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リラと別れた一行はさらに森の奥へと進んだ。彼女の話によるとおそらく、そろそろ妖精族の集落が見えてくるはずだった。また、彼ら妖精族は(ビョウほどではないが)身が軽く、木の上からの弓による射撃が得意なのだそうだ。 その時、またも頭上のほうから何者かの気配が感じ取られた。が、今度は先ほどとは違い、わずかだが殺気が感じられた。一行がその気配に向かって誰何すると、木の影からおそらくその妖精族と思われる者達が顔を覗かせてこちらの様子をうかがった。そしてすぐに枝を伝ってこの場から離れた。 一行はすぐに後を追いかけた。そしてしばらく進むと、一行の目の前に妖精族の集団が現れた。彼らは手に手に剣や弓矢を構えており、明らかに警戒していた。ゼノアは妖精族に向かって自分達に敵意がないことを伝えようとした。 「待ってください。私たちはあなた達と話し合いに来たのです」 「ふん!。[巨人]を従えてくるものなど、[妖魔]の仲間に決まっている!!」 どうやら、エルグラーテとモ・エギを警戒しているようだ。が…… 「お待ちなさい」 と、一人の妖精族の女性が姿を現した。それと同時に他の妖精族が道を空ける。どうやら彼等の族長らしい。その姿は美しく、まるで[昔話]に出てくるような伝説の住人のようだった。が、彼女にはどこか[冷たさ]のようなものも感じ取られた。その女性は、エルグラーテを見てこう言った。 「あれは、[巨人]ではありません」 それを聞いたゼノアは、ほっとした表情になった。 「やっと、話の判る方が出ていらっしゃいましたね」 が、次の彼女の言葉は再びゼノアを脱力させるのに十分だった。 「あれはおそらく[アイアンゴーレム]……。ゴーレムが勝手に動く訳はありません。おそらくどこかに、強力な[魔導士]がいるはずです。油断はなりません!!」 クサナギは彼等の敵意を解くためエルグラーテの操手槽をあけ、そして機体から降りた。ゼロ、阿修羅、ホセ、そしてモ・エギも戦闘体制を解いた。しばらくの睨み合いの後、妖精族もとりあえず戦闘体制を解き、話し合いに応じた。 族長である女性はウインシアと名乗った。そして彼女達妖精族は、数百年前に[剣の世界]という別世界からこの地にやってきたのだというのだ。その言葉を聞いてクサナギとゼロは思い当たることがあった。剣の世界といえば、以前死人の軍勢を率いてノウラを襲撃した謎の怪物[翁獅子]が、自分の身の上話をした時に語っていた言葉の一つだったのだ。どうやら妖精族はその翁獅子と同じ世界の住人のようだ。 ゼノアがウインシアに先ほどの[あいあんごーれむ]という言葉の意味を訪ねた。 「アイアンゴーレムとは、[魔法]によって造られた、[動く彫像]のことです」 それを聞いたゼノアは激怒した。 「あ……あなた、そんないかがわしいものと[操兵]を一緒にしないで下さいよ!。そもそも操兵は我々工房都市の技術者達が開発した[技術]によるものであって、決して[魔法]などといういかがわしいもので出来ているわけでは……」 そこにゼロが割り込み、ゼノアを止めた。 「なあ、落ち着けよ。その操兵だって、[仮面]とやらの[力]で動いてんだろ!」 「ぜぇ……ぜぇ……ま、まあそうですけど。でもあれは[練法]という[科学]であり、決して魔法などでは……。確かに仮面とは別に、練法によって造られた[彫像怪物]というのがいるというのは聞いたことがあるのですが……」 「で、それは操兵より強いのか?」 ゼノアはかぶりを降った。 「いいえ。確かに頑丈で力は強いのですが、操兵に乗っている限りは決して負けることはない、と工房都市の古い記録にあったのを読んだことがあります」 しばらくの雑談のあと、会談は本題に入った。ゼノアはウインシアに何故、妖精族がこの地に来たのかを問いただした。 「私たちは数百年前に[異界の門]を通じてこの[世界]に来てしまいました。そして、帰る方法もわからないまま私たちはしばらく森の奥で暮らしていました。ところがその森に最近、巨大な[蟲]が現れて、私たちはその地を離れなければなりませんでした」 どうやら、妖精族はよりにもよって樹界のそばで生活していたようだ。ウインシアは話を続けた。 「そして私たちはようやくこの素晴らしい森にたどり着きました。