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カストール牢獄に着いたクサナギは、今まで世話をしてくれた少女に付き添われながら牢に入れられた。体に気をつけて、と呟く少女にクサナギは、せめて最後だからと名前を訪ねた。少女は、マリア・フリーディオと名乗った。 「フリーディオ?。まさかそなた、デューク・フリーディオの……」 「……妹です……。クサナギさん、どうか、兄を恨まないでください。兄が王朝結社に味方しているのは、私の所為なんです」 マリアは、静かに、そして呟くように語った。 「三年前、私たちの済んでいたラザの村は、原因不明の病気に襲われました。兄は私を助けるために操兵を持ち出して無茶な戦いでお金を稼いで高価な薬を求めました。でも、病気は一向に治りませんでした。そんな時、あのサイラスが私たちの元にやってきたんです。サイラスは私の病気を治してくれました。兄は、そのことに恩義を感じて、あの男のために戦うようになりました……」 「ラザ……ラザの村か!。ファルス、いやラルク・ロイドを知っているか?彼もその村の出身と聞いた。その村の病気、あれは奴等の……」 「ラルクさんを知っているのですか……そう、あの病気が彼らの撒いた毒によるものだと気づいた時にはもう、手遅れでした。私は捕われの身となり、兄との取引材料となったのです。兄は私の命と引換に、彼らのもとで戦うようになってしまいました……」 その時、マリアを呼ぶ声が聞こえた。 「もう、行かなきゃ。クサナギさん、どうか、希望だけは捨てないで……どうか、体をお大事に……」 そして、クサナギは一人になった。そう思われた時、 「……やれやれ、うるさくて寝てもいられんわい」 一人のぼろを着た老人が、ゆっくりと起き上がった。 「どうやら新人のようじゃの……儂のことは、ティコ爺、と呼んでくれ。かれこれもう、長いことここに居る。若いの。ここも慣れれば、案外、住みやすいもんじゃぞ?」 クサナギが移送されてから、数日がたったある日、イーリスは皇帝が現在私生活の場、としているライバ城の後宮の入口前に来ていた。何とかレオンナールと接触しようというのだ。だが、この後宮には、ライバ王妃フェディアと、王女ミリーヌも人質として軟禁されており、それゆえに警備も厳しく、入ろうとしたイーリスは入口の門前で止められてしまった。 その時、後宮の奥のほうから、皇帝レオンナールが十人ほどの家臣と従者に囲まれながら歩いてきた。レオンナールは、イーリスに気づくと、今までの活躍を褒め讃え、そしてねぎらった。 イーリスは皇帝にクサナギはどうしたのか、と訪ねてみた。皇帝は静かに、クサナギはここにはいない、と告げた。イーリスは、自分がクサナギの代わりになります、とさりげなく告げたが、皇帝は軽く受け流してその場を去った。 その後すぐにイーリスは、皇帝の命令で作成室に呼び出された。部屋には既にレオンナールとサイラス、そして奇面の男がそれぞれ机に座っていた。イーリスが部屋に入るやすぐに、サイラスが今回の任務について全員に告げた。 「早速だが、我が軍は二日後にノウラに夜襲をかける。そして今回の君の任務は、この混乱に乗じて侵入する奇面衆の支援である。奇面衆はあるものを奪還するために動くのだが、君は敵の武繰使いを牽制、もしくは殲滅し、彼らの任務の遂行が速やかに行われるように支援してもらいたいのだ」 「取り戻すもの、とは[剣]ですか?」 イーリスのその言葉を聴いた時、サイラスの目がすっと、細くなった。かまをかけたつもりだったが、どうやら、図星のようだ。イーリスには、覚えがあったのだ。地下基地での戦闘の後、グラーテ改が、剣のようなものをその手にしていたのを……。 再びサイラスは口を開いた。 「……まあいい。そこまで知っているのなら、話したほうがよいだろう。そう、その剣は我が王家の操兵、ファルメス・エンペラーゼの聖剣[ファーラス]である。あの戦いの際に、砲撃の中で破壊されたと思ったのだが」 そこにリナールが口を挟む。 「私はあまり、そういうものは信じないのですがね。もっとも、象徴としては、必要性を認めますが。そもそも奇面の方々が陛下を助けた時に、持って来てくれればよかったんですがね」 「……我らは、あくまで皇帝陛下のお命を守る、という任務しか受けていなかった。操兵のことなど[契約]には含まれていない……」 奇面の男がそっけなく言う。どうやら、奇面衆は彼らに忠誠を誓っているわけでなく、ある種の[契約]に基づいて協力しているようだ。 「イーリス。君は、奇面衆とともに行動してもらう。そして君にはさらに、二人の支援をつける」 その言葉と同時に、二人の奇面が天井から降りてきた。雰囲気からして、今までの下っぱとは感じが違っていた。ウモンとサモン。この二人がイーリスと行動を共にするという。 作戦開始のためにイーリスが部屋を出ていった直後、サイラスは不気味な笑みを浮かべた。 「これでよい。イーリスはあの二人に監視させる。