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三日後、ライバ城門前に二つの軍勢が対峙した。互いに砲の届かない距離に陣を構え、牽制のための砲撃が響き渡るものの、両者は特に目に見える被害はなかった。 こうなることは既に予想済みであった。ライバ王はクサナギ、アリスを除く一行を含む別動隊を早速、ライバに向けて出発させた。かねてからの作戦通り、盗賊組合の抜け道を使用してライバの街に潜入しようというのだ。案内役は、[ネズミ仮面]ジョウ・ヤングが買って出た。 別動隊が出発したのを見届けたライバ王は、望遠鏡で敵陣を視察して驚いた。クサナギが訳を尋ねると、王はあきれた表情で答えた。 「望遠鏡を覗いてみよ。大砲を背負った操兵が見えるだろう」 クサナギが言われた通りにしてみると、そこには確かに二門の大砲を背負った操兵が数機ばかり配置についていた。 「……あの機体はいったいなんです?」 「あれは、我が父君、つまり先代の王が購入した、砲術用操兵[グンダーニ]だ。砲術が本格的に普及し始めたころに製造、販売されたのを購入したのだが」 「それで、あれは使えるのですか?」 クサナギの問いに王は苦笑した。 「いや、それが全然……。操兵の性能も凡百以下、しかも砲撃の際にはいちいち機体を固定して専用の櫓を組まねばならん代物だ。しかも、変に高い位置に砲があるから再装填に時間がかかりすぎて全くもって使い物にならないから、私は購入に反対したんだが……。全く、連中もつまらないものを見つけたものだ」 そのころ、ライバの地下ではジョウの案内でゼロとセフィロス、阿修羅とミオが別動隊とともに城に通じる地下通路を進んでいた。特に妨害もなく進む一行。その中でミオは、自分は別行動させてほしいと言い出した。王朝結社に王家の操兵修理のために捕らわれている親方ジュウコーとイランド博士のことが心配なのだ。ゼロとセフィロスはそれを了承した。 城門前の戦線は両軍とも動きを見せず停滞していた。確かに、王朝結社の作戦通りライバの街を盾にすることで、ライバ王の軍の攻撃を封じることはできた。が、ライバ王は互いに砲の届かない距離に陣を構え、そこから動かないことでやはり、王朝結社の動きを封じ込めたのだ。もし、この状態で城から離れたら、今度は逆に自分たちがライバ王の軍に集中攻撃を受けてしまう。だが、このまま持久戦を続ける訳にも行かなかった。王朝結社にとっては、長期戦になることで、市民たちの反乱や物資の枯渇などの問題が生じてくる。また、ライバ王にとっても、この状態で王朝結社に味方する国の攻撃を受けたらひとたまりもないのだ。 その時、クサナギがライバ王にこんな進言をした。 「ライバ王……私が一人で敵陣に向かいます。そして、レオンナールのファルメス・エンペラーゼに決闘を挑みます!」 「なるほど……一騎打ちか……!!」 火器による砲撃と歩兵による占領戦が主流となったこの時代、操兵による一騎打ちはあまり意味のないものとなっていた。が、この戦いに関しては例外だった。連中にとって王家の操兵は伝説的な存在。そして王朝結社はこの操兵を頼りに組織を維持している。逆をいえば、この操兵しか連中の正当性を証明するものがないのだ。 一方クサナギの操兵ファルメス・エルグラーテは、その王朝結社に滅ぼされたクサナギの故郷、グラーテの谷の守護操兵。言わばこの機体も[王家の操兵]だ。そして今は、その王朝結社に対抗するものたちにとっての象徴でもあるのだ。 さらにクサナギは、レオンナールに決闘を受けさせる材料を持参していた。エルグラーテに大太刀とは別に取りつけられた一振りの剣。それは、前にクサナギがグラーテ改でエンペラーゼと戦った際に奪取した、王家の剣[聖剣ファーラス]だった……。相手がこの決闘を受ける勝算は十分にあった。そしておそらくこれが、この都市国家郡の戦争における大将同士の最後の一騎打ちとなるであろう。 クサナギはエルグラーテに乗り込んだ。そして静かに、それでいて力強く操手槽の扉を閉めた。 「頼んだぞ、エルグラーテ……」 クサナギはエルグラーテを起動させた。心肺器が力強く鞴を動かし、十分に酸素と血液が行き渡った筋肉筒が駆動音を立てる。そして機体に巡る冷却水が必要以上の熱を取り、機体の制御を安定させた。 だが、クサナギは感じ取っていた。グラーテの仮面が放つ熱い思いを。この操兵も、決着のときをずっと待っていたのだ。期待と不安に駆られながら……。 「……行くぞ、エルグラーテ……!!」 クサナギが駆動版を踏み込むと、操兵ファルメス・エルグラーテがゆっくりと、そして力強く敵陣に向けて歩き出した。それと同時に、ライバ王は砲兵に砲撃命令を下した。 急な砲撃を見たリナールはすかさず反撃を命令した。(また、つまらぬ挑発だろう)そう考えたリナールは、軍を前進させずに届く範囲の敵陣に向けて攻撃させたのだ。だが、ライバ王の砲撃の目的は敵陣攻撃ではなかった。 リナールがそのことに気づいたときには既に手遅れだった。やがて爆発と土煙が晴れると、そこには、いつの間にここまで来たのだろうか、クサナギのファルメス・エルグラーテが姿を現したのだ!。リナールは慌てて攻撃しようとしたが、既にエルグラーテは大砲の最低射撃距離の内側に入り込んでいたのだ。そう、ライバ王は最初から、エルグラーテを敵陣から隠すために砲撃による煙幕を張っていたのだ。 