キャンペーン・リプレイ

第 十五話 「 そ の 名 は エ ル グ ラ ー テ 」平成11年4月18日(日)

12345678

 すべての準備を終えて、ゼノア率いる[聖剣売ります隊]がザクネーン隊に守られながら今まさに、出発しようとしていた。そしてそれと同時に、クサナギ救出部隊もまた、ノウラの街を後にしていた。
 その中で、先ほど逃げた密使は、まるで奪ってくれといわんばかりに、と言うよりわざわざ奪わせやすいようにつないであった馬を、それとは気づかずに奪って、そしてわざとらしい追撃を必死に振り切って、急ぎライバの街に向かった……。

 イーリスとレオンナールとの会見が行われた翌日。かつて操兵武闘大会が行われた闘技場で、反乱分子の公開処刑が行われようとしていた。処刑されるのは反乱分子ばかりではなく、ノウラ襲撃の失敗により、自軍の名誉に傷を付けたとしてライル元将軍、そして「王朝結社の名をかたって」人身売買を行った人狩り達も含まれていた。
「俺たちが死んでも、お前等に逆らうものはいくらでもいるんだぞ!」
 レジスタンスの若者が叫ぶ。
「畜生!俺たちを散々利用して、都合が悪くなったら始末するのかよ!!」
 往生際の悪い人狩りがわめき散らす。
 客席でこの光景を見ている市民は直感で感じ取っていた。多分、人狩りたちの話は本当だろう。だが、今の自分たちではどうすることもできない。ただ、見ていることしかできないのだ。
 イーリスは客席の中にいてこの光景を見て……いなかった。その狂気に犯されつつある心は既にクサナギのことでいっぱいだった。だが、手続きに手間どっているのか、皇帝の許可証はまだ発行されなかった。
 やがて、処刑場にサイラスが現れた。どうやら、彼自身が処刑執行人のようだ。サイラスは部下に命じてたくさんの武器をこの場に運ばせた。いや、武器だけではない。一機の操兵も運ばれてきたのだ。どうやら、ギルダーム型の改装機らしい。
 そして、すべての準備を整えた時、サイラスは受刑者たちの戒めを解かせた。
「帝国に仇なす貴様等に、最後の機会を与えよう。もし、この私と戦って、勝つことができたなら、貴様等は無罪放免である。負けは、当然死を意味する……」
 その言葉が終わるや否や、サイラスは腰に差してある、飾り立てた破斬剣を抜いた。その剣の輝きはどこか普通のものではなかった。
 受刑者たちはいぶかしげながらもそれぞれ武器を手にした。どうやら、特に細工はされていないようだ。サイラスが一体、何を考えているかわからないが、自分たちが生き残るには、今はこうするしかない。武器を手にした受刑者たちは、一斉にサイラスに飛びかかった。
 サイラスは特に慌てることもなく身構えた。そして、手にした剣を振るい、ものの数秒で受刑者たちを斬り伏せた。武繰の技こそ使わなかったもののそれは、イーリスの目から見ても、まさに達人の域に達するほどの技だった。
 一人生き残った人狩りは、大急ぎで操兵を起動させた。操兵で人を踏みつぶすなど、戦争ならともかく、こういった場では卑怯者と罵られても仕方のない事だ。だが、人狩りにとってはもはやそんなこと、どうでもよかった。彼の頭の中はもう、生き残ることでいっぱいなのだ。
 だが、サイラスは微動だにしなかった。特に自分の操兵を呼ぶわけでもない。というより、サイラスが操兵を所持しているという話は聞いたことはない。
「捻り潰してやる!!」
 操兵が近づいた時、サイラスは右手の剣を点に向けて掲げた。すると剣が、目も潰れんばかりの眩い光を放った。そして光が消えた時、そこにサイラスの姿はなく、代わりに光の巨人がそびえ立っていたのだ。その背中に後光を背負った巨人は、全身に神々しくも、まがまがしい光をまとい、圧倒的な威厳と畏怖を漂わせていた。敵に向けて放つ眼光、その顔は、サイラスに似ていた。
 巨人はその手に握った破斬剣を振るった。その一振りは、光で動きを止められ、恐怖で金縛りになった人狩りの操兵を乗り手ごと真っ二つにした。市民は圧倒的な存在に釘付けになった。まさしくそれは、人知を越えた現象だった。
「……この力を、我らが皇帝陛下のために……!!」
 剣を掲げて叫ぶ巨人に、貴賓席の貴族たちから拍手と喚声が沸き起こる。それに習って、客席にいる市民たちもしぶしぶ拍手する。だが、その中に唯一拍手をしない男がいた。トシロウだ。
「なんだ、ありゃ……?」
 トシロウは、巨人の本質を見抜いていたようだ。
 公開処刑は終わった。イーリスは貴賓席から出て行ったレオンナールを捜した。夕べ約束した、クサナギとの面会許可証を受け取るためだ。だが、予想に反してイーリスの前に現れたのはサイラスだった。
「どうやって陛下と話したかは知らんが。イーリスよ、貴様クサナギと面会して、どうするつもりなのだ。どうせ奴は、近々公開処刑になるというのに……」
 イーリスは必死になってサイラスを説得した。その気迫は、あのサイラスをたじろかせる程だった。やがてサイラスは渋々、クサナギとの面会を許可した。喜ぶイーリス。だが、サイラスはこんな条件を付けてきた。
「私も、一緒に行く!!」
 これがサイラスにとって、精一杯の妥協だった。

