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もう一人のウインシアを見、ホセの駄洒落を聞いた妖精族たちは混乱した。そして、偽物もまた、観念したように呟いた。 「まさか本物が帰ってくるとは。こうなれば仕方がない。せめてここにいる者達を全滅させてやる!」 そういった瞬間、その偽物は本性を現した。その姿は、ドス黒いヌメヌメとした皮膚で体毛がなく、尾を生やした異形の姿をしていた。そして右手には、一振りの長剣が握られていた。それを見たウインシアはゼロに警告する。 「グルネルは[エンチャントマジック]に長けています。きっと、今手にしている剣は[魔法の剣]です。どうか気をつけて!」 ゼロは頷くと、グルネルに向かっていった。 一方、グルネルのほうもエルグラーテを見て驚愕していた。その時、異形の黒い影がグルネルに話しかけた。 「だから言っただろう……あのような[ゴーレム]がこの世界には広く存在しているのだ、と……」 その姿にクサナギとゼロは見覚えがあった。そう、二人がかつてノウラの街で戦った[マンティコアのライブリオス]こと[翁獅子]または[妖怪獅子爺]だった。でもそれは、先の戦いで完全に息の根を止めたはずだったが。 その答えはすぐに分かった。翁獅子の姿が透き通っているのだ。どうやら翁獅子は[亡霊]になってしまっているようだ。これでは、銃も剣も効果がない。どうすればよいのだろう。 亡霊の姿を見たその時、阿修羅は姉の言葉を思い出した。そう、この[小手]には、あのような[この世に存在してはならぬもの]にこそ、絶大な効力を発揮するのだ。どうやら彼の相手は阿修羅が勤めることになるらしい。 一行が戦闘体制を取るや、グルネルは何かを呼ぶ仕種をした。すると周りからやはり蝙蝠の羽を生やした小さな生き物が大量に飛んできた。どうやら彼らの下僕のようだ。 「ゆけぃ![インプ]共よ!!」 それらは空を飛んでおり、とても剣が届かない。ここはホセの出番だった。 それぞれの相手が決まったところで戦闘が始まった。クサナギは先制とばかりに、エルグラーテの肩部に搭載された96式回転機関銃をシルバーエントに向けて発射した。轟音を立てながら回転するガトリングガンは動きの鈍いシルバーエントを確実に捕らえた!。が、その頑丈さは半端ではなく、その弾丸をすべて弾き返した。そしてその跳弾は周りで戦っている者達にも影響を与えた。 「わぁ!!。クサナギさん、ガトリングは危険ですぅ!!」 モ・エギが悲鳴のような声で訴える。そのモ・エギの前に突如スプリガンが出現した。どうやらこいつが突然姿を消したのは、野営地に忍び寄った翁獅子によって逃がしてもらったおかげのようだ。スプリガンはモ・エギに果敢にも襲いかかった。 一方、阿修羅は翁獅子と向かい合った。相手は肉体を持たない存在だ。が、当然精神はある。阿修羅は裂帛功を試した。これならば直接精神に打撃を与えることができると踏んだからだ。が、翁獅子はその攻撃をはねのけた。精神しかないということは、逆に言えば精神の防御もまた固い、と言うわけだ。 仕方なく阿修羅は、両腕の小手による攻撃に切り替えた。そしてその攻撃は通用した!。そう、確かに手答えがあったのだ。たまらず翁獅子も反撃する。が、阿修羅の巧みな防御の前になす術もない。そして逆に阿修羅の攻撃を受けてその精神を磨り減らせていった。 ゼノアはゼロを援護するために自ら銃を手にした。どの道、部下は置いてきたので、そうするしかなかったが……。だがゼノア自身は所詮公証人、その射撃は頼りないものだった。そんな援護を受けながらゼロはグルネルと戦っていた。グルネルはさすがに魔剣を所持しているだけあって、なかなか手ごわい。が、エルグラーテのガトリングに驚いて動きが止まった瞬間を狙い、ゼロはこの魔剣を持った悪魔に一撃を加えた!。深手を負わせたが、それでもグルネルは倒れなかった。そしてゼロに対して剣の攻撃を繰り出した!。 ゼロは武繰の技で[見切]ろうとした。