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出発当日。各々の準備を終えた一行は街の門に集合した。アルバートとメリアは自分達で自前の操兵を用意していた。その四脚で背中に荷台を乗せた機体は走破性には優れているものの、やはり戦闘には向きそうにない。だが、その荷台には多くの荷物が積めそうだ。エルグラーテに乗るクサナギ、巨大なモ・エギ、そしてピジョット、ヌクヌクといった自分達のドウドウ鳥をもつゼロとセフィロス以外のイーリス、阿修羅、アファエルはその荷台に便乗した。 早朝出発した一行は、リベ山の麓を過ぎて、夕刻頃には樹界の入口に当たる森に差しかかった。そして今晩はここで野営をすることになった。その夜は、茂みの中に隠れていた熊を見た以外特に何もなく、無事に朝を迎えることができた。 その翌日。簡単な朝食を取った一行は森の奥へと進んでいった。森がだんだん深くなるにつれ、木々が大きくなって、そして日の光が届かなくなりつつあったその時、一行の前に何かが迫ってくる気配が感じられた。身構える一行。 それは、六匹の山猫だった。山猫達がものすごい勢いでこちらに向かっているのだ。だが、様子が変だ。そもそも山猫はあまり群れを作らず、操兵がいるような集団を襲うなどということはありえないのだ。クサナギがエルグラーテに搭載された赤外線視覚装置を作動させる。すると、山猫の後ろに何か巨大な生き物の熱が感じ取られた。ゼロもどうやらその気配を感じ取ったようだ。 やがて、その生き物が一行の前に姿を現した。それは、巨大な四本の腕をもつ熊[四つ手熊]だった。どうやら山猫達はこいつから逃亡しているようだ。クサナギはエルグラーテを前に進ませ、モ・エギもそれに習う。ゼロは近くの茂みに隠れ、イーリスは剣を構えた。しんがりにいるセフィロス、荷台の上にいるアファエルは武器を構えつつ様子を見た。そして阿修羅は……寝ていた……。 山猫達はエルグラーテとモ・エギに驚いて三匹が動きを止め、残る三匹はそのまま一行の前を駆け抜けていった。それを追ってきた四つ手熊は、エルグラーテとモ・エギの姿を見るや猛然と襲いかかってきた!。 その時、イーリスが風のような速度で四つ手熊に走り寄り、穂先刃でその足に斬りつけた。そしてそのまま熊の後ろへと駆け抜けた。だが、それでも四つ手熊の勢いは止まらず、そのままエルグラーテに猛然と襲いかかった。が、クサナギは落ち着いてエルグラーテを操作し、引き抜いた大太刀の峯でその四つ手熊を打ち据えた。それとほぼ同時にモ・エギも剣を握ったその手で四つ手熊に殴りかかった。出足をくじかれた上に巨人二人の攻撃に根を上げた四つ手熊はその場に寝転んでその腹を見せた。これはすなわち降参する、ということらしい。 同じころ。その様子を後ろのほうから見ていたセフィロスに、背後から山猫達の断末魔が届いた。振り返ってみると、そこには三本の鎌首をもたげた大蛇[三つ首]が、山猫を飲み込み、そしてその首を自分達に向けているのが見えた。ゼロとアファエルもそれに気付いた。だが、アルバートとメリアは前方の戦いに気を取られて気付いてはいないようだ。 山猫を平らげた三つ首は、まだまだ空腹なのか今度はセフィロスに襲いかかろうとしていた。ゼロとアファエルが銃と短弓で牽制するも、操兵並みの巨体はびくともしない。そして三つ首はセフィロスをヌクヌク諸とも絞め殺そうと、その長い胴体を巻きつけようとした!。辛うじてかわすセフィロスだが、このままでは捕まってしまうのも時間の問題だった。 その時、クサナギのエルグラーテとモ・エギ、そしてイーリスが駆けつけ、そしてアファエルと、武器を剣に持ち換えたゼロが加わり形勢が逆転し、やがて三つ首はその場に倒れた。イーリスは止めを刺すことを提案したが、モ・エギとクサナギが反対し、とりあえずそのままにしておくことにした。 ここで止めを刺さなかったのは正解だ。この三つ首は重傷を負って気絶しただけなのだ。