キャンペーン・リプレイ

第 十五話 「 そ の 名 は エ ル グ ラ ー テ 」平成11年4月18日(日)

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 そのころ、ゼロの元にビョウの少女ルピアが近づいてきた。だがゼロはなるだけ無視しようとしていた。旅から帰ってきたゼロは、ナバールに頼んで自分が死んだ、という噂を流してもらい、自らを[レイ]と名乗っていたのだ。そうしておいたほうが奇面衆と戦う際に都合がよいと考えたからだ。だから、悪気はないのだが、ルピアには自分がゼロであることを知られるわけにはいかない。
 自らの過去を消し、新たなる戦いに闘志を燃やす武繰使いレイ。
 だがルピアはゼロ、もといレイのそばによると、突然こう言った。
「……ゼロのにおいがする……」
 ゼロは思わず苦笑いを浮かべて、ルピアの頭を思い切り撫でた。やはり感覚の鋭いケモノビトを騙すのは難しいようだ。そして後ろから駄目押しの如く、ロウの戦士長バーツが話しかけてきた。
「……お前から、ゼロのにおいがする……」
 ゼロは二人を裏に連れ込み、事情を説明してこのことを内緒にしてもらうことを頼んだ。二人はそれを承諾した。が、ルピアなどは「ゼロ君、一人で大きくなってずるい!」と腹を立てていた。
「少しは成長したかと思えば、やはり、まだまだだな」
 一人の白い外套に身を包んだ男がレイに話しかけてきた。レイ=ゼロの剣の師匠にして、剣聖と云われる男ニーツ・カークだった。彼はここに雇われているわけではないが、何を気に入ったのか、現在はこのノウラに滞在を続けていた。
「そんなことより師匠、銃に対する方法は見つかったのか?!」
 ニーツはかつて、凄腕の銃士と戦い、破れたことがあった。武繰では銃に対抗できない。そう感じたニーツはゼロの元を去り、銃に対する新たな技を編み出すための修行の旅に出ていたのだ。だが、長い歴史をもつ武繰は逆に全く新しい武器である重火器に対して全く対抗策をもっていない。それゆえに、今までにない新しい技を編み出すのは、剣聖といえどかなり至難だろう……。
 ゼロは自分の銃コスモ・ドラグレイアをニーツに見せた。もし、相手がこの使い手を選ぶ銃を使いこなせるような腕なら、たとえニーツといえど勝てないのは当然、と考えたのだ。
 ニーツはその銃を見て驚愕した。確かにその時の相手はこれと同じものを所持していたというのだ。しかも、自分と戦った時はその銃を使用しなかったという。
「しかも、この俺を倒したのは、どう見ても唯の色眼鏡を掛けた白衣姿の学者風の若者だったんだ。信じられるか?」
 色眼鏡を掛けた白衣姿の学者風?まさか……。ゼロはその相手に心当たりがあることに驚きを隠せなかった。
 一方、新生クメーラ帝国首都となったライバの街にも傭兵が次々と集まってきていた。やはりこの前のノウラ襲撃失敗の影響か、期待していたほどの数はそろえられなかったようだが、それなりの数の傭兵が門の前で登録の手続きを済ませていた。中には、以前リナラ御前試合でイーリスと戦った鎖鎌のシシドや、二本角の低級ながらも[御仁]を従えた[御仁使い]など、正規の手続きを踏まずに直接自分の実力をアピールしてよりよい条件で契約しようとする者もいた。
 そんなある日、イーリスはサイラスに二つの任務のうちどちらかに参加するように命じられた。一つ目は、リナラの隣国[マザ]にサイラスとともに出向き、恭順を迫るというもの。未確認情報ではあるが、マザの町は北の大帝国[トランバキア]とのつながりもあると云われている。それに、このマザが恭順しない限り、リナラは本格的な支援を行うことができないという。
 もう一つは、少数部隊とともにリベ山に赴き、アーロア・イランド博士を拉致してくること。現在、ファルメス・エンペラーゼの修理はこのライバの名工にしてミオの親方である操兵鍛冶師ジュウコーの手によってほとんどの箇所の修理が完了している。だが、機体の破損は重要機関にまで及んでおり、工房都市の設備か、あるいはイランド博士の手を借りなければ完全な修理はできないようだ。
 それに、イランド博士を連れてくれば、ファルメス・グラーテの修理も完全なものにならないとサイラスは睨んでいた。以前、グラーテが強化改造されたのはイランド博士によるもの、と考えていたのだ。そうでなければあれほどの性能を発揮できない、と……。だがサイラスは知らなかった。実際にグラーテを強化したのは駆け出しの操兵技師ミオであることを。そして、グラーテの強さは、ひとえにクサナギの実力であるということを。
 イーリスは少し考えて、イランド博士の拉致を選んだ。博士なら面識もあるし、何よりマザ行きではサイラスと始終一緒になるからだ。イーリスはサイラスという男を嫌っていた。
