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それと同時に、今まで沈黙を守っていた両軍が動き出した。だが、戦局は既に決していた。エルグラーテの勝利によって志気を上げたライバ王の軍が前進を開始、一方王家の操兵を失った王朝結社は完全に戦意を失っていた。 その光景を城壁の側で見ていたメリエンヌは一人呟いた……。 「そうか……あの時クサナギ様がおっしゃっていたことは、このことだったのか……」 メリエンヌは自機マリアローズの操手槽の扉を閉めると、自軍に退却の指示を出した。リナラは古い盟約に基づいて軍を派遣している。が、王家の操兵が倒され、後ろ楯を失った王朝結社にこれ以上味方するのは国のためにはならないからだ。が、メリエンヌとしてはそれだけではなかったのだが。 「……そなた等はここからすぐに引き上げろ。そう、わが部隊は最初からここにはいなかったのだ……」 「?……隊長は、いかがなさるおつもりですか?」 部下の問いにメリエンヌは晴れ晴れとした笑みを浮かべた。 「私はここに残る。国の騎士としてでなく、私個人として……!!」 そういってメリエンヌは、乱戦状態になった戦場へとマリアローズを向かわせた。 「……クサナギ様……いまこそ、お味方いたします……!!」 そのころ、ミオの改修を受けてすっかり生まれ変わったカムナで出撃しようとするアリスのもとにマリアがやってきた。 「アリスさん。私を一緒に連れていってくれませんか……」 アリスは当惑した。 「だめよ……戦場は危険なのよ……!」 だがマリアは食い下がった。 「……兄が……兄のデュークに私が無事であることを見せないと、また連中の命令で戦わされてしまいます……!。私が姿を見せれば、きっと兄は味方になってくれますから……」 アリスは迷った末に、マリアの申し出を承諾した。 エンペラーゼを倒したクサナギは、奇襲攻撃のために城に潜入したゼロ達のことが気になった。クサナギはエルグラーテを乱戦の真っ只中である城門に向けて走らせた。それを見た何機かの敵操兵がやけくそ気味に向かってくる。だがクサナギは慌てずにロケットモーターを始動させ、エルグラーテを空中に飛翔させた。轟音と閃光を残して空中に舞い上がるエルグラーテに敵操兵は驚愕した。やがて、エルグラーテは城門を越えて街の大通りに着地した。クサナギは、城に向かってエルグラーテを走らせた。 アリスがマリアを連れて城門にたどり着くと、そこではマリアの予想した通りの展開が起こっていた。門が開くと同時に、デュークの操兵ヴァルパス・ヒラニプラが姿を現したのだ。ヒラニプラはその手の槍を振り回して、周りの操兵を威嚇していた。が、その姿勢は消極的で、まるで戦いたくない、と言いたげだった。その攻撃が誰一人として当たらないのだ。 「ええい、戦えデューク!!。妹の命が大切ならば……!!」 開いた城門の側でリナールが叫んでいた。その傍らには、マリアと背格好のよく似た少女が人質となっていた。 アリスは操手槽を開けたままヒラニプラに近づいた。それを見たデュークは動きを止めた。その中に、アリスとマリアの姿を見たのだ。 「……兄さん!。私は無事よ……もう、こんな奴等のために戦うことなんて、ないの……!!」 その言葉で周りの兵士達も理解した。デュークが、人質を取られてやむなく戦っていたことを。ヒラニプラは、踵を返して城門の中に戻っていった。そして……。 「……俺はこれより、義によってこの街の市民と解放軍のために戦う!!」 その言葉と同時にデュークはヒラニプラを城門の裏で待機していた予備の部隊に向けて走らせた。そして、今まで王朝結社のために振るっていた力をそのまま今度は、王朝結社にぶつけた。 「……おのれ小娘、このままでは済まさんぞ……!」 その様子を目の当たりにしたリナールは、人質にしていた身代わりの少女をつき飛ばすと、その場を逃げ出した。 そのころ、城の方では後宮の反乱と呼応するかのように、先行侵入したゼロがゼノアから調達した手投げ弾を片っ端からばらまき、混乱をさらに拡大させていった。 その騒ぎは、テラスで戦闘の様子を見ていたサイラスとイーリスにも届いた。が、サイラスはそのことを気にもせず、ただ市民達が城に向かってくる光景を見つめ続けていた。 やがて、サイラスが口を開いた。 「……愚民共が……!。ウモン!サモン!」 サイラスの呼びかけに、天井から二人の奇面が降りてきた。奇面衆のウモンとサモンだ。 「……クサナギ……ライバ王……。この町は貴様達にくれてやる……。その代わり、屍の山を築き、二度と人の住めぬ街にしてからな……。ウモン、サモン、街に火を放て!。そして、そうだ、かつてラザの村を滅ぼしたあの[毒]を井戸にばらまいてやれ……そうすれば、ここにいるもの達を皆殺しにできる……!」 その言葉を聞いたイーリスはさすがに青ざめた。 「サイラス閣下……今の言葉、本気でおっしゃっているんですか……」 「……ふ……私の[正義]を理解せぬものなど、生きている必要などない。かくなる上は、この街を全滅させ、私の英雄となる戦いの礎となってもらう……!。そして私はここを去る。おそらくは捕らわれているだろう皇帝陛下を奪回し、いずれはどこか別の地で、今以上の組織を作り新たなる戦いを始める……。そう、私は英雄になるのだ……。