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ライバの街。イーリスはレオンナールが後宮に戻ったのを見計らってリナールに会いに行った。デュークに面会する許可を得るためだ。イーリスも知らなかったが、彼は今、人質として後宮に閉じ込めていた妹マリアが連れ去られてしまったことを知られないようにするために自室に軟禁状態になっていたのだ。 リナールは近く来るであろう最終決戦に備えてライバ防衛の構想を立てていた。彼の構想では、ライバの城壁を要塞化して、正面からノウラ軍を迎え撃とうというものだ。 「ライバ王はこの街の防衛構想にもかかわっている。本来であれば王の庭同然であるこの地を捨て、別な場所で陣を構えて迎え撃ちたいところだが、今の現状ではそれも、かなわん……」 確かに、王朝結社がライバを乗っ取ったまではよかったのだが、住民からの不評、ノウラ攻略の失敗、そしてクサナギ脱走といった不祥事が続き、挙句の果てにはファルメス・エンペラーゼをいまだ披露していない、という最悪の状態なのだ。おかげで当初、恭順を約束していた国々も何の支援もよこさず、ただ静観するにとどまった。盟約に基づき、隣接するリナラのみは部隊を派遣したが、この状態ではいつ寝返るかわかったものではない。もし、この状態でライバを離れれば、場合によってはせっかく手に入れたこの拠点を失う事態になりかねないのだ。 軍師でありながら国家という体裁に捕らわれたリナールは、拠点を持ったことによって逆に自分たちが縛られて弱体化していることに気づくことはなかった。もともと地下組織だった王朝結社は、拠点がないがゆえに神出鬼没の機動力と柔軟性を持ち、部下たちもまた、そのような戦術に慣れ親しんでいたのだ。 ところが、一ヵ所に留まることによってこのせっかくの機動力が失われ、また、防戦には全く慣れていない部下たちの戸惑いも隠せない。それでも、彼らがこのライバの街に執着するのは、自分たちの悲願である[クメーラ帝国樹立]のためには、どうしても拠点となるべき都市が必要だったからだ。 それに、この作戦自体は決して間違ってはいなかった。部隊を城壁すれすれに配置しておくことでライバ王が得意とする砲やロケット弾を利用した戦術を封じることができるのだ。ライバ王はすぐれた戦術家ではあるが、情に流されやすく、自分の町や市民を巻き添えにした戦術を取ることはできない、と踏んだのだ。そしてさらに、城壁を火器で武装することで逆に自分たちの部隊が遠距離攻撃の支援を受けられるのだ。 イーリスは、城の倉庫から捜し出してきたと思われる街の建設当時の地図とにらめっこしているリナールにデュークとの面会の許可を求めた。リナールはこの申し出に難色を示した。彼はいまいち信用の置けないところのあるこの女剣士をデュークに会わせるのはよくない、と判断したのだ。だが、ここで却下しても無理やり忍び込むかも知れない。リナールは時間制限付きで面会の許可をした。 その時、衛士がリナールの元に駆け寄り、操兵格納庫で一人のレジスタンスを捕らえたと報告した。それは、デュークにマリア救出を知らせるために彼の操兵であるヴァルパス・ヒラニプラにその旨を記した書き置きを置こうとしてしくじったナバールだった。リナールは早速、その間抜けな男を訊問するために地下牢に向かった。 訊問に興味を示さなかったイーリスは早速、デュークの自室へと赴いた。部屋の入口には二人の衛士が見張っており、リナールから話が伝わっているのか、一人はその手に懐中時計を持っていた。イーリスは軽くあいさつをすると扉を開けて薄暗い部屋の中へと入っていった。 「……何の用だ……」 ターバンをはずし、寝台に大の字になっていたデュークは不機嫌そうにイーリスを迎えた。明らかに歓迎していないようだ。二人は限られた時間の中で会話した。含みを持たせた態度のイーリスにデュークは信用が置けなかった。が、イーリスはそれでも食い下がった。すると、彼女の誠意が伝わったのか、それとも単に根負けしたのか、デュークは一枚の紙をイーリスに手渡した。おそらく、外の衛士に気づかれないようにするためだろう……。 やがて、衛士が時間を告げてイーリスを退出させた。イーリスは部屋から離れると、デュークからもらった紙に書かれた内容を読んだ。そこには、大切な人が人質になっている、と書かれていた。 その翌日。ライバの住民が再び闘技場に集められた。以前クサナギの操兵ファルメス・グラーテと戦い、大破した新生クメーラ帝国の象徴、王家の操兵ファルメス・エンペラーゼの修理がようやく完了し、とうとうライバ住民の前に披露されることになったのだ。 