 イーリスはすぐさま少数で編成された部隊に加わり、リベ山に向かった。このリベ山は以前、マディの奇襲を受けて崖から落ち、そしてイランド博士に助けられた場所でもあった。博士はここの遺跡で操兵部品の発掘調査をしており、グラーテ改もここで発掘された部品を分けてもらって改造されたのだ。そしてこの山には、イランド博士のほかにツバサビトが集落を作って生活していた。
 イーリスの案内で山道を上って博士の滞在する遺跡に近づいた時、上空を何かがよぎった。ツバサビトだ。それを見た部隊の一人が銃を構えた。だがそれは攻撃を警戒したものではなく、まるで狩りをするような感じだった。この部隊は王朝結社の人間で構成されており、彼らは何故か、人間以外の亜種族を魔物を見るように毛嫌いしているのだ。しかしここで騒ぎを起こしたら元も子もない。イランドはここのツバサビトと交流をもっているのだ。イーリスは兵士をたしなめた。
 やがて、博士の遺跡が見えてきた。入口に六脚操兵がいるのでおそらく博士は中にいるだろう。そして部隊が遺跡の側についた時、中からボサ髪の白衣を着た20台後半の男が出迎えた。その表情は黒い色眼鏡を掛けていてみえないが、感じからしてあまり歓迎はしていないだろう。
「噂には聞いていたが、本当に王朝結社についていたとはな……」
 表情を変えずに呟くイランドに、イーリスはついてきてください、と静かに言った。
「理由は、わかってますね」
「王家の操兵の修理、か」
 どうやらイランドは、以前の戦闘で王家の操兵が大打撃を受けていたのを見抜いていたようだ。
 その時、彼らの上のほうから叫び声が聞こえてきた。
「博士に何をする!!」
 見ると、遺跡の屋根の上に大勢のヨク達がひしめきあっている。先頭にいるのは、一番博士と親しい少女リリーナだ。彼女はイーリスに激しい敵意をもっていた。当然だろう。イーリスは以前、彼女らヨク達によって重傷から立ち直ったのだ。
 一人の兵士がリリーナに銃を向けた。それを見たイランドは、
「やめろ!ヨク達に手を出したら、俺はおまえらに協力はせんぞ!!」
 と、静かながらもすごい気迫で兵士達を睨んだ。この場はイーリスも止めに入ってことなきを得た。だがその時、イーリスはイランドから一瞬だが、ものすごい殺気を感じた。それはまるで、腕の立つ戦士のようだった。
 結局、ヨク達の命と引換にイランドはイーリスらの要求に従うことにした。そして心配するリリーナに、
「心配するな。連中は俺には何もできん」
 と言い聞かせてリベ山を後にした。
 ライバに着いたイランドはサイラスの出迎えを受けた。
「ようこそ、アーロア・イランド博士。我々は博士を歓迎します」
「挨拶はいらん。早速、操兵を見せてもらおう」
 イランドはサイラスにさえ、一向に遠慮はしない。
「……その態度は気にくわんが……まあ、いいでしょう、こちらへ」
 そういってサイラスは、イランドを城の操兵工房へと案内した。エンペラーゼはこの工房の地下で修理を受けていた。イーリスは特に止められもしなかったのでこのままついていった。
 昇降機で降りた先にある地下工房では、ジュウコー他多くの鍛冶師達が作業を続けていた。装甲をはずされ、内部機構をむき出しにしたファルメス・エンペラーゼが出迎える。サイラスはイランドに状況を説明すると、再び昇降機に乗り込み、この場を後にした。
「あんたも連れてこられたのか?博士」
「状況はどうです?……師匠」
 師匠と呼ばれたジュウコーは、振り返りもせずに答えた。
「伝説の操兵技師アーロア・イランド博士に師匠と呼ばれるほど、儂は精進しとらんよ」
 イランドもまた、エンペラーゼを見ながら返事をする。
「俺は師匠みたいに、駆動音を聞いただけで故障箇所を当てるなんてこと、できませんよ」
 どっちもどっちだ。
 二人は早速、作業を開始した。無理やり連れてこられた彼らだが、どうやら手を抜くつもりはないようだ。ちゃんと直りますか、とのイーリスの問いに二人は、
「ま、死装束くれぇは、ちゃんとしてやらねぇとな」
「性能は、悪くないんだがな……」
 と、手を休めずに答えた。
 その後、イーリスは城下町へと出かけた。そして、竜の牙亭でこんな噂話を聞いた。
「確か、[破壊の三天使]ったっけ?その一人の少年剣士、ゼロとかいう奴、死んだそうだぞ……」
 それを聞いたイーリスは、その話をする客にすごい剣幕で詰め寄った。
「……それ、本当なの!!」
「あ、あぁ……なんでも、修行の旅に出て、その途中で野たれ死んだらしい。その死を見取った、旅の戦士の話だそうだ……」
 この時、イーリスの瞳に狂気を孕んだ光が宿るようになったのを、イーリス自身も気づくことはなかった。