
|
一方、ノウラの街でも最終決戦の準備は着々と進められていた。そんな中、ゼロ、阿修羅と一緒になって銃などの装備をゼノアから調達したミオは、精力的に操兵整備に力を入れていた。まるで、することがなくなることを恐れるように……。 そんなミオのところにアリスが訪ねてきた。アリスはミオに自分の操兵[ユニホーン・カムナの改修を依頼した。 「……みんなの足手まといになりたくないんです……」 と語るアリスに対し、作業中のミオは振り向きもしない。怖じ気つつも自分の決意を伝えたいと、アリスはミオの背にこう呟いた。 「……あたし、戦いなんてしたくない。でも、今は戦わなければいけない時、何ですよね……」 (誰も強制なんぞしてないっての……)疲労のあまり皮肉を返そうと振り返ったミオは、相手の真摯さに虚を衝かれた。そういえば、マリア救出作戦時にジュウコー親方も助けようとしてくれたというし……。ミオは照れ臭さを押し隠してそっけなくカムナ改修を承諾した。 このころ、決戦間近なこのノウラに、新たな援軍が到着した。以前リガーブに襲撃され、それをクサナギ、ゼロ、セフィロス、阿修羅によって助けられた樹界のほとりの[ウィンの谷]の人々だった。谷の守護操兵[レフタル]を先頭に、族長である[風使い]ヤラ姫と城爺リト、そして谷の若者達がクサナギ達に恩を返すべく、立ち上がったのだ。 彼らはもう一つ、とんでもない土産をもってきてきた。リガーブが工房都市の輸送部隊から強奪し、ウィンの谷襲撃の際に使用した巨大操兵[ギガスメイア]だ。以前の戦いにおいてクサナギとグラーテ改によって倒されたものを谷で修理したのだ。ところが、唯でさえ機動力に欠ける操兵なのに、部品不足がたたり、ますます機動力が低下してしまっていたのだ。 ゼノアはギガスメイアを予備部品として使うことを提案した。操兵としてはもはや使い物にならなかったのだが、この機体には重操兵ブルガインと共通の部品も使われていたからだ。姫ももともとそのつもりで持参してので、それを了承した。 地下工房に運び込まれたギガスメイアを見たミオはそのあまりの大きさに言葉を失った。この機体の大きさは王朝結社の超弩級操兵[メーアドレッド]と比べれば小さいものの、それでも通常の操兵よりもまだ、頭一つ分大きいのだ。この機体が予備部品だと聞いたミオは早速ギガスメイアの分解に取りかかった。ザクネーンが持ち帰ったリグ・アーイン共々カムナ改修の部品取りに使用するつもりのようだ。 その後、一行はノウラ城の会議室に集められた。王朝結社との最終決戦に備えての作戦会議のためだ。この席には一行のほかに、ザクネーン、ゼノア、ヤラ姫、そしてルシャーナとムワトロと何故かニーツまで呼ばれていた。 ライバ王は予想される現状を踏まえて立てた自分の作戦をこの場の全員に伝えた。ヨク達とヤラ姫の空中からの偵察によるとクメーラ軍は主力のほとんどを城門に集中させており、完全に籠城するつもりのようだ。このままでは長期戦になるのは必須であった。 もしそうなってしまえば、自軍にとってもライバ市民にとっても大変な負担になるのは間違いない。そして、さらに長引くようであれば、王朝結社に味方する国が現れ、ますます不利になることも目に見えている。そこでライバ王の作戦は、部隊をライバ城正面に展開させて敵の主力をこちらに注目させ、その隙に少数精鋭部隊が盗賊組合の秘密通路からライバ場内に潜入、直接敵指令部、あわよくばサイラスや皇帝レオンナールの身柄を押さえる、というものだった。おそらく、敵もある程度は予想してくるだろうが、秘密通路が発見されていない今ならおそらく、通用するであろう。 ライバ王は潜入部隊の編成に入った。そして、この作戦に当たって、もし、可能ならばサイラスは生かしたまま捕らえてくれ、と付け加えた。 「もし奴が死んでしまったら、このすべての事件の罪は皇帝一人で全部背負うことになってしまう……。あの若者に、それはかなりの重みだろう」 潜入部隊にはゼロとセフィロス、そして阿修羅が組み入れられた。この現状で考えられる精鋭を投入する必要があるからだ。クサナギとアリスは主力部隊に加わることになった。特にクサナギの操兵ファルメス・エルグラーテは、既にノウラ軍の象徴となっており、もしそれが主力に参加していなければ敵が必要以上に警戒してしまうからであった。 ここで一悶着が起こった。ミオがライバ王に、自分も潜入部隊に参加したいと言い出したのだ。 「そなたはすでに十分な働きを見せてくれた。その上、ここ連日は操兵整備を完遂させるために徹夜続きではないか。後は仲間に任せても誰も文句は言わぬぞ?」 ライバ王は苦笑混じりにミオを見つめた。