
|
街の門が再び開いた。ゼノア同様出掛けていた、ラゾレ商会が帰ってきたのだ。アリスの剣の稽古をつけていたルシャーナが手を休めて出迎える。どうやら、こちらも何か、大きな荷物を運び込んでいた。どうやら、ルシャーナの操兵の部品らしい。 荷を下ろし終えたムワトロが、ミオに話しかけてきた。どうやら、サイラスについて、何か心当たりがありそうだ。 「いやね、あたしが駆け出しの間者だったころ、かれこれ十年くらい前だったかな……。確か、殿下の父君である、バ王陛下の直属の部隊が、国境沿いにある遺跡調査の際に一人を残して全滅した、という話を聞いたことがあるんですよ」 そこでミオが話を遮った。 「……ルシャーナさん。あなた、一体何者……?」 何とかその場を誤魔化そうとしたムワトロだが、結局あきらめて自分たちの身分を話した。そう、もともとは王の命令で逃げた操兵技師と操兵を追ってトランバキアから来たのだが、一行の協力でそれを果たし、今は殿下の「わがまま」でこの地にとどまっているという。 「あ、そうそう、話の続きですがね。その生き残りも結局行方不明なんですよ。そして、その男の名前が、サイラス、というんです……」 ムワトロの話では、ミオたちから聞いた[サイラス]の容貌が自分たちの知っている[サイラス]とほとんど一致するというのだ。 「ですがね。あたしの聞いたサイラスという人物は、気が小さく、ぱっとしない男で、とてもあんな事できる男じゃないんですがね……」 ミオとアリス、そしてセフィロスの中で疑問が膨らんだ。果たして、二人のサイラスは、同一人物なのだろうか?。 話が詰まったところで、ルシャーナが話題を変えた。彼女はこの戦闘が長引いた場合、父王であるバ王が、この機に乗じてこの都市国家郡に本格的な侵攻を行う可能性がある、というのだ。もし、クメーラ帝国がこの地を統合したら、トランバキアや羅・諸国連合をもしのぐ大帝国が出現することになる。それを危惧しておそらく、そうなる前に手を打つのではないか、というのだ。統一前の混乱時期なら、赤子の手をひねるより簡単だろうから。 そして、トランバキアが動けば、やはり都市国家郡に面している国家集団、羅・諸国連合が黙っているはずがない。そうなるとこの地は、連中が主張する[統一された平和]が訪れるどころか、長い大戦乱の時代に突入してしまうだろう……。 ミオは不躾に、この話の間ずっと疑問に思っていたことをルシャーナにぶつけてみた。 「ルシャーナさん、あなた一体なぜ、そこまであたしたちに肩入れしてくれるんです……?」 「私は戦いそのものは嫌いじゃないが、戦争となると、話は別だ……。私はこの自由な地をとても気に入っている。この地を、戦争などで、失いたくはない」 そういってルシャーナは、静かにほほえんだ。その瞳は、どこか遠くを見つめていた。 話が済むとルシャーナは、届いた荷物を確認するために操兵工場に向かった。ミオもグラーテの[墓]にゼノアのロケットモーターを[供える]ためにスクラップ置き場に向かったが。 「……なんだ、これは!。私はこんな物を頼んだ覚えはない!!」 ミオが工場の前を通りかかった時、ルシャーナの叫び声が飛び込んで来た。どうやら、届いた荷が、彼女の望んだものと違っていたようだ。だが、話を聞いていると、ミオには符に落ちないところがあった。 「この装備は、私の機体には装備できない型ではないか!」 「ですから、それは最初に申し上げたはずです。これは軍の中でも最新鋭の装備ですから、殿下の68式では装備できないと……」 それを聞いたルシャーナは、あきれるように大袈裟なため息をついた。 「全く、どの道、これでは使い物にならん……あーミオ殿……」 突然ルシャーナは、ミオに話しかけた。 「唐突にすまんが、スクラップ置き場に行くのなら、ついでにこれも捨ててくれぬか」 ミオは大きな木箱をバールでこじ開けた。そして、その中身を見て言葉を失った……。[96式回転機関銃]。トランバキアが開発した、新型の対操兵用ガトリングガンだった。これは確かに、既存の操兵に装備するにはかなりの改造を必要とするが、[もともと機体を製作し直す]操兵なら、どの道手間は変わらない。この銃がここに、二基あった。 ルシャーナは意味深な笑みを浮かべてミオを見ていた。やはり、最初からミオに渡すために、大袈裟な演技をしていたようだ。 (…………雌狐…………) ミオは心底からそう思った。