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そして何事もなく、試合当日を迎えた。会場となった城門前には、ライバ市民、旅人などが集まっていた。城壁の上のほうには貴賓席が設けられ、そこにはゼロ、イーリス、セフィロス、阿修羅、そして国王一家を始め、ルシャーナ、メリエンヌも試合開始を待っていた。ミオはゼノア、モ・エギ、ジュウコー、そしてマリアとともに臨時の整備場にいた。 更にこの会場にはもう一人、重要な人物が来ていた。レオンナールだ。彼にとってもこの戦いは興味深いものだった。だが、今の彼の身分では表立って顔を出すわけには行かない。そこでライバ王の計らいで皆に気づかれないように貴賓席に連れてきていたのだ。 客席では、二人の勝負の行方を巡る賭がとり行われていた。この場を取りしきるのは盗賊組合。ナバールの元には観客がつぎ込み、集められた掛け金が次々と運び込まれてくる。 「すげぇ……毎週やってくんねぇかな、これ……」 既にこのピエロの瞳は金貨の輝きに染められていた。 貴賓席でも、賭は密かに行われていた。ミリ−アとゼロがよりにもよって金貨を掛けて勝負に出たのだ。これでは、ほかの侍女は手を引くしかなかった。その光景を見たライバ王は姫を嗜める。が、ゼロはその王の手に掛け札が握られているのを見逃さなかった……。ちなみにゼロはデュークに、ミリ−アはクサナギに掛けていた。そしてレオンナールは賭には参加しなかったものの、クサナギの勝ちを信じて疑わなかった。 正午近く。簡易整備場から二機の操兵がゆっくりと、城門前に姿を現した。元王子クサナギヒコ・ディス・グラーテの操兵[ファルメス・エルグラーテ]と元[紅蓮の狩人]でューク・フリーディオの操兵[ヴァルパス・ヒラニプラ]。この二機の操兵の対決は、色々な意味を持っていた。方や王朝結社の事実上の最強操兵だった機体、方やその王朝結社と戦うライバ軍にとっての象徴的な機体。そしてかつてのライバ操兵武闘大会において付かなかった最強操兵を決める決着の行方……。奇しくもこの古操兵は片や[ファルメス]、片や[ヴァルパス]……。いつかは戦う運命にあったのかもしれない。 互いに門を挟んで離れた位置に向き合ったエルグラーテとヒラニプラ。クサナギは拡声器を通して名乗りを上げた。 「……クサナギヒコ・ディス・グラーテ……!!」 それに対しデュークも答える。今までの彼になかった行動に人々は驚いた。 「……勝っても負けても異存なし……勝負!!」 正午の試合開始の合図とともに、まずデュークが仕掛けた。ヒラニプラの両膝の蓋が開き、ロケット弾がエルグラーテめがけて発射された。クサナギはそれに対し、エルグラーテの両肩に装備された96式回転機関砲を展開して弾幕を張り、それを防ぐ。ロケット弾はエルグラーテに到達する前にすべて撃ち落とされ、その爆風と衝撃は観客のところにまで及んだ。 やはり飛び道具では埒が明かないと判断した両者は互いに前進し、刀と槍をぶつけ合う。クサナギは隙をついて大太刀を何度かヒラニプラに叩き付けた。だが、両肩の副碗に装備されたセラミック製の大盾と厚い装甲がそれを防ぎ、致命傷を与えることを許さない。一方デュークもヒラニプラの特殊槍でエルグラーテを突こうとするが、クサナギの巧みな回避とヒラニプラ自身の盾の重量による機動力低下が祟ってその攻撃はなかなか当たらない。 デュークはヒラニプラの腹部に装備されたウィンチのロープを引き出し、エルグラーテに投げつけた。ロープでがんじがらめにして動きを封じるつもりのようだ。クサナギはエルグラーテに太刀でそれを払わせると、ガトリングガンを連射してヒラニプラを牽制する。が、その重装甲に阻まれ思うように行かない。 この戦いを操兵技師の目で見ているミオは、エルグラーテとヒラニプラの性能差を見抜いていた。悔しいが自分の製作したエルグラーテではヒラニプラにはわずかながらも及ばない。