エルグラーテは敵陣の直前で停止した。そしてクサナギは陣の中央にいるであろう、レオンナールに向かって高らかに名乗りを上げた。 「……我が名はクサナギヒコ・ディス・グラーテ!。そなた等王朝結社に滅ぼされし、グラーテの谷の王子なり!。そしてこれなる操兵は、そなた等の卑劣な手により破壊された、谷の守護操兵ファルメス・グラーテの生まれ変わり、[操兵ファルメス・エルグラーテ]!!」 クサナギはエルグラーテの左腕の盾に装備された二股の白い槍を敵陣に向けた。 「そなた等の象徴、[王家の操兵ファルメス・エンペラーゼ]に一騎打ちを申し込む……!」 その声を聞いたレオンナールはエンペラーゼに乗り込んだ。それを見たリナールは慌てて皇帝を止めた。 「いけません、陛下!。今ここで出られては、かえって他の兵に示しがつきません。ここはどうか、私めにおまかせを……」 リナールとしてはここで一騎打ちをすることに何の得も感じなかった。確かにこれに勝てば味方の士気も上がるだろう。だが、もし負けるようなことがあれば、こちらは士気が低下するどころか、組織の崩壊も免れない。しかし、だからといってこの決闘を下手に断ってしまえばやはり士気が下がるのは否めない。何せ相手は敵軍の象徴。唯の雑兵とは訳が違うのだ。 そこでリナールは相手を弁舌で落としめる作戦に出た。クサナギとグラーテは以前自分の策に一度破れている。そのことをつけば……。 「クサナギヒコ、そちと皇帝陛下との戦いは既に決着がついておる……それを今更再戦しようなど、見苦しい!。王家のものとして恥ずかしいとは、思わぬのか!!」 それと同時に、王朝結社の陣から笑い声が響いた。が 「……黙れ家人!そなたのような三下に用はない!!」 クサナギの大音声に押され、笑い声が消えた。クサナギはさらに言葉を続けた。 「あのときの戦いは本来、私の勝利に終わっていたのだ!。それを、そなた等の卑劣な手段で妨害されたのだ。今、その証拠を見せよう!!」 クサナギはエルグラーテに腰の剣を引き抜かせた。それを見たリナール、兵士達、そしてレオンナールは驚きを隠せなかった。そう、その剣こそ、激しい砲撃の中グラーテ改が必死の思いで持ち帰った、ファルメス・エンペラーゼの[聖剣ファーラス]だったのだ。 だが、リナールはひるまなかった。 「……そ、そんな偽物が証拠になるものか……!。本物の聖剣は皇帝陛下がお持ちになっておられる……見ろ!!」 その言葉と同時に、ファルメス・エンペラーゼはその右手に剣を掲げさせた。それはエルグラーテの手にしている剣と瓜二つだった……。 その時、エルグラーテの額の[フィールミウムの石]が青い光を放った。それを見た何人かの操兵乗りから呟きが漏れた。 「ほ、本物の……[ファルメス]……」 操兵乗りの間では伝説となっている、ファルメスの証がそこにあったのだ。その輝きはやがて、エルグラーテの持つ聖剣を青く輝かせた。そう、聖剣の持つ本当の力を引き出したのだ。 異変はそれだけでは留まらなかった。本物の剣が輝き出したと同時に、エンペラーゼの持つ偽の聖剣が振動を起こし、やがて粉々に砕け散ってしまったのだ!。周囲の同様は大きくなった。何せ[王家の操兵]の伝説が、目の前で崩れていくのだから。 クサナギは駄目押しとばかりにもう一つの証拠を投げた。それを見た兵達はさらに驚いた。それは、グラーテ改が聖剣とともに持ち帰った、エンペラーゼの切り落とされた右腕だったのだ!。 「……聖剣と右腕……王家の操兵が勝利したのなら、なぜこれらの品々がわが手にあるのだ!。これこそまさに、私が王家の操兵に勝利したことの証だ!!」 こうなっては、誤魔化す手立ては無く、もはや、兵はだれも王家の操兵の[伝説]を信じることはなかった。信用を回復するためには、この一騎打ちを受けて何としてでもクサナギとエルグラーテを倒さなければならなかった。しかも、もう絡め手は使えない……。 だがそれは、レオンナールにとっても望むところだった。やはり彼としても、実力でクサナギを倒したかったのだ。そうでなければ、自分はいつまでも飾りの皇帝でしかないから……。ここは何としてでも、自分の力で勝利する必要があったのだ。 クサナギは聖剣を地面につき刺した。 「……そなたの剣はここにある。返してほしくば我がもとに来い!。そしてこの剣で、私と戦うのだ!!」 その光景を城のテラスからサイラスとイーリスが見ていた。サイラスは地面につき刺さった、いまだに蒼く輝き続ける聖剣を見てほくそ笑んだ。 「……見ろ、聖剣が本来の力を取り戻している……。これなら、勝てる!。それに、エンペラーゼの外套はセラミック甲版が仕込んである。防御も万全だ……!」 だが、サイラスの期待はレオンナール自身によってあっけなく崩されてしまった。何とエンペラーゼは、その飾り立てられた外套を自ら捨て去ったのだ。しかも、レオンナールはエンペラーゼに、聖剣ではなく別の剣を鞘から引き抜かせたのだ!。 「……僕は一度取られた剣で戦うつもりはない。その聖剣は、この戦いに勝ったものが手にする……いいな!!」 そう言って、エンペラーゼは剣を構えた。 「新生クメーラ帝国皇帝レオンナール・クメーラ・ロクセーア14世……!」 クサナギもエルグラーテに大太刀と盾を構えさせる。 「クサナギヒコ・ディス・グラーテ……!。私はそなたを倒す。クメーラ帝国……いや、王朝結社に歯向かう人間の一人として!!」 |