キャンペーン・リプレイ

第 十五話 「 そ の 名 は エ ル グ ラ ー テ 」平成11年4月18日(日)

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 ライバの街。救出隊に手紙を出した後、アリスは街の様子を見るべく、表通りに顔を出した。街は傭兵を雇い入れるようになって、それなりに活気づいていた。が、人々の表情はどこか沈んたところがあった。やはり、これからこの街がどうなるのか不安なのだろう。
 アリスはかつて寝泊まりしていた、竜の牙亭の入口をくぐった。だが、そこでアリスは騒動に巻き込まれた。すっかり酔いが回った兵士が、主人に暴力を働いていたのだ。
 アリスは思わず止めに入った。が、力及ばず、逆に自分に怒りを向けさせてしまった。そして兵士は、アリスに拳をふるった!思わず目をつぶるアリス。だが、その拳は彼女に届かなかった。目をあけてみると、一人の男が兵士の腕をつかんでいた。そのマントとターバンに身を包んだ男は兵士を店の外に放り出し、兵士はその場を逃げ出した。
 アリスはその男を見て驚いた。紅蓮の狩人デューク・フリーディオ。以前、クサナギと一緒にあったことがあるのでその顔を覚えていたのだ。アリスにとっては非常にまずい事態だった。彼はアリスの顔を知っているのだ。デュークは、アリスが何か行動を起こす前に彼女の手を掴んで店から連れ出した。そして、アリスをそのまま裏路地へと連れていった。
 このまま城に連れていかれるのだろうか……そう思われた時、デュークは不意に、アリスの手を放した。そして、意外にも丁重に今の行為を詫びた。
「乱暴な扱いをしてすまなかった……。あんたがどうやってこの街に入ってきたかは俺はしらん。だが、ここで会ったのも何かの縁。実は、あんたに頼みがあるんだ」
 アリスは怪訝そうにデュークを見た。
「……私に、頼み……?」
「今となっては、あんたにしか頼めん」
 そう言ってデュークは、ターバンと腰の武器をはずした。
「マリアを……妹を、助け出してほしい……。今はこの城の後宮にいるが、事実上、俺に対する人質なんだ。もし、マリアを助け出してくれたら、俺にも考えていることがある」
 デュークはそれだけ言うと、その場を去っていった。もちろん、マリアの具体的な人相も伝えることを忘れなかった。
 アリスは大急ぎでナバールのところに戻った。そしてマリア救出のための後宮侵入のことを相談した。頭を抱えるナバール。
「……出来ねぇ、話じゃなぇが、なぁ……」
 