私のしたことの正しさは、いずれ、歴史が証明してくれる……」 そう呟くサイラスの目は、既に狂気に染まっていた。もはやこれまで、と感じたイーリスは、剣を抜いてサイラスに立ちはだかった。 「これ以上あなたを野放しにはできませんね……」 それを見たサイラスは、すぅっと、目を細めた。 「……やはり裏切るか……邪魔だてするならば、生かしてここからは帰さん……」 その言葉と同時に、ウモンとサモンが動いた。唯でさえサイラスは強いのに実力のわからないウモンとサモンが加わっては、イーリスにとって形勢が不利なのは見て明らかだった。イーリスは態勢を立て直そうとこのテラスから逃亡を計る。が、そうはさせまいと、ウモンが宙にとんだ。そして天井が高いことを活かしてイーリスの頭上を宙返りで飛び越え、そのまま退路を断ちながら完全にイーリスを囲んだ。もはやイーリスに、戦う以外の選択は残されてはいなかった。 城門前では、一部の市民と、まだ王朝結社についている兵士、操兵とのにらみ合いが続いていた。周りではヒラニプラをはじめとしたノウラ軍と王朝結社の操兵が激戦を繰り広げていた。が、さすがの兵士達も先の姫の演説を聞いたあと、ということもあり、市民達に直接手を出せずにいた。 そこに、アリスのカムナがやってきた。 「……あんた達、誰のための兵隊なの!。大した武器も持っていない街の人々を操兵で襲うなんて、よくそんな酷いことができるわね!!」 その叫びを聞いた一機の操兵が武器を構えてカムナに向かった。身構えるアリス。だが、その隣にいた別の機体が突如、カムナに向かった操兵を攻撃した。 「もう嫌だ!!」 「俺達は、これ以上、裏切り者になりたくない!!」 操兵や兵士達は口々にそう叫ぶと、一斉に城のほうに向かっていった。歓声を上げて市民達もあとに続く。 だが、ほっとするのも束の間、アリスの前に別の操兵が姿を現した。その、中世の騎士を形どり、剣と大きな丸盾を装備した操兵は、市民達を追い立てながらカムナのほうに真っ直ぐ向かって来ていた。 それは、リナールの操兵[アルシュバリエ]であった。この機体は、この辺りでは比較的普及していたアルキュイル型の改修機で、かつてメイラで主力操兵として使用されていた機体だった。アルシュバリエの中からアリスのカムナを見つけたリナールは、操縦捍を握り直した。 「……ふ、ふ、ふ……貴様の所為だ……すべては貴様がマリアを連れ出したから……[ネズミ仮面]めえぇぇ……!!」 「違あぁう!!」 どうやらリナールは、アリスのことをジョウと勘違いしているようだ。アルシュバリエはカムナに向けて突撃をかけてきた。リナールは本来戦闘は得意ではない。それ故、その太刀裁きもあまり様になってはいない。が、それはアリスも似たようなものだった。ここのところルシャーナに稽古をつけてもらっていたが、果たして……。 アルシュバリエはまるで何も考えていないかのようにカムナに突撃してきた。アリスはカムナに回避運動を取らせ、アルシュバリエの攻撃をはずした。 が、リナールの狙いはそこにあった。アルシュバリエはそのままカムナの横を通りすぎると、突如上半身を旋回させ、丸盾をカムナのほうに向けた。するとその丸盾がいきなり火を吹いた!。そしてそれと同時に数発のロケットが一斉にカムナに襲いかかってきたのだ!!。 だが、アリスはカムナに回避運動を取らせることはできなかった。もし、自分がよけたら、そのロケット弾は市民達に当たってしまうのだ!。そしてロケット弾はカムナに全弾命中した。激しい衝撃がアリスを襲う。そしてカムナも激しく損傷した。 「……思い知ったか小娘……!」 調子に乗ったリナールは、残りのロケット弾を全弾発射した。とどめの轟音がアリスとカムナを襲う。−もうだめ!−そう考えた時、突如ロケット弾が空中で爆発した。見ると、ヒラニプラが膝のロケット発射装置を全開に開いていた。どうやらデュークは自機のロケット弾でアルシュバリエのロケット弾を撃ち落としたようだ。とんでもない腕だ。 さらに、もう一機助っ人が現れた。メリエンヌのマリアローズだった。 「メリエンヌ!この後に及んで裏切る気か?!」 マリアローズは鋭い身のこなしで剣を繰り出しながら叫んだ。 「……謀ったのはそちらであろう……!![偽り]の王家の操兵で、わが国を欺いたのだ。盟約など、無効だ!!」 マリアローズとアルシュバリエの戦闘の間、アリスはカムナの両肩に装備されている蒸気弩の準備をした。この蒸気兵装は合計四本の金属弩が飛び出すというもので、かなりの破壊力が期待できる。が、その反面、接敵されたら全く使えなくなるというものだった。攻撃の機会は今しかなかった。 そして、執念でマリアローズを振り切ってアルシュバリエがカムナに向かって突撃をかけてきた。それに向かってアリスは祈る気持ちで発射杭を引いた。蒸気の力で四本の弩が一斉に飛び出した。それは、アルシュバリエの装甲をものの見事に貫いた。アルシュバリエはそのまま沈黙した。 完全に停止した機体に人々が群がり、操手槽のリナールを引きずり出す。そんな中アリスは、一人脱力感に襲われていた。その時、操手槽の扉を誰かが軽く叩いた。あけてみると、外からモ・エギが中を覗き込んでいた。モ・エギはにっこりと微笑んだ。 「……よくやったね……」 モ・エギの言葉に、アリスは戸惑った。が、その気持ちとは裏腹に、カムナの周りでは、人々がアリスに対して惜しみない拍手喝采を送っていた。 |