誰が信じるだろうか、この寝不足で三白眼の女鍛冶師が、今現在の「彼我の戦力差がほとんど無い状態」創りに一役買っていたと……。 クサナギ救出直後、ミオはカストゥール牢獄の囚人のうちライバ王に助勢する者全てに恩赦を出した。そして闘えるものはノウラへ連れて戻り、戦いが不得手の者はリナラとマザへ避難させたのだ……見聞きした「事実」を広めてくれるよう言い含めて。近隣で力がありながら今現在中立を保つ二国を噂の形で牽制し、結果として当初の予想より敵への賛同国を抑制してのけたのだ。 しかしミオに武の才が足りないことも(本人も知る)事実だった。支援部隊への遺留を勧める王に、しかしミオは必死に食い下がった。王家の操兵修理のために捕らわれている自分の親方ジュウコーのことが気がかりだったからだ。ライバ王は少し迷ったが、ミオの必死の思いを察してか、仕方なく承諾した。 決戦の準備は、ライバの街でも着々と進められていた。そんな中イーリスは、おそらく、これが最後の機会だろうからと、城下町へと赴いた。市民達もいよいよ決戦が始まるということを肌で感じ取っていた。イーリスは竜の牙亭の入口をくぐった。中は珍しく客が入っており、まもなく起こるであろう、最終決戦の噂で持ちきりだった。もちろん、声は低めているものの、皆ライバ王の勝利を願っていた。 イーリスはそんな客達に、決戦の際には自重するように促した。生活を営むのがあなた方市民の本分、というのが彼女の主張だった。が、かえってそれが彼らの闘志に火をつけた。要するに、力がなければ正義は語れない、すなわち、力が正義、なのかと。そう、悪名を広めすぎたイーリスの主張は、今の市民達にとっては[支配者の言葉]でしかなかったのだ。 その時、早馬が町中を駆け回り、志願兵の募集をかけていた。どうやら、王朝結社はライバ市民をも戦場に駆り出すつもりのようだった。 そして決戦数日前。ライバ城では皇帝レオンナール自ら、部隊の最終編成を発表していた。 「リナール。そちは余の元で相談役として仕えよ。メリエンヌ殿の部隊は我が軍の後方、万が一の自体に備えて城門の警備。そして、イーリス……」 レオンナールはイーリスのほうに向き直った。 「……そちが志願しなかったのは残念だ……。まあ、そちにはそちなりの考えがあってのことだろう。余の留守中、城を頼むぞ……」 イーリスは複雑な思いだった。 「……そしてサイラスだが……」 レオンナールは今度は、ようやく謹慎の解かれたサイラスに向いた。跪いたまま軽く会釈するサイラスは、期待に胸を躍らせていた。−これでようやく、面目を取り戻すことができる−だが、レオンナールの続けた言葉は彼の立ち直りかけたプライドを粉々に砕くのに十分過ぎた。 「そちはここに残れ。そして、余の戦を城のテラス辺りで見学でもしておれ……!」 レオンナールとしても、これ以上サイラスに頼ってばかりはいたくはないのだろう。これを機会に、自分一人でも十分できることを周りの部下達にアピールしようというのだ。 サイラスはショックを隠し切れず、その場でうなだれた。それを見たリナールは(ざまみろ)と心の中で呟き、そしてほくそ笑んだ。 そんな部下達を尻目にレオンナールは、城のテラスに立ち、整列している部隊に対して檄を飛ばした。 「この戦いは、我が新生クメーラ帝国が最初に迎える試練である。これに打ち勝つことにより、この国は、本当の誕生を迎えることができる。そう、諸君等の死をも恐れぬ奮闘が、我が帝国を守り、更なる繁栄を築き上げることができるのだ……!!」 兵達は歓声を上げて応えた。それを見届けたレオンナールは飾り立てられた自分の操兵、ファルメス・エンペラーゼに乗り込んだ。そして、自ら部隊行進の先頭に立って、戦線であるライバ城門に向けて進軍を開始した。だが、それを見送る市民からの歓声はなかった。 一方、ノウラの街でもライバ国王レイ・ライバの出陣前の演説が行われていた。 「この戦いは、私やライバのための戦いではない。諸君等の家族や財産、そして何より、諸君等自身のための戦いである……!!。私は約束しよう。この戦いの勝利の暁に、諸君等と我らのために苦労をかけた、ノウラの市民たちを我がライバ城に招待することを……。そして、勝者敗者問わず、ともに祝いの美酒を酌み交わそうぞ!!」 その言葉に、兵達は手にした水杯を高らかにあげ、勝利を願うように飲み干した。その騒ぎの中でゼロは他の兵達とともに本当に酒を酌み交わしていたりもした。 その後、ノウラの街からライバ王率いる軍勢がライバに向けて進軍を開始した。街からは市民達の声援が響き渡る。まさにライバのクメーラ軍とは、対照的な光景だった。 |