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いったい、どのくらいの時間がたったのだろうか、地形を巧みに利用しながら一行はひたすら逃げた。ここは起伏の多い山道で、しかも木々に覆われている林だ。いくら操兵でも、いや逆に操兵の巨体では、小さな人間を追いかけることは困難なはずだった。 が、マリアローズは確実に追いついていた。赤外線視覚のおかげで一行を見失わずに済んでいるのだ。しかもメリエンヌは、わざとゆっくり一行を追いかけていた。別にメリエンヌは一行をいたぶるつもりはない。むしろ一行を疲労させ、抵抗意欲をそいでから捕らえようというのだ。そうしたほうが、より安全、かつ確実に捕らえることができると考えたのだ。 やがて空が白み始めたころ、頃合と見たマリアローズは一行に追いついた。メリエンヌは再び投降を促した。が、たとえへばっていてもこのネズミ達が素直に言うことを聞くはずもない。仕方なく、メリエンヌはマリアローズの腕を一行に向けて伸ばした。 だが一行もここで捕まるわけにはいかない。フェイ、ジョウ、そしてアリスとマリアはそれぞれ三方向に散開した。苦し紛れの行動だが、それを見たメリエンヌは初めて焦りを覚えた。操兵はもともと小さな人間を攻撃したり捕まえたりすることには向いていない。さらに、それに加えてメリエンヌは以前クサナギから指摘されたように操手としての経験が浅い。あれから修練を積んだとはいえ、まだまだこのような細かい操作は苦手であった。 メリエンヌは操兵の巨体による心理効果をねらってわざと大袈裟に動いて見せたりもしたが、不幸なことにアリスやマリアはその経歴上操兵の利点と欠点を知っていたし、フェイとジョウは既に場慣れしており、劇的な効果を現さない。それがますます彼女を焦らせていった。 ジョウは、アリスとマリアを逃がすため、自ら囮となってマリアローズの前に飛び出し、メリエンヌの気を自分のほうに向けた。そんな中、メリエンヌはジョウ=ネズミ仮面と映像盤を通して目が合ってしまった。そのネズミの仮面に驚愕するメリエンヌ。だが、気を取り直してジョウのほうに自機を向かわせた。 その時、突如銃声が響いたと同時に、マリアローズの仮面すれすれのところに銃弾が命中した。フェイが牽制、そしてあわよくば起死回生をねらって、再び拳銃を撃ち放ったのだ。だが、これは火に油を注いだだけだった。ちょこまかと逃げ回る彼女等を前にいい加減怒りがつのっていたメリエンヌは、今の銃撃で完全に頭に来たのだ!。 「……そこの女!。覚悟はよいのだろうな……!!」 メリエンヌはそう言い放つと、マリアローズに長剣を鞘から抜かせ、フェイに向けて突き出した。この時メリエンヌは、理性の半分とともに、自分の本来の任務をすっかり忘れ去っていた。かつて、クサナギに破れてからは性格が若干丸くなったと思ったが、やはり人間、そう簡単に変われるものではない、というところか。 だが、そんな精神状態でまともに操縦など出来るものではない。フェイ目がけて剣を振るマリアローズだが、不安定な足場といら立つメリエンヌの操縦ミスで機体がぐらつき、そのまま倒れてしまったのだ!。その衝撃で吹き飛ぶフェイ。メリエンヌはすっかり泥だらけになってしまった自慢の機体を立ち上がらせると、再びフェイに対して怒りをぶつけた。 「……おのれ、重ね重ね無礼な女……このままで済むと思うな!!」 「何よっ勝手に自分で倒れたんじゃない!!」 フェイのいうことはもっともだ。が、そもそも人の話を聞かないメリエンヌが、こんな状態でまともにフェイの言葉など聞く耳をもたない。メリエンヌは再びマリアローズをフェイに向け、そしてその剣を頭上にかざした。おそらく今度は外すつもりはないだろう。 「そ、操兵より剣の方が得意なら、堂々と降りて来なさいよおぉぉ!!」 「問答無用!!」 絶体絶命のフェイ!。山頂に朝日が昇り、その光がマリアローズの剣に照り返す。その時、アリス、そしてメリエンヌにとって聞き覚えのある声が辺りに響いた!。 「そこの操兵、待て!。生身の人間を操兵で追い回すとは、やはり王朝結社の手の者のすることは非道だな!」 声のしたほうを見ると、朝日を背に受けて一機の大地と同じ色をした操兵がたたずんでいた。その古代の戦士を形どり、左肩部に二股の長槍を取りつけた盾を装備した操兵は、高らかに名乗りを上げた。 「わが名は、クサナギヒコ・ディス・グラーテ!。これなる操兵は、わが愛機ファルメス・グラーテの生まれ変わり、[操兵ファルメス・エルグラーテ]!!」 