キャンペーン・リプレイ

第 十六話 「 ネ ズ ミ た ち の 狂 宴 」  平成11年5月3日(日)

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 それから一行は、先の整備員に言われた通りに城壁沿いに進み、そして盗賊組合の所有する抜け道のある所へとたどり着いた。
 そこには、既にナバールの指図でエイルが待っていた。そして一行を隠された入口に案内した。が、エイルは入口の前でフェイを呼び止めた。
「で、フェイよ。後宮での[儲け]はどうなった?」
 どうやら、この疲れ切ったフェイの顔を見て、彼女が何も持ってきていないと踏んだらしい。確かにフェイは、先ほどメイリン女官長に後宮で稼いだ儲けを没収されてしまっていた。が、彼女には切り札があった。
 フェイは懐から一枚の紙切れを取り出し、エイルの前に突き出した。それは、後宮でミリ−ア姫にもらった、彼女の署名が入った証書だった。
「どう、これ。この署名を利用すれば、いろんなことができるわ。これ以上の儲けはないと思うけど?」
 エイルは焦った。もし、それが本物であれば確かにものすごいことだ。そしてそれは、自分が賭に負け、仕事の稼ぎのほとんどをフェイに支払わなくてはいけないことになるのだ!。が、その時エイルはこの書類に[あるもの]が欠けていることに気づいた。
「はーっはっはっはっフェイ、悪ィがこいつには、何の価値もねぇぞ!」
「ええっ、一体、それどういうこと……!?」
 その言葉に戸惑うフェイに、エイルはあざ笑うかのように言った。
「この国ではな、何かの間違いがあっちゃ行けねぇってんで、王族は必ず署名のほかに、専用の印を捺印するんだよ。どっちかだけじゃぁ何の効力ももたねぇんだ……!」
 フェイは愕然となった。あの姫様(カマトト)最初から、フェイが他のことに利用するために署名を求めたのに気づいていて、わざと捺印をしなかったのだ。フェイはその場でがっくりと項垂れた。
「……完敗……だわ……」
 そこに追い打ちをかけるようにエイルの言葉が響く。
「さ、掛け金はきっちり、払ってもらわなきゃなぁ?」
 すっかり強気になったエイルにフェイは、もう一枚の紙を突きつけた。それを読んだエイルは、再び顔を青く染めた。それはナバールがフェイに宛てて書いた手紙だった。それには、ナバールの署名入りで、フェイとエイル、ビーインが交わした賭を完全に帳消しにする、という文書が書かれていた。まさか、本来自分の脱出の支援の条件が、こんなところで役に立とうとは……。だが、フェイの心はまだ沈んでいた。そう、これでやっと、引き分けなのだから。
 そんな二人をよそに、フェリスはここで別れると言い出した。まあ、それはもっともだった。彼女はこの町で医者をしているのだ。そして、おそらく敵に正体を知られていない。街を出ていく理由など何もないのだ。フェイはフェリスにミリ−ア姫の手紙を託すと一行とともに、やはりすっかり疲れ果てたエイルに案内されながら地下に続く秘密通路の中へと消えていった。
 そのころ、ライバのある一角の門では、先ほど出かけた整備長が、一機の操兵に話しかけていた。
「さて、どう見ます?隊長」
 隊長と呼ばれた人物は操手槽の中で考えた。
「そうね……そろそろ、城壁警備にも飽きたし、ここの連中に、[恩]を売っておくのも良いかもね」
 どうやらこの隊長は女性のようだ。彼女は自慢の少しカールのかかったブロンドの髪を巻いていた指を話すと、操手槽を閉じ、優美な騎士をかたどった操兵を起動させた。
 彼女の名はメリエンヌ。リナラの[三剣士]の一人で、かつてライバの操兵試合においてクサナギとグラーテの前にものの見事に破れ去ったものの、剣の技術にすぐれた、気丈な女傑騎士だ。彼女は現在、自国とクメーラ王朝が大昔に交わした盟約に基づいてこのライバに派遣されている。が、所詮千年前の盟約。状況によってはクメーラ帝国を見限る場合もある。現に帝国側はいまだに王家の操兵を見せていない。
 そのため、リナラはこの混乱に乗じて密偵をこのライバの街に忍ばせておいたのだ。可能な限り情報を収拾して、自分たちがこのまま帝国側につくべきか否かを判断するために……。そしてこの整備長もそのうちの一人なのだ。
 どうやらメリエンヌは、今は連中を見限る時ではない、と判断したようだ。
「……ま、逃げた彼らには気の毒ですけど、これも今後のため。仕方ないわね」
 どこか後ろめたさを感じながらもメリエンヌは自分の操兵[マリアローズ]を立ち上がらせて早速リベ山に向かって機体を進めた。
