
|
ノウラ地下操兵工場では、ミオの手で新グラーテの最終調整が行われていた。機体を骨格から組み直し、ブルガインの強力な筋肉筒とグラーテの使用可能な高性能筋肉筒を組み合わせてより強化された膂力と、大型化された機体に見合った重装甲、そして背部に装備されたロケットモーター、肩部の96式回転機関銃を装備したこの操兵は、もはや今までのグラーテとは全く別の機体に仕上がっていた。 だが、ここで問題が生じた。グラーテが装備していた蒸気式爆砕槍に取りつける盾と、エンペラーゼとの戦闘の際に失われた大太刀がないということだ。盾は特に特殊なものではないので、代わりはどうにかなるだろう。ところが大太刀は、この辺りでは使用されない珍しい武器だった。新たに製作しようにも、現物の残骸すらない状態では、どうやって作るのかさえわからないのだ。 助手の一人が、いっそこれつけてしまいましょう、と倉庫のすみに置かれた[聖剣ファーラス]を指した。だがミオは、聖剣の違う使い方を考えていた。どうせ、グラーテに装備したところで、長剣を使い慣れてないクサナギでは、聖剣が本当に強力であってもほとんど力を発揮できないであろうから。 そう、何よりクサナギがまだ捕らわれたままなのだ。せっかく機体が完成しても、それを乗りこなす操手がいなければ唯の鉄人形だ。 その聖剣の側にワールモンとゼノアがやってきた。 「ふむ、いい加減ここにおいても使い道がないな……」 そう呟くワールモンに、 「何なら、我々が買い取りましょうか?言い値で引き取りますよ……」 と、ゼノアが冗談半分に答えた。それを聞いた途端、 「それだあぁぁぁ!!」 と唐突に叫びだしたミオに二人は唖然とした。いったいミオは、何を思いついたのか…。 ノウラ襲撃から数日が過ぎた。この戦闘を通じてノウラに対するまわりの評価が変わった。今までは唯の敗残兵の集まりとしか思われていなかったのが、新型操兵を駆使した圧倒的な勝利を飾ったことで新生クメーラ帝国に十分対抗しうる実力がある、とみなされたのだ。さらに、溜め込んだ三年分の税金によって軍資金も十分であることをゼノアらを通じて宣伝したおかげで、次々と傭兵や義勇軍が集まってきており、噂に見合った戦力が整うのも時間の問題だった。 そんな中、また新たな操兵の一団がこのノウラに近づいてきた。だがこの一団、今までのとは違うものだった。何と操兵のほかに、獣の群れを連れていたのだ。中には四つ手熊などの巨獣の姿もある。彼らはフラウの街からの義勇軍と名乗った。獣の群れは、[ケモノビト]ロウとビョウの戦士達をその背に乗せていた。 その光景を見て驚いていたアリスに、義勇軍のリーダーと思われる男が話しかけてきた。アリスはその人物に見覚えがあった。以前、フラウの街で偽ケモノビト事件の際に一度は悪徳貴族ダラーについていたものの、最後は裏切って、アリスを助けてくれた操兵乗りゴルワンだった。ゴルワンの話によると、フラウの街は最初、クメーラ帝国側につくことを検討していたという。だが、自分をはじめとする傭兵達と、特産品の栽培をしているケモノビトの長老達の説得、そしてこの前のノウラの勝利を目の当たりにして、義勇軍の派遣を決定したという。 「クサナギがこの話を聞いたら喜んだろうに……なにせ、人狩りから奴隷を買った荘園が手入れを受けて、次々と取り潰されているんだからよ」 クサナギは以前、王朝結社が企んだ人狩りとの取引を阻止した際に、自棄になった奴隷商人からフラウの街も奴隷を買っているんだといわれ、落ち込んだことがあったのだ。 話がちょうど途切れたとき、アリスは義勇軍の中に妙な操兵がいる事に気がついた。その頭部のない、まるでスクラップをかき集めて作られたような操兵は、操兵整備場にも行かずに、町の広場に設けられた仮設調理場の周りをうろうろしていた。外観とは裏腹に妙に人間じみた動きを見せ、調理場で焼かれているトルティーヤを物欲しそうに眺めているのだ。 アリスから話を聞きつけてやってきたミオは、その操兵を最新鋭の技術を用いて製造された、新型の機体だと判断した。