
|
そのころ、ある路地裏では、レイムが暗がりに向かって呟くように誰かと話をしていた。 「……やはり、直接確かめることにします……」 会話の相手らしい眼鏡男は、満足そうに頷いた。その男は、先日の戦いにおいてアリスのユニホーン・カムナに破れ、市民に捕らえられたもののどさくさに紛れて逃走した、元王朝結社軍師リナールだった。 [試合]が終わって竜の牙亭に戻ってきた一行。そこでセフィロスは主人が預かっていたレイムからの手紙を受け取った。中身を誰にも見せないように封を切るセフィロス。その内容は、次の晩に広場で逢いたい、と書かれていた。さらに、それには武装してくるように指示が書かれていた。どうやら、[真実]語るときが来たようだ。セフィロスはその覚悟を決めた。 そんなセフィロスの悩みなど知らないほかの一行は、それぞれ勝手な勘ぐりを始めた。そしてクサナギと阿修羅を除く一行は、それぞれに行動を開始した。 ざわざわと動き出した一行に警戒するセフィロス。彼としては出来れば余計に話を拗らせたくなかったので邪魔はするなと頼んだ。それに対しゼロは、「大丈夫、俺は味方だ」とセフィロスを安心させようとする。もちろん嘘だ。そしてセフィロスは当然、この言葉に騙されることはなかった。 ミオはミオで城の後宮に赴いた。そしてラマーナに面会すると、彼女の[元奇面衆]としての腕を見込んでセフィロスの尾行の件を依頼した。それに対しラマーナは、暗い表情を浮かべて断った。 「……私、あの人の前には出たくはないんです……」 そういわれてミオは、以前の王朝結社の本拠地だったセレム山での出来事を思い出した。あの事件の際にラマーナが一行を騙したことをセフィロスは未だに根に持っているのだ。今はゼロの手前、その槍を彼女に突きつけることはないが、もし尾行がばれたら今度は彼女を容赦なく突き刺すだろう。ミオは仕方なく、ラマーナに依頼するのを諦めた。 次にミオは、先日の戦いにおいて知り合ったナバールの元に向かった。路地裏にある[ナバール一座]は今夜の出し物の準備で大忙しだった。ここに踊り子として入ったアリスは、先日のリナールのアルシュバリエとの一騎打ち以降市民の人気が上がり、ここのところあちこちから引っ張りだこで、姿を見せる暇もないらしい。 ミオはナバールに[裏]の仕事として、セフィロスの監視を依頼した。ラマーナに断られ、然りとて自分では彼を尾行するほどの体術を心得ていないので、盗賊組合の首領としての彼に期待したのだ。この依頼に対し、ナバールは最初、難色を示した。彼としては、すべてのことが終わったこともありこれ以上彼らと関わり合いを持つことを良しとしていなかった。アリスに対しても、踊り子としては一座として面倒を見ているが、盗賊組合に入れるつもりは更々ないのだ。だが、ミオの説得に折れ、ナバールはこの依頼を受けることにした。もちろん、それ相応の報酬として金貨で数枚ほど受け取った。 その帰り道、ミオは突然頭上から声をかけられた。見上げると、モ・エギの大きな顔が見えた。モ・エギは上機嫌なミオを見て何かがあったのでしょうかと問いかけてきた。ミオは「なんでも無いよー」と軽く受け流す。モ・エギはますますわけが分からなくなった。 そんな一行を尻目に阿修羅は一人、再び城に向かった。もう一度サイラスに逢い、今度こそ情報を掴むためだ。地下牢の中では、サイラスは最初に逢ったときと同じく、すべてを無くしたようにうずくまっていた。そして阿修羅を見て再び恐怖におののいた。 阿修羅は看守に牢の鍵を外させ、その中に踏みいった。そんな彼女を恐れ、サイラスは隅のほうに逃げる。だが阿修羅は彼に恐怖を与えるために入ったのではなかった。阿修羅は小さく印を切り、宗派に伝わる真言を唱えながら[気]を練り上げた。そしてサイラスに触れ、その[気]を彼に注ぎ込んだ。するとサイラスは、先の恐慌が嘘のように、阿修羅に微笑んだ。[気孔術]の一つ[魅了功]だ。サイラスは一時的に阿修羅を親しい仲だと思い込んだのだ。 サイラスは阿修羅の膝で泣き、そして今まで自分の犯した罪を今更ながら懺悔した。阿修羅はそこで、奇面衆について彼に問いただしてみた。いったいいつ、どのようにして接触したのか、と。だが、サイラスはその話が出ると再び恐怖に襲われ、そのまま毛布を被ってうずくまってしまった。 「……もう、ほっといてくれ……[奴等]の話はしないでくれ……」 もはや、話の出来る状態ではなかった。阿修羅は、サイラスから情報を聞き出すことを断念せざるを得なかった。 跳んで翌日の夕暮れ。セフィロスは約束通り街の広場にやってきた。その後ろからイーリスとゼロがそれぞれついてくるが、それについては諦めた。どうせまいてもついてくるだろう。そのころ、ミオは竜の牙亭で盗賊組合からの手紙を読んで驚いていた。