キャンペーン・リプレイ

第 十七話 「 開 放 の 歌 が 聞 こ え る 」 平成11年6月6日(日)

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 城のテラスでは、イーリスがウモンとサモンを相手に苦戦していた。唯でさえ二対一。その上、相手は今までの奇面衆とは違い、おそらく幹部級と思われる。はっきり言って実力は桁違いであった。
 まず、ウモンがイーリスに突撃をかけてきた。予想に反して正面からの攻撃だ。だが、そうではなかった。ウモンの剣を警戒していたイーリスは、突如突き出された左腕からまき散らされた粉のようなものをかわすことができなかった。それはやはり毒の粉だった。イーリスは袖で顔を覆い、粉から身を守る。が、それによって自身の動きも制限されてしまった。
 そこに今度はサモンの攻撃が来た。サモンはヨーヨーのような武器でイーリスを搦め取ろうとした。必死に回避するイーリス。だが、ヨーヨーの鎖はイーリスの剣にものの見事に絡みついた。これでは剣を振るうこともできない!。
 その機会をねらってウモンが再び攻撃を掛けてきた。今度は両手に剣。一気にけりをつけようというのだ。ウモンの剣がイーリスの防具を引っかく。このままでは確実にやられてしまう!。イーリスは執念でヨーヨーの鎖から自らの剣を引き抜いた。そして、その返す剣でウモンに斬りつけた!。ウモンはそのまま倒れ、動かなくなった。
「……不甲斐ない奴等だ……たった一人の女を始末できぬとは……!」
 今まで二人に任せて、自分は後ろで見ていたサイラスが自ら動いた。サイラスはゆっくりとイーリスのほうに近づきながら、腰の剣をゆっくりと抜いた。その刀身は、まがまがしく輝いていた。
「……[偉大なる力]はもはや使えぬが、貴様如き、このままで十分だ……」
 サイラスの巨大化能力は、先のエルグラーテとの戦闘に破れた時に失われたようだ。が、たとえそれが使えなくとも、あのセフィロスが全く歯が立たなかったほどの実力は十分脅威だった。
「……サモン!貴様は下がっておれ……」
 サイラスの気迫のこもった命令に従い、サモンは後ろに下がる。だがイーリスはこの瞬間を見逃さなかった。攻撃体制を解いたサモンに向かって素早く駆け寄ると、イーリスは電光の如き早さで剣を振るった!。その一瞬の攻撃は、サモンに回避運動を取らせる暇も与えなかった。そしてサモンもまた、そのまま動かなくなった。
 が、イーリスの気迫もそこまでだった。この二人の奇面との戦いでイーリスは、心身共に疲労していた。もはや、サイラスを相手にするほどの体力、そして運は残されていなかった。

