キャンペーン・リプレイ

第 十八話 「 風 の 民 人 」          平成11年9月23日(木)

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 同じ頃、クサナギとゼロ、そしてミオはそれぞれ自分たちのできる仕事に没頭していた。クサナギはエルグラーテを用いて街の復旧作業、ミオは相変わらずジュウコーの元でこき使われ……もとい、操兵整備に精を出していた。そしてゼロは、主に街の外にある田畑を廻って、刈り入れの手伝いなどをしていた。
 そんな中、城門を出て近くの荘園に向かうゼロは、荒野にたたずむ一機の操兵を目撃した。その膝立ちの機体は、一週間前にクサナギの新造古操兵ファルメス・エルグラーテとの一騎打ちに破れた、王朝結社の象徴、操兵ファルメス・エンペラーゼだった。その金色の装甲はもはや土色に紛れ、だれが作ったのだろうか、巨大な麦藁帽子が被せられていた。ゼロはその機体に向かって黙祷し、そのまま玉蜀黍畑に向かった。
 玉蜀黍畑では、大勢の人々が働き手を求めて訪れていた。その中には、一週間前には傭兵として戦ったものたちもいる。皆、本当は平和を望むものたちなのだ。ゼロは手続きを済ますと、それらの人々に混ざって仕事を始めた。エンペラーゼはそんなゼロたちを唯黙って、見つめているようだった。
 そのころミオは、ジュウコーの操兵修理工場で相変わらず操兵修理に追われていた。
「お、親方ぁ……ちょっとは休ませて下さいよぉ……ここんとこ、全然寝てないんですよぉ……」
「儂はエンペラーゼ修理の時から、ずっと寝てないんじゃ!」
「あうぅ……」
 このライバの街には他にも操兵修理工場は沢山ある。そしてそれらの工場すべてが今、一週間前の戦闘で傷ついた操兵の修理に大忙しだった。だがその中でも、ジュウコーの修理工場は特に多忙を極めた。何故なら、ジュウコーの[駆動音や装甲を叩いた音の響き]で機体の損傷箇所を見抜いてしまうその腕を買われて、彼の元には特に損傷のひどい機体が常に回されてくるのだ。
 ジュウコーの工場はこの街の工場の中では小さいほうに入る。その上、彼の偏屈な性格と苛酷な労働条件がたたって、ミオ以外の弟子らしい弟子が一人もいないのだ。今は事態が事態なので他の工場からの応援が来ているが、ジュウコーのあまりのしごき故にほとんどが根を上げていた。
 ちょうど昼頃、ジュウコーが城壁に行くからついてこい、とミオに言った。復旧に当たっている操兵を整備する為だ。ほとんどの操兵が修理を受けたとはいえ、この一週間という短い期間ではいくらジュウコーでも限界があった。そこで、こうして出向いて自分の修理した機体の整備をしているのだ。
 城壁では、クサナギがエルグラーテで作業をしていた。その現場にはクサナギのほかにメリエンヌのマリアローズが慣れぬ手つきで作業をしていた。本来メリエンヌは自国リナラとクメーラ帝国との盟約が切れた時点でこのライバに居る理由はなかった。が、クサナギが操兵で街の復旧を手助けしているのを見て、帰るに帰りづらかったのだろう。何せ、先の戦闘では、彼女はクサナギに敵対していたのだ。しかも、自分自身の意思と反して……。
 そしてもう一人、この現場で働いているものが居た。[元]紅蓮の狩人デューク・フリーディオの操兵イリューディアことヴァルパス・ヒラニプラだった。人質だった妹マリアをアリスたちに救われたことで、彼は最後の最後で王朝結社を裏切り、この戦いの勝利に貢献した。だが、デュークはそれを手柄とせず、むしろ最初にこの街に火を放ったのは自分だからと、無償で復旧工事に参加しているのだ。
[兄さん。食事の用意ができたわよー。クサナギさんと皆さんもー」
 すっかり元気を取り戻したマリアが空の鍋をおたまで叩いている。マリアは今、兄と一緒に復旧現場で働いていたのだ。彼女は他の女性たちに混ざって作業員たちの食事、洗濯などをしていた。
