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ライバ軍、そしてクサナギ達と王朝結社との最後の決戦から、一週間が過ぎた。戦の殺伐とした喧騒は去り、そして街の復旧を目指す新たな喧騒が始まっていた。その中で、クサナギら渡世人達もまた、忙しくもあり、そして暇でもあるこの平和な日々を過ごしていた。 その他の、この戦いで大きな力となった者達も一部の者が去り、また一部の者が残っていた。モ・エギは操兵に混ざって街の復興作業を手伝っていた。数日前は玉蜀黍畑で働いていたのだが、その体の大きさゆえに加減が利かず、玉蜀黍の茎ごと刈り取ってしまうためにクビになってしまっていたのだ。 ザクネーン隊は終戦直後に、報酬だけとっとと受け取り、ライバの街を後にしていた。彼らはやはり戦いの中でしか生きられないのだろうか……。いや、実際のところは、ノウラの街での飲み会で、実は戦争孤児達を養っていることがばれ、この辺りでは[商売]がしづらくなったからである。彼らはもともと、いわゆる[危険な性格]を売りにしていた傭兵団だ。それが唯の[ポーズ]であることが知られては非常に都合が悪いのだ。 イランド博士も数日前にリベ山に帰っていった。リリーナ達ツバサビトが博士のことをとても心配していたので、彼女等を安心させるために帰ったのだ。 ルシャーナはムワトロ、ラゾレをはじめとする部下共々この街に残っていた。もっとも飛び回っているのは部下ばかりで、ルシャーナ本人は特に働きもせずに毎日を呑気に暮らしていたのだが。 ゼノアは戦後処理のためにライバと周辺諸国を行ったり来たりしていた。特に、現在ライバの城に軟禁状態となっている元皇帝レオンナールの今後の処置についてライバと各国の橋渡し的な役を買って出ていたのだ。 徐々に活気を取り戻しつつある街中に、宗教家の活動が目立ってきた。かつてはこの都市国家郡で一番の勢力だった宗派である[リダーヤ教]をはじめとして、様々な宗派がそれぞれ布教や奉仕などに勤しんでいた。特にリダーヤ教は布教活動に熱心だった。かつてクメーラ王国の国教だったこの宗派は、もともと新生クメーラ帝国の樹立に合わせてこのライバの街に入る予定だったのだ。ところが、着いた頃には戦闘は帝国の敗北という形で終了しており、帰るに帰れなくなった彼らは、何としてでも信者獲得のためにこの街に留まることにしたようだ。 だが、この都市国家郡の人々は信仰心をあまり持ち合わせてはいなかった。これは、かつて千年前に起きた地殻変動の際に、何もしてくれなかった神に対して当時の人々が愛想を尽かしたことに由来している。また、このライバが政教分離の政策を取っている所為もあり、布教活動は遅々として進まなかった。 それでも宗教そのものが消えなかった理由は、布教ばかりでなく、奉仕活動も怠らなかったためだ。だが、信者による奉仕は、それを施した信者そのものに感謝することはあれど、その宗派、引いては神そのものに対する信仰には中々繋がらないものだった。 しかしめげてばかりもいられない。それぞれの宗教家達は今日も布教や奉仕に力を入れていた。その中には、阿修羅の所属する宗派の信徒達の姿もあった。 その頃、当の阿修羅はセフィロス、イーリスとともに竜の牙亭で暇を持て余していた。このところ仕事がなかったためだ。いや、正確にいえば仕事はいくらでもある。だが、その内容は街の復興のための土木工事や、収穫期の玉蜀黍畑の手伝いなど、この三人にとっては魅力も刺激もない仕事ばかりだった。 その時、阿修羅は不意に寒気を覚えた。自分の後ろを通る給仕の女性から、威圧的な[気]を感じ取ったのだ!。阿修羅がそのおかっぱ頭の女性をちらりと見ると、彼女は阿修羅のほうをじっと見つめていた。その目許は髪で隠れているものの、その下の目は異様な光を放ち、確かに阿修羅を威圧していた。 その光景を見たセフィロスとイーリスは訝しがった。二人には、ただ給仕娘が阿修羅を見ているようにしか見えていないのだ。だが、その時二人は気づいた。顔つきといい、この辺りでは中々見ない金髪といい、この給仕娘がどことなく、阿修羅に似ているということを……。 阿修羅はおもむろに店を出た。そして大急ぎで堀っ立て小屋の仮神殿から聖印を取り出すと、再び竜の牙亭へと取って帰した。この聖印は、もともとこの宗派の後継者がもつもので、本来は阿修羅の姉が受け継ぐものだったが、その当の本人が行方不明となり、彼女の妹である阿修羅に託されることになったいわくつきの代物だ。 店に戻ると、阿修羅は店の主人に給仕娘の素姓を聞いた。この給仕娘は数日前にこの店に来て、ここで働かせてほしい、と言ってきたそうだ。そして阿修羅はこの給仕娘の名前を聞き、確信した。そう、彼女はやはり阿修羅の姉、ヴィシュヌだった。 だが、阿修羅はヴィシュヌに中々話しかけることができなかった。阿修羅はヴィシュヌに対して幼少の頃から苦手意識をもっていたのだ。 でもこのままでは何も進展しない。阿修羅は覚悟を決め、ヴィシュヌの前に立った。そんな阿修羅を見てもヴィシュヌは全く動じない。阿修羅は意を決して、目の前の姉に話しかけた。 「……姉ちゃん……!。……これ……!!」 阿修羅はありったけの気力を振り絞ってそれだけを言うと、ヴィシュヌの首に持ってきた聖印をかけようとした。が、ヴィシュヌはその阿修羅の手をしっかりと掴み、そのまま阿修羅を引っ張って二階の部屋へと連れ込んだ。 部屋に入ったヴィシュヌは、阿修羅に静かに話しかけた。 「せっかくの再会だというのに……ずいぶんな挨拶じゃなくって?」 阿修羅はヴィシュヌに食ってかかった。 「……姉ちゃん、いったい今までどこに行ってたのよ……!。姉ちゃんがいない間、私がずっと、宗派を支えてきたのよ!」 だが、阿修羅の宗教家らしいところを、誰一人見たことはない。とにかく、阿修羅はヴィシュヌに聖印を押しつけた。本来、この聖印は自分が持つべきではない、と考えていたのだ。 だがヴィシュヌは、それを受け取ろうとはしなかった。 「悪いけど、今はそれを受け取るわけには行かないのよ……。私は今、大事なことをしている最中だから」 「じゃあ、それを私がやってあげるから、姉ちゃんが宗派を継いでよ!」 その言葉を聞いてヴィシュヌの表情が変わった。 「ほんと?。それだったらとりあえず、その聖印は私が預かって、この街に来ている信徒達の面倒を見てて上げる」 ヴィシュヌの言葉に表情が明るくなる阿修羅だった。が、ヴィシュヌが阿修羅に託そうとしていることの内容を聞いて阿修羅の顔は、再び青ざめた。 「最近、この街を中心に奇妙な面を着けた戦闘集団が暗躍しているって言う話を聞いたことがあって?。その組織について調査してもらいたいの」 言わずと知れた[奇面衆]のことだった。 |