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その翌日、ついに皇帝直々の帝国の樹立宣言を行う日がやってきた。この席には、宣伝のためにイーリスも呼ばれた。ライバ市民が城の前の広場に集められた。入りきらない市民もまた、広間から伸びる通りに集められる。 そして正午。ついに皇帝レオンナールが城のテラスに現れた。人々は息を飲んだ。この、若い皇帝がこれから何を話すのか……。 「……諸君。余が、新生クメーラ帝国皇帝、レオンナール・クメーラ・ロクセーア14世である。今、傀儡の王の偽りの時代は終わりをつげた。そして諸君等は新たなる、真の時代を迎えるのだ。さあ、今こそ余は宣言する。ここに、新生クメーラ帝国の誕生を……」 「……ふっざけるなぁ!!」 群衆の中から野次が飛び、レオンナールの演説を遮った。 「てめぇら、人の街の真ん中で、爆弾ばっか、爆発させやがって……その所為で、俺の息子は死んだんだぞ!」 それに触発されたのか、人々の怒りが爆発し、怒号の嵐となった。 「このテロリスト!あたしの子供を返してよ!!」 「お前等なんか、ライバ王が帰って来たら、ケチョンケチョンにされっちまうんだ!!」 一部の群衆の怒号が全体の怒りへと発展していく。その時、ガトリングガンが空にむかって一斉に発射された。その轟音に群衆は静まり返った。 「静まれ!!。皇帝陛下の御前である、無礼であろう……!!」 サイラスのその叫びを、レオンナールは手を挙げて制した。 「……良い……諸君。我らの[正義の戦い]の犠牲になったもの達に余は、責任を取るつもりだ。この帝国を、豊かでより良い国にすることで……」 それだけを言い残して、レオンナールは城の中へと去っていった。 群衆はしばし茫然としていた。が、 「……冗談じゃねぇぞ!!」 「そんなんで、誤魔化されると思っているのか!!」 群衆はついに、雪崩となって動き出した。衛士や兵士達が食い止めるが、「王様裏切った野郎が!」と言われると、怯んで消極的になってしまう。それでも衝突そのものは避けられなかった。そしてついには、操兵まで持ち出されてしまった。 「やめなさい!。今、こんなことしても、何にもならないでしょう!!」 イーリスが叫ぶ。が、焼け石に水だった。 結局、沈静化したのは夜になってからだった。 混乱がとりあえず収まったその翌日。限定的ながらも戒厳令が解除されたライバ市内へと赴いたイーリスは、今まで宿にしていた竜の牙亭の入口をくぐった。中に客は一人も居らず、カウンターにただ一人、年老いた主人がもたれかかっていた。 「……店は開いてないよ……なんだ、あんたか。どうやって、この町に入った?」 主人はイーリスが帝国に仕官したのを知らないようだ。イーリス自身も特にそのことには触れなかった。 イーリスは主人に、昨日の騒ぎのことを訪ねた。その時、主人は混乱の端のほうにいたので、それほど巻き込まれずに済んだ。が、やはり新生クメーラ、いや、王朝結社に対して激しい怒りを覚えるものの一人だった。 さらに話を聞くと、どうやら一部の市民は地下に潜り、反撃の機会を狙っているらしいという。イーリスは、主人にあまり無理はしないように、とだけ言い残して店をあとにした。 店を出たころは既に夕暮れ時だった。その時、イーリスは大通りで数機の操兵が地響きを立てて走っているのを目撃した。その操兵は、追いかけてきた別の操兵を振り切ると、再び走り出し、何故か開いたままの門から街の外へと飛び出した。そしてそれと同時に門が閉じられた。どうやら、門を守護していた兵士と組んでの脱走騒ぎのようだ。 やがて、イーリスの元に使者がやってきて、至急サイラスの元に来るように、と伝えていった。早速出向いてみると、やはり脱走兵の追撃命令だった。今、脱走などということを見逃すと、軍の士気の低下にも繋がりかねない。そこで、イーリスにはライル将軍の元で脱走兵の始末に当たってもらう、とのことだった。イーリスはその命令を受けると、ライル将軍の馬車に便乗して出撃した。 脱走兵に追いついたのは、完全に夜になってからのことだった。彼らは逃げ切れないと判断したのか、既に立ち向かう態勢を整えていた。 イーリスは拡声器を通して彼らに投降を促した。が、その決意は固く、誰も耳を貸そうとしない。結局、戦闘は避けられなかった。 まずは操兵同士が激突した。数的には追撃側が若干勝っており、よほどのことがない限り負けることはないだろう。安心しきったライル将軍は、イーリスに歩兵部隊の追撃を命じた。イーリスは黙ってそれを受けると、早速、戦線に向かった。 イーリスが向かった先には、四人の兵士がいた。彼らはイーリスの白装束に脅えながらも銃を構えて立ち向かった。イーリスは彼らにも投降を呼びかけた。が、やはり受け入れるつもりはないようだ。仕方なくイーリスは穂先刄を抜いた。そして、目にも止まらぬ早さで一人に斬りつけた。帰り血で白装束が真っ赤に染まる。それは、見るものにさらなる恐怖を与えた。 が、彼らの覚悟は並大抵のものではなかった。兵士たちはその恐怖を振り払うと、イーリスに向けて銃を撃った。