ところが、この森には[妖魔]が住んでおりました。なんて事でしょう!!。せっかくたどり着いたこの地に、あのような汚らわしいもの達が居着いてしまっているなんて!。そこで私たちはこの森を妖魔の手から[取り戻す]ために戦うことを決意したのです」 その勘違いかつ身勝手な言い分に一行は腹を立てた。そしてビョウ達が決して彼等のいう[妖魔]ではないこと、そしてこの戦いがまるで意味がないことなどを告げ、彼等を説得しようとした。が、ウインシアは全く耳を貸そうともせず、むしろ一行は妖魔に騙されているのだと諭そうとする。そしてミックもまた、「エルフの族長が嘘をつくはずがない」といってウインシアの肩を持つ。 話し合いが平行線のままとなった時、ゼノアがため息をついて言った。 「これでは埒があきません。また、後日に来ましょう」 一行は、とりあえずこの集落を後にした。 結局なんの成果も得られぬまま、すっかり暗くなっていた森を一行はレムの街に向かって進んでいた。その時、一瞬だが何かが一行の前を通りすぎ、そのまま茂みの中に消えていった。クサナギがエルグラーテに装備されている赤外線視覚装置を作動させ、その正体を探る。それは、人間の子供くらいの大きさで、その身のこなしからすると、おそらくはビョウの子供と推定された。 いくらビョウでも子供だけでこんな時間に森をうろつくのはちょっと怪しい。そう感じた阿修羅とホセはその人影を追いかけて茂みの中に入っていった。二人がしばらく進んでいくとやがて森を抜けた。そこは、中央に大きな木が一本だけ立っている広場だった。 阿修羅とホセはその木に近づいてみる。するとその大木の根元に大きな虚があるのが見える。そしてその枝の上には、大きな鳥がとまっているのが見えた。いや、それは鳥では無かった。この辺りに住むツバサビトの一種のようだ。その梟を思わせる顔からすると、どうやら夜行性の種族のようだ。そのツバサビトは警戒するように二人をじっと見ていた。その時、 「大丈夫だって……気づかれないよ……」 と、虚の中から複数の子供の声が聞こえてきた。阿修羅は虚の中に向かって声をかけ、自分達が敵でないことを告げた。見つかってしまったことで観念したのか、中からビョウの子供、そして何故か妖精族の子供達が数人ほど出てきた。 そのころ、森の中で二人の帰りを待っていたクサナギとゼロは、二人が心配になり、エルグラーテの機体をゼノアとモ・エギに任せて自分達も森の奥に入っていった。そして、やはり森を抜けた広場に出て、子供達と話をしている阿修羅とホセに合流した。 一行は、子供達に何故こんなところにいるのかを訪ねた。すると虚の奥から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。 「この子達は、私を匿ってくれているのです……」 その女性は、先ほど妖精族の集落で出会った彼等の族長ウインシアだった。が、その雰囲気は先の彼女とは違い、どこか温かみがあった。果たして、このウインシアは先のウインシアと同一人物なのだろうか……。 その疑問には彼女自身が答えた。話によると、今集落にいるウインシアは[偽物]だというのだ。そして自分は、その偽物に殺されそうになったところを子供達に助けられた。そして集落を脱出して森をさまよっていたところを今度はビョウの子供達に匿われたというのだ。 「いったい、誰がそなたに化けたのだ?」 「……それは……」 「やれやれ、もうばれちゃった。でも、こんなところに隠れてたなんて……」 その時、いつの間に来たのだろうか、一行の後ろにミックが、とても少年とは思えない邪悪な表情を浮かべて立っていた。それを見たウインシアは声を荒げて叫んだ。 「……貴方……[スプリガン]!!」 [すぷりがん]と呼ばれたミックは、残忍そうな笑みを浮かべて笑った。そして次の瞬間、その体が巨大化し、身の丈1リートもの異形の巨人に姿を変えた!。そう、ミックは最初から騙す目的で一行に近づいてきたのだ。変身を終えたスプリガンは一行を見下ろして言った。 「は、は、は!もともとはお前達を騙してその[猫人]共と戦わせようと思ったんだが、こうなっては仕方がない。ここで死んでもらうぞ!!」 一行は各々武器を構えて身構え……ようとはしなかった。それを見たスプリガンは一行をあざ笑った。 「はぁーっはっはっ……!。怖じけづいたか、この[チビども]!!」 