 クサナギとデューク、そして他の作業員たちはそれを合図に作業を止めて操兵を降りた。そしてすっかり腹を空かした男共は我先にと天幕に入り、出された食事にありついた。
 今日はこの作業場にはもう一人珍客(?)が居た。ミリ−ア姫だった。彼女は時々、あちこちの復旧現場を慰問して廻り、こうして民に混ざって仕事の手伝いなどをしているのだ。
 ほとんどの作業員が天幕に入るのを見計らってミオは、エルグラーテとヒラニプラの整備に入った。クサナギのエルグラーテは、エンペラーゼとの決戦の際に予想外にも苦戦し、かなりの損傷を受けていた。が、ジュウコーとこの機体の開発者でもあるミオの不眠不休の修理によって完全に元通りになっていた。
 一方、デュークのヒラニプラはその戦いにおいて、然したる強敵とぶつかったわけではないので、それほどの損傷は受けてはいない。だが、戦いを必要としなくなったデュークが、街の市民に対して害を加えることがない、という証を立てるという意味も込めて、肩部の副碗から腿部の六連ロケット砲に至るまで内部の隠し兵装のすべてを取り外させていた。これはこれで結構大変な作業なので、やはりジュウコーとミオは徹夜の作業だったが。
「すごい、デュークは自分にも機体にも負担をかけずに操縦してる……それに比べてエルグラーテのほうは……」
 それぞれの機体を整備しながらもミオは両雄の操縦技術を比較する。
「……操縦幹にガタ……操縦把にも狂いが出てる……全く、クサナギったら乱暴に操縦して……!!」
 誤解のないようにいっておくが、クサナギの操縦は決して乱暴なものではない。ただ、クサナギはここのところ戦闘において、ここぞという場面で操縦幹から手を滑らせたり、足を操縦把から踏み外したりと全くもって[ついていない]のだ。その時の無理な操縦が今になって機体の負担として現れているらしい。
 当のクサナギはその宿敵デュークと肩を並べて食事をしていた。
「……クサナギ……あんたに一つ、頼みがある……」
 デュークが唐突に話しかけてきた。
「俺との決闘を受けてくれないか……」
「そなた、戦いは捨てたのではなかったのか?」
 クサナギの静かな問いに、デュークもまた、穏やかに答えた。
「……そうだ……。マリアが無事に戻った時に俺は戦いに身を置く必要がなくなった。すべては妹のための戦いだったからな……。だが、あんたと戦った時、俺は生まれて初めて、自分の意志で戦ってみたい……倒したい相手だと思った。だから……」
 デュークはクサナギの正面に向き直った。
「俺の最後の戦いとして、あんたに……クサナギヒコと操兵エルグラーテに決闘を、申し込みたい」
 クサナギは迷った。今更デュークと戦う理由などクサナギにはない……筈だった。だが、クサナギも心のどこかでは、いつぞやの操兵武闘大会での決着をつけたい、という感情があった。やはりクサナギも操兵乗りなのだ。
 考えた末にクサナギは、その申し出を了承した。
「待て!その勝負、俺たちに仕切らせてもらう!!」
 二人の間に一人の道化が割って入った。この街の盗賊組合の頭目ナバールだ。彼は先日の戦闘の直前、王朝結社に捕らえられてしまったが、ふだんの化粧を落としていたおかげか素姓がばれることもなく、戦闘中に仲間に救出されて事無きを得ていたのだ。
 ナバールが部下に指示を出し、勝手に二人の[試合]の段取りを組み始めたその時、一台の豪奢な馬車がこの工事現場を訪れた。その扉の中から出てきたのは、国王レイ・ライバだった。王はクサナギのところにやってきた。
「クサナギヒコよ。そなた、デュークと決闘するそうだな。やっと戦いが終わり、皆が平和を求めるこの時に……」
