キャンペーン・リプレイ

第 十五話 「 そ の 名 は エ ル グ ラ ー テ 」平成11年4月18日(日)

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 イランド博士拉致の知らせは、ノウラにも知らされた。リリーナをはじめとするヨク達が大急ぎで飛んできて知らせたのだ。
「あたし達も手伝う!。戦いは苦手だけど……」
 その言葉は、リリーナだけでなく、ヨク達全員の総意のようだ。ミオは何となく、申しわけない気持ちに襲われた。
 その騒ぎのあと、ミオが先ほど、ワールモンに進言した作戦を全員に発表した。全員を驚かせたその名も[聖剣売ります作戦]。ぶんどった聖剣を手近な工房都市に売却、その代価に操兵戦力を購入しようというものだった。当然、この情報をクメーラ帝国が聞きつければ、精鋭部隊を派遣して奪い返そうとするだろう。
 だが、真の狙いはそこにあった。この情報をわざと流し、敵の目をそちらに向けたところで、クサナギ救出隊をカストール牢獄へと向かわせるのだ。
 編成は、聖剣売ります隊が、ゼノアとザクネーン隊。ゼノアは工房都市の公証人、という肩書きがあり、この作戦にはまさに打って付けだった。そして、クサナギ救出隊が、ミオ、ゼロ、セフィロス、阿修羅、そしてモ・エギとゼノアの部下数名で構成された。
 そのころアリスは、再びライバに戻ろうとするナバールを呼び止めた。
「あの……ナバールさん。私を、ライバに連れていってもらえますか……?」
 ナバールは迷った。いくら秘密の抜け道を使用するといっても、ライバへの侵入にはかなりの危険が伴う。彼としてはアリスをそんな危険なところに連れていくことはしたくないし、そして盗賊組合の一員にするつもりもないのだ。だが、アリスは食い下がった。
「私でも、何かお手伝いできることがあると思うんです……!」
 ナバールはその根気に負け、しぶしぶ了解した。

