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リナールとの戦いから一ヵ月が経った。秋風が冷たくなり、ライバの街は冬支度に追われていた。そんな中、クサナギ、ゼロ、阿修羅はすることもなく竜の牙亭で暇を持て余していた。復旧作業も農作業もほぼ終わり、仕事がなくなってきたのだ。実際、今まで沢山いた渡世人達も、その多くが仕事を求めてほかの街へと旅立っていった。 旅立ちといえば、この一ヵ月の間に色々な人々がこの街を後にしていた。元皇帝レオンナールは、裁判までの間リナラ預かりの身となることが決定し、二週間前にメリエンヌの部隊によって護送されていった。また、その一週間後にはティコ爺が王を説得し、再開したカストール牢獄の[名誉所長]として再び牢獄生活を送ることになった。そしてラマーナもまた、ライバ城での侍女見習いの修行を終えて数日前にノウラに向けて旅立っていった。 居なくなったといえば、ここのところイーリスの姿が見えない。また、セフィロスもどこかに旅立ったらしい。二人とも武者修行にでもいったのだろうか……。戦いの中に身を置く戦士としては今の平和なライバは居心地が悪いのかもしれない。御仁姫モ・エギは、遠出するゼノアの用心棒として付いていった。そしてミオもまたここのところ顔を見せていない。こちらはこの街から出たわけではなく、街の操兵再生工場の手伝いにジュウコーと共に出張しているのだ。 ほかに客のいない店内はとても静かであった。その時、この店の給仕娘で阿修羅の姉でもあるヴィシュヌが阿修羅を呼んだ。部屋で話があるというのだ。阿修羅は何故か、この姉をとても恐れている。それ故、逆らうことも出来ずに姉の部屋へと赴いた。 部屋ではヴィシュヌが卓を挟んで阿修羅を待っていた。おそるおそる近づき、姉に向かい合うように卓の側に立つ阿修羅。ヴィシュヌはおもむろに袖を捲った。その下には、一組の戦闘用小手が!。それは、阿修羅が着けている戦闘用の特殊小手よりも重厚なものだった。思わず身構える阿修羅。だが、ヴィシュヌはその小手を外して卓の上に置いた。 「私の[使命]を受け継ぐなら、この小手も譲らなきゃね。これは私たちの宗派に伝わる特別なもの。実際にはこれは[複製]だけど、貴方の着けているものよりはずっとよいものよ……」 阿修羅は自分の小手を外し、新たな小手を両腕に着けた。それは、今までのものよりも重かったが、取り回しはよく、違和感を克服すれば今まで同様に命中させることも出来るだろう。それも打撃力は今まで以上に。 しかも姉の話では、この小手には本当に[神聖な力]があり、[この世に存在ならざるもの]に対してさらなる打撃が与えられるという。もっとも、そんなものに出会うことなど早々はないのだろうが。 阿修羅に小手を渡したヴィシュヌは肩の力を抜いた。 「さてと、堅い話はこれくらいにして、せっかく姉妹が再会したんだし……よし、ここは私が久しぶりに腕によりをかけた手料理を作ってあげようじゃないの」 そういってヴィシュヌは阿修羅を連れて一階に戻り、店の厨房に入って料理を作り始めた。 マザの街からライバに続く街道を二台の荷車が進んでいた。東のほうから旅を続けていた[ルクサル商会]……彼らは、間もなくライバの街にたどり着くところまで来ていた。その商隊が現在雇っている数名の用心棒の中にその男はいた。 酒と煙草と(駄)洒落を愛するナイスな盗賊銃士ホセ。 ホセは馬上で揺られながら、他の用心棒達と別れを惜しんでいた。彼らはライバの街で契約が切れる。別にまた契約すればよいのだが、彼らは商隊とはまた別の目的地を目指す心積もりだという。