 クサナギは黙って王の言葉に耳を傾けた。そうだ、今は人々が平和に暮らす時なのだ。戦いを求める時ではない……。だが、王の次の言葉を聞いたクサナギは耳を疑い、そして呆れ返った。
「……その[試合]、我がライバ王家にも一枚かませろ……!」
 やはり王も、いや、あの時のクサナギとデュークとの戦いを見ていた誰しもが、この両者の決着を見たがっていたのだ。そして、それはある意味では王朝結社と自分たちの最後の決戦でもあった。何故なら、自分たちが象徴にしていたクサナギと操兵ファルメス・エルグラーテと、別の意味で王朝結社の力の象徴だった紅蓮の狩人ことデュークの操兵ヴァルパス・ヒラニプラの勝負であった為だからである。
 結局、当人たちを無視した王とナバールによって、[試合]は今日より三日後の正午と決められた。
 その騒ぎの最中、畑仕事から戻ってきたゼロは、城壁の上のほうで遠くを見ていた師匠ニーツ・カークを見つけた。ゼロが側に来るとニーツは黙って振り向いた。
 ゼロはニーツの腰の剣を見て驚いた。何と彼の剣は、鎖で縛られ、封印されていたのだ。もっとも、ニーツの腕をもってすれば、こんな鎖など意味を成さないのだが、少なくとも、剣を抜くのを思い止まらせることくらいはできるだろう。
 ニーツは昼間の間ずっと、クサナギとエルグラーテを見続けていたようだ。
「……歴史に名を残すような一騎打ちをした上で、今は街の人々のために復旧作業……。あのクサナギという男、全く言葉通り実践してくれる……」
 そういってニーツは、今度は自分の封印した剣に手をあてた。
「だが俺は、自らのもつ[力の強大さ]を恐れ、結局何も出来なかった。そして戦いが終わってしまえば、剣は無用の長物となってしまう。だが、奴のいう[操兵の力]は戦いが終わってもこうして街の復興などで人々のために役立っている。それゆえに、俺は迷っているのだ。俺の持つ力が人々のためにどう役に立てるのかを……。だから俺は、しばらくこの剣を[封印]することにしたのだ……」
 もし、このことをクサナギが聞いたら呆れ返ったことだろう。ぐだぐだ言ってないでとっとと働け、と。そうすれば、すぐにでも答えは見えるはずだろう、と……。
 ゼロはゼロでやはり呆れ返っていた。師匠の高慢さはいつものことだが、ゼロから見れば、何も出来なかったのではなく、ただ何もしなかっただけ、という風にしか見えなかったのだ。そして付け加えるなら、この師匠が本当に剣を[封印]するなどということができるはずがないと思っているのだ。
 そのことを指摘されたニーツは、一瞬ゼロを睨み返した。が、すぐに穏やかな表情を浮かべてこういった。
「どっちが師匠でどっちが弟子だか、これではわからんな……。俺は再び修行の旅に出る。当分、逢うこともないだろう」
 ニーツが白い外套を翻してその場を立ち去ろうとした時、ゼロは彼を呼び止めた。そして前々から考えていたある[計画]を打ち明け、その手助けを求めた。
 その計画とは、現在ライバ城に軟禁状態になっている、元王朝結社首領、レオンナール・クメーラ・ロクセーア14世を城から連れ出し、ニーツと一緒に修行の旅に出てもらうというものだった。この十年間クメーラ帝国皇帝として祭り上げられてきたゆえに世間というものを知らないであろう彼に、旅を通じて色々なことを学んでもらおう、というのだ。
 だが、ニーツはそれをあっさりと断った。
「……いいかゼロ。修行にはそれぞれ人に合ったやり方というものがある。今の彼にとっては、今ここで世間の荒波に呑まれること自体、そして元皇帝としてこの事件に正面から挑むこと自体が修行となるのだ。それは、おそらく本人が一番よくわかっていることだろう」
 ニーツはそれだけを言い残すと、今度こそこの場を去った。おそらく、今夜にもこの街を出て行くであろう。
 ゼロはとりあえず、レオンナール本人から、今の彼自身の本心を聞くことにした。