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戦闘は終わった。阿修羅はすぐさま少年に[気]を送り込み、彼を気絶から回復させる。すると、周りの人足達が感心した様に頷いた。 「……ホントに[僧侶]だったとは……」 どうやら彼らは阿修羅が聖職者であることを疑っていたようだ。まあ、当然と言えば当然ではあるが……。 ともかく一行は少年から事情を聞くことにした。少年はミックと名乗り、レムの街のさらに先にあるナウル村の住人だと言う。ミックの話によると、彼は猫科のケモノビトであるビョウの集落に捕らえられていたのだというのだ。 しかし、それを聞いたルクサルは疑問を持った。確かにナウル村の近くにはビョウ、そしてツバサビトの集落があるのだが、彼らはとても温厚で決して人間を襲ったりはしないはずだと言う。そしてそのことは、ケモノビトやツバサビトと交流を持ったことのあるクサナギとゼロもよく知っていたのだ。 だが、それにも構わずミックは話を続けた。 「でも、本当にあいつ等は[妖魔]を使って僕たちをさらったんだ!。そして恐ろしい[暗黒神]の生け贄にしようとしたんだ!!」 ミックの話は一行を混乱させた。「ヨウマ」「アンコクシン」……それは彼らにとって知らない言葉ばかりだった。ミックによると、あの小鬼は[ゴブリン]、巨人は[オーガ]というものだそうだ。自分の話を理解できない素振りを見せる一行に、ミックは苛立っているようだった。どうやらこの少年にとって、自分の話は[世界の常識]らしいのだが。 何はともあれ一行は、この場を離れてさっさと街に向かうことにした。これ以上ここにいて[へんなの]に襲われるわけにはいかなかったし、そして何より、ミック少年を一刻も早くナウル村に送り届けようと考えたためだ。 出発の準備のためにクサナギはエルグラーテを起動させた。それを見たミック少年は驚いてこう言った。 「それ……[動く]の……?」 どうやらミック少年は操兵を知らないようだ。それを聞いた一行は、ますますこの少年に疑問を持った。何故なら、この都市国家郡ではよほどの山奥でも操兵を知らない筈が無いほどに操兵は出回っているのだから。そしてルクサルの話によると、何よりナウル村で最近中古の操兵を購入したばかりだと言うのだ。では何故この少年は操兵を知らないのだろうか。 が、エルグラーテはこの「動くの?」という言葉を違った意味でとらえていた。 (……ウゴクノ?……ウゴクヨウニミエナイ?……ヨウスルニぽんこつ?……すくらっぷ……?) クサナギはエルグラーテの動きがさらに重くなるのを感じた。 夜を徹して進んだ一行は、無事にレムの街に着くことができた。とりあえず手続きを済ませて操兵駐機場へと向かった一行は、思わぬ再会をした。そこには、モ・エギとゼノアの部下達がいたのだ。モ・エギの話によると、ゼノアの用事でたまたまこの街に立ち寄ったという。 「でも、よくこの街の衛士達が門を通してくれたな?」 クサナギの疑問はもっともだ。モ・エギは樹界に住まう御仁の姫君であり、ライバ、そしてノウラ以外では人々の畏怖の対象となっているはずなのだ。現にノウラでも、最初のころは怖れられて操兵用荷車に縛られていたのだ。 モ・エギは自分の甲冑をクサナギに見せた。それは一ヵ月前の戦いの際に弟のス・アキを通じて御仁の[長老様]からモ・エギに贈られた[戦鎧紅葉武雷]だ。が、その甲冑に今まで無かったはずの小さな紋章が取りつけられていた。 「ゼノアさんがくれたんです。何でも、工房都市組合で一番信用の高い[紋章]で、これさえあればどこの街でも疑われることがないそうなんです」 そう語るモ・エギは何やら嬉しそうだった。モ・エギは本来、自分の奪われた[角]を取り戻すために樹界を出たのだが、その目的が(ある意味では)解決し、今では人間の世界を見聞するために旅をしているのだ。この紋章はそのための助けになってくれるのだ。 その時、クサナギはモ・エギの折れたはずの五本めの角が再び生えていることに気づいた。 「ああ、この角ですか?。もともと、角はいつでも生え変わることができたのですが、今までは私の[意地]があって……でも今はもう、振り切れたから……」 そこに、何やら難しい顔をしたゼノアがやってきた。が、彼は一行を見ると何故か嬉しそうな顔に変わった。 「いやあ、こんなところであなた方と出会うとは、ホントによいところで……。実はですね……」 ゼノアは[工房都市組合の公証人]という肩書きを見込まれて、奇妙な仕事を依頼されたというのだ。 「この先にあるナウル村では、ビョウ達との交流があるんですが……」 「そのビョウ達と、もめ事でもあったのか?」 「いえ、そうではないんです。村人とビョウ達は至って仲が良いそうです。むしろ依頼は、村人とビョウの両方からなんです」 ゼノアの話によると、何でもビョウ達の住む森に奇妙な集落が引っ越してきたのだそうだ。