キャンペーン・リプレイ

第 十六話 「 ネ ズ ミ た ち の 狂 宴 」  平成11年5月3日(日)

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 そのころ、当のフェリスのいる部屋に、マリアが帰ってきた。彼女はすっかり疲れ切った様子で、寝台に横たわった。その時、マリアは枕元に違和感を感じた。枕をどかしてみると、そこには一枚の紙切れ。それには、「救出に来ました。下にいるので動きがあるまで静かにしていて下さい」と書かれている。どうやら裏にも何か書かれているようだ。マリアが紙をひっくり返すと、そこには[ネズミ仮面参上]と書かれていた。
「……ネズミ仮面、さん……?」
 マリアが寝台の下を覗き込んだ。ジョウと間違えられたフェリスは、慌ててもう一枚の紙を取り出し、「私はネズミ仮面ではありません」と書いてマリアに手渡した。マリアはそれを受け取り、また裏を返すと[ネズミ仮面参上]……。
 そんな漫才の続くマリアの部屋の前に、二人の侍女が近づいてきた。フェイとアリスだ。彼女たちは扉の前にいる二人の監視役に、マリアと話がしたい、と嘆願した。監視役はそれを拒否したが、
「……ふだんから働きづめのマリアに差し入れして、励ましてあげたいんです……」
 と、食い下がるようなアリスの言葉に、仕方なく承諾した。
 その時、外の異常を察知したフェリスは、マリアをその場に留めると、自分は寝台の中から出てきた。そして扉の影になる位置に立ち、短剣を構え、監視役が入ってくるのを静かに待った。
 やがて一人の監視役が扉を開ける。フェリスはそこに透かさず飛びかかり、その首筋に短剣をつき刺した!。一瞬の出来事に、アリスとフェイ、そしてもう一人の監視役は何が起きたのか、全く理解できなかった。
 その時、異様な殺気がもう一人の監視役に迫ってきた!。見ると、何かがこちらに向かって走ってくる。それは、中心にネズミの顔をつけた唐草模様の竜巻だった。そのネズミの異様に輝く目をまともに見た監視役は身動き一つ取れない。そしてそれは、出刃包丁を振りかざして監視役に躍りかかった!!。
 が、せっかくの機会にジョウは、出刃を大きく振りかぶりすぎて、その勢いで転んでしまった。そして、その唐草模様の竜巻は唐草模様の球体に姿を変えて監視役を襲い、二人はもつれあいながら壁に激突!。そして監視役は気を失った。その光景を見たアリス、フェイ、フェリス、そしてマリアは(別な意味で)唖然とした。
 とりあえず、気を取り直した一行は、監視役の死体を寝台の下に隠し、もう一人の気を失っているほうの監視役は巣巻にして寝台に寝かせた。掛け布団を掛ける前にジョウは、その男の顔にネズミ仮面のトレードマークである張り紙を張りつけた。それには、こう書かれていた。
[捕われの"姫君"は頂きました。ネズミ仮面参上]
 と。
 その後マリアを連れた一行は、打ち合わせ通りメイリンの部屋に戻った。扉を開けると、メイリンが出迎えた。彼女は一行を部屋に入れるとすぐに戸を閉め、部屋の隅にある戸棚をずらす。するとそこに、下のほうに続く通路へとつながる隠し扉が現れた。
「ここの連絡用通路をそのまま進んで、地下のほうに降りていくと、操兵整備場に出ることができます。それからの逃走ルートは、あなたたち盗賊組合のほうがよく知っているでしょう?」
 扉が強くノックされる。どうやら、交代の監視役が部屋を見て、中の異常に気づいたようだ。後宮全体が慌ただしくなった。
「さ、早く行きなさい……と、その前にフェイ。この騒ぎが収拾したら、もう一度ここに来なさい。給金はその時に払いますから」
「はいはい、女官長もお達者でっ」
 フェイは笑顔で答えた。が、彼女はここに戻ってくるつもりはなかった。そう、フェイにはこの後宮で侍女たちを相手に賭で稼いだ金品があるのだ。持って行けそうなものは小さなものに限るが、これだけでもまあまあな儲けだ。だが、
「あ、そうそうフェイ。あなたが侍女たちから巻き上げた金品は私が責任を持って、全員に返しておきますからね」
 メイリンはそういって、フェイの襟首やスカートを叩く。すると、高価そうな首飾りやブローチ、指輪などが次々と落ちてきた。
(ま…負けたわ…)。
