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そのころ、当のノウラでは、アリスが妙な光景を目にしていた。一人の男がワールモンの城の謁見の間から二人の衛士に連れていかれるところに出くわしたのだ。そこにライバ王がやってきて、ワールモンに何事かと問いかけた。 「いえね、王朝結社の使者が来て私に寝返らないか、と言ってきたんです」 「……それで?」 「丁重に、お断わりしました。使者の方はたった今、地下牢にご案内したところです」 そういって、ワールモンは王にむかって微笑んだ。王もワールモンに笑みを返す。 「私のような王を見捨てずに、忠義を尽くしてくれるとはな」 「何、いつでも陛下に対する私の忠誠は変わりませんよ。それに、そろそろ溜まっていた[税]を支払わなければ、と思っていたころですし……」 それに対し、王はニヤリと笑ってこういった。 「……そういえば、三年前に奪われた操兵、あれはいったいどうしたのだろうなぁ?」 「……さあ、どうしたんでしょうねぇ……」 二人の[狸おやぢ]の含み笑いが謁見の間に響いていた……。 アリスはこのことをだれかに知らせようとした。が、ゼロは相変わらず茫然としているし、ミオも時々グラーテの[墓参り]に出かけたきり帰ってこない時もあり、結局だれにも話せなかった。 そんな時、事件は起きた。全員が昼食を取っていると、阿修羅が大慌てで駆け込んできた。ラマーナが突如いなくなったというのだ。それを聞いたセフィロスは激怒した。彼はラマーナが逃げ出したと思ったのだ。 だがそうではなかった。外から何やら騒がしくなったので出てみると、ラマーナが城の屋根の端に立っているのだ。高さはざっと3リート以上。落ちたらとても助からない。周りには人がたくさん集まっており、彼女に降りてくるように説得を試みている。が、ラマーナはそれには一切反応を示さず、ただ空を見つめるばかりだった。 それを見たミオは何を思ったか、近くで洗濯をしている婦人たちからありったけの洗濯中の服や布を引ったくった。そして何が起きたかわからない一人の主婦に金貨を一枚放ると、「ちょっと、不足分……!」と叫ぶ声を尻目にそれらの布を縫い始めた。おそらくそれで落ちるラマーナを受け止めようというのだろう。その意図に気づいたほかの婦人たちも一斉に縫い始めた。 阿修羅、セフィロスらが人込みの中から見上げるなか、ゼロとアリスがバルコニーからラマーナのいる屋根へと上っていった。二人はゆっくりとラマーナに近づいていく。その気配を感じ取って、ラマーナはゆっくりとゼロのほうに振り返った。 「……私、どうして生きているんだろう……あなたの剣で、死んでなきゃいけなかったのに……」 そういってラマーナは、下にいるセフィロスのほうを見た。 「私が憎いなら、殺してくれたって構わない……。でも、一つだけお願いがあるの……。その刃を止めないで。私のような人をこれ以上増やさないように、奇面衆と戦ってほしいの……。あなたたちの力なら、それができるはずよ。この願いをかなえてくれるなら、私が真っ先に死ぬから……」 そういってラマーナはゆっくりと後ずさる。その先は屋根の端。あと一歩踏み出せば間違いなく転落するだろう。アリスが止めようとするが、自分の目の前にはゼロがいて、ラマーナに近づくことができない。 ラマーナの言葉を聞き終えたゼロは、セラミック製の短剣を引き抜いてゆっくりと歩き出す。ただ一言、「……わかった……」と呟いて……。 アリスとセフィロス、そして縫い上がった布をワークマンデに持たせて駆けつけたミオ、そして知らせを聞いて駆けつけたモ・エギが見守る中、ゼロはラマーナに近づいた。そして、手にした短剣を彼女の背中に回し、そして……落とした!。そしてその勢いに任せて、ゼロはラマーナに抱きついて、そのまま屋根から跳んだ!!。 落下しながらゼロは壁を蹴り、武繰の技の一つ[天翔]を繰り出した。天翔の威力は二人の落下を食い止め、横に飛ばすには十分であった。ゼロはラマーナを抱き抱えたまま、ミオの操兵の抱えた布でバウンドすると、そのまま今度は、そのワークマンデを踏み台にして再び飛翔し、そのまま地面に着地した。 目標を見失ったワークマンデはそのまま突進し、つんのめって倒れた。