傭兵五十人と操兵三機。その他にリガーブが雇ったと思われる三人の用心棒。一人は槍使い。もう一人は銃士。そして最後の一人は女性で、どうやら鞭を得意としているらしい。
 そしてリガーブの目的だが、どうやらこの谷に古くから伝わる宝物が狙いのようだ。今から千年くらい前からこの地に建っているウィンの城の地下から続く宝物庫には、先祖からの宝のほかに由来不明の品々も数多く存在する。その中には、巨大な神像のようなものもあるという。おそらく操兵……。
 こうしていても何も始まらない。一行と谷の住人は早速、谷の奪還作戦の会議を始めた。敵は傭兵五十人。だが、単純な数での勝負なら谷の戦える人々のほうがはるかに勝っている。しかも連中は所詮烏合の衆。操兵と大将であるリガーブが倒されてしまえば、あとはどうとでもなる。 そこで、クサナギは操兵ファルメス・グラーテ改を駆り、モ・エギや谷の人々とともに城の正面から乗り込んで敵の操兵と戦い谷の人々の血路を開き、さらにリガーブの注意を引く。その間にゼロ、セフィロス、そして阿修羅がリトの案内で城の秘密の抜け穴から城内に忍び込み、リガーブ等敵の親玉陣を叩く。姫は上空から支援するという。作戦は決まった。