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ミリ−ア姫の部屋に付いてみると、そこはまだ掃除の真最中だった。フェイはメイールを呼び止めると、部屋の隅のほうで、事の経緯を話した。メイールは困惑しながらも了解した。 その時、フェイは不意に、後ろにだれかがいるような気配を感じた。振り向くとそこには、ミリ−アがにこやかな笑顔を浮かべてそこに立っていた。どうやら話を一部始終聞いていたようだ。姫もこの作戦に協力することを約束した。 「と・こ・ろ・で・、レジスタンスの人たちが来てるんでしょ。だったら、渡してもらいたい手紙があるの」 姫はそう言って、フェイの前で急いで手紙を書き出した。フェイが興味深くその手紙を覗き込むと、そこにはレジスタンスへの励ましと激励とともに、秘密通路を使用しての武器、弾薬の調達及び搬入の依頼がかかれていた。 「あたしと、侍女たち全員で話し合って決めたの。ただ、助けが来るのを待つより、機会を待って、反撃しようって。父様はこの街を取り戻すために必ず攻めて来る。でも、街の人たちを巻き添えにしたくないから、きっと攻撃することはできないと思うの。だから……」 ミリ−アは一枚の書類をフェイに見せた。それは、彼女たちの決意を示した連判状だった。 「フェイ。あなたはここに来て日が経っていなかったから加えてなかったけど、あなたがレジスタンスに協力してるってことは、あなたもあたし達に味方してくれるってことよね。だったら、あなたもここに署名して頂戴」 フェイは少し考えて、仕方なく署名することにした。そしてその代わり、とばかりに、フェイもミリ−アに一枚の紙を差し出した。 「その代わりっていうのも何ですけど、これに姫様の署名をいただきたいのですが」 その紙には、「私ことフェイは、ミリ−ア姫に忠誠を誓います」と書かれていた。フェイはこの書類の署名を利用して、何かを企んでいるようだ。それを見た姫は、必要がない、と署名を断ったが、フェイはしつこく食い下がった。ミリ−アは少し考えて、そしてその書類に自分の名前を書き記した。フェイは心の中でほくそ笑んだ。だがフェイは気付かなかった。この書類に、重要な[あるもの]が欠けていたことを……。 そのころ、メイールは自分とフェイの部屋に向かっていた。[レジスタンスの侵入者]に興味を持ったのだ。が、自室の扉を開けた時、メイールは奇妙な光景を目撃した。それぞれの寝台に一人ずつ誰かが寝かせられていた。そしてその傍らには、女医と思われる人物が一人の手を取って、静かにこういったのだ。 「……ご臨終です……」 訳が分からなくなったメイールは、その一人の顔にかかっている掛け布団をそっと、めくりあげた。そして、その中の顔を見た瞬間、彼女は凍りついた。そこには何と、[ネズミの顔]があったのだ……!!。 錯乱したメイールの悲鳴をフェリスとアリス、ジョウは必死になって止めた。後から部屋に帰ってきたフェイはその光景を見て、すっかり呆れ返った。 その後、ようやく落ち着きを取り戻したメイールの協力で、何とか侍女と侍従の服を手に入れたフェイは、その服を一行に手渡すと、そろそろ皇帝陛下が帰ってくるからしばらくは動かないように、と言ってとりあえずメイールと一緒に仕事に戻った。 それからしばらく時間が経ち、そろそろ夕食の準備で後宮は大わらわになった。そんな中、フェリスは一人部屋を出た。様子見をしようというのだ。だが、いくら他国と比べて質素とはいえ、それでも後宮は広かった。右も左も分からぬままフェリスは、完全に迷ってしまった。 うろうろしているうちにフェリスは、気がつくと後宮の厨房に迷い込んでいた。ここは今、まさに修羅場と化していた。皇帝陛下の晩餐の支度で大忙しの状態だったのだ。その時、侍従の一人がフェリスを呼び止めた。 「ちょうど良かった。そこの新入り、これを食堂に運んでくれないか!」 そう言って彼が示したものは、今夜の主催と思われる鳥の丸焼きが乗ったワゴンだった。状況が状況だけに断り切れなかったフェリスは、仕方なくそれを食堂に運んでいった。 「陛下に失礼がないようになー!」 その言葉を背中に受けてフェリスは焦った。が、もう後戻りはできない。