キャンペーン・リプレイ

第 十三話 「 狂 気 の 剣  無 情 の 奇 面 」平成11年2月28日(日)

123

 ウィンの谷からクサナギ、ゼロ、セフィロス、阿修羅が戻ってから数日がたった。イーリスとミオはこの頃ゼロの様子がおかしいことに気づいた。ふだんの超常的な食欲もなく、何の表情も浮かべる事なく、ただひたすらに剣を振るゼロを、ミオは弟を見るように心配する。ちゃんとした食事を進めても、口にするのは燻製肉のみ。これでは体がもたない。いったいゼロの心に何が起きたのだろうか。
 そのころメルルは、渡世人斡旋所に人だかりができているのを目撃した。除いてみると、何でもこのライバが街を挙げての山賊退治を行うので、そのための人員を募集しているのだそうだ。メルルはその仕事の件を一行に知らせようと、その条件を書き留めてその場を離れた。
 一行の宿である竜の牙亭では、王朝結社の噂でもちきりだった。連中がついに念願の、王家の操兵[ファルメス・エンペラーゼ]を手に入れたというらしいというのだ。真相を知っているクサナギは気が重かった。
 そこにメルルが帰ってきて、一行に先の仕事の事を書いた紙を渡す。どもり症のためにうまく言葉では伝えられないからだ。受け取ったミオがそれを読み上げて一行に内容を伝える。そんな中、ゼロは相変わらず黙ったまま拳銃コスモ・ドラグレイアを磨いていた。時折呟く言葉は、
「……殺す……」
 の一言だった。
「やれやれ、ゼロ君がこんな状態では、この仕事を任せるのは無理かもしれませんな」
 ゼノアが不意に竜の牙亭にやってきた。彼は一行に何か頼み事があるのでついてきてほしい、という。どうやら斡旋所での仕事と何か関係がありそうだ。請われるままに一行はゼノアの乗ってきた馬車に乗り込んだ。
 馬車はライバの中心街へと向かって行く。普通旅人は入れない中心街を抜け、馬車が向かったのは、このライバの王宮だった。城についた一行は、早速中へと案内される。
 その時ゼロが、ゼノアに呟いた。
「……ここに来たということは、[奴等]の情報が入ったんだな……」
 [奴等]とは、おそらく[奇面衆]のことだろう。ゼノアがそのことで何か答えようとする前にゼロはゼノアの襟首をつかむ。
「……奴等の居場所がわかったんだな!教えろ!!」
「ちょっとゼロ。何馬鹿なことしてんのよ!」
「落ち着きなさい、ゼロ!」
 ミオとイーリスが慌てて止めに入る。ゼノアも珍しく声を荒げて叫ぶ。
「……あなたの今の状態では、逆に自分がやられてしまいますよ……!!」
 ゼロはとりあえず落ち着いた。ゼノアが言葉を続ける。
「こんな状況では、この情報を伝えるわけには行かないかも知れません。なにせ、提供してくれたのは、[奇面衆]からの脱走者ですからね。ここにモ・エギを連れてこれないのが残念です。もしもの時は、全力で彼を止めてください」
 ゼノアは、一行にそう念を押すと、場内の地下にある取り調べ室へと案内した。やたら警備が厳しい扉をくぐると、そこにはさらに数名の警備員とともに国王レイ・ライバ十六世、そして一人の少女が机の反対側に座っていた。ゼロはその少女に見覚えがあった。そう、それは先日出会った謎の少女だった。彼女が情報提供者なのだろうか?
 だがゼロは、少女を無視してライバ王に詰め寄った。殺気をみなぎらせながら迫るゼロに思わずたじろぐ王。この場はイーリスが止めに入り、ミオが全員を強引に席に着かせることでとりあえずは収まった。
 少女の名はラマーナ。南の地方の小さな村で暮らしている時に人狩りにさらわれ、奇面衆の一員として訓練を受けさせられていたという。だが最近になって隙を見て脱走し、そしてまだ捕らわれている他の仲間たちの救出を条件に、奇面衆と王朝結社の現在の拠点の情報を提供してくれるというのだ。
 ラマーナが元奇面衆であることを聞いた時、一瞬ゼロから強烈な殺気が感じられた。だが散々仲間達に制止されたのが効を奏し、とりあえずは収まった。
 この情報を得たライバ王は早速密偵を送り、裏づけを取ったという。さらに議会で王自身が立案した拠点襲撃作戦の審議を行った。このライバでは世襲の王制を取っているが、重要な議題は三十名の議員による議会によって決められる。審議の結果は賛成20、反対5、棄権5で作戦実行が承認されたということだ。
 なお、この作戦においては王自らが指揮を取るという。王としても、近衛隊長ラシュアンが敵の手に捕らわれ、王暗殺に利用されたことがやはり悔しいのだろう。そして一行は後で知ったのだが、旧王朝派の賛成条件が王自らの出陣でもあったのだ。反対に投じたのはむしろ、王の身を案じた国王派だったという。
 一行は、この作戦に参加することを承諾した。作戦の日程は、密偵の最新情報が入り次第決定するという。それまで普通に生活しながら待機することになった一行は、いったん宿に帰る事にした。その時、部屋の入口で近衛隊の制服を着た一人の女性がセフィロスを丁重に呼び止めた。彼女はセフィロスに深々とお辞儀をしてこう言った。