 フェイは渋々それらを全部メイリンに渡すと、無言のまま隠し通路に入っていった。それに続くように、フェリスとジョウ、アリスも通路をくぐる。マリアは、今まで世話になったメイリン女官長に礼を述べて、通路をくぐっていった。隠し扉が閉じられると同時に、部屋に衛兵たちが入って来て、もう一行には戻ることはできなかった。
 メイリンに言われた通り一行は連絡通路を進んだ。が、地下に降りて少し進んだところで、上と下にそれぞれ続く別れ道に差しかかった。果たしてどっちに向かったらよいものか?。少し迷って一行は、下の通路へと向かった。
 通路を進んで行くと、やがて出口と思われる扉にたどり着いた。そして、その扉の向こうからは操兵工場独特の機械音と、それに負けない怒号が飛び込んできた。
「……親方ぁ。ちょっと休ませて下さいよぉ……」
「こいつの修理が終わったら休ませてやる。イランド博士を見ろ!。さっきから、全然休みなしで仕事してんだぞ!!」
 アリスはこの声に聞き覚えがあった。ミオの師匠にして親方のジュウコーだった。アリスは一行に、ジュウコーに助力してもらうことを提案した。が、ここはおそらく地下工場であり、また、ここでは現在、王朝結社の象徴である王家の操兵を修理していて、見張りも厳重だ。結局、アリスの案は聞き入れられず、一行はもときた道を戻り、上に伸びる通路へと進んでいった。
 その時、とてつもない地響きが一行を襲った。一行は知らなかったが、実はこの時、ミオの立案した[聖剣売り隊作戦]の存在を知ったリナールが大急ぎで精鋭部隊を派遣したのだ。この地響きはこの城の操兵整備場から出撃していく操兵部隊が起こしたものだったのだ。
「何としてでも、聖剣ファーラスを取り戻すのだ!。それまでは、戻ってくるな!!」
 出撃していく部隊を叱咤するリナールに、部下の一人が話しかけた。
「皇帝陛下には、報告したのですか?」
「……いや、まだだ。陛下には、取り戻した聖剣をお見せすることで、報告としよう。それにしても、こんな時にサイラス様とイーリス殿が不在とは……とりあえず、デュークにでも、迎えに行かせろ!!」
 そこに、もう一人の衛兵が走ってきた。そしてリナールに何やら耳打ちをした。それを聞いたリナールの顔が真っ青になった。
「……マリアが、連れ去られただと!!」
 地響きが収まったところで進み始めた一行は今度こそ、地上の操兵整備場と思われる場所に出る、隠し扉の前にたどり着いた。ここで、アリスが再び一行に提案した。
「……私がここで、操兵を奪って囮になります……。皆さんはその隙に、マリアさんを連れて逃げて……」
 アリスが最後まで言わないうちにフェイとジョウから横槍が入った。
「何馬鹿なこといってんのよ。救出を依頼されたのはあんたじゃない。それに今奴等に捕まったら、何をされるか分かったもんじゃないわよ!」
「そうですよ。闘技場に引き出されて、あの[化け物]に踏み潰されるかもしれないんですぜ……!」
 ジョウの言う[化け物]とは、言わずと知れたサイラスだった。彼はこれより少し後に、脱走したクサナギの駆る新操兵[ファルメス・エルグラーテ]によって倒されるのだが、今の一行にそれを知る余地はない。結局この案も絶ち消えとなった。
 一行が慎重に扉を開けると、そこは操兵整備場の大きな屑入れの中だった。幸い中は紙屑だけだったので痛い思いや臭い思いをせずに済むのが何よりだった。その屑入れの扉が突如開いた。整備員の一人がゴミを捨てようとして戸を開けたのだ。思わずフェリスと整備員の目が合う。フェリスは黙っているように、と目で合図を送った。彼は素直に言うことを聞いてくれた。
 整備員は回りに誰もいないのを見計らって、一行に外に出るように促した。一行が事情を話すと彼は、クメーラ皇軍の連中にとって死角になる通り道を一行に教えてくれた。この建物の脇を抜けて、城壁に沿って進めば、誰にも気づかれずにどこかの門にたどり着けるというのだ。それを聞いたジョウは、その城壁の一角に、盗賊組合の掘った抜け道があることを思い出した。確かそこを通れば、リベ山のほうに抜けてそこから、ノウラの街に向かうことができる。
 そこに、どこから現れたのか、初老の整備員が現れた。どうやら、ここの責任者のようだ。
「さ、ここは危ない。さっさといきな」
 整備長はそういって、一行に微笑んだ。それを見た一行は二人に礼を言ってその場を後にした。それを見届けた整備長は、整備場を離れた。
「あれ、整備長。どちらに?」
「ちょっと、野暮用でな。出かけてくる……」