キャンペーン・リプレイ

第 二十一話 「 彼 の 者 達 の 起 源 」    平成11年12月5日(日)

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 ほぼ復旧が終わり、人々が冬支度に入ったライバの街に一人の珍客が訪れた。それは、風変わりな女性だった。
「〜まあ、大きな街ですねぇ〜。それに、煙があんなにいっぱい。きっと、大勢の食事の支度でもしているのでしょう〜」
 その煙は実際には、ライバ名物の工場群の蒸気なのだが、彼女は理解していない……と、言うより、この女性、工業関係のことをまるで理解していないようだった。この時代、どんな田舎町の出身でも工業自体の存在は知っているのが普通だ。いくら何でも知らなさ過ぎだ。
 ともかく、好奇心をくすぐられたその女性はここで仕事を見つけようと、ライバの街門をくぐり入って行った。
 この女性を見た門の役人は、彼女の顔を見て驚いた。その女性の耳は、明らかに通常の人よりも長かったのだ。
 同じ頃、竜の牙亭ではクサナギとゼロ、セフィロスと阿修羅、そして久方振りに顔を出したイーリスが、特にすることもなく暇を持て余していた。
 ルクサル商会の用心棒の仕事からはや二週間以上が過ぎ、それ以来全く仕事はなかった。復旧作業はほとんどが終了し、畑仕事も刈り入れはほとんどが済んでいたこの時期は、渡世人にとってもまさに冬だった。もっとも、イーリスとセフィロス、そして阿修羅は、工事現場や畑などで働く気など全くなかったのだが。
「なぁ、クサナギ〜なんか[揉め事]取ってきてくれよ〜」
 ゼロが物騒なことを言う。確かにクサナギがいるところ何故か事件は絶えないのだが、これはあまりにもひどい。別にクサナギがすべての事件を起こしたわけではないのだ。
「イーリス、また[敵]になれ!」
 セフィロスのその言葉にイーリスが返す。
「セフィロスが組んでくれたら、ね……」
「だめだ。俺は[正義の味方]やるんだから……」
 不毛な会話が続いた。いくらすることがないからといっても、ここまで堕ちることはなかろうに……。
 王朝結社の事件からすでに二ヵ月、この街はすっかり平和を取り戻していた。だがある意味それは、戦いを続けてきた彼らの心に[渇き]のようなものを残したのかもしれない。
 ちなみに事件の顛末だが、レオンナールをはじめとした王朝結社幹部の裁判は、いまだ開かれるという話は出ていない。各国の思惑が複雑に絡み合い、論議が進まないのだ。現在、レオンナールはリナラに軟禁状態となっており、裁判の日を待つ毎日だと云う。そしてサイラス、リナールは、先日の事件で捕らえられたリガーブとともに、ライバの地下牢に監禁されている。
 一行が不毛な会話に興じているその時、一人の女性が店の入口をくぐった。それは、先ほどこのライバの街に着いたばかりの例の耳の長い女性だった。彼女は衛兵に通行税をまけて貰おうとしたが叶わず、代わりにこの竜の牙亭を紹介されてやってきたのだ。
 女性を見たクサナギ、ゼロ、阿修羅は彼女が何者なのかがわかった。そう、この女性はレムの街近くの森に最近住み着いた[妖精族]と呼ばれる種族だったのだ。妖精族とは、遥か昔に何らかの原因で発生した[異界の門]を通って[剣の世界]からこの[世界]にやってきた者達だ。彼女達は見た目は美しいが実はかなりの長寿で、しかも老化をしないという。
 クサナギとゼロ、阿修羅はふとしたことで妖精族とビョウとの間の揉め事に巻き込まれ、そしてその背後で暗躍していた[魔族]なるものを退治してその事件を解決しており、それゆえにこの女性の素姓を理解することができた。
 ゼロに話しかけられたその女性は、どこか抜けたようにそれに答えた。彼女はアファエルと名乗った。