そして現在のところあてのなかったホセはまだこの商隊の用心棒を続けるつもりでいた。 その時、一人の用心棒がこんな話をした。 「……なんでも、ライバじゃ一ヵ月前に大きな戦争があったって話だぜ。確か、[王朝結社]が街を乗っ取って、それを王様が軍隊を率いて取り戻したっていう……。ほら、見えてきた」 用心棒が指さした方角には、クサナギのエルグラーテとの一騎打ちで破れたレオンナールの操兵ファルメス・エンペラーゼの見るも無残な残骸があった。いったい誰がそうしたのだろうか、その機体は膝立ちで荒野にたたずんでいた。 「あれが、その王朝結社の首領が乗っていた[王家の操兵]だとさ」 用心棒の話を聞いたホセは、その操兵を見てこう呟いた。 「……そう……へえ……(操……兵……)」 …………………………。ともかく、ルクサル商会は昼頃にライバの街の門をくぐった。ルクサル商会の主人アルノ・ルクサルは通行税や登録など街に入るための手続きを済ませると、新たな用心棒を確保するためにこの旅人街にある筈の仕事斡旋所へと赴いた。そしてホセもまた、衛士の勧めで今夜の宿を竜の牙亭と決め、そこに向かった。 その竜の牙亭では、ヴィシュヌの手料理を阿修羅とクサナギとゼロらがご馳走になっていた。その料理はこの辺りでは珍しい大きな魚を使った料理だった。その見た目は目玉が飛び出しているなどかなり酷いものだったが、味は意外にも絶品だった。 料理を平らげたクサナギは、早速斡旋所に出かけようとした。今まではエルグラーテの修理費などはライバ王が持ってくれていたのだが、[王朝結社の乱]が終結した今となってはそうも行かない。クサナギとしてはもう少し、手持ちに余裕が欲しかったのだ。 その時、一人の男が店の入口をくぐった。鍔の広い帽子にポンチョ、その背にはバンジョー、口もとにはわずかに髭を生やしたいわゆる[男前]の部類に入る造形の顔の人物……ホセだった。ホセは店の主人に「部屋は空いているか?」と訪ねた。主人が開いていることを告げて鍵を渡すと、ホセはそれを受け取り二階へと上がっていった。そのポンチョを翻す仕種は、見るものを魅了する独特の[カッコよさ]があった。が、その後がまずかった。二階から派手に転ぶ音が聞こえたのだ。これではせっかく決めたのが台無しである。その音を背にしながらクサナギ達は斡旋所へと出かけていった。 斡旋所についたクサナギ達は早速窓口で仕事がないかどうかを訪ねた。するとその時、その入口から一人の商人がこの斡旋所に入ってきた。ルクサルだ。彼はやはり窓口に来ると、「用心棒を捜している」と言った。渡りに船、早速係員はクサナギ達を紹介した。 クサナギとゼロ、そして阿修羅は全員ルクサル商会に雇われることになった。報酬は相場通りの金貨三枚。出発は明朝。そして目的地はこのライバから南にあるレムの街だった。この街の側にはかつて、王朝結社の本拠地があり、クサナギがファルメス・グラーテを卑劣な罠で破壊されてしまった場所でもあるセレム山があった。 そして翌日、クサナギとゼロ、ホセはそれぞれの準備を終えて街の門に来ていた。そこには既にルクサル商会の荷車も来ていた。 そして少し遅れて阿修羅もやってきた。が、一行、そして商隊の面々はその出で立ちに驚いた。何と阿修羅は、こともあろうか豪奢なドレスを着こんできたのだ。思わぬ美女の登場で場が華やかになり喜ぶ商隊の面々。が、ゼロは心の中で呟いた。 「……[知らない]って事は幸せだよな……」 その時、一人の人足がエルグラーテを見上げてこう言った。 「そういえば、一ヵ月前に[王家の操兵]と一騎打ちをして倒した操兵がいたよな……確か、ファルメス・グ……何だったっけ」 透かさずゼロが答える。 