大音響と土埃の中、人々が逃げ惑う。その中でゼロは、立ち上がりながらラマーナに一言こう呟いた。 「……気は済んだか……」 と。 その間ラマーナはずっと、茫然としていたが、我に返ると興奮気味にゼロを攻め立てた。 「何で、何で死なせてくれなかったのよ!。私はあなたたちを騙したのよ!。どんな暗示がかかっているかわからない、何をしでかすかわからないのよ……!。私は、生きていてはいけないの……」 ゼロは呟くように、ラマーナに話しかけた。 「……だからどうした……死ぬ勇気があるんだったら、自分みたいな人間を増やさないために、自分が生きて何とかしようって、考えなかったのか……」 その言葉に、ラマーナはただ号泣する以外に、答える術はなかった。 しばらくした後、ゼロはおもむろに立ち上がり、ミオの操兵が倒れたところで何かを捜し始めた。自分がさっき落とした、セラミック製短剣。だが結局、それは見つかることはなかった。 それから数日後、ゼロはミオに置き手紙を残して一人旅立った。自分なりの[正義君]を見つけるために……。手紙を見たミオは、天にむかって絶叫した。 「ど、どいつもこいつもぉ―――!!」 そのころゼロは、一人樹界へと続く道を歩いていた。その時、ゼロは突然背後から、何者かにおもいっきり蹴飛ばされた。振り向くとそこには、置いてきたはずのドウドウ鳥、ピジョンがいた。怒った表情のピジョンは黙って後ろを向き、そのまましゃがみ込んだ。乗れ、と促しているのだろう。 「……ついてくる気か……」 「……………」 「……行くのは樹界だぞ……死ぬかも、知れないんだぞ……」 「……………」 ピジョンの決意は、固いようだ。ゼロはそれを確認すると、ピジョンの背に乗り、再び旅立った。 ゼロが旅立った、その翌日。アリスはルシャーナの元を訪れていた。 「……あの……ルシャーナさん。私に……剣を、剣の技を教えてくれませんか……」 アリスのその申し出に、ルシャーナ少し考えた。そして、 「……いいだろう……」 とだけ答えた。 それからさらに一週間が過ぎた。ライバの町に入り、新生クメーラ帝国皇軍に仕官したイーリスは、今のところ任務のない毎日を過ごしていた。街は相変わらず静かだった。 イーリスはサイラスに、王家の操兵がグラーテとの戦闘の後、いったいどうなったのかを訪ねてみた。それに対しサイラスは[現在は傷ついた装甲を手直ししている]とだけ答えた。どうやら、これが市民に対する公式の答えらしい。 その時、門のほうから地響きがした。見るとそこには、街の中央の大通りを十機もの操兵が行進していた。イーリスは、その中の先頭の機体に見覚えがあった。リナラの三剣士の一人、そして操兵武闘大会においてクサナギとグラーテになす術もなく破れ去った女傑騎士メリエンヌの操兵、マリアローズだった。 「リナラからの援軍だ。彼らは先祖の時代に交わされた[盟約]に従って、わが帝国に部隊を派遣したのだ」 サイラスはさも当然のように答えた。 その後、メリエンヌが謁見の間に現れた。皇帝とサイラスがそれを出迎える。互いに社交辞令を交わし、謁見は滞りなく終わった。はずだった。メリエンヌがこの質問をするまでは。 「ところで、復活あそばされた王家の操兵、ぜひとも拝見したいのですが……」 表情を変えずに訪ねるメリエンヌのこの問いに対し、サイラスは先ほどイーリスに返したのと同じ答えを返した。両者の間にわずかだが、緊張が走る。が、この場はメリエンヌが納得したようにこの場を立ち去り、事無きを得た。 謁見の間を出たメリエンヌにイーリスが話しかけた。彼女はイーリスをいぶかしげに眺める。 「……確か、そなたクサナギ様と一緒にいた剣士ではないか。なぜ、ここに居るのだ。」 「目的がありますから。そういうあなたはなぜ、ここにいるのですか?」 イーリスの問いに、メリエンヌはうつむき加減に答えた。 「わがリナラ王家の盟約なのだ。クメーラ王朝復活の時に、再びその家臣に戻る、と……」 そう言うと、メリエンヌはその場を去った。 「……人をからかうのが、そんなに面白いか……」 不意に、柱の蔭から声がした。振り向くとそこには、濃紺のターバンとマントに身を包んだ男が立っていた。紅蓮の狩人、デュークだ。イーリスは彼にも話し掛けたが、デュークは特に相手にせず、その場を立ち去った。 |