そこには、自分たち以外の怪しいものたちが広場の周辺で目撃されたというものだった。 そんなことは知らないセフィロスは、噴水が中央にある広い円形の広場の入口に来ていた。そのとき、ゼロは広場の周辺に怪しげな気配を感じ取り、それをセフィロスに伝えた。そして連れてきていたピジョットに竜の牙亭に行くように指示を出した。 だがそこで、ゼロがセフィロスに警告する際、[指弾]を使用したのがまずかった。その軽いはずの一撃は何と、セフィロスの後頭部にまともに命中したのだ。それによってセフィロスは、思わぬ重傷を負ってしまった。 手痛い警告を受けたセフィロスは警戒しながら広場に入った。イーリスはそれより少し離れたところで、ゼロはその広場の中にある屋台の椅子に腰かけ、セフィロスの様子を伺った。 その中央の噴水の側には既に、レイムが来ていた。彼女は近衛隊の正装で身を包み、その右手には一振りの長剣が抜き身で握られていた。 セフィロスは、わかってはいるものの一応レイムを問いただした。 「……どういうつもりだ」 「……お手合わせ、 願います……」 レイムは手にした剣の切っ先をセフィロスに向けた。どうやら本気のようだ。だがセフィロスはその槍を構えようとはしなかった。 そのただならぬ雰囲気を見たゼロは、行動を開始しようとした。が、突如屋台の主人が拳銃を突きつけ、ゼロの行動を遮った。 「せっかくですから、静かに見ていてあげましょう」 主人の申し出にゼロは、とりあえず焼き鳥をもう一本頼んだ。そして串が差し出されたその瞬間をねらって痛烈な拳の一撃を主人の顔面に与えた。その一撃で主人は伸びた。 槍を構えようとしないセフィロスにレイムは槍を構えるように言う。 「……兄が本当に貴方に、卑劣な手で倒されたかどうか、直接確かめたいんです!」 その言葉にセフィロスは、やはり槍を構えずに答えた。 「……確かに君の兄を倒したことは事実だ……。だが、ラシュアンと俺は正々堂々と戦った……」 セフィロスはいったい誰がそのことを話したのかをレイムに問う。そしてレイムが答えようとしたそのとき、広場の周辺の建物屋根の上や物陰から一斉に人影が出現した。それは、すべて王朝結社の残党だった。どうして見つからなかったのか、と呟くイーリス。だが、それも当然だろう、彼らはもともとはゲリラ戦術を得意としたテロリストだ。正面からの戦闘は苦手でも、こういった奇襲は(奇面衆には及ばないものの)得意なのだ。 そして一番高い建物の屋根の上には、二人の護衛付きで、あのリナールが立っていたのだ。リナールは、自慢気にこれが自分の仕業であることを広言した。 「なに、そのお嬢さんが悩んでいるようなのでね……私が教えて差し上げたのだよ、[真実]をね!」 そのころ、竜の牙亭にいたミオ、クサナギ、阿修羅の元にピジョットが駈け込んで来た。ピジョットはミオの袖をくわえて広場の方向に連れていこうとする。そのただならぬ様子に三人は大急ぎで広場に向かった。そしてそれを見届けたピジョットは今度は操兵倉庫のある倉庫街へと向かった。 広場の中央には剣を構えたレイム、そして広場の周りには銃を向けた残党。セフィロス、ゼロ、イーリスは完全に囲まれた状態となった。イーリスは物陰からリナールに向かって、先の爆弾騒ぎのことを問いただした。リナールが自分の関与を認めると、イーリスは怒りを露にして叫んだ。 「……彼の……レオンナールの意思は完全に無視するのですか!!」 リナールは一瞬心苦しい表情になるが、すぐに開き直って叫び返した。 「い、今は[帝国の威信]を守るのが大事である。そのためには時として、[皇帝陛下の意思]を無視せざるを得ない場合もあるのだ!。サイラスがあの状態である今、我々は皇帝陛下を中心に組織を立て直す必要があるのだ!!」 その言葉を聞いたセフィロスは、レイムに向かって叫んだ。 「あんな奴のいうことを信用するのか……!」 レイムは少し考え込むと、ゆっくりと首を横に振った。 「……そうね……セフィロス様が兄と戦ったことは事実かもしれないけど、あの者のいうような卑劣な手段は用いるはずはないもの……」 レイムはそう言って、セフィロスに向けていた剣を下ろした。その光景を見たリナールは立腹した。 「おのれ……せっかく私がお膳立てしてやったものを……全員ここで始末してしまえ!!」 その時、広場の入口からクサナギがやってきた。 「待て!。そなた達はまだ懲りないのか!!」 そして屋根の上にいる敵のうち二人の足もとに煙幕弾が撃ち込まれた!。こっそり屋根の上に忍び寄ったミオの仕業だった。多量の煙によって視界が失われ、動きの取れなくなった敵は完全に沈黙した。 それと同時に地上の敵が動いた。が、それより早くゼロとイーリス、そしてセフィロスが風のように敵の元に近寄り、次々と斬り伏せて行く。