 夜。強行軍でカストール牢獄に到着した救出隊は、新グラーテで待機しているミオと体の大きいモ・エギこと御仁姫紅葉武頼を除いて、数隊に分かれて牢獄内に侵入を試みた。今、強襲をかけても、クサナギ救出がどこにいるのかわからなければ攻撃のしようがない。唯でさえイーリスとサイラスが来ている上に、入口前には、とんでもない操兵が待ち構えているのだ。
「……あれは、[メーアドレッド]です。アグナストロング式7リット砲2門と3リットロケット砲を合計四基搭載した、まさに動く要塞です!」
 一緒に待機しているゼノアの部下がミオに説明する。
「以前、ラウドの谷で同じ操兵と戦闘したことがあったんです。その時に、機体は完全に破壊したはずですから、おそらく同型の別機体でしょう」
「……で、倒す方法はあるの?」
 ゼノアの部下は落ち着き払って言った。
「あの操兵は火力のみに重点を置いていて、機動力は全くないんです。以前、渡世人たちの力を借りて戦った時は、砲撃を回避しながら近づいて、接敵したところで内部に侵入して破壊したんですが。今のグラーテなら、ロケットで後ろに回りこんで直接駆動部を攻撃すれば、一撃で停止できますよ……!」
 そのころ、内部に侵入したゼロは他の囚人たちに話しかけ、恩赦を条件に協力を要請した。ミオは、この作戦を立てるに当たって、あらかじめライバ王に囚人の恩赦の了解を取りつけていた。それを聞いた囚人たちは喜んで協力した。
 同じころ、牢獄の所長の館ではイーリスとサイラスが食事をしていた。
「私は、ある洞窟でこの力を授かった。それは私に、この世界を守れ、と言う[偉大なる意思]の導きだったのだろう。そしてこの地にたどり着き、陛下なら、私の理想社会を実現してくれると感じて、仕えることにしたのだ……」
 サイラスは自分の剣を手に入れた経緯をイーリスに聞かせていた。もっとも、狂気に蝕まれつつあるイーリスは聞いていなかったが。そしてイーリスは食事もそこそこに、クサナギの牢へと向かった。
 クサナギは、相変わらずティコ爺と同じ牢にいた。そしてただ黙って夜空を見上げていた。そのクサナギの前にイーリスが現れた。
「イーリス、そなた……」
「さっき、私が[目的がある]って言ったでしょう。そう、目的はサイラスを逃がさないこと。あいつは放っておいたら何をしでかすかわからないから。それに、あの皇帝陛下には一目置いてるの。彼は決して悪い人じゃないと思っているから……でも……」
 言葉が途切れた時、クサナギはそれに反論しようとした。が、次に続いたイーリスの言葉を聞いて戦慄を覚えた。
「……ゼロ、死んじゃったの……。ミオにあれほど頼んでおいたのに……。ゼロ、[あの世]できっと、寂しがっているんでしょうね……。だから……」
 その時、イーリスの瞳に狂気の光が宿るのを、クサナギは見逃さなかった。
「……ゼロの元に、行こう……あっちでゼロが寂しがっているよ……ほら、聞こえない……?」
 どうやら、狂気はかなり進行しているようだ。
「もちろん、クサナギのあとには、ミオも送ってあげるよ……その次はだれがいい?。紅蓮なんかどぉ……」
 ……もはやクサナギは何も言うことができなかった。
 その話し声は、忍び込んでいたゼロの元にも聞こえていた。イーリスの声が聞こえた途端、ゼロは身を伏せて気配を消そうとした。その時、不意に後ろから、だれかが近づいてくる気配を感じた。
 振り向くとそこには、看守が一人立っていた。思わず身構えるゼロ。だが、その看守はゼノアの部下が変装したものだった。クサナギの前に入るイーリスをどうにかできないか、というゼロの頼みを聞いて、偽看守は「任せろ」といって何食わぬ顔をしてイーリスのところに行った。
「イーリス様。サイラス閣下が緊急の用で、お呼びであります」
 イーリスは、何故かこの看守を訝しげに見た。そして所属などを詳しく問いただした。が、そこは潜入工作のプロ。軽く受け流す。しかしイーリスもしつこく、食い下がる。その時、本物の看守が現れて、サイラスの伝言を伝えた。本当に、何か重大な事態が発生したらしい。イーリスは偽看守を見た。彼は本物に軽く敬礼をしている。本物もそれに習って敬礼した。イーリスはとりあえずその場を去った。
「やれやれ、あの小うるさい娘、やっと居なくなったわい」
 ティコ爺はそう呟くと、クサナギに構わず寝てしまった。いったいこの老人は何者だろうか。相当長い間この牢に居るようだが、昼間のサイラスに対する態度といい、おそらく只者ではないだろう……。
 そのころ、サイラスはライバから来た使者の知らせを聞いていらついていた。ノウラから脱走してきた密使により、ノウラの「聖剣売ります作戦」の決行を知ったのだ。いつまでもここで油を売っているわけにはいかなくなった。
「……イーリスはまだか……!!」
 当のイーリスは、官舎前まで来たところで立ち止まった。両脇の通路から人の来る気配を感じ取ったのだ。右から来る者は、特にその気配を隠そうともせず、堂々と歩いてくる。そして左は、あきらかに侵入してきたような感じの、隠れながら進んでいるもののようだ。 
 イーリスは少し迷って、そして左側の気配のほうに向かった。
 その左側の気配の主、阿修羅はイーリスが自分のほうに向かってくるのに気づいた。慌てた阿修羅は、懐から小さな金属片を取り出し、神に仕えるものにのみ許された、[気]の力をそそぎ込んだ。金属片は阿修羅の気の力で変形し、それは一つの鍵の形となった。
 阿修羅はその鍵を手近な牢の鍵穴に差し込んだ。それは幸運にも、格子を開けることができた。阿修羅はそのまま牢に入ると、落ちていた毛布を拾って囚人のふりをした。
 そこにイーリスがやってきた。一瞬、牢が開いたような気配を感じたイーリスは、中にいる阿修羅に話しかけた。阿修羅は病気の囚人の振りをして逃れようとするがイーりスもしつこく話しかける。
 その時、その牢にいたもう一人の囚人が阿修羅に助け船を出した。
「……そいつは、ここのところ病気がちでな、そっとしといてやってくれんか……」
 イーリスは少し怪しんだが、とりあえず「お大事に」といってその場を引いた。
 右側の気配の主はセフィロスだった。(とりあえず親玉を倒せば良かろう)と官舎前にたどり着いたセフィロスは、他にも通路が続いているにも目もくれず、迷わず官舎に入っていった。
 そこに先の牢屋からイーリスが帰ってきた。イーリスは一人の男が官舎に入っていくのを目撃する。看守の一人だろう……あまりの堂々たる振る舞いにそう思いかけた時、イーリスは男の持っている槍の穂先を見て驚愕した。そう、見間違えるはずがない。それはセフィロスの獲物、破斬槍だったのだ。イーリスは思わず大声を上げた。
 それと同時に、ゼロはあらかじめ鍵を開けておいた牢屋を次々と開放した。囚人たちが次々と出てくる。彼らは恩赦を聞いており、また中にはレジスタンスの構成員や民衆寄りの議員などもおり、作戦に協力的であった。ゼロは囚人の一人に信号弾の装填された手銃を託すと、クサナギの元に向かった。
 ゼロはクサナギの牢を開けると、自分がゼロであることを隠して話しかけた。
「クサナギさんですね、あなたを救出に来ました」
 クサナギは目の前にいる少年がゼロであることに気づかなかった。そしてゼロの死が[事実]であることを知り、愕然とする。ゼロはクサナギを外へ連れ出し、ティコ爺もとりあえず一緒に外に出た。