 そのころ、当のクサナギはどうしているのか。クサナギのほうり込まれたカストール牢獄では、今日も重労働が続いていた。囚人全員に鉱物採掘用の道具が貸し与えられ、露天掘りの青空の見える鉱山で何かを掘らされ続けていた。一体、自分たちに何を掘らせているのか…クサナギがそう考えた時、ティコ爺が話しかけてきた。
「よぉ若いの。景気はどうじゃ?」
「ティコ爺。一体奴等は、私たちに何を掘らせているのだ」
 ティコ爺は、自分の腰の袋から掘ったものを取り出してクサナギに見せた。それは、乳白色の小さな石の粒だった。クサナギはそれが何であるかがわかった。
「これは……[聖刻石]?」
 聖刻石とは、[マーナ]と呼ばれる正体不明の力場を発生させることができる不可思議な石であり、操兵の制御装置兼動力源である仮面の製造に不可欠な材料だ。実際には操兵ばかりでなく、[練法]の魔力の源や、魔の力を秘めた物品である[聖刻器]などの材料にも用いられるのだが、クサナギたち操兵乗りの間では、操兵の仮面の材料の一つとしてしか知られていない。
「ここはかつて、聖刻石の精錬場じゃったらしい。それが、千年前の地殻変動で埋没、今ではここに残された聖刻石のかけらを求めて掘り続ける鉱山となったわけじゃ。……じゃが千年の時が、ここを固い岩盤に変えてしまった。おかげで、山師たちはここを掘るのを嫌がったのじゃ。そこで、ここを強制労働所として使うことにしたのじゃろう」
 確かに、ここの地盤は固く、ツルハシで地面を砕くのはかなりの至難だ。これなら、体力を消費させ、逃亡できないようにすることもできよう。それでも、人間の力ではどうしようもないときのために、削岩機を取りつけたレストアール型の作業用の操兵も用意はされているようだ。
「あぁ、あれか動いたことはないぞ。あれはただ、儂等が怠けんように、見張っておるだけじゃからな」
 そういったティコ爺が顎をしゃくった操兵の方から、怒号が聞こえた。
 
