キャンペーン・リプレイ

第 十八話 「 風 の 民 人 」          平成11年9月23日(木)

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 翌日、クサナギとゼロ、そしてイーリスは、レオンナールに面会するためライバ城に登城した。だが、それより早く城を訪れていたものがいた。阿修羅だった。彼女は姉から託された[奇面衆に関する調査]のための手がかりを得るため、城の地下牢に入れられたサイラスに面会に来ていたのだ。
 ライバ王は阿修羅のサイラスへの面会の申し出に難色を示した。別に阿修羅を信用していないわけでも、万が一の脱走を心配しているわけではないようだ。ではいったい何故……。それでも阿修羅は奇面衆の情報を得るために王を説得し、面会の許可を得ることができた。
 サイラスは城の地下牢の一番奥で、裁判の日を静かに待っていた。王はあくまでも彼を、一犯罪者として裁く所存であるという。そのほかにもこの地下牢には、王朝結社に従った者の中でも特に罪の重いもの達が収容されていた。阿修羅は彼らの視線を浴びながら一番奥の牢へと向かった。
 指示された牢についた阿修羅は不思議な光景を見た。牢の中には誰もいなかったのだ。そこにはただ、隅のほうに汚い毛布があるのみだった。
「おーい、朝食だ!。神妙に頂け……!」
 看守が食事番を連れて牢の通路を進む。食事の内容は粗末な汁物。囚人達は文句を言いながらそれを啜っていた。
 その食事番がサイラスの牢に来た時、牢の中で異変が起きた。隅の方の汚い毛布が突如動き出したのだ。そしてその中から、何かが四つん這いになって這い出てきた。それは、先日の激戦において魔剣を失い、すっかり変わり果てたサイラスの成れの果てだった。銀色の長髪はすっかり輝きが消えてただの白髪となり、その目からは気力が失せていた。本来はかなり背の高いほうであったはずだが、四つん這いの為だろうか、どことなく小さくなったように思える。ただ、かつての栄光を忘れられないのか未だにマントだけは外そうとせず、それが余計に空しさを醸し出していた。
 サイラスは鉄格子の側まで来ると、立ち上がらずに出された椀を受け取った。そして中身を大して気にもせず、まるでそれが人生唯一の楽しみのように旨そうにその汁物を啜っていた。その姿を見た阿修羅は我が目を疑った。これが、あの時必死になって戦った敵だというのだろうか。そう、ここにいるサイラスは既に、廃人同様と化していたのだ。
 阿修羅は気を取り直してサイラスに話しかけた。声をかけられたサイラスはうつろな目で阿修羅を見返す。その途端サイラスは悲鳴を上げ、椀を投げ出して部屋の隅のほうへと逃げ出した。しかも四つん這いのままで……。そして毛布をかぶりガタガタと震え出した。
 阿修羅とサイラスは一行の中では一番面識がない。だがサイラスの記憶の中では、先日の戦いにおいての[裂帛功]による精神に対する打撃が焼きついており、やはり恐るべき存在となっているのだ。
「……魔剣の言うことなど聞かねばよかった……英雄になろうなんて思わなければよかった……」
 今のサイラスはただ、自分の過ちに震えるだけの存在でしかなかった。阿修羅は彼の訊問をあきらめ、この場を立ち去った。
 一方、阿修羅に遅れてクサナギとゼロ、イーリスはレオンナールとの面会のために城の応接間に案内されていた。その途中、クサナギ達は意外な人物に出会った。カストール牢獄でクサナギが世話になった牢名主ティコ爺だった。彼はすっかり小ぎれいになっており、立派な服を着せられていた。そして何故か本人はそれが気に入らないらしく、すっかりふて腐れていた。
 いったい何故ティコ爺が城でこのような待遇を受けているのか。その理由はすぐにわかった。この場を通りかかったライバ王がティコ爺にこう、声をかけたのだ。
「ここにいらしたのですか[祖父殿]……」
 そう、実はティコ爺はこのライバの先々代の王だったのだ。先代の王、つまり自分の息子にカストール牢獄に幽閉されてしまったが、意味自由であった牢獄がすっかり気に入り、今の今までずっと、居座っていたのだ。が、クサナギ救出作戦のあと、牢獄は閉鎖され、仕方なく城に戻っていたのだ。
 父王から祖父は死んだと聞かされていた王は思いもかけない再会に喜び、彼をこのまま城に住まわせるつもりでいた。が、ティコ爺はやはり長年住んだカストール牢獄に戻りたくてうずうずしていたらしい。
