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その翌日の正午、ついに作戦開始の時が来た。敵の拠点は、セレム山の切り立った崖の側にある古代の遺跡を利用している。地形の関係常、背後からの奇襲攻撃は不可能。作戦は部隊を三つに分けて、セレム山の正面三ヵ所からクサナギの操兵ファルメス・グラーテ改を含む操兵六機を先頭に立てて突入する、という単純なものなった。 王の合図とともに突撃ラッパが鳴り響いた。操兵が一斉に突撃を開始する。その動きに連中も操兵を出して迎え撃つ。味方の操兵部隊の任務は、歩兵部隊の通路を確保すること。クサナギはグラーテに盾を構えさせると、そのまま敵操兵に突っ込ませた。他の操兵も同じように突っ込む。グラーテはそのまま敵の動きを封じ込む。 その隙をついてゼロとイーリス、セフィロスとメルル、そして阿修羅とミオが操兵戦の間を抜ける。彼らは拠点内に突入し、ラマーナの案内で一気に中心部に乗り込むつもりだった。ところがその途中でゼロと阿修羅が転んでしまった!。ここは今、操兵戦の真最中だ。このままでは踏みつぶされてしまうかもしれないのだ。 阿修羅は何とか自力で立ち上がり、その場を離脱する。だがゼロは立ち上がろうとして再びコケてしまった!。イーリスとミオが助けようとしてゼロの元に向かう。が、それより早くラマーナがゼロの元に駆け寄り、抱え挙げて助け出した。元は敵だった少女に助けられたゼロの心境は複雑だったのだろう。それをごまかすようにゼロは舌打ちした。 だが、難関はもう一つあった。急な坂を下った先にある遺跡の入口に何とガトリングガン二基が設置され、それが火を吹いて進行を阻んでいるのだ!。味方が銃で反撃するものの、いまいち効果を上げられない。そこでメルルが敵の射手を狙撃することにした。慎重に狙いをつけ、引き金を引く。その弾丸は見事に射手に命中し、ガトリングの内一門を沈黙させた。 その時、焦れた阿修羅がガトリングが無力化されていないにもかかわらず遺跡の入口に向かって走り出したのだ!。射手は当然の如く阿修羅を狙う。もし命中すれば命はない。だがそこに、セフィロスが放った弓矢が射手の体を貫いた。そして間一髪のところでガトリングは完全に沈黙した。 難関を乗り越えた一行は遺跡に突入し、ラマーナの案内で奥の方へと進んでいった。 ちょうど同じころ、ライバの街ではとんでもない事件が起こっていた。一行においてきぼりを食らったアリスが一人昼食を取っていると、突如街中に轟音が響き渡った。慌てて外に出てみると、街を取り囲む城壁に設置された大砲のうち一つが火を吹いていた。その標的は何と、他の大砲だった。街を守るはずの大砲がなぜ……。 異変はそれだけではなかった。城のほうを見ると、何とライバ軍の主力操兵が同士討ちをしているのだ。この異常を感じ取ったのか、他の渡世人の操兵も駐機場から次々と起動する。だが、そのうちの何機かはどさくさに紛れて街の施設を破壊しはじめた!。 アリスは大急ぎでカムナのあるジュウコーの操兵修理工場へと向かった。詳しく作戦を聞かされていないアリスはグラーテ改がまだ、修理工場にあると思っていた。見ると、賊の操兵と思われるものが工場に向かって歩いている。そいつらより早く工場についたアリスはグラーテ改と思われる天幕がかけられた操兵を見上げた。そして操兵ユニホーン・カムナを起動させると、工場の前に立ちふさがった。 「グラーテには手を出させないわよ!」 剣を構えるカムナに、敵操兵もそれぞれ武器を構える。 「もはや皇軍となった俺たちに、盾突こうっていうのか!。ここにグラーテがあるってことはわかってるんだ!」 両者とも一歩も譲らない構えである。だがそこに、ジュウコーの叫び声が響いた。 「グラーテはここにはない!。これは囮だ。儂に構わず逃げろ!!」 そういうとジュウコーはグラーテ改らしき天幕をひっぺがす。そこには、残がいを寄せ集めた張りぼてが立っているだけだった。呆気にとられるアリス。そこにヤケッパチになった敵操兵二機がカムナに襲いかかる。はっきりいってアリスでは二機相手では辛すぎる。まさに絶体絶命! その時、別の操兵が両者の間に割り込み、二機の操兵をものの数秒で粉砕した。ルシャーナの68式と御仁姫紅葉ことモ・エギだった。ルシャーナはアリスに、街を脱出してクサナギたちにこのことを知らせることを提案する。城のほうを見ると、反乱軍が圧倒的に有利に見える。アリスはこの提案を受け入れるしかなかった。 脱出を決意したアリスはジュウコーにカムナの手を差し出す。だがジュウコーは、自分のことは構うなという。 「大丈夫、儂は平気じゃ。死にはせん」 「きっと、きっと助けを呼んで、帰ってきますから……!」 ジュウコーはニッと笑い、そしてこう言った。 「無駄じゃ。そのころにはおそらく、手遅れになっとるじゃろうからな」 別れの挨拶もそこそこに、三人は街の正面の門をめざして走り出す。連中の目的がこのライバの制圧なら、出て行くものにはそれほど構わないはず。幸か不幸か、大砲は先の攻撃でほとんど潰れている。街を出てしまえばおそらくは逃げ切れるだろう。 だがそう簡単には脱出させてはくれなかった。もうすぐ門にたどり着こうという時、目の前に何と紅蓮の狩人デュークの操兵ヴァルパス・ヒラニプラが立ちふさがったのだ!。