が、グルネルは剣の攻撃に見せかけて、強烈な尾の一撃をゼロに食らわせた!。それを受けて転ばされるゼロ。その隙をねらってグルネルはゼロに剣を突き立てる!。が、今度は[見切り]が功を然してその攻撃をよけた。そしてすぐさま立ち上がると、ゼロは空中に飛び上がった。飛翔、といってもよい。そしてそのままグルネルの頭上に落下し、その落下エネルギーを乗せた一撃はグルネルを真っ二つにした。[天剣]の技の一つ[天翔]だ。グルネルは何が起こったかわからないまま絶命した。 インプは分散してホセとウインシアを襲っていた。ここでやらなきゃ格好がつかん。そう考えたホセは、手にした拳銃を連射してウインシアの周りのインプを片っ端から撃ち落とした。そしてあっというまに殆どのインプを撃ち落とすと、ウインシアを守るために彼女の側に寄った。 「大丈夫。私が守って見せますよ!」 そういってウインシアに微笑みかけたホセは、今度はザルバードに銃口を向けた。 そのころ、モ・エギはスプリガンと戦っていた。が、それは戦いと呼べるものではなかった。もとより半神である[御仁]と唯の[巨人]であるスプリガンではあまりにも格が違いすぎたのだ。結局、スプリガンはモ・エギの七枝刀と鉈の一方的な猛攻を受けて地に伏した。 シルバーエントの頑丈さを思い知ったクサナギは、今度は大太刀による攻撃に切り替えた。が、ここぞというときに不幸に見舞われるクサナギは、やはりここでも操縦桿から手が滑るなどのミスが目立ったが、それでも数回、打撃を与えた。どうやらこちらは効果があるようだ。シルバーエントは機械的に腕をふるって反撃する。が、その動きは鈍く(これでもゴーレムの中では俊敏だ、とウインシアは言っていた)、その攻撃はエルグラーテにかすりもしない。 そのゴーレムの肩の上ではザルバードが苛立っていた。まさか(彼らの世界では)最強のミスリルゴーレムが全く歯が立たないことがあろうとは……。その時、そのザルバードを一発の銃弾が襲った!。無様に地面に落ちるザルバード。その銃弾はホセの拳銃によるものだった。ホセは続け様に拳銃を撃ち、ザルバードを確実に負傷させていった。 命令者であるザルバードが攻撃を受けたことで、シルバーエントは動きを止めた。クサナギはこの機を逃さず大太刀と爆砕槍の連続攻撃でミスリルゴーレムを攻撃してそのまま押し倒す。動かない彫像は成す統べもなく、地面に倒れた。 ホセはザルバードに向けて銃弾を浴びせかけた。が、途中で弾が切れ、ゼロから借りていた拳銃に切り替えた。しかし悪いことは続くもので、再発射しようとしたその銃が故障、攻撃不能となってしまった。 ザルバードはその隙を突き、シルバーエントを操っていたその杖を構えてエルグラーテに突撃した。クサナギはエルグラーテの腕で仮面を防御させる。だが、この空飛ぶ悪魔の狙いは[仮面割り]ではなかった。ザルバードは何やら呪文を唱えながら杖をふるった。それを見たウインシアがクサナギに警告する。 「大変!。ザルバードはあなたの[ゴーレム]を[乗っ取ろう]としています!!」 だが、時既に遅く、エルグラーテは異様な光に包まれた。そして、エルグラーテの周りは静寂に包まれた。そう、ザルバードが持っていた杖は、シルバーエントだけではなく他人の造りあげた[ゴーレム]をも乗っ取る力のある[コマンドゴーレムワンド]なるものだったのだ。 ウインシアの叫びを聞いたゼノアが言った。 「ふ……操兵があんな[へんてこな]杖に操られることは……」 が、事態は意外な方向へと進んだ。エルグラーテの操手槽の中からクサナギの悲痛な叫びが拡声器を通じて聞こえたのだ。 「……何だ……!!エルグラーテが言うことを聞かない!!」 だが、その叫びはどことなくわざとらしかった。そして、それを聞いたゼロもまた、わざとらしく「なぁんてこった!」と叫んだ。 その叫びを聞いたザルバードは調子に乗って叫んだ。 「はぁーっはっはっはっ。これでこの[ゴーレム]は俺のものだ!。最強のミスリルゴーレムを倒したんだ、おそらくはこの[世界]すべてを滅ぼすことができるであろう……」 そして、阿修羅相手に苦戦している翁獅子に向かってこう言った。 