 イーリスが[ゼロの死]を知ったその夜。ライバの城では晩餐会が開かれていた。この場には、クメーラ側についた貴族や軍属、そしてめざましい活躍をしている傭兵なども招かれた。当然これまでの戦功から、イーリスもこの場に招かれている。会場では武器は御法度、イーリスは刀を預けて入場した。
 中は正装した貴族らでいっぱいだった。無礼講ではあるものの、出された料理はクメーラ式の、いわゆる洋風のフルコース。ナイフとフォークを使う食事に慣れていないイーリスは困惑した。上座のほうを見ると、サイラスやリナール、そして皇帝レオンナールらはともかく、いまや捕われの身として後宮に軟禁されているライバ王妃エリアナと王女ミリーアが、やはり慣れぬ食器に戸惑っていた。
 その中で、イーリスは武器御法度にもかかわらず、サイラスが腰に剣を差していることに気づいた。どうやら彼だけは、特例として認められているらしい。
「……サイラス閣下は、いついかなる時でも、あの剣を離さないらしい……」
「……サイラス閣下の剣には、すごい魔力が込められているそうだ……」
 そんな噂が貴族達の間に流れている。果たして、本当だろうか?
 晩餐会が終わりを迎え、食後の舞踏会へと移行しようとするころ、イーリスは、サイラスとリナールの会話を耳にした。リナールの話は、最近、自軍の志気が低下しているので対策を打たねば、とのことだった。確かにイーリスも、街で冷ややかな市民の眼差しに耐え切れずに愚痴をこぼす兵達の声を聞いていた。
「どうでしょう。そろそろ、閣下のその剣の[手品]を見せられては……」
「その言い方は気にいらんが……潮時との意見には賛成だ」
 その会話が終わり、舞台が整った時、サイラスは皆の前に立ち、突如演説を始めた。
「諸君!これより、我らが皇帝陛下の国家政策を発表する」
 サイラスは高らかに、そして長々とその政策を語って聞かせた。それは、市民を十段階以上の階級に分け、それをそれぞれの職分にあてはめる、いわゆるカースト制や、少数、世襲性の貴族員制など、民衆の自由がかなり制限されたものだった。だがこれは、サイラス一人のものではなく、かつてのクメーラ王朝末期のものを踏襲したもののようだ。
 その時、一人の貴族から、国家樹立の暁にはサイラス閣下はどうなさるのか、との質問が投げかけられた。それを聞いたサイラスは、よくぞ聞いてくれた、とばかりに声を張り上げて答えた。
「私は、このクメーラ帝国の基盤が固まり次第、ここを去るだろう。新たな地に平和をもたらす、戦いの旅に出るのだ!!」
 その言葉に、一斉に拍手が沸き上がった。
 そして、舞踏会。イーリスはこの期に、皇帝と接触しようと考えた。だが、彼の回りには常に取り巻きが輪を作っており、なかなか近づくことができない。そこで、窓際でふて腐れているミリーア姫に接触した。
 話をしてみると、姫はこの侵略者をよほど嫌っているようだ。唯でさえ王朝結社はテロリストの集まりだというのに、その上、「資金稼ぎのために村を襲い、その住民を売る人身売買をした」だの、「街道を混乱させるために、野党に武器や操兵をばらまいた」などの酷い噂ばかりが目立っているのだ。よい感情など、持てる筈がない。
 もっとも、それは噂などではなく全て真実なのだが。特に、人身売買などはサイラスが直接指揮を取っていたのを、クサナギ、ゼロ、セフィロス、アリスが目撃しているのだから…。
 イーリスは姫に、それはともかく、あまり彼自身を嫌うのはよくない、と言い聞かせた。そして姫に、皇帝に自分が逢いたいので今夜にも伺います、と伝えてほしいと頼み込んだ。ミリーア姫は一瞬表情を強張らせた。が、特に何も言わずに承諾した。やがて、皇帝が姫にダンスのパートナーを申し込んだ……。
 舞踏会が終了した深夜。イーリスは後宮へと侵入した。だがそれは、思っていたよりも非常に困難なものだった。が、それも仕方のないこと。何せここは城の後宮。いくらクーデター直後とはいえ、いまや皇帝の住居であり警備が厳しいのは当たり前。本職の盗賊でさえ、正面からでは二の足を踏むようなところに忍び込もうというのだ。
 それでも、屋根をつたい、廊下を忍び、挙句に部屋を間違えて侍女を驚かせ(まあ、ついでに服が借りられたが)、そしてついには衛士に「この時間に陛下に面会?……陛下もお若いからなぁ」と勘違いされるという幸運(?)に救われてようやく、レオンナールと会見することができた。
「姫から聞いた時は、ショックを受けたよ……」
 これが、イーリスを前にしたレオンナールが開口一番口にした言葉だった。それもその筈、レオンナールはライバ市民との融和策との目論見もあるが、敵の姫君である筈のミリ−アに対してほのかな情が芽生えていたのだ。その姫から、別の女性が逢いたいといっている、などと言われたのだ。ショックを受けて当然だろう。
「でも、姫様のほうは嫌っているみたいですが」
 イーリスのその言葉に、若い皇帝は苦笑いを浮かべた。
「この前も、部屋を訪ねた際に追い出されたよ。テロリストの親玉ってね」
 それから二人は、様々な話をした。イーリスは、市民にとって、クメーラ帝国はテロリスト王朝結社の印象が強いこと、そしてサイラスのやり方では敵が増えるだけであること、そして皇帝自身も市民との融和が必要であることをレオンナールに解いた。
 レオンナールも、自分の生い立ちや、政治を民衆に任せることによる危険性をイーリスに語った。
 話の終わりにイーリスは、レオンナールにこういった。
「陛下。私は、サイラスははっきり言って嫌いです。でも、陛下自身の味方になることはできます」
 と……。レオンナールはそれに対して、「……心強い……」と答えた。彼にとって、自分と同じくらいの歳の理解者はとても有難い存在だった。そして本来、その役目をクサナギに求めていたのだ。
 クサナギの話が出た時、イーリスはレオンナールに、クサナギとの面会の許可を求めた。どうせサイラスに嘆願しても、かつて仲間だったイーリスに許可など下りるわけはないと分かっていたのだ。イーリスはレオンナールに、クサナギ説得のため、と持ちかけて納得させた。ただし、説得に失敗しても、処刑は公開によるもの、とレオンナールは釘を差した。そして、明日までに許可証を発行することを約束した。
 だがこの時、イーリスの瞳に微かだが、狂気の光が宿っていたのをレオンナールは気づくことはなかった…。