ここを突破しなければ脱出できない。しかし紅蓮はあのクサナギとグラーテ改をもってしても倒せなかったほどの強さだ。口で言うほど易しくはない。 アリスは意を決して、ルシャーナとモ・エギにこういった。 「……私が囮になりますから、二人はクサナギたちの元に急いで下さい……」 だがルシャーナはアリスのその案を一蹴した。 「うぬぼれるな。そなたの実力では囮になる前に、一瞬で粉砕されてしまうのがオチだ。よいか、私が奴に攻撃を掛ける。その隙に二人は一気に駆け抜けるのだ!」 「そんな……それではあなたが……」 兜越しに話しかけるモ・エギにルシャーナは、 「心配するな。私もそなた等が脱出したらすぐに後を追う。参るぞ!」 その言葉と同時に68式がヒラニプラに突進し、剣を叩きつけた。デュークはヒラニプラにその剣を受け止めさせる。均衡する二機の操兵。 「今だ!!」 その合図とともにカムナとモ・エギが同時に走り出し、68式とヒラニプラの横を通りすぎる。デュークは特に追うことはしなかった。だがルシャーナを逃がすつもりもないようだ。ヒラニプラは容赦なく、68式に短槍を繰り出してくる。ルシャーナの操縦技術は高いほうに入る。が、相手が悪かった。デューク・フリーディオの操縦技術はクサナギでさえ圧倒されるほどなのだ。だんだん追い詰められて行くルシャーナ。 だがルシャーナは最初からまともにデュークの相手をするつもりはなかった。アリスとモ・エギが無事に街から出たのを確認すると、座席の右下のレバーを思い切り引いた!。 「煙幕が、貴様だけの専売特許だと思うな!」 その言葉に答えるかのように、68式の背中から発射筒がせり出てきて数発の煙幕弾が発射された!。それはヒラニプラの頭上で破裂して、辺りを大量の煙で包み込んだ。 門を出たアリスとモ・エギは煙幕弾の破裂する音を聞いて思わず振り返る。その時、その煙の中から傷だらけの68式が走り出てきた。 「振り向くな!走れ!!」 二人はその言葉に再び走り出した。 そのころ、全員の遺跡突入を確認したクサナギは操兵戦の乱戦の中で聞き覚えのある声に呼ばれた。 「クサナギヒコ・ディス・グラーテ!貴様に一騎打ちを所望する!!」 「……この状況で、私の名を間違えずに呼ぶのは……」 クサナギはグラーテ改を声のする方へと向ける。そこにいたのは、全身を金色と白金色の鱗状の装甲で覆ったきらびやかな操兵だった。その周りを圧倒する操兵はグラーテ改に飾り立てた剣を向けた。 「我が名は王朝結社の首領にして新生クメーラ王朝皇帝、レオンナール・クメーラ・ロクセーア16世。クサナギヒコ……この前の武闘大会では[操兵の差]で後れを取ったが、今度は違う。この王家の操兵、真のファルメス[ファルメス・エンペラーゼ]そして王家の聖剣[ファーラス]。これで貴様と僕は互角……いや、完全に僕のほうが有利!勝負だ!!」 そう叫ぶと同時に、レオンナールはエンペラーゼをグラーテに向けて走らせる。クサナギもグラーテ改に大太刀を構えさせるとエンペラーゼを迎え撃つ!。 聖剣と大太刀が激突し、火花を散らす。確かに伝説の王家の操兵と呼ばれるだけあって、ファルメス・エンペラーゼは強かった。膂力も機動力も、以前戦った複製機とは比べものにならなかった。だが、クサナギはその操兵をそれほど驚異とは思わなかった。そう、経験をつんだ今のクサナギにとっては決して及ばない相手ではなかったのだ。 しかしそれでも危機は訪れる。ここのところクサナギはこういった重要な場面に弱かった。勝てるはずのところで操縦を誤り機体をぐらつかせ、その隙を突かれてエンペラーゼの攻撃を諸に受ける。聖剣の威力はすさまじく、グラーテ改は装甲の一部を砕かれた上に駆動系にも損傷を受けた。 「どうした!貴様の力はこんなものか!!」 なじるレオンナール。クサナギは逆転の望みを爆砕槍に託した。蒸気を充填し、エンペラーゼの攻撃を防御しながら機会を待つ。 そして、その時はやってきた。今度はレオンナールが操縦を誤り、エンペラーゼがよろめいたのだ。クサナギはその瞬間を見逃さなかった。グラーテ改の左腕部に装備された盾の先端をエンペラーゼに向けさせると、クサナギは祈るようにレバーを引いた!。二股のセラミック槍が蒸気の力で旋回しながら射出される。その一撃はエンペラーゼに命中すると、その聖剣ファーラスを手にした右腕部を吹き飛ばし、さらに機体そのものを粉砕する。 通常の操兵なら、この一撃で稼働不能になるだろう。だが王家の操兵は違った。あれだけの打撃を受けながらもまだ動くのだ。並みの耐久力ではない。しかしそこまでだった。 「グラーテの谷の仇敵、覚悟!!」 クサナギはグラーテ改をエンペラーゼに向けて突進させる。このまま止めを刺そうというのだ。しかしそこで悲劇は起きた。クサナギは山の頂から何かが飛んでくるのを目撃した。だが遅かった。それは狙いたがわずグラーテ改に命中すると、その傷ついた装甲をさらに砕いた。クサナギはそれが大砲による砲撃であることに気づくのに時間がかかった。続いてロケット弾が数発飛んできて次々とグラーテ改に命中、そして爆発する。 クサナギは衝撃に耐えながらも何とか回避を試みるが、立て続けに砲弾とロケット弾の攻撃を受けて機体は大打撃を受けた。そしてその衝撃で操手槽の装甲が砕け、クサナギはグラーテ改から放り出された!。 |