好奇心の赴くままに旅を続ける呑気な妖精族アファエル。

 アファエルはやはり、レムの街の近くに住む妖精族の一人だった。ただ、クサナギ達が例の事件に関わっていた時には既に集落から旅立っていたという。
 ゼロは無礼にもアファエルの年齢を聞いた。妖精族は見た目からは年齢が想像できず、アファエルも例に漏れず、かなりの高齢だった。それを聞いたゼロとイーリスが彼女を[オバサン]呼ばわりすると、アファエルは[のほほん]とした表情のまま立腹した。
 アファエルを加えた一行は、とりあえず斡旋所に行くことにした。ここにいても何も始まらないからだ。まあ、先日まで特に何もなかったのだから、次の日になっていきなり仕事が入るとは思わなかったが……。
 阿修羅は最初、面倒くさがって行こうとはしなかった。が、そこに姉のヴィシュヌがやってきた。阿修羅が極度に恐れるこの姉は、現在阿修羅に代わってこの街で自分の宗派をまとめ上げている傍ら、この竜の牙亭で給仕娘として働いているのだ。そのヴィシュヌがにこやかに微笑みながら阿修羅にこう言った。
「……で……!!」
 阿修羅は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。阿修羅は宗派をまとめてもらう見返りとして、ヴィシュヌの代わりに奇面衆に関する調査をすることを約束していたのだ。今の彼女の一言は、その調査の現在の状況を聞いてきたものだった。
「さ、何しているのよ。早く行きましょうよ、早く……!!」
 阿修羅はクサナギの手を引いて、逃げるようにこの場を後にした。
 斡旋所に顔を出した一行は、仕事が来ていないかどうかを知るために窓口へと向かった。するとそこには、一組の男女が何かの手続きをしていた。どうやら仕事の依頼らしい。その男女は二人とも、軽装だが旅慣れた格好をしていて、まるで冒険家のようだった。
 一行に気づいた窓口の係員はちょうどよい、とばかりに二人を紹介した。この二人は、アルバートとその妹メリアと言った。アルバートの実家はマザで実業家をしているのだが、その家業を弟に任せて自分は妹と一緒に冒険家として暮らしているという。
 アルバートはこの街で冒険旅行の用心棒をしてくれるものを捜しているという。どこに向かうのかを問われたアルバートはサラリと大変な場所を口にした。
「私たちの今回の冒険の目的は、[樹界]なのです」
 それを聞いたゼロは青ざめた。[樹界]と言えば、御仁族や蟲、そしてモノノケと言った人外の[モノ]達が住まう広大かつ危険な秘境だ。この都市国家郡のみならず、トランバキア帝国、羅・諸国連合の地を越えて広がるこの森に足を踏み入れたものは、殆どの者達が帰って来ないという。が、この樹界にはクメーラ帝国、そしてそれ以前の[プレ・クメーラ文明]の遺跡や、未知の薬草、資源なども眠っており、一部の人々は危険を承知で探索することがある。だが、この兄妹の目的は、単なる知的欲求のようだ。
「どうせなら、樹界の奥にある聖地[クワスティカ]を目指したいと思ったのですが、さすがに奥地まで行くのは……。まあ、今回は、この冒険で樹界の調査に関する足掛かりを作り……あわよくばクワスティカに関する手がかりでも見つかればいいかな、と……」
 背の高い、知的な雰囲気を漂わせた好青年がにこやかに話す。
 [クワスティカ]とは、樹界の奥地のどこかにあると言われる聖地だ。この地はファルメスとヴァルパスの争いにおいて、ファルメス側の中心だった[操兵ファルメス・ドラグレーア]が眠りに着いている場所だと伝えられている。だが、その正確な場所は伝わってはいない。 それを聞いたゼロは小さく呟いた。
「止めといたほうがいいと思うけどな……」
 ゼロも少し前に修行と称して樹界に赴いたことがあった。その時の出来事はとても言葉には言い表せないものだった。もっとも、何故か思い出せない部分もあったが。あるいは故意に思い出そうとしないのだろうか……。
「え、あなた樹界に行ったことがあるんですか?」
 ゼロが無意識のうちに樹界に行ったことを呟くと、メリアが目の色を変えてゼロに質問を浴びせかけてきた。この眼鏡をかけた三つ編みの髪の少女に話しかけられると何故か平常心を無くしかけてしまうゼロだったが、やはり話したくないことを話すことは出来ず、この場はクサナギに押しつけて逃れた。
 特にすることのなかった一行は、そこそこの報酬が期待されることもあって、この依頼を受けることにした。
 クサナギは樹界の道案内のためにモ・エギを誘うことを提案した。アルバートも最初からそのつもりだったようだ。一行は早速ガレージ郡に向かった。
 一行がガレージに着いてみると、そこではモ・エギが三人の老人と話をしていた。格好などから察すると、このライバの賢者や学者といった面々らしい。どうやら彼らは御仁や樹界の知識を得るためにモ・エギを訪ねてきたようだ。老人達は首の疲れも忘れてモ・エギを見上げ、彼女の話に聞き入っていた。
 クサナギは依頼人である二人を紹介し、モ・エギに今回の冒険への参加を求めた。紹介されたアルバートはモ・エギに会釈しながらこう言った。
「私たちとしてはぜひとも、[御仁の姫君]であるモ・エギさんに、ぜひとも樹界の道案内をお願いしたいのですが……」
 それを聞いた一行は驚いた。モ・エギが[姫]であることを初めて知ったのだ。それに対してモ・エギは、
「あら。言いませんでしたっけ?」
 と、あっさり答えた。
 樹界に行く、と聞いたモ・エギはあまり良い顔はしなかった。人間にとって樹界はあまりにも危険な場所であるのだ。が、それでも行くと言い張る兄妹にモ・エギは仕方なく道案内を引き受けてくれた。
 これで面子はそろった。そして出発は二日後と決まり、一行と兄妹は諸々の準備に入った。