それに加えて数々の経験を得て成長したとはいえ、クサナギとデュークでは操手としてもまだ若干の開きがあった。勝てるかどうかは、クサナギの気迫と運によるだろう……。 だがこのクサナギという男、運にはいつも見放される。やはりこの戦いの最中も操縦桿から手が滑るなどの不運が起こり、肝心なところで機会を逃していた。そしてその隙を突かれ、ヒラニプラの猛攻を受けて確実に機体の損傷を増やしていった。 しかし、気迫のほうは十分であった。クサナギはヒラニプラの槍の動きを見切りながらエルグラーテの背中に装備されたロケットモーターを始動させた。そして空中に舞い上がるとそのまま機体を反転させながらヒラニプラの頭上を飛び越え、その背後に着地した。エルグラーテの突如に飛行にデュークは戸惑ったが、そこは歴戦の勇士、すぐさま立ち直るとヒラニプラをエルグラーテのほうに向けようと操作した。 だが、クサナギにはそれで十分だった。クサナギはそのわずかな隙を衝き、爆砕槍に蒸気を充填、それを完了させた。そしてヒラニプラが戦闘体制を整えているその隙を狙って爆砕槍を発射した!。旋回するセラミックの槍はヒラニプラを確実に捕らえた。が、デュークの腕故か、完全な命中にはならず、重傷は与えたものの決定打にはならなかった。 それでもクサナギは攻撃の手を緩めなかった。今度は大太刀と爆砕槍の両方で同時攻撃を仕掛けたのだ。以前爆砕槍はミオの手によって改良され、威力は半減するものの、瞬時に撃ち出せるようになっていた。対するヒラニプラの蒸気兵装[三連爆砕鎚]にはその仕掛けはない。今、攻撃の手を緩めたら、今度はデュークが蒸気を充填させるだろう。 そのクサナギの捨て身の攻撃に対しデュークもまた、槍と右副碗の鉄斬爪による同時攻撃で答えた。これによって盾のうち片方が使えなくなるが、デュークは一向に気にしなかった。あとは、両者の耐久力と気迫の勝負だった。 この光景は見ている側からすれば、お世辞にも格好のよいものとはいえない。そう、まさに唯の殴り合いなのだ。しかも互いに命中しづらい同時攻撃を繰り出している様は、後世に残る戦いとしては、見ていて情けないものだった。 だが、戦っている本人同士からすれば、そのようなことは些事だった。互いに実力が均衡し、そして互いに致命的な損傷を受けているとなると、どちらとも機会を伺い仕掛けなくなるか、あるいはどちらかが動かなくなるまで殴り合い続けるか。まさに、今は後者のときだった。 ……ここまで来たら負けられない……。クサナギは自身の運をエルグラーテに注ぎ込むように攻撃を続けた。デュークも持てるすべての技を叩きつけてくる。そして互いの機体が限界に近づこうとしたころ、ついに勝負はついた!。 立っていたのは、クサナギのファルメス・エルグラーテだった……。デュークのヴァルパス・ヒラニプラはバラバラになる事なく静かに地面に伏した。しばしの沈黙の後、観客がクサナギの勝利とデュークの健闘を讃え歓声を送った。王は握りしめた賭札を放りながら[見事!」と両者を讃え、ミリ−アはゼロから金貨を受け取っていた。が、結局あとで姫のおごりで祝賀を兼ねた食事会があるのでチャラではあるが。だが、エルグラーテもまた、もはやその歓声に応える余力は残ってはいなかった。 クサナギは残った力を振り絞り、エルグラーテを降りてヒラニプラの元に向かった。互いに命を取るつもりなどなかったが、真剣勝負ゆえに危険は付きまとう。クサナギはヒラニプラの操手槽を開けた。 操手槽の蓋を開けると、デュークが意外に平気そうな顔で出てきた。そしてその手には、以前初めてクサナギと戦ったときにグラーテの仮面を狙って放たれた対操兵銃が握られていた。 「……以前の俺なら、これで仮面を狙ったんだがな……」 デュークは笑みを浮かべてそういうと、その銃を空中に放り投げた。それが、彼の事実上の敗北宣言だった。 人々はこの[試合]に満足し、二人に惜しみない拍手を送った。 |