銃弾がイーリスを襲う。だが、それは運よくそれて、致命傷には至らない。イーリスは、武繰を使い、残る三人に同時に切りかかった。その刃はとどまることを知らなかった。そして、その刃は残る一人の兵士を完全に追い詰めた。その他の戦闘や操兵戦のほうも決着がつきかかり、もはや追撃側の勝利は確実だった。 その時、どこからかガトリングガンの轟音が響き、追撃側の操兵の装甲で跳弾した。轟音のした方向を見ると、数機の操兵が高台の上に不敵な構えでそこに立っていた。リグバイン二式と一式。この周辺でこの最新鋭の機体を使用しているものは限られていた。 「……ザクネーン……何故、奴が……」 その、ライル将軍の呟きに答えるかのように、リグバイン二式から、イーリスの聞き覚えのあるダミ声が響いてきた。 「よお、武闘大会以来だな……。ところで姉ちゃん、てめぇクサナギの仲間だったよな。何で、王朝結社の野郎と一緒にいるんだ?」 「こちらもいろいろ事情がありまして……ところで、妹さんは元気ですか?」 「あぁ、おかげさんでな……。それより、お前さん方、ここいらで退却してくれねぇかな。でなきゃ俺たちが加勢するしかねぇんだが……」 それを聞いたライル将軍は、退却を決意した。この状況下で連中に加勢されたら、勝っているこの戦いもあっさり逆転されてしまうことを悟ったのだ。ザクネーンの名前は、戦場ではかなり有名らしい。イーリスは追い詰めた兵士をどうにかしようとしたが、リグバイン二式が歩み寄ってくるので仕方なく退却した。 ザクネーン率いる部隊はその後、脱走兵をまとめてノウラに向かってその場を立ち去った。退却したイーリスたちは、サイラスから冷たい視線を浴びた。が、ライルの巧みな説明で、とりあえずの体面と信用を得ることはできたらしい。 そのころ、王家の操兵との戦いのあと、奇面衆に捕らえられたクサナギは、ライバの城の後宮の豪華な一室に監禁されていた。レオンナールの計らいもあり、一応王族として扱われているようだ。だが、もともと小さな国の王族だったクサナギにとっては、この必要以上に豪華な部屋は、かえって落ち着かないものだった。 やがて、ノックとともに、一人の少女が部屋に入ってきた。ここに捕らわれてからずっと、身の回りの世話をしてくれている少女だったが、名前は聞いてはいなかった。少女はテーブルに食事を載せた盆を置いた。が、唯でさえ慣れていない豪華な部屋で、その上さらに豪華な食事、しかもこのところほとんど動くことのないクサナギは食欲などさっぱりなかった。だが少女は、 「……何が起こるかわかりませんゆえ、食事だけはきちんと取ってください……」 と呟くようにクサナギに語りかけた。それに対しクサナギはただ、「ありがとう」とだけ答えて微笑んだ。 食事を終えると少女は部屋を出ていった。どことなく悲しげな雰囲気を漂わせる少女だった。そしてクサナギは、また一人になった……。 ノウラの街にザクネーン部隊と脱走兵がノウラの街にたどり着いたのは、脱走騒ぎから一日くらい立ったころだろうか……。強行軍で疲れきった彼らを街は快く受け入れた。 兵士たちが食事を取る中、ザクネーンが殺気めいたものを纏ってミオのところにやってきた。その姿にミオは寒気を感じた。ミオは以前、ライバ操兵武闘大会において、彼の妹ルイーザの操兵を修理したことがあったが、その際にヘマをやらかし右腕を使用不能にしてしまったことがあるのだ。だが、ザクネーンのこの殺気の原因はそんなことではなかった。 「……確か、おめぇらの仲間で、イーリスとかいう女剣士がいたよな」 「え?、えぇ……」 「……なんで、連中の味方なんかになってんだょ!!」 ミオとセフィロス、アリスは呆気にとられた。まさか、イーリスが置き手紙に書いた[目的]って、にしても何故……。セフィロスは激しい怒りを覚えた。 「ほう、常に有利な方に付くというザクネーン部隊が、私たちに付いてくれるとは、どういう風の吹き回しかな……?」 笑みを浮かべるワールモンの問いに、ザクネーンもまた笑って答えた。 「まあな。武闘大会のときに、奴等のイカサマのおかげでルイーザがひどい目にあったからな。どうしてもそれが許せねぇんだょ、俺は。にしたって、何で、イーリスって女はこいつら裏切って連中に付いたんだろうな。やっぱ金か……それとも、男か……。女が裏切る理由は、間違いなく、これしかねぇからな……」 妙に偏見のこもった言い分だ。どうやら、過去に女がらみで何かあったらしい。だが、妹思いのこの男は、最後にこの言葉を付け加えるのを忘れなかった。 「……ルイーザを除いてはな……」 その時、ここ数日の間どこかに出かけていたゼノアが、数機の操兵を引き連れてノウラに帰ってきた。連れてきた操兵は、他所の街で雇ってきた傭兵だそうだ。 「ところで、これをグラーテの墓に、供えてやってくれませんか」 ゼノアはそういって、ミオに自分の馬車の荷を見せた。それを見たミオは、驚きを隠せなかった。以前、メークルでの戦闘の際に使用され、グラーテを飛翔させたあの[ロケットモーター]が二基もあったのだ。 「あのときの改良型、というよりは完成品というところですがね……」 |