 ライバの街の地下。ここに、地下遺跡を利用して作られた盗賊組合の秘密の集会所があった。このライバの街は古代都市の跡地に建設されており、地下には今も手付かずな遺跡が沢山ある。それに目を付けた盗賊組合は遺跡を整備、それぞれを地下通路でつないで、自分たちの拠点とすることにしたのだ。そして今では、この国を奪還しようとしているレジスタンスの拠点としても使用されている。
 その地下集会所の一角で、公開処刑を見て帰ってきたアリスとナバールが慌てふためいていた。まさかサイラスに、あんな隠し玉があったとは……。
 それに追い打ちをかけるように、とんでもない知らせが飛び込んできた。忍び込ませていた下っぱの報告によると、サイラスとイーリスが二人でカストール牢獄に向かったというのだ。
 これは非常にまずい事態だと判断したナバールは、このことを大急ぎでノウラの街とクサナギ救出隊に知らせるべく、手紙を書いた。それを部下に渡して、街はずれに待機しているヨクに託して届けてもらうように指示を出す。
 程なく手紙はクサナギ救出隊に届いた。サイラス巨大化と、二人が牢獄に向かったことは一行に大きな衝撃を与えた。ミオは当初立てていた作戦を捨て、強硬突入を念頭に置いた作戦に切り替えるべく、一行の移動速度を早めた。
 そのカストール牢獄では、今まさに騒動が起きようとしていた。小休止で仕事を止めている時に、一機のレストアールの機体の上では看守役の乗り手が居眠りをしていた。その時、一人の囚人がその操兵によじ登り始めた。レジスタンス活動で捕まった男が、この期に乗じて操兵を奪い、脱走しようというのだ。幸い、だれも気づいていないようだ。男は乗り手を放り出すと、まんまと操兵を分捕ることに成功した。
 この状況にようやく気づいたほかの看守が操兵を起動させ、脱走者の操兵に次々と向かっていく。脱走者は自分の機体を、起動直後の機体に体当たりさせ、次の機体に向かう。その体当たりを諸に受けた操兵は、均衡を崩してクサナギのほうに倒れてきた。
 こうなったらもう止められない。そう考えたクサナギは、自分もその倒れた操兵に乗り込んだ。そして機体を立ち上がらせると、すぐさま自機の装備を確認した。この操兵は、脱走兵の奪ったレストアールと同型の機体で、装備は右手にもった鉄棍だけだった。
 使い慣れない武器、その上機体は作業用でとても戦闘向きではない。それでもクサナギは、グラーテで鍛えた操縦でレストアールを巧みに操り、果敢にも敵操兵に向かっていった。
 だが、クサナギはここで不幸に襲われた。勝手の違う機体に振り回され、思うように機体を動かせず、挙句の果てに自機の鉄棍で自機を叩いて転び、その衝撃で機体はばらばらに粉砕してしまったのだ。要するに自爆だった。一体、何しに出てきたのか?。
 そのころイーリスはサイラスの馬車に同乗してカストール牢獄に向かっていた。
「…カストール牢獄には、我が軍最強の、7リット砲を搭載した巨大操兵が配備されているのだ。クサナギの公開処刑の際に、ライバに移動させる予定だが……」
「それは、どれほどの威力なんですの?」
「以前のクサナギと陛下の決闘の際に、奴のグラーテを木端微塵にしたのが、これだ……!」
 そんな会話をしていると、カストール牢獄が見えてきた。ここは、山肌を露天掘りで削り、できた内縁を利用して作られた自然の牢獄だ。そしてその入口では、例の巨大操兵[メーアドレッド]が3リートもの巨体を揺さぶらせて、ゆっくりと動き出していた。牢獄からは脱走を伝えるサイレンが鳴り響いている。
 それを聞いたサイラスは、隣にいるイーリスを気に求めず、馬車の天窓をあけてその魔剣を天にかざした。剣が輝き、サイラスを光の巨人に変える。巨人は光の玉となって牢獄へと飛んでいった。
 操兵からやっとの思いで這い出てきたクサナギは、この世のものとは思えぬ光景を目にした。レストアールで善戦する脱走者の前に突如、光り輝く巨人が空から降りてきたのだ。巨人は手にした剣で、レストアールを乗り手ごと一刀両断にした。
 茫然とするクサナギの前で、巨人は元のサイラスの姿に戻った。サイラスはゆっくりとクサナギに近づいてきた。
「とんだ、ていたらくだな、クサナギ……」
「今の化け物は、いったいなんだ!」
 クサナギのこの言葉に、表情を硬化させるサイラス。
「これは私の[偉大なる力]だ!!。クサナギよ……貴様に最後の選択の機会を与えてやる。我らが皇帝陛下に忠誠を誓うか、それとも、皇帝陛下と戦い戦士としての[死]を選ぶか?」
 そこにようやくイーリスが到着した。
「!……牢獄で噂は聞いていたが、イーリス、一体何故、こんな奴等についたのだ!」
 静ながらも怒りを露にするクサナギに、イーリスは相変わらず、「目的がありますから」とさらっと答えた。
「さて、クサナギヒコ。答えは決まったか……?。[生]か[死]か…」
 クサナギは静かに、そしてはっきりと答えた。
「ならば私は……皇帝と戦う道を選ぼう。だが、決して[死]は選ばない。私は生き延びる。そして必ず、そなたたちを倒す!!」
 サイラスの目がすうっと、細くなった。
「ほう……操兵を失った今の貴様に何ができる。望みとあらば、私自ら偉大なる力で捻り潰しても、よいのだぞ……」
「ほっほっほっ……何かと思ったら、コケオドシの巨人が意気がっておるだけか!」
 突然、会話にティコ爺が割り込んできた。
「爺ぃ……コケオドシとは、聞き捨てならんな」
 怒りを露にするサイラスに、ティコ爺は怯みもせずに言葉を返す。
「コケオドシじゃから、コケオドシと言ったんじゃ!」
 サイラスはその場では怒りを抑えた。そしてティコ爺に、クサナギの処刑の際には、貴様も一緒に処刑してやる、と脅しをかけた。が、ティコ爺は全く堪えた様子はなかった。