日が空高く上ったころ、操兵用通用門から一機の操兵が現れた。破壊された装甲はすっかり打ち直され、その黄金の輝きを取り戻した機体は当技場の真ん中で悠然とたたずんでいた。レオンナールはエンペラーゼに腰の剣を鞘から抜かせ、天に向かって掲げた。その輝きはまさに周りを圧倒せんばかりだ。が、イーリスは知っていた。その聖剣が偽物であることを……。 エンペラーゼの前にもう一機の操兵が現れた。市民たちはその機体を見て驚愕した。それは、クサナギの操兵ファルメス・グラーテと瓜二つの姿をしていたのだ。この操兵は、本来クサナギ処刑の際にサイラス、またはエンペラーゼと戦わせるために摂取したギルダームにグラーテと同じ外装を取りつけた、言わばグラーテ・イミテイトと呼ぶべき機体だった。 エンペラーゼはグラーテ・イミテイトに向き直った。闘技場の真ん中で二機の操兵がそれぞれ剣を構える。グラーテ・イミテイトにはデュークが乗っていた。この戦いはあくまで余興であるとはいえ、やはり危険なものとなるのは間違いない。そこでやはり、操縦技術が高く、そして生存能力の高いデュークの出番となったのだ。 グラーテ・イミテイトがエンペラーゼに剣を向けて走り寄った。振られたその剣を受け流すエンペラーゼ。最初のうち、戦いはグラーテ・イミテイトががむしゃらに攻撃、それをエンペラーゼが軽くあしらうといった感じで、いかにもクサナギの悪あがき、といった感じで演出されていた。 ところが、ここで異変が起きた。エンペラーゼとグラーテ・イミテイトの剣と機体がぶつかり合い、鍔迫り合いが起こった直後、突如レオンナールの操縦が変わった。まるで何かに取り憑かれたように今度はエンペラーゼがグラーテ・イミテイトをがむしゃらに攻撃した。それはまさに子供の喧嘩で、とても王家の操兵とは思えない、威厳など感じさせない光景で、むしろ破壊されていくグラーテ・イミテイトに同情したくなるような様子だった。 レオンナールはグラーテ・イミテイトを完全に破壊すると、とりあえず操手槽を開け、市民にその姿を現した。あまりの光景に闘技場は静まり返っていたが、王朝結社構成員が拍手を始めると、市民たちもそれに倣って拍手をした。それは、レオンナールの戦いを讃える、というより彼の怒りが自分たちに向かないようにするためといった感じだった。レオンナールは拍手に答えて手を振ると、そのままエンペラーゼを通用門に向かわせた。 先の乱心が気になったイーリスは、闘技場の控室に向かった。案の定その部屋では、レオンナールが家臣たちに怒りをぶつけていた。イーリスが彼に怒りの理由を尋ねると、レオンナールはすべてデュークのせいだ、と言い放った。 「……あいつは、僕の操縦技術では、どんな操兵に乗ってもクサナギには勝てない、と言ったんだ……!!」 レオンナールはそれだけ言って控室を後にした。 その後、城では皇帝陛下の怒りをさらに激しくするような出来事が待っていた。聖剣奪還部隊の生き残りがようやく帰還し、真っ青な顔のリナールの横で作戦の失敗と部隊の全滅を報告したのだ。 レオンナールの堪忍袋の緒が完全に切れた。 「……もう、誰も当てにせん……!これからは、この僕自らがすべての指揮を取る!!」 レオンナールは指揮権を行使してライバの武装化に取りかかった。使用可能な火器を正面の門に集中させ、そして部隊の編成に取りかかった。城壁の外に展開する部隊はなるだけ王朝結社の構成員と傭兵部隊で編成することにした。やはり元ライバ兵では、ライバ王との戦闘に対しての指揮に問題が生じると判断したからだ。リナラのメリエンヌの義勇軍には城壁の警護を担当させた。 リナールは部隊の中にデュークを組み入れることを提案した。確かに、彼のヒラニプラは高い戦闘能力を持ち、一騎当千の働きをしてくれるだろう。だが、先のこともあってかレオンナールは全く聞き入れなかった。結局、デュークは城門の裏で待機する、支援部隊に配属する、ということで決着がついた。 その後、レオンナールの指示通りに街の武器庫から大量の武器が運び出された。といっても、大部分の武器はクーデター発生の際に近衛隊とその他王に付従う部隊が持ち出してしまっていたのだが。そんな中イーリスは、奇妙な操兵が城門に向かっていくのを目撃した。そのずんぐりとした機体の背中には、二門の大砲が取りつけられていたのだ。操兵格納庫の奥に置き去りになっていたのをリナールが見つけ出したらしい。もともと砲術を得意としているライバ王が購入したのならかなり使えるものに違いないと判断して使用することにしたという。ただ、機体の年式がかなり古いのが気がかりだったが……。 |