「兄から……ラシュアンから話は聞いております!」
 セフィロスは一瞬驚いた。女性の名はレイム。リナラの御前試合の時、セフィロスが戦い、そして殺した近衛隊長ラシュアンの妹だった。レイムはあの事件の後、兄の意志を継いで近衛隊の見習いとして入隊したのだという。彼女も王の護衛としてこの作戦に参加するらしい。セフィロスは話の中でレイムが真実を知らされていないことに気がついた。もし、彼女が兄を殺したのがセフィロスだと知ったら……。
 とりあえず宿に戻った一行。ゼロはまた無言で素振りを始める。そんな光景を見たミオは、ゼロを宿の裏に連れていく。そしてゼロの感情を失った瞳をみつめてこういった。
「……あんた、本当は感情を爆発させたいんでしょ?ここで爆発させちゃいなさいよ。ため込んでおくと碌なことないんだから。ここでおもいっきり泣きわめきなさいよ!!」
 だがゼロはただ、
「……時が来たら……そうする……」
 とだけ行ってその場を立ち去る。その時、何か言いたげなクサナギとすれ違うがゼロは何も語らなかった。
 そんなゼロの前に、ドウドウ鳥のピジョンがやってきた。そして心配そうな鳴き声を挙げて擦り寄ってくる。だがゼロは一言「邪魔だ」と言った。ピジョンはその時のゼロから殺気を感じ取り思わず飛び退き、そしてすっかりおびえてしまった。ゼロは何事もなく立ち去る。
 そこに、御仁の少女モ・エギがこの場を通りかかった。モ・エギはおびえているピジョンを見つけると大きな手でそっと抱き上げ、その胸に抱き寄せた。
「かわいそうに、こんなに脅えて……。クサナギさん。ゼロ君、いったいどうしちゃったの?」
 クサナギは答えに迷った。
 ゼロはカウンターに向かって無言で席に着いていた。そんなゼロにメルルが側により、だとたどしく話しかける。
「……感情を……殺すのは勝……手だ……けど……それ……で迷…惑をかけるの…は……や……めて……」
 その言葉に対してゼロは、「何を言っているのか分からない」とだけ答えた。
 その後一行は買い物に出かけた。ゼロがセラミック性の短剣を欲しがったのだ。武器屋でぼったくられながらもゼロは値切る事なく短剣を購入した。ゼロはついでといって、以前死人使いのラディスからかっぱらった[宝石のついた棒]をゼノアに見せた。それを見たゼノアは少し驚いて、棒の素姓をゼロとその場にいたイーリスに説明した。それによるとこの棒は、このゴンドア大陸に古くから伝わる秘儀[練法]の術を閉じ込めたもので、練法の知識を持つものが使えば封じられた術を発現させることができるという。
 ただゼノアの見立てによれば、閉じ込められている術は死人を動かす効果をもつものだけで、しかもあと一回しか使えないだろうという。それを聞いたゼロは、その棒をセラミック製の破斬剣で斬り刻んだ。
 その数日後、一行に作戦開始の知らせが届いた。敵の拠点はこの街から南に三日進んだところにあるセレム山の古代遺跡にあると云う。敵に自分たちの存在を知られないように全軍を三班に分け、商隊の護衛に偽装してその山の麓にあるレムの街に集合する事になった。なお、グラーテ改は修理中で使用不能という名目で商隊の荷物に偽装して運ぶことになった。
 先陣を切って出発した一行は、三日間特に何もなく無事にレムの街についた。全軍がそろうのはその日の夜。作戦開始は次の日の正午だ。それまで一行は宿で休息を取った。
 ゼロは旅の間、そして今もずっとあの調子だった。その殺気は素人でも薄々感じ取れるほどのもので、宿の一階にある居酒屋のほかの客はさりげなく一行と距離を置いていた。ピジョンはそんなゼロが気になるのか、給仕娘に叱られながらもひっきりなしに店を覗き込む。だが、やはりゼロの放つ殺気に脅えて近づくことだけはしなかった。
 そこに、一人の着流しを着た男が入ってきた。リナラ御前試合の時に出会った剣客、トシロウだった。トシロウは「空いてるか?」といって、一行の答えを待たずに同じカウンターの席に着いた。どうやら彼も、この作戦の参加者のようだ。
 酒の席の中でトシロウは、この作戦はひょっとしたら王を陥れる策略ではないか、と云う。ライバの街の議会は、旧王朝派と新国王派に分かれている。今は現国王の影響が強く、旧王朝派が表立って行動を起こすことはない。だが、もしこの戦いでライバ王にもしものことがあったら……あるいはこの作戦そのものが王を街から遠ざけるための策略だとしたら。
 だが、トシロウはそんなことには興味はないという。
「ま、俺はただ金がなくなったんで報酬目当てに参加しただけだしな」
 どうやら彼は[飲む、打つ、買う]の典型的な見本みたいな男のようだ。イーリスのお金は貯まるもの、と言う言葉にトシロウは「これだから女は!」と鼻をならした。
 そんな中でもゼロは相変わらず無口だった。「どうしたんだこの坊ちゃん?」と問うトシロウに一行はうまく答えることができなかった。
 トシロウはゼロに、
「そんな状態で戦ったら、いつか潰れちまうぞ!」
 と語ったが、ゼロは答えを返さなかった……。