ビョウ達は最初、その集落の者達と交流を持つことを試みたが、彼らはビョウ達を[ヨウマ]だと言って追い立てたのだというのだ。ビョウ達はその集落を[人間]の集落だと思ったらしい。 ところが、ビョウ達から話を聞いた村人が代表を送って調べてみたら、彼らは何と人間ではないようなのだ。確かにその外観は人間のようなのだが、全体的に体格が華奢で、しかも最大の特徴として彼らは全員が[耳が長い]そうだ。彼らは自分達のことを[ヨウセイゾク]とか乗ったそうだ。 そこに、ミックが割り込んできた。 「それは[妖精族]の[エルフ]だよ。とっても奇麗な人達だよ」 ミックは夕べ一行に話したことをゼノアにも話して聞かせた。が、やはり理解してもらえず再び混乱した。そしてさらにミックはモ・エギを見て仰天した。まあ、これは当然だろう。実際、ルクサルも一行の話を聞かなかったらこの場から逃げ出していたであろうから。が、この少年の反応は明らかに違っていた。 「すごいや!こんな[ジャイアント]と知り合いだなんて……!」 と訳の分からないことを再び叫んでいたのだ。 一通りの話を終えたゼノアは、一行にこの件の解決のための助力を依頼してきた。だが、彼らは今、ルクサル商会に雇われている身であり、簡単に引き受けることはできない。幸い、この件にやはり疑問を持っていたルクサルが理解を示したので、一行はゼノアの依頼を受けることにした。そうと決まれば善は急げ、とばかりにホセが、 「出発は、は[妖精]やぁ(早うせいやぁ)……!!」 と一発かました。そして、その場は静寂に包まれた。 一行は、ゼノアとともに直接妖精族の集落に向かうことにした。本当なら、ミックをナウル村に送り届けることが先なのだが、何故かミックが集落に行くことを強く主張したのだ。まるで村に行きたくないかのように……。 街を出て再び森に入ってから半日が過ぎた。その間クサナギはエルグラーテの調子が夕べとは打って変わって調子がよいことに疑問を持っていた。そう、あまりにも操縦通りに動きすぎるのだ。再び意思が消えたのだろうか……。いや、そうではなかった。エルグラーテは[機械になりきる]ことで今までの[グラタン]そして[ウゴクノ?」によって受けた[心の傷]を忘れようとしていたのだ。 そんな時、クサナギとゼロ、そしてモ・エギは頭上の木から視線を感じた。誰かに見られているようなのだ。ゼロがその木の上に呼びかけてみる。すると、一人のビョウの少女が木の上からするすると器用に降りてきた。彼女は一行の耳を見て長くないことを確認すると、安心して話しかけてきた。 「よかったぁ……[あいつ等]じゃなかったんだぁ」 このビョウの少女はリラと名乗った。彼女は冬支度のための狩りをしていたのだ。が、最近[妖精族]との縄張り争いのために狩りがうまくいっていないという。縄張り争いといっても、もともと[森の恵みは誰のものでもない共通のもの]と考えているケモノビトにはそういった意識はなく、一方的に妖精族が彼女達に攻撃を仕掛けているだけなのだが。 その時、ゼロはおもむろにリラの顎をさすった。するとリラは急に気持ちよさそうな顔になった。 「や、やめてよ、条件反射で、あ……あ……」 そのほほえましい(?)光景にモ・エギは思わず兜を脱ぐ。が、それを見たリラは驚いた。そして悲鳴のような声で騒ぎ出した。 「は、早く村の人たちにしらせなくっちゃ……[御仁様]が……御仁様が……」 そう、[御仁]は彼女達ケモノビトにとっても特別な存在だった。ただし、人間とは違って、畏れ敬う[樹界の住人]であるという違いはあるが。そして、そのこともモ・エギ達御仁にとっては、やはり[迷惑]なのだが……。 そのモ・エギの感情を察したゼロはリラを捕まえた。そして、モ・エギが自分達の友人であることを告げた。 「モ・エギ。この子を手のひらに乗せてやってくれ!」 「……いいわよ」 モ・エギはリラを掌の上に乗せ、ほほえんでいる自分の顔に近づけた。リラは驚いて声も出なかったが、モ・エギが彼女の髪の毛をなでてやると、次第に落ち着いてきた。 「ちがぁう!!。顎を撫でてやるんだ!!」 ゼロが足下で叫ぶ。それを見たホセは、「つまらんことにこだわるな……」と呆れていた。 その時、ゼノアの馬車からミックが出てきた。 「そいつは妖魔だ!。早くやっつけてよ!!」 それを聞いたゼロは思わずミックを押えつける。やはりどう考えてもビョウがこの少年を襲ったとは考えられないからだ。それでもミックは叫んだ。 「みんなこの妖魔に騙されているんだ!。僕は本当にこいつ等に捕まって、暗黒神の生け贄にされそうになったんだ!!」 ゼロはリラにこの少年に見覚えがないかどうか聞いて見た。が、やはり知らないという。そもそもケモノビトは、自然そのものやそこに住むとされている[精霊]を崇拝してはいるが、いわゆる[神]というものは信仰してはいないのだ。結局ミックはゼロに押さえ込まれたまま黙るしかなかった。 |