レオンナールの前に出たフェリスは、軽く会釈をして器の蓋を開ける。そして鳥肉を切り分けるために、包丁をその手に握った。だが、フェリスはこのような高級な料理を扱ったことなどない。果たして彼女は、この危機をどう乗り越えるのか?。 フェリスはゆっくりと、鳥肉に包丁を入れた。その手付きは料理を切り分ける、というよりは、どちらかというと[腑分け]という感じだった。その見事な執刀は、この若い皇帝を唖然とさせ、まわりの侍従や侍女たちをあたふたさせるのに十分過ぎるものだった。 やがて、見事な[手術(オペ)]を無事(?)に終了したフェリスは、悠然とその場を立ち去り、侍従たち専用の食堂でアリスとジョウの分のトルティーヤを調達して、フェイとメイールの部屋に戻っていった。 そのころ、物置の掃除を終えたフェイは、何か忘れていることがあったような感じを覚えた。そして、少し考えた後ようやくそれを思い出した。 「あ……あいつらの食事忘れてた……」 そのころ、フェリスは部屋に戻り、アリスとジョウに先ほど調達したトルティーヤを渡していた。そして、後宮が再び静けさを取り戻した時フェリスは、今度はアリスを連れて再び部屋を出た。何のことはない。今度は手洗いに行きたくなっただけなのだが。 やがて、ようやくの思いで手洗い所につき、用を足したフェリスは、アリスを置いてまた、後宮探検に出かけた。そして今度は二階に赴き、そこで二人の屈強な屈強な男二人に見張られている、妙に警備の厳しい部屋を見つけた。その時、部屋から一人の髪の長い少女が姿を現した。彼女が救出する対象である、デュークの妹マリア・フリーディオだ。マリアは二人の監視員に「陛下の寝台を整えに行きます」とだけ伝えた。その二人の警備兵は黙ってマリアについていった。 三人が立ち去ったのを見計らったフェリスは、早速誰もいなくなったその部屋の鍵を開けて、中に忍び込んだ。部屋の中は当然といえば当然なのだが、何の飾り気もなく殺風景であった。フェリスは部屋の隅にある寝台の下に隠れた。そして枕の下に、自分がいることを伝えるために一枚のメモを置くと、そのまま息を潜め、マリアが帰ってくるのを待った。 自分の仕事を一通り終えたフェイは、自室に帰ってきて茫然となった。フェリスがいつまでたっても帰ってこないというのだ。既に夜も更け、もう時間がないというのに、いったい……。 考えていても時間が過ぎる。フェイとアリス、そしてジョウは救出作戦の協力を求めて、早速メイリン女官長の部屋に向かった。フェイにはその他にもう一つ、目的があった。あの、堅物のメイリンと、盗賊組合の頭領であるナバール。この二人の不可解な関係を突き止め、そしてそれを利用して彼女をギャフンと言わせてやろうというのだ。そんな思惑を込めてフェイは女官長の部屋の戸を叩いた。 「なんです?こんな夜中に……」 フェイはメイリン女官長に事情を説明すると早速、意味深な笑みを浮かべながらナバールからの手紙を渡した。そして、その手紙を開き、中身を読むメイリンの表情の変化を見逃すまいと、じっとその様子を伺っていた。が、彼女はついにその表情を変えることはなかった。せいぜい、うっすらと軽い笑みを浮かべただけだった。フェイはある種の敗北感を覚えた。 一行の事情を知ったメイリンは、もしマリアを救出したらここに連れてくるように、といった。この後宮は万が一の事態に備えて、城の最後の守りとして要塞化することができる。そのための設備として、この建物のあちこちに秘密の連絡通路が伸びているのだ。そしてその通路の一つが、この部屋にもあるというのだ。 フェイは一行に、自分が立てた救出作戦の内容を話した。それは、フェリスとアリスが部屋の前の見張りの気をそらし、その隙をついてジョウが忍び寄ってその見張りを倒す。そして大急ぎでこの部屋に逃げ込む、という単純なものだった。が、タイミングを間違えるとかえって危険な状況に陥ってしまう危険性も孕んでいた。 そしてもう一つ。フェリスの行方が要として知れないという問題もあった。だがこれに関しては、フェリスを信じるしかない。今のところ騒ぎが起きていないということは、彼女はまだ捕まってはいないだろう。目的が同じゆえに、こちらの動きを察知して行動を起こしてくれることを期待するしかないのだ。 |