それを読んだのか、ルシャーナはミオに、何やら怪しげな笑みを浮かべて見せた。 そして、そんなことがありながらも時は過ぎ、あれから一ヵ月が過ぎた。この間は特に大きな変化はなかった。せいぜい、ライバからの脱走騒ぎや先走ったライバ軍との小競り合いなど、時折小規模な戦闘が発生したぐらいだった。 その中でイーリスは、めざましい活躍を見せ、ライバ、ノウラの連合軍を震え上がらせる存在となっていった。そして、そのことを聞く度にセフィロスはますます怒りを募らせていった。 だが当のイーリスは周囲の風評など特に気にせず、何とか皇帝レオンナールと直に話をしようと試みていた。が、結局今のところ実現のめどは立っていなかった。 そんなある日のこと。あれからずっと、監禁されたままのクサナギは、突然レオンナールの訪問を受けた。レオンナールは人払いをした。 「……君とは一度、ゆっくり話をしてみたくてね……」 レオンナールはクサナギと向かい合うように、椅子に腰かけた。そして、自分の身の上話を始めた。 「僕は、君と同じ、国を滅ぼされた王子だ……。いや、古代の王朝のことを言っているんじゃない。この都市国家郡の北のほうに、僕の国[メーラ]があった。が、十年前に、民の反乱にあって滅んだのさ。父は確かに、圧政を強いたかも知れない。だが、それは全て国のため。感謝される覚えはあるが、こんな仕打ちを受けるなど……」 レオンナールはクサナギの目を見つめた。そして、クサナギに仲間になってくれ、と頼んだ。「……僕は君に家臣になってほしいわけじゃない。僕の同志として、一緒に理想の平和のために戦ってほしいんだ。もし、僕に協力してくれるなら、僕は……」 黙って話を聞くクサナギに、レオンナールは自信を持って次の言葉を告げた。 「……僕は君の国である、グラーテの谷の復興を手伝おう!」 これならクサナギも納得する。レオンナールはそう思っていた。が、クサナギが返した答えはこうだった。 「失われた民は、もう、帰ってこない!」 「何故だ!。国が興ればまた、民は集まる。何なら、僕の国の民を分けたって……」 「民は物ではない!!そなた、何故、民が反乱を起こしたのか、考えたことがあるか?!。民の声を、聞いたことはあるのか……?」 レオンナールも負けじと問い返す。 「民の声だと。政治のことなど何もわからぬ愚かな愚民の声など、聞く必要などあるのか!」 一月前のライバ市民の暴動が脳裏によぎる。 「……民は……民は指導者の言うことに従い、国のために尽くすためにいるのだ。政治もわからぬ愚かな民が、すぐれたものの行う政治に、口を挟む権利はないのだ……」 クサナギはその言葉を真っ向から否定した。 「ならば、そなたにとって国とは……王とは何だ!!」 さらにクサナギは言葉を続ける。 「民とともに笑い、民とともに悲しみ、民とともに耕し、民とともに収穫の喜びを分かち合う……そして、国の危機には民よりも先に戦い、そして民を導き、そして守る。それが、[王]というものではないのか……」 「では……では、王は愚民共と同じ高さに立て、というのか!民を導くために王は民よりも高いところに立ち、その威厳と力を示さなければならない。そうしなければ民はつけあがり、いつまた謀反を起こすかもしれぬ。王の正義を示すためには、それなりの力を示す必要があるのだ!」 「力で押えつければ、結局それはいずれ自分のところに跳ね返るだけだ、そなたに……」 クサナギはレオンナールに向かって、こう叫んだ。 「……そなたに、王としての資格はない!!」 クサナギのその時の瞳は、怒りではなく、むしろこの心狭き皇帝を哀れむような瞳だった。そして、レオンナールにとってはその瞳が許せなかった。 「……なんだ、その瞳は……僕は、君の国を滅ぼしたものの頭領だぞ。それなのに、その人を見下す瞳は何だ……その哀れむような瞳はなんだぁぁー!!。まるでその瞳は……[王]だ……」 癇癪を起こすレオンナール。 「どうして僕じゃだめなんだ!。どうして君にはあって、僕にはないんだ!!」 そして、癇癪の治まった皇帝は、一つの決断を下した。 「クサナギヒコ!!君とは、どうやら相容れないようだ……。それならばせめて……せめて君をおとしめてやる!」 レオンナールは衛士を呼びつけると、クサナギを強制労働所[カストール牢獄]へと移送するように命じた。そしてクサナギは、夜のうちにライバから連れ出された。 |