「ふ、そんなマンティコアの亡霊なんぞよりも、はるかに役に立つ!」 その言葉にライブリオスはいたく傷つき、落ち込んだ。そこに阿修羅が話しかけた。 「……もう、いい加減にしたら?」 ライブリオスは観念したように呟いた。 「……後世じゃ……成仏させてくれ……」 阿修羅は[気]を込めた一撃をライブリオスに叩きつけた。何の抵抗もせずにそれを受けるライブリオス、そしてこの哀れな亡霊はかき消すようにいなくなり……いや、本当に消滅してしまった。 「ふん!。やはりその程度の奴だったか……所詮は魔獣だな……。だが、もうそんな奴を頼る必要などない!。そうか、[真の名]はエルグラーテというのか」 ザルバードは杖を振るってエルグラーテに命令を下した。 「さあ、エルグラーテよ!。お前のかつての主人たちを踏みつぶすがいい……!!」 それを聞いたクサナギは必死になって叫んだ。笑いをこらえながら……。 「よせ、やめろエルグラーテ!!」 その叫びもむなしく、エルグラーテは仲間たちのほうにゆっくりと振り向いた。勝ちが見え高笑いをするザルバード。が、その笑いもこれまでだった。エルグラーテはそのまま一回転して再びザルバードのほうに向いたのだ。そしてそのまま、ガトリングガンの銃口をその残忍な魔族に向けた。今度は、ザルバードが慌てふためく番だった。 「……ど、どうした!。なぜ言うことを聞かない……!!」 クサナギはガトリングガンの引き金を引いた。轟音が辺りに響き、銃口が回転しながら火を吹いた。そして無数の銃弾がザルバードを粉々に粉砕した。 戦いは終わった。ウインシアはすべての顛末を一族のもの全員に話して聞かせ、ビョウたちとの間のわだかまりを解くように説得した。魔族に騙されていたことに気づいた妖精族たちは全員納得し、ウインシアの指示に従った。 ゼロはグルネルが残した[魔剣]をどうするべきか思案していた。魔剣と言えば、あのサイラスが持っていた剣を思い起こさせる。が、ウインシアの話によると、グルネルの[付与魔法]はせいぜい命中精度と打撃力を上昇させるくらいなので特に呪われることは(めったに)ないと云う。 だが、ゼノアによれば、[魔剣]であることが証明する方法がないので、高く売れることもないという。何せ、この都市国家郡では[魔法]はほとんど信じられていないのだ。結局ゼロは、モ・エギに手伝ってもらい、この魔剣を地の底深く埋めた。 また、ザルバードが所持していた[コマンドゴーレムワンド]も無事に残っていた。それはホセの手によってウインシアに返還された。シルバーエントはエルグラーテの爆砕槍を受けたとはいえ、まだ稼働可能な状態にあった。が、ウインシアはこの戦いによって、もはやこのミスリルゴーレムが絶対的な守護神ではなくなっていることに気づいていた。 ゼノアはクサナギに話しかけた。 「クサナギさん。その爆砕槍の二股の槍は、いったい何で出来ているんです?」 「……[セラミック]ではないのか……?」 ゼノアはかぶりを降った。この爆砕槍は[王家の操兵]ファルメス・エンペラーゼの聖剣[ファーラス]をも打ち砕いたのだ。唯のセラミック槍ではない、という。では、いったい何で出来ているのだろうか。もともとこの槍そのものは、グラーテの谷に操兵とともに伝わっていたというのだが。 周りでは妖精族、ケモノビトの違いなどまるで関係ないかのように子供たちが一緒になって遊んでいた。その光景は、今までの両者の争いなど、滑稽に見えてしまうほど賑やかで、微笑ましいものだった。 その翌日、妖精族とビョウとの間で和解の宴が開かれ、その両者の間を取り持つ形となった一行は主賓として招待された。彼らは今までの争いがまるで嘘みたいに杯を酌み交わし、歌い、踊った。もともと妖精族もビョウも陽気でお祭り好きな人々なのだ。 かくして、[剣の世界]の来訪者たちが巻き起こした騒動はこうして幕を閉じた。一行は妖精族とビョウの感謝の言葉に見送られながら、レムの町へと帰っていった。 |