 それと同じころ、城の操兵工場でも一騒動が起きていた。
「っざけんな、このスットコドッコイがぁ!!」
 広大な地下工房に、ミオの大声が響き渡った。
 秘密の地下道を通り、王家の工房に軟禁されていた親方達と合流できたミオ。だがそこに、兵士を連れたハゲジジイ(なんでも、ヒースとかいう将軍らしい)が現われ、「皇帝の操兵が負けた。責任は手抜きをした鍛冶師にある」などとぬかしたのだ。
 人数は五分でも、相手は完全武装だ。ミオは作業員や親方に様子を見るよう頼み、自身は手にした長銃の安全装置を掛け、ハゲジジイの足元に投げ出した。
 見れば変わった造りの、手入れの良い(毎晩のように整備したから当然だ)長銃だ。
(命乞いのつもりか?)
 と首をひねりつつ、ヒースがそれを手に取った途端…この罵声だ。
「ななな、何をいきなり……」
「やかましい!」
 ヒースを怒鳴りつけ、呆気に取られる親方達を指さして力説する。
「"手抜き"ですって?……こちらの方達を誰だと思ってんのよ!ライバにその人ありと知られた"修理の神様"ジュウコー親方と、"伝説の操兵技師"イランド博士よ!……お二人相手によりによって"手抜き"だなんて、鍛冶師ナメんのもいいかげんにしてよねっ!」
「し、しかしだな。それなら何故、伝説の操兵が負けたのだ?」
 小娘の剣幕に押され、我知らずヒースの声がうわずる。しかしミオの答えは辛辣極まるものだった。
「決まってるわ、"道具"を使いこなすかどうかは使い手しだいってこと。つまり……」
 ミオの口元に、これ以上ないほど小憎らしい笑みが浮いた。
「……アンタらの親分が下手クソだっただけじゃないの!」
 あまりの台詞に声も無いヒースに、ミオはさらに畳みかけた。
「親分が親分なら、子分も子分だわ。普通親分が負けたら、その敵討ちに行くのがスジじゃない?それを、安全な所で、ロクな武器も無い相手に難癖つけて、弱いものイジメでうさ晴らし……とことん情けない奴ね!」
 挑発するうちに、ミオは自分の台詞に本気で腹を立てたようだ。足元のスパナを左手で掴み上げ、腕まくりしてヒース目掛けて歩き出した。
「お、おい何を……」
 ヒースが言わずもがなのことを聞く。ミオはその場にいる誰もが予想した台詞をはいた。
「決まってるじゃない……その腐った性根を叩き直してやるのよ!」
 こんな馬鹿な。とヒースは内心呻いた。王家の操兵を入手し、ライバ王を追放し、クメーラ帝国が再興成った時点で我々は栄光を掴んだのではなかったか?(先任のライル将軍が失脚した時など、祝杯まで上げたというのに!!)
 それが今はどうだ。王家の操兵はあえ無く敗れ、市民は愚かにも歯向かい、ワシはこんな所で小娘に罵倒される。一体どこで歯車が狂ったのだ?
 混乱しつつ、ヒースは手にした長銃を構えた。老いたりとはいえ武人の性で、無意識に安全装置は外している。部下の手前、ここまでコケにしてくれた小娘に自分で鉛弾を浴びせねば納まらなかった。
「ふんっ、アンタみたいな〇〇〇〇野郎の撃つ弾なんかで、アタシがやられるもんですかぁ!!」
 ミオは、ヒースにダメ押しの言葉をおみまいし、左手でスパナを振り上げて突進した。だがまだ二人の間は数リートあり、彼女のスパナより先にヒースの銃弾が当たるはずだった、のだが……
 ボグウッッッッッ!!!
 ……最後の瞬間、介入しようとしたイランド博士の、いやその場の全員の目が点になった。ヒースが引き金を引く直前、その隣にいた兵士が、逆手に持ち替えた銃で上官を殴り倒したのだ。ヒースの正面に走り込み、右手に隠し持った小型拳銃(これで勝負する気だった)のヤリ場に困ったミオは、この兵士に恐る恐る声をかけたが……。
「……もしもし……?」
「もうイヤだぁ!町の連中に恨まれた挙句、女の子にここまで罵られる帝国兵なんぞやってられるかあ!!」
 そう叫ぶなり、その兵士は武器と階級章を投げ捨てた。すると、
「ちくしょう、俺もやめるぞ!」
「つきあっていられるかぁ!」
 あっという間に他の兵士も武器を捨て、自分から投降してしまった。どうやらミオの罵声が予想外に効いたらしい。拍子抜けしつつ自分の長銃を拾い、ミオは右手の小型拳銃をヒースの額に向けて降伏を勧めた。
「思った以上に人望無かったんだね。……まだやる?」
「わ、分かった降伏する!武器も捨てる!」
 見苦しく懇願するヒースの姿はあまりに醜怪で、ミオは目をそむけかけた。そのため、ベルトのバックルに指をかけたヒースの狂喜に気付かなかった。
「パンッ」
 小さな発射音と共に、ミオの体が揺れ、周囲の作業員や兵士(いつのまにか仲良くなったらしい)がどよめいた。
「みたか小娘ェ!わはは!は、 は……」
 しかし哀れな老人の高笑いは、怒りに燃えるミオの瞳の前にしぼんでしまった。元来、こうした隠し武器は殺傷力が低く、使用にはかなりの工夫が必要なのだ。起死回生の一撃は、ミオの脇腹をかすめただけだった。
「……で?」
 限り無く白いミオの視線と、おっとり刀(実際は操兵修理用のハンマーだが)で迫るジュウコー親方の迫力の前に、ヒースは情けない悲鳴をあげて失神した。
「ここまで来ると、なんか可哀そーかなァ?」
 きまり悪げに頭をかくミオに、側に来たイランド博士が溜息交じりに説教した。
「まったくお前は……無茶をするにも程があるぞ。兵士達が上手く挑発に乗ったから良いようなものの、もしコイツに撃たれていたらどうするのだ?」
 その言葉を待ってましたとばかりに、ミオは手にした長銃を天井に向けて射撃した。その銃口からほとばしったのは、白煙……最初から発煙弾が装填されていたのだ。"ワザと自分を撃たせて白煙に隠れ、相手のパニックに乗じて親玉(ヒース)を人質に取る気だった"との説明に、周囲のミオを見る目が変わったのは仕方無いかもしれない。
 だが、話し終えると同時にミオはその場にへたりこんだ。
「おい、傷が痛むのか?」
「だ、大丈夫……えへへ、腰が抜けちゃいましたァ」
 緊張が解ければ、ミオも普通の(?)娘である。脇腹の銃創は痛むし、右手は硬直して小型拳銃が離せない。半泣きで自分の指と格闘するミオに、ジュウコー親方が無言で手を貸した。
「お、親方ァ?」
 無骨な掌で優しく包み、自分の指を解いてくれた途端。ミオは親方にすがって泣きじゃくった。
「うわーん、親方ァ!!」
 あいかわらず無言で、ミオの頭を撫でてやるジュウコー。その「イカスおやじ!!」な態度は、ミオが親方の前掛けで鼻水を拭いても変わらなかったが……
「なあ、ミオ。この騒ぎが一段落ついたら……」
「グスッ、は、はい?」
「お前がいない間に溜まった洗濯物、この前掛けと一緒に洗っとけよ……!」
「……(怒)」
 それを聞いたイランド博士の笑い声が部屋中に響いた。呆気にとられる作業員と兵士。
 ……この師にして、この弟子あり……目撃者は後に皆こう語ったという。