「なぁ、[名誉看守]ということでどうじゃ?儂はもう、城にはなじめんのじゃ」
「祖父殿……私を困らせないでください。せっかくミリ−アも喜んでいるというのに……」
 二人の押し問答もそこそこに、クサナギ達は早速、レオンナールがいる部屋に案内された。そこは皮肉にも、クサナギが最初に監禁された部屋だった。
 レオンナールは現在、軟禁状態におかれていた。本来彼は王朝結社の首領としてサイラス同様地下牢に監禁されるのが筋だ。が、彼は王朝結社の首領である前に、かつてこの都市国家郡を統一していた[クメーラ王朝]の王族の子孫だった。それ故、かの王国を信望する他の国々の手前、むやみに犯罪者として扱うわけにはいかなかったのだ。
 以前とは打って変わったような穏やかな表情で一行を出迎えるレオンナール。やはり彼も、先日の一騎打ち以来何かを学んだのだろうか。
 クサナギとゼロは当初、レオンナールが今後の自分について悩んでいるであろうと予想していた。それ故、ここに出向いて彼の心境を確認しようとしていたのだ。特にゼロは、彼をここから連れ出して新たな境地で新たな人生を送らせて世間を学んでもらい、それをもってこの事件の[責任]を取らせようと目論んですらいた。
 だが、レオンナールは既に自分のなすべきことを悟っていた。彼は今後いかなる弾劾も甘んじて受けるという。そしてその場で自分の罪を認め、いまだに活動を続けている王朝結社の構成員達に戦いをやめるように呼びかけるというのだ。
「僕は生き恥をさらしてでも、自分の犯した罪を償わなければいけないからね……。首領であった僕が訴えるかけることでまだ戦っている同志達を止め、罪をくり返さないようにしなければ、僕たちの罪は永久に消えることはないんだ」
 そう呟くレオンナールの瞳に迷いの色はなく、純粋に輝いていた。そう、あの戦いのあとゼノアに「何故、自決しなかったのか」と問われた時、レオンナールはこのことを考えていたのだろう。もし、自分がいなくなれば、自分という存在が王朝結社の中で伝説となり、彼らは永久に戦い続けてしまう。そしてそれにより、ますます多くの人々が苦しむことになるだろう、と……。
 レオンナールの決意を聞いたゼロはようやく、ニーツの言いたかったことに気づいた。そう、今の彼にとってここから出るということは、この現状すべてから逃げることになるのだと。そしてここに留まり世間の荒波に揉まれることこそが、今の彼にとっての修行なのだと。
 クサナギ達はレオンナールに別れを告げると、この部屋をあとにした。その際ゼロは彼宛に置き手紙を残していった。この時、入れ違い様に一人の衛士が小さめの箱を持ってレオンナールの部屋に入っていった。だが、この時クサナギとゼロ、イーリスは気づかなかった。この人物が思わぬ悲劇を呼ぶことを……。
 レオンナールの部屋を後にしたクサナギ達は王に彼の今後の処遇を問いただした。王は今のところ彼をどうこうしようとは考えてはいなかった。そして現在、メリエンヌを通してリナラから、レオンナールの身柄を預かりたい、という申し出があったことを告げた。議会の一部は反対しているが、[王家の操兵]を失った今となっては、祭り上げるだけの意味もないと判断し、王はその申し出を了承するつもりでいるという。
 一方、レオンナールは思わぬ客の訪問を受けていた。先ほどクサナギ達と入れ代わって入ってきた衛士は、実は王朝結社が前々から忍ばせておいた間者の生き残りだったのだ。間者は自分が身代わりになるからといって上着を脱いだ。その下に着ていた服は、現在レオンナールが着ている服と同じものだった。
 だが、レオンナールはここから脱走する気はさらさらなかった。そしてその旨を間者に伝えた。そのレオンナールの手には、ゼロの手紙があった。
「僕は、脱走する気はないよ……。僕たちの戦いは終わったんだ」
 だが、間者は全く聞く耳をもたなかった。
「今、我々には陛下が必要なのです……。我々の戦いはまだ終わってはいないのです。陛下。貴方は今ここで一度死にます。そして、新たな地で再び同志達を率いてよみがえるのです……!」
 そういって間者は持参した箱を開けた。その中には爆弾が入っていた。
「……皇帝レオンナール・クメーラ・ロクセーア14世に……栄光あれぇぇぇ……!!」
 間者は爆弾を手に取ると、その発火栓に手を掛けた。それを見たレオンナールは間者に飛びかかり爆弾を取り上げようとした。その時、二人の縺れ合いで爆弾の発火栓が抜かれ、その爆弾はレオンナールを中心に爆発した!!。