「グラタン」 「……本当に、そんな旨そうな名前なのか……?」 「グラタン」 ……ともかく、こんな一行を連れて商隊はライバの街を後にした。 それから一週間ほど。商隊は特に何の妨害もなくレムの街近くの森に差しかかっていた。途中、荷車の車輪がはずれるなどの事故もあり行程が数日遅れてしまってはいたが、それ以外は順調に進んでいた(ただその間、ホセは何かしらの駄洒落を口にしては全員を脱力させていたが)。 だが、クサナギはこの旅の間ずっと、自機エルグラーテの不調に悩まされていた。心肺器の出力が上がらず、何故か視界が傾いている。肩部のジョイントも調子が悪いのか、両腕もだらん、とぶら下がっている感じがするのだ。一ヵ月前のデュークの操兵ヴァルパス・ヒラニプラとの一騎打ちの損傷はすべてミオが完全に修理した筈だった。ところが、ライバの街から出て以来ずっとこの調子なのだ。 この光景は、外から見たほうがわかりやすかった。頭部が傾き、肩を落としてとぼとぼ歩くその姿は、どう見ても[落ち込んでいる]ようにしか見えないのだ。そう指摘されてクサナギは仮面の額にある[フィールミウムの石]を見てみた。青く輝く神秘の石はこの操兵の意思を生み出す原動力となっている。が、クサナギはその輝きが少し[濁っている]様な気がした。 どうやらエルグラーテは[グラタン]と呼ばれたことを気にして、それで[落ち込んでいた]らしい。ゼロが励ますが、言った本人から励まされても嬉しくないのか、あまり効き目がないようだ。 そうこうしているうちに日が傾き、一行は街道の隅で野営の準備を始めた。街道といっても森の中。かなり木が生い茂っていて視界は悪い。しかも時折獣の声も聞こえてくる。さらに目的地であるレムの街はかなり[樹界]に近い場所だ。時折巨獣の類いも出現することがあるという比較的難所と言えるところだった。 やがて完全に夜が更けた。全員が食事を終え、見張りのクサナギとゼロ、そして阿修羅とホセを除いて眠りについたころ、突如異変が起きた。森の奥のほうから何やら茂みを揺らす音が聞こえたのだ。身構える一行。が、そこから飛び出してきたのは一人の少年だった。 一行が保護すると少年は、安心したのかそのまま気絶してしまった。その時、再び茂みが、しかも今度は大きく揺れた。そしてその中から数名の賊が現れた!。 が、一行はその賊の姿を見て驚いた。何と彼らは人間ではなかったのだ。その姿はまるで小さな鬼だった。そしてその後ろにひかえていたのは恐ろしい形相をした半リート強の棍棒を持った巨人だった!。一行を目にした小鬼と巨人は一斉に襲いかかってきた! 一行は商隊と少年を守りつつ、その奇妙な賊を迎え撃った。ホセはすぐさま茂みに隠れて敵の不意をつき、その背後から拳銃を撃ちはなって小鬼を射抜いた!。周りの小鬼達はその銃声に驚いた。どうやら彼らは銃というものを知らないようだ。そしてその隙を突いてゼロが小鬼に斬りかかり、数体を沈黙させた!。 阿修羅は今の今まで着ていたドレスを豪快に脱ぎ去った。が、その下に着ていたのは戦闘服ではなく、いわゆる[チャイナドレス]のようなものだった。思わず歓声を上げる人足達。その声を受けて、阿修羅は巨人に向けて裂帛功を放った!。精神に直接打撃を受けて朦朧とする巨人。 そこに、小鬼をあらかた退治したゼロが斬りかかり、巨人に大打撃を与えた。そしてクサナギのボルトアクション銃が火を吹き、それが止めとなって巨人は地響きを立てて倒れた。それを見た残りの小鬼達はすべて逃げ出した。ホセが追い打ちをかけてさらに一体を倒す。が、後はすべて闇の中に消えていった。 |