所詮、裏切り者はまた再び裏切るやも、知れぬからな……」 その後、イーリスはずっと、奇面衆とともにいた。だがこれはイーリスにとって、苦痛以外の何物でもなかった。何せ彼らは、人間的な感情を欠落しているゆえに、話しかけても反応せず、食事と言えば味もそっけもない特殊な丸薬のみ。もちろん、この二日間、ずっとこの調子なのだ普通の精神では耐えられるはずもない。 さらに、ウモンとサモンの存在がイーリスの精神を逆撫でした。彼らは常に、まさにつかず離れず、まるで小判ザメの如くついてくるのだ。イーリスの我慢ももう、限界だった。 そのころ、ノウラの街では景気付けの宴が開かれていた。広場には大きな焚き火が焚かれ、皆が酒と料理、そして馬鹿話に興じていた。 そんな中アリスは、ミオのことが気になっていた。ゼロがいなくなってから彼女はずっと、スクラップ置き場へ[グラーテの墓参り]に出かけて、しばらく帰ってこなかったり、帰ってきたとしても馬小屋を覗いてはため息をついていた。 その時、不意にアリスを呼ぶ声がした。振り向くとそこには、一人の道化師が、にこやかな笑顔を浮かべて立っていた。アリスが踊り子の仕事で世話になっている芸人組合[ナバール一座]の座長、ナバールだった。 「ナバールさん、あなたもここに逃げてきたんですか……?」 「いやいや、おれは今でも街に出入りしてるよ」 さらっと答えるナバールに、アリスは困惑を隠せなかった。そのアリスの疑問にもナバールはさらっと答えた。彼は、自分が盗賊組合の頭領であることをアリスに告げたのだ。アリスはさらに驚いた。 「まあ、小さな[仕事]をお目こぼししてもらってる代わりに、間者代わりのこともしているわけだ。今は、こことライバを行ったり来たりして王様に状況を報告してる。それに、街の奪還のために動いているレジスタンスの支援なんかもやってる。まあ、俺たちとしても、あんな王朝結社みたいなテロリストなんぞにデカイ顔されたんじゃ、メンツが立たんからな……」 その後ナバールは王様に報告があるから、とこの場を後にした。 一方、宴の中では、ザクネーンの意外な一面も発覚していた。彼は何と、戦争孤児を集めて孤児院を作っていたのだ。 「……子供たちも、連れてくればよかったね……」 ルイーザがザクネーンに呟く。 「……おれがこっちについたのは、妹のことばかりじゃねぇ……たまにゃ、子供等に誇れる戦いがしたんと思ったんだ……」 宴が絶頂のころ、ノウラ周辺では、奇面衆とイーリスが配置について、機会をねらっていた。作戦は、ライル将軍率いる操兵部隊がノウラを包囲、四方向の門を押さえて敵操兵を釘付けにした上で、少しづつ叩こうというものだった。このノウラは商業都市として開かれた街だ。が、それゆえに、守りも甘いところがある。まさに、それをついた作戦だった。 「でっかい姉ちゃん。何か芸、やってくれや…!!」 街の中では、モ・エギが皆にせがまれて、歌を唄うことになった。 「…私の部族に伝わる歌だけど…」 そう前置きして、モ・エギは唄い始めた。森と大地、水と草木、命の育み……。モ・エギの清んだ歌声が夜空に響き渡る。人々は今までの戦いの疲れや辛さを忘れて、その歌に聞き入った。あるものは感動し、またあるものは故郷を思い出し、涙を流した…。 それは、忍び込む機会をうかがっていた奇面衆にも届き、思わぬ波紋を生んでいた。街の人間がすべてこの歌に聞き入っているうちに侵入しようとした奇面衆の半分近くが、急に苦しみ出したのだ。おそらく、洗脳により封じ込められていた、人間としての感情がモ・エギの歌によって呼び覚まされたのだろう。奇面の下から、涙がこぼれ落ちていた……。 だがその時、彼らの隊長格と思われる男が、苦しむ奇面の一人の首筋に短剣をつき刺した!。そして、その死体を残りの全員に見せつけた。それを見た残りの奇面は、一瞬恐怖に怯えながらも、再びその感情を封印した。この光景を目の当たりにしたイーリスは、奇面衆の本当の姿の一部をかいま見たような気がした。 再び戦闘機械と化した奇面衆は、イーリスとともにノウラの中に潜入した。見回りの衛士を暗殺し、鉤爪のついたロープを掛けて城壁によじ登る。イーリスはその中で、ウモンとサモンを離そうとした。が、二人はぴったりとついてきてイーリスの精神を逆撫でし続けた。 そして、ライル将軍も動き出した。操兵部隊がノウラのそれぞれの門の前に終結、強襲を開始した。慌てて反撃するノウラの操兵軍。だが門を挟んでの戦闘のために大砲の支援が受けられず、また操兵自身も門より外に出ることができずに防戦一方になってしまった。 アリスはカムナを駆り門に迫る敵操兵相手に奮戦していた。モ・エギも、自分が感応石に反応しないのを利用して門の裏側から奇襲をかけている。その時、アリスは味方の操兵のうち数機が全く起動していないことに気づいた。一体、どうしたのだろうか?。 操兵同士の防戦の中、セフィロスは二人の奇面を連れた(セフィロスにはそう見えた)イーリスを見つけた。怒りに震えるセフィロスは、破斬槍を構えてイーリス目がけて走り寄った!。 |