 一方、地下にある盗賊組合の隠れ家に戻ったフェリスは、ナバールにマリアを無事に救出したことを報告した。そして、同時に、ミリ−ア姫からの手紙も手渡した。ナバールがそれを開こうとした時、フェリスは今回の仕事の報酬を要求してきた。
「ん?そうだったな。ほい、ご苦労さん」
 ナバールはそう言って金貨の入った袋を手渡した。
「あー親方。フェイとジョウの分は私から手渡しておくからね」
 フェリスはナバールから二人の分の金貨も受け取る。だがこの時誰も気づかなかった。フェリスが二人の報酬をネコババしようとしていることに……。
 そうとは知らないフェイとジョウ、そしてアリスとマリアは城壁の向こう側、つまりライバの外に出ていた。ノウラに続く道の途中にヨクの若者が待機していることをげっそりとしたエイルが教えてくれた。一行はエイルに別れを告げると、急いでリベ山のほうに向けて出発した。
 こちらのほうに逃げたことは敵方には知られていないはず。一行は落ちついて山道を上って行く。だがその時、最大の障害が一行に襲いかかった。大きな地響きを立てて、一機の優美な騎士を形どった操兵が、一行の背後から迫ってきたのだ!。その操兵は、発掘品と思われる強力な投光器で一行を照らし出した。
「あの操兵、見たことがありますぜ……確か、操兵闘技大会の時にクサナギに負けた奴です。剣の腕は確かだが、操兵の腕はまだまだとか」
 ジョウの言葉にフェイが突っ込みを入れる。
「どちらにしたって、生身でかなう相手じゃないでしょ!。さっさと逃げるわよ!!」
 一行は一目散に逃げ出した。
 逃げる一行をマリアローズの操手槽から見ていたメリエンヌは少々気が引ける思いがした。人間を操兵で追い回すなど、仮にも[騎士]の称号をもつ彼女にとって、恥ずべき卑怯な行為なのだ。
「こんなところを、クサナギ様に見られたら……」
 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。ここで彼女等を捕らえて帝国に突き出せば、それだけでも自分たちが優位な立場になりうる材料となる。またあるいは、彼女等が何のために侵入したのか、そして何を得たのかを知る事ができれば、今後の自分たちの身の振りようを決めるための情報を得ることもできるのだ。ここは感情を抑えて、任務に徹しなければならない。メリエンヌは一行に、拡声器を通じて投降を呼びかけた。
「そこのものたち。抵抗せず速やかに投降せよ。命の保証は、このリナラの騎士メリエンヌが必ず保証する……」
 メリエンヌは一行を捕らえて帝国に突き出したとしても、できれば処分は穏やかなものにしたいと思っていた。だが、あのサイラスの指揮する現状の暫定政権は半ば恐怖政治の如き政策を取っている。彼女たちは当然それを知っているだろうし、簡単には投降しないだろう。メリエンヌの危惧した通り、投降勧告を聞いた一行は当然素直に聞くつもりはなかった。
「じょ、冗談じゃねぇ……。ここで捕まったら、昼間みたいに公開処刑で、あの[光る巨人]に踏みつぶされちまう!!」
 フェイはいつの間にか取り出した拳銃でマリアローズを狙った。
「とにかく、ここは逃げの一手のみ!!」
 そう言ってフェイは引き金を引いた。[ネズミ花火]の本領発揮だった。が、もちろん彼女は無駄に撃ったわけではない。その縦断は狙いたがわずマリアローズの投光器に飛び込み、その光を消した。そして再び辺りが闇に帰ったところで一行は操兵から逃げ出した。
「ま、当然な判断ね……」
 メリエンヌはそう言いながら、赤外線視覚装置を作動させた。そして一行が発する熱を追って、マリアローズをゆっくりと、そして確実に一行のほうに向かわせた。
 一行がマリアローズから少しでも離れるためにひたすら走っていると、目の前の木の太い枝に、奇妙な人影が止まっているのが見えた。その両腕が翼になっている人影、どうやらエイルがいっていたヨクの若者のようだ。ジョウは予てからいわれている通りに、ランプを三回点滅させて合図を送った。それを見たヨクは一行の元に降りてきた。
「どうやら、味方のようだな。で、何かあったのか?」
 そのヨクは、どうやらリベ山の部族の者ではないようだ。まるで梟を思わせる目と顔つきが、それを物語っている。おそらく、本来夜の苦手なリベ山のヨクが、よその部族に応援を求めたのだろう。
 ジョウが手短に事情を話すと、彼は「助けを呼んでくる!」といってその場を飛び去った。助けを求めるといっても、いったいどこに向かったのだろうか……一行はあまり当てにせず、再び走り出した。
 一行の元を飛び立ったヨクは、猛禽類独特の望遠視力で、遠くに操兵数機を含んだ集団がこちらに向かって進んでくるのを見た。果たして味方だろうか。だが、彼に迷っている暇はない。ヨクはそのままその集団の元に飛んでいった……。