「……クサナギさん……!」 それを聞いたアリスは歓喜した。そして、それと反面してメリエンヌは驚愕した。が、彼女も内心では、クサナギが無事であることを喜んではいるようだ。 「クサナギ様、ご無事で……」 それに対し、クサナギはメリエンヌに厳しく言い放った。 「メリエンヌ!。そなたともあろうものが、なぜテロリストの仲間などになっているのだ!!」 それを聞いたメリエンヌは、悲痛の思いでそれに答えた。 「……私は、いにしえの盟約に従い……家のため、祖国のために、クメーラ帝国についた……クサナギ様……もう一度、お手合わせ願います……!」 クサナギは、その言葉に対して、こう返した。 「奴等は唯のテロリストに過ぎない。そんな盟約とやらに縛られる必要などない!。それに今更私を倒したところで、この流れを止めることは出来はしない!!」 だが、メリエンヌの闘志は収まらない。メリエンヌは操縦桿を握り直すと、メリアローズをエルグラーテに向けて走らせた。(あれから、修行を積んだ。かつての私とは違う)自分にそう言い聞かせて、メリエンヌはマリアローズの右腕の長剣を突き出す。そして、クサナギのエルグラーテに向けて必殺の突きを放った!。 確かに、今のメリエンヌは、かつてクサナギに破れた時と違い、十分にその腕を上げた。が、クサナギ、そしてグラーテの仮面もまた、様々な戦いを経て、かつてないほど成長していた。もはやメリエンヌに敵う相手ではなかったのだ。 クサナギはエルグラーテに大太刀を構えさせると、向かってくるマリアローズの剣を受け止めさせる。そして、返す太刀でそのままマリアローズの剣をその手からたたき落とした!。あまりの圧倒的な実力の差を見せられたメリエンヌは機体を下がらせた。−もはや、操兵戦においては、クサナギ様には叶わない−そう感じたメリエンヌはマリアローズに剣を拾わせると、エルグラーテに向かって深く会釈し、そして振り返ってそのままこの場を去った……。 その背中に向かって、クサナギは追い打ちをかけるように叫んだ。 「どの道、奴等はもう終わりだ。古い盟約など捨て、奴等の元から身を引いてくれ。さもないと、この次は本当にそなたを倒さなければならない……!」 メリエンヌは、瞳に涙を浮かべて今の言葉を噛み締めていた。 クサナギ、メリエンヌにとって辛い、そしてフェイとジョウ、アリスにとっては苦しい戦いは、ようやく終わった。とりあえずの再会を喜ぶクサナギとアリス、そしてマリア。クサナギはジョウのネズミの仮面を見て絶句した。 「そ……そなたのその仮面、いったい、何のためのものなのだ?」 それはともかく、合流を果たした一行は、後続のミオ達が追いつくまでここにとどまった。ふくろうのヨクの若者から一行の危機を知らされたクサナギは、エルグラーテを全力で走らせ、ぎりぎりのところでようやく間に合ったのだ。夕べ初めての実戦を経験したばかりのエルグラーテにとって、それは少々負担だった。そのため、機体を少し休ませる必要があったのだ。 そんな中、フェイとジョウは自分達の今後の動向を思案した。フェイは、とりあえずこの[ゲンの悪い]ライバの街を一刻も早く離れたかった。後のことはノウラに着いてから考えよう、と思ったのだ。ジョウは、少し迷った末に、結局ノウラの街についていくことにした。マリアが無事にノウラに着くことを見届けることもあったが、何よりどの道、今ライバの街に戻るのはかなり危険だと判断したからだ。 やがて、後続隊が到着すると同時に、フェイとジョウ、アリスとマリア、そしてクサナギとエルグラーテは、すっかり昇った朝日に照らされながらノウラの街に向かって出発した。 そのころ、ライバの盗賊組合の隠れ家では、ナバールが姫の手紙を読んで、その内容に絶句していた。決して、出来ない相談ではない。が、出来れば反対したかった。だが、姫はおそらく、決意を変えないだろう。ナバールは仕方なく、部下に命じて指定された武器を用意させた。 そして、ナバールはもう一つの問題を思い出した。この厳しい警戒態勢が敷かれたライバの街で、いったいどうやって、デュークに妹の無事を知らせたら良いものか?。 程なくナバールは、ある方法を思いついた。 「奴自身が駄目でも、奴の操兵に伝言すればいいじゃねぇか!」 要するに、デュークの操兵ヴァルパス・ヒラニプラの整備場にもぐり込み、その機体の操手槽に手紙を忍ばせるのだ。ナバールは早速実行に移すべく、準備を始めた。 ついに、すべての駒がそろい、決戦のときが近づいていた……。 |