だが、アリスはそうは思わなかった。その動きは操兵ではなく、まるで着ぐるみのよう……アリスにはそう見えたのだ。 実際、アリスの判断は正しかった。この操兵の動きは、ミオを除く他の誰の目から見ても操兵とは思えなかったのだ。ここのところミオは、グラーテに付きっきりでろくに休みを取っていない。おそらく、その疲労がここに来て出てきたのだろう。だが、ミオはそれでも自分の意見を変えなかった。 「でも、最新鋭の機体にしてはひどい外装ですね……」 ゼノアの突っ込みに言葉を詰まらせたミオは、調理されていたトルティーヤを手に取り、炙った肉と様々な野菜をたっぷりくるんでその操兵の前に立ち塞がった。 「さあ!。これが欲しかったら、とっとと正体を現しなさい!!」 ミオの鬼気迫る叫びに押されたのと、トルティーヤ欲しさに操兵は自らの装甲を排除した。と、いうより着ぐるみを脱いだ。それはやはり、操兵ではなかった。そこに立っていたのは、身長が1リート以上ある三本の角のある巨人[御仁]の少年だった。 「?!……ス・アキ……!!」 モ・エギが干そうとしていた洗濯物を放り出して少年の元にかけよってきた。その少年をアリスとセフィロスは覚えていた。以前、人狩りと戦ったときに連中に捕らわれていた、モ・エギの弟ス・アキだった。初めて出会ったときは髪を切られ、すっかり怯えていたのだが、今はすっかり元気を取り戻し、まるで少女のような笑顔を見せていた。 「あっそうそう、何であなたがここにいるのよ?」 ス・アキは着ぐるみの側の大きな荷物を取り出してモ・エギに渡した。その中には、ひとそろいの甲冑が入っていた。それを見たモ・エギは言葉を失った。[戦鎧紅葉武雷]。一族の英雄である[御仁姫モミジブライ]が身に纏ったことでその名がついた、伝説の甲冑だった。 「あ、あなたなんて物を持ち出してきたのよ?これは一族の宝じゃない……もし、長老様に見つかったら」 「その長老様が持って行けって言ったんだ。モ・エギ姉さんに渡せって」 「え?長老様、どうして……」 困惑するモ・エギに、どうせなら、早速着てみたら、とゼノアが足もとで話しかけた。モ・エギはガレージに鎧を運ぶと早速、着装してみた。 やがて、ガレージの扉が開くと、そこにはまさに伝説に名高い御仁姫、といわんばかりの巨大な女武者が現れた。その右腕は異様に長く、長く伸びた髪の毛はまるで腕のような鎧に覆われ、まるで第三の腕のようだ。その手には大太刀と、長い刀身から六本の枝をもつ剣が握られていた。そしてその兜には、無表情ながらもある種の気迫に満ちた面具がついている。 だが、まわりの反応は意外にも冷静だった。モ・エギのその姿を見たほとんどの人々は、それを見て口々にこう言ったのだ。 「前の鎧より、こっちのほうが操兵に見えるな……」 と。 そんな周りの反応をよそに、モ・エギはミオの元に来た。 「ミオさん。この刀を新しいグラーテに取りつけてくれませんか」 モ・エギはそういって、一振りの大太刀をミオの側に置いた。それはまさに、グラーテの無くした大太刀とほとんど同じものだった。 「部族に伝わる[御仁の太刀]です。今のグラーテなら、ふさわしいと思います」 渡りに船と、ミオは助手達に太刀をグラーテの元に運ばせた。 「おーい!刀の次は、盾がいるでしょう…!」 この街の守護操兵[ファルメス・エルブレイブ]が奉られている祠から、一代の荷馬車がやってきた。積み荷は、セラミック製の盾だった。その盾の中心には、出来上がったばかりの、[グラーテの紋章]のレリーフが取りつけられている。もってきたのは、ノウラの市民団体だ。 「夢に、エルブレイブが出てきたんです。その手に、盾を持って…。目が醒めた後も気になって、祠を捜してみたらこの盾が出てきたんです。そこで、これはエルブレイブの啓示かな、と思ったんですよ。この盾を、グラーテに渡せっていう……」 ミオは信じられない、というより、あきれてものが言えなかった…。 |