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戦いは終わった。ギガスメイアから逃げ出したリガーブはモ・エギの巨大な手で捕らえられ、手と足を縛られた状態で一行の前に突き出された。 グラーテ改を降りたクサナギがリガーブに詰め寄った。この男には聞かねばならぬことがあったのだ。いったい何故、グラーテの谷を襲わせたのか……。 「……マディ、という男を知っているな……。そなたが唆して、私の故郷、グラーテの谷を襲わせた男だ!」 だが、リガーブからは意外な答えが返ってきた。 「そんな男は知らん。それに、そんな谷などにも行ったことはない……。大方、サイラスの野郎がお前さんを焚きつけるために法螺でも吹いたんだろうぜ」 「……本当……なのか……」 茫然とするクサナギに、さらにリガーブの言葉が続く。 「……リナラから助け出されたオレは、その見返りに奴の命令でこの谷の宝物をいただきにやってきたんだが、御前試合の時、オレを捨て駒にした仕返しも兼ねて、ここの宝を全部オレ様のものにしちまおうと思ってな……。おそらく、サイラスの野郎はあんた等を利用してオレを倒そうとしたんだろうよ。自分の手を、汚さねえでな……」 その時、城壁の外のほうから爆発音が響いてきた!。見ると、谷の切り立った壁面の一角が崩れさって、巨大な扉のようなものが現れていた。そしてその扉から二機の操兵の手によって何か巨大な人の形をしたものが運び出されていた。 「……ファルメス……エンペラーゼ……」 今まで戦いを静観していたゼノアが、茫然となって呟いた。その顔には、いつもの笑みはなかった……。 クサナギは再びグラーテ改を起動させると、今まさに運び出されようとしている現場に向かった。ところがそこに、別の二機の操兵がクサナギの前に立ち塞がった。紅蓮の狩人、デューク・フリーディオの操兵イリューディアことヴァルパス・ヒラニプラと、王朝結社首領、皇帝レオンナール・クメーラ・ロクセーア14世の操兵ファルメス・ロードレイ。そういえばこのロードレイ、今運び出されている操兵にどことなく似ている。 クサナギはデュークに詰め寄った。 「何故だ!。何故、そなたはこんな連中の味方をするのだ!」 デュークは拡声器を通じて静かに答える。 「……事情がある、と言ったはずだ……。残念だが、今回はあんたの相手をしている場合ではない。あの操兵を持ち帰るのが俺の仕事なんでな……」 クサナギはグラーテに大太刀を構えさせる。 「……ならば、それを阻止するまでだ!」 クサナギはグラーテをヒラニプラに突っ込ませた。が、デュークはそのダークグレーの操兵を巧みに操りグラーテの攻撃を回避すると、左肩部の大きな盾に内蔵された蒸気兵装[三連爆砕鎚]をグラーテに向けて射出した!。その強烈な一撃はグラーテ改と、中にいるクサナギに大きな被害を与えた。増加装甲を失っていたグラーテ改は装甲を砕かれ、筋肉筒の一部が破損した。もしこのままもう一撃を受けたら、グラーテと言えど持たないだろう……。 だがヒラニプラはこれ以上の攻撃を仕掛けては来なかった。 「今日はこれまでだ。マリアが……妹が、待っているんでな……」 そう呟くと、デュークはヒラニプラを下がらせる。その足もとにはサイラスがいた。 「礼を言わせてもらうぞ。貴様達のおかげで、我々は労せずに、目的を達成することができたのだからな!」 サイラスは高らかに叫んだ。さらにレオンナールがロードレイの上から叫ぶ。 「クサナギヒコ・ディス・グラーテ!次は必ず貴様を倒す!。このファルメス・エンペラーゼを使い、僕自身の手で!」 その言葉を聞き終えたサイラスは、ゆっくりと馬車に乗り込んだ。その時、サイラスに続いて一人の少女が馬車に乗り込んだ。その表情は目的を達成したサイラス達とは対照的に、とても悲しげだった……。 「待て、逃がしはしない!」 クサナギはグラーテ改を立ち上がらせる。が、ヒラニプラは煙幕を張りグラーテの視界を奪う。そしてその隙をついて連中は撤収した。クサナギは悔しさをかみ締めた……。 一行は重い空気に包まれていた。ゼロはゼノアに詰め寄った。何故、ここにエンペラーゼがあることを知らせなかったのか、と。ゼノアは遠い目で答える。 「……知っていたら、とっくの昔に貴方達に知らせていましたよ……」 ゼロはリガーブに八つ当たりをした。リガーブはゼロに散々拷問を受け、精神が崩壊寸前に追い込まれるた挙句、徹底的な刷込を受けて茫然とした表情で谷を後にした。 「……私はリガーブ……人々に幸せをもたらすもの……私は……」 何はともあれ、とにかくウィンの谷は救われた。谷を代表してヤラ姫が一行に礼を述べる。姫は一行に、どうせ暴かれたものだからといって谷の宝の一部を進呈した。ゼロはセラミック製の剣、セフィロスは高品質の手甲、阿修羅はセラミック板が仕込まれた飛行帽と、壊れた鎧の代わりの胴鎧。クサナギは何も受け取らなかった。 谷の人々に見送られながら一行は、複雑な気持ちでライバの街に帰った。戻ったら早速斡旋所に行ってみるつもりだった。どうせサイラスのことだから後金は全く期待できなかったが……。 ちなみにあの巨大操兵ギガスメイアは、ウィンの谷に置いていった。どうせ持ち帰る手段もないし、エンペラーゼの問題に比べたらギガスメイアなど、取るに足らないとゼノアが判断したためだった。 ウィンの谷から一行が戻ってきてから数日が経過した。何気なく街をうろついていたゼロは、路地裏で一人の少女が数人の男に絡まれているのを目撃した。考えるまもなく助けに入るゼロ。相手はガキ一人、と鷹をくくって男達がゼロに突っ掛かるが逆にゼロのその素早さに翻弄される。 男達はゼロから離れ、距離を置いた。おそらく、捨てぜりふでも吐いて逃げるつもりだろう、とゼロは思った。だが、そうではなかった。男達から表情が消える。それと同時に、自分の背中にかくまった少女から緊張が伝わってくる。だがそれは、腕の立つ戦士の持つ緊張だった……。 「……逃げて……」 少女がそう呟くと同時に、男達がゼロに向かって一斉に飛びかかった。辛うじて回避するゼロ。その時、ゼロは見た。その男達の顔に、あの奇面がかぶせられていたことを…… 「……さよなら……」 少女はゼロに一言別れを告げると、信じられないような跳躍力で民家の屋根に飛び上がり、そして脱兎の如く走り去った。奇面達は少しの間少女の逃げた屋根とゼロを見比べた。そしてゼロを無視して少女を追うように立ち去った。 果たして、あの少女は何者なのか……。何故奇面衆に追われているのか……。すべては謎のままだった……。 |