「何よ……あんた、大きくなってもまだ[チビ]じゃない!」 その声に振り返ろうとしたスプリガンだが、時既に遅く……いつの間にか後ろに立っていたモ・エギに掴み上げられた。そう、彼は肝心なことを忘れていた。自分が[本来の姿]に戻っても、モ・エギとはまだ倍以上の体格差があるということを……。その後、スプリガンはゼロとホセの射撃の練習台となった。 観念したスプリガンを操兵用のロープで縛り上げた一行は、後から駆けつけたゼノアとモ・エギを加えて再びウインシアの話を聞いた。その前に、モ・エギを見たショックで混乱したウインシア、そしてビョウ、ヨクの子供を落ち着かせるのに時間がかかったが……。 「私に化けて、村を乗っ取っていていたのは[グルネル]と[ザルバード]という[悪魔]です」 その名前を聞いた一行は、やはりピンと来なかった。だが、悪魔という言葉にはゼノアが反応した。もっとも、それも[お伽話]で[人間を騙そうとして逆に騙されるお話]が多い、というものだが。クサナギが、なぜ自分が出て反撃しないのか、と問うと、ウインシアはそれは出来ない、と言った。 「こちらの[世界]の[精霊]は私たちのそれとは性質が違うみたいなので、[シャーマンマジック]が使えないのです。それに、奴等に私たちの守護神と言うべきものを奪われてしまいました。もし、その名を聞いたら、いくら[名のある冒険者]であるあなた方でも、逃げ出してしまうでしょう……」 一行は固唾をのんだ。[名のある冒険者]という言葉にはいまいちピンと来ないが、ウインシアはモ・エギやエルグラーテを見た上で言っているのだ。きっと、すごい存在なのかもしれない。一行は続く彼女の言葉を聞いた。 「それは、[シルバーエント]。私たちの知り合いの[魔導士]が造り上げた[ミスリル・ゴーレム]です」 一行は、また首を傾げた。ま、こっちにはエルグラーテとモ・エギもいるし、[悪魔]といっても剣と銃が効かないわけでもない。それに、その手のものに強い(かもしれない)阿修羅もいるし何とかなるだろう。一行は戦う決意をした。 その時、ゼロがエルグラーテに向かって叫んだ。 「グラーテ!。今こそ[汚名返上]の時だ!!。今こそお前の力を見せてやれ!!」 クサナギはエルグラーテの心肺器の出力がいつになく高まっていくのを感じた。そして新造古操兵ファルメス・エルグラーテは力強く大地に立った。だが、もともとエルグラーテを[落ち込ませた]のはほかならぬゼロであったはずだ。そのゼロの言葉で立ち直ってしまうとは……案外エルグラーテの[意思]は根が単純なのかもしれない。 翌日、一行はスプリガンが消えていることに気づいた。一体誰にも気づかれずにどうやって……。そう、縛っていたロープを残して、まるでこの場から煙のように消え去っているのだ。[すぷりがん]が秘めた邪悪な力だろうか?とりあえず一行は、村に行ってみることにした。村への抜け道は妖精族の子供達が知っていたので、彼らの案内で無事に集落の近くまでやってきた。 その途中ゼロは、いままでの話の中で感じた疑問をウインシアに訪ねた。 「なあ……姉ちゃん一体、いくつなんだ……?」 女性に年齢を聞くのはとても失礼な行為なのだが、そんなことは気にしないのか、平然と答えた。 「725才……ですけど」 ゼロは衝撃を覚えた。せっかく[まともな]女性に逢えたと思ったのに、と。何せ周りにいるのは、[あの]阿修羅と[あの]モ・エギなのだ。とても[まともな]女性とは言いたくなかった。試しにゼロはモ・エギにも同じ質問をぶつけてみた。 「……多分……100年くらい……かな……」 …………。 そして集落の側まで迫った一行の耳に、その集落から偽のウインシアの声が聞こえてきた。どうやら、集落の妖精族全員を相手に演説しているようだ。 「皆さん!。私たちはこの森を妖魔の手から取り戻さなければいけません。そしておそらく、近くの人間の村のもの達も妖魔に洗脳され、暗黒神の信者になってしまっているでしょう。私たちはそれらのものとも戦わなければなりません」 それを聞いたウインシアは思わず叫んだ!。 「待ちなさい!。そこにいる[私]は偽物です!!。本物の私が、そんなことを言うはずがありません」 そこに透かさずホセが割り込み、またも[必殺の一撃]的な一言をかました。 「悪魔に騙されるたぁ……ひ[デーモン]だなぁ……(ひでぇもんだなぁ)」 ……………。 |