ものの二秒足らずの間に半数の残党が地に伏した。 だがその時、悲劇が起きた。剣を構えてリナールの元に駆け寄ろうとしたレイムが、敵の撃った凶弾に倒れたのだ!。地に崩れさるレイムを見て絶叫するセフィロス。その怒りは彼女を撃った敵に向けられた。そして怒りに身を任せて槍をふるった!!。 手下が一瞬のうちに倒されていく光景にリナールは恐怖した。その時、自分の側にいた部下がつき飛ばされて屋根から落ちた。やはり後ろの方から忍び寄っていた阿修羅の仕業だった。そしてもう一人の手下もクサナギのボルトアクションの一撃で地面に落下した。リナールは阿修羅に捕まり、すべての敵が降伏した。 セフィロスはレイムの元に駆け寄った。彼女は意識を失っており、このままでは危険な状態だった。しかも、その体に銃弾が入り込んでおり、[点穴]を突くことによる方法では治療は不可能だった。 そこにピジョットを抱いたモ・エギが大急ぎでやってきた。それと同じくして衛士隊も駆けつけた。リナールと残党をクサナギ、イーリス、そして衛士隊に任せてセフィロスはモ・エギにレイムを医者まで運ばせた。ゼロとミオ、阿修羅もセフィロスに着いていった。 衛士隊の手で連行されたリナール以下残党達は、それなりの手当を受けて城の地下牢に入れられた。そして皮肉にもリナールは、サイラスの牢の正面に入れられた。彼は正面にいるのがサイラスだとは気づかないようだ。 「……ええい、なぜ私がこんなところに入らねばいけないのだ……!!」 と騒ぐリナールに、クサナギはきっぱりと言い放った。 「当然の報いだ!!」 診療所に着いた一行は、大急ぎで医者を呼び出すと、すぐにレイムの治療に当たらせた。やがて、城からクサナギとイーリスが戻ってきたころ、手術は無事に終えた。そしてレイムは意識を取り戻した。 セフィロスは、その場にいた全員を部屋から追い出した。そして二人きりになったところで、レイムにリナラ御前試合のときに自分とラシュアンとの間で起こった悲劇の[真実]を語って聞かせた。 「……俺を……恨むか……?」 レイムはすべてを納得し、そして満足した。 「……兄は、貴方に討ってもらえて、感謝していると思います……。決して、恨んでなどいません」 セフィロスはラシュアンを思い出し、彼を偲んだ。 そのころ、ゼロはモ・エギの掌に乗せてもらい、一緒になって(破廉恥にも)二人の会話を盗み聞きしていた。が、特に何の進展もない二人の会話にいらだちを覚えた。 かくして、ほとんどの主要幹部および首領が捕らえられたことにより組織力が低下したことで王朝結社は事実上壊滅し、この都市国家郡を巻き込んだ事件はひとまずの終結を迎えた。おそらく実際には、残党達が暗躍を続けるだろうが、それは既に別の物語だろう。 そして、今後一行は、それぞれに新たな道を歩む事になるだろう。 グラーテの谷の守護操兵ファルメス・グラーテとともに戦い、故郷の仇を討ったクサナギ。 操兵技師、策略家、そしてゼロやラマーナなどの人々の支えになるなど三面六臂に働いたミオ。 さまざまな戦い、さまざまな出会いを得て心身ともに成長したゼロ。 一時は敵に回りながらも心決めた目的を強い意志で果たしたイーリス。 並み居る強敵をその槍一つで打ち破り、勝利し続けたセフィロス。 奇面衆探索という新たな目的を得て、新たな旅に望む阿修羅。 戦いから身を引き、踊り子として新たな人生を歩もうとするアリス。 さらに、憎しみを克服し、新たな気持ちで人間社会を見聞するモ・エギや、ひとまずの任務を終えて元の公証人に戻るであろうゼノア、今後も傭兵家業を続けるメルル、記憶を取り戻して新しい人生を送るファルス、妹マリアと共に戦いのない日々を求めて旅立つデューク、その他ライバ王とワールモン、メリエンヌやルシャーナ、ザクネーンやニーツ、トシロウ、イランド博士とジュウコー、ナバール、ラマーナ、ティコ爺、レイム、ネズミ仮面ジョウ、フェイ、フェリス、リーヌ、ケモノビト達、そしてレオンナール……。 これらすべての人々は今後も関わってくるであろう。おそらくはどこか旅の空の下で……。そしてさらに、新たな出会いも待っていることだろう。[風の民人]。この都市国家郡に住むものが、どの国にも籍を置かない渡世人達にいつともなく名づけた呼び名……。その言葉通り、彼らはこれからも旅を続けるのだろう。そしてほかの風と交わり、離れ、新たな物語を紡ぐのだろう。 彼らの行く末に、幸あらん事を……。 だが、一つだけ残されていることがあった。一人のトレンチコートを着た赤い髪の偉丈夫が、雷鳴とどろく黒雲を背に剣を掲げて叫んだ。 「……これだ……この[力]こそが、この俺様の求めていたものだったんだぁ!!」 高笑いしながら叫ぶリガーブの手には、かつてサイラスの元にあった魔剣と同じ柄のついた剣が握られていた……。 |