もし、止めを刺そうものならすぐさま目を覚まして再び暴れ出すだろう。また、すべての首を切り落としたとしても残った胴体が最後の生命力でやはり暴れ出していただろう。どちらにしても、危険なことに変わりはないのだ。 巨獣達の襲撃を退けた一行は、さらに森の奥へと進んだ。そしてしばらくすると、森の木々の大きさがより巨大になり、その間隔も広くなっていった。その大きさたるや、モ・エギが普通の人の大きさに見え、まるで自分達のほうが小さいかのように見えるほどだった。が、その反面日の光は射さず、だんだんと暗くなっていった。いよいよ樹界に入ったのだ。 「ところでゼロさん。前に樹界に来た時、どこかで遺跡とか、見ませんでしたか?」 操兵の荷台から乗り出したメリアが、ゼロに話しかけてきた。ゼロは無視を決め込もうとしたが、どうもこの少女には逆らえないようで、つい答えてしまった。 「確か、見たような……見ないような……」 「え……どこで見たんですか!!」 確かに、ゼロはこの樹界で遺跡らしい物を見ていた。が、この樹界に眠る遺跡には何が潜んでいるかわからない。だからその時は入らずにその場を去ったのだ。果たして、そんな危険な場所を教えてよいものか困った。が、 「どこで見たんですか!。思い出して下さいよぉ……!!」 とせがむメリアに逆らえず、「この先にあったと思う」と答えてしまった。 さらに奥へと進む一行が見た樹界の光景は、今まで自分達が見てきた森とは全く異なるものだった。その神秘的な光景にアルバートとメリアを始め、誰しもが驚嘆した。その時、頭上を何かがよぎった。それは、無数の節と羽をもった巨大な[蟲]だった。その蟲は一行を気にもせずに悠然と空中を漂い、去っていった。 気を取り直して一行は再び樹界を進み始めた。そんな中ゼロは、不意に不思議な気配を感じた。すると、アファエルの肩に妙なものが座っているのが見えた。それは、半透明で三頭身、顔にあたる部分には点のような目と口があるだけの白い小人だった。小人は、その体の割に大きな頭をカチカチと鳴らしながら傾け、そしてカタカタカタッと鳴らしてその顔を揺らした。どうやら笑っているようだ。 それを見たイーリスが気味悪がった。その時、辺りから先ほどの音がいくつも聞こえてくる。見ると木の枝に動揺の小人が沢山いて、一行の様子をうかがっていた。アルバートとメリアはその小人を観察し、記録を取っている。 「あれは、[コノダマ]です。この樹界の精霊で、別に害はありません」 モ・エギが説明する。 「コノダマがいる、ということは、この森が豊かだ、という証拠なんです」 モ・エギの言葉に納得し、メリアは頷きながら記録を取った。 やがてコノダマが去り、辺りに静寂さが残った。そして一行はさらにさらに奥へと進んでいく。その時、不意にピジョットとヌクヌクの足が止まった。ゼロとセフィロスが下を見ると、そこには何の変哲もない植物の蔦が蠢いているだけで……いや、そもそも蔦が動くわけがない。しかも、それぞれのドウドウ鳥の足に絡みつこうとするなど……!。 ゼロとセフィロスはそれぞれに脱出を試みた。が、蔦は恐ろしい勢いで絡みつこうとする。が、モ・エギがドウドウ鳥ごと二人を持ち上げた。そして両腕に抱えたまま前進し、この場を逃れた。エルグラーテとアルバートの操兵もそれに続く。さしもの[人食い蔦]も、御仁と操兵を止める術はないようだ。 人食い蔦を抜けた一行の前に、突然何かが現れた。それは、木の影にたたずんだ一匹の白銀色の毛並みをもった獣だった。狐か……それとも山犬か……。どちらともつかないその獣は、その場から動こうとせずただじっと、一行の様子を伺っていた。ゼロがモ・エギに獣が何者かを問おうとした。が、モ・エギはその問に答えずその獣をじっと凝視していた。その表情を緊張と恐怖に強張らせて……。 いったいこの白銀の獣は何者なのだろうか。イーリスがその獣独特の美しさに惹かれて無謀にもその獣に近づいていった。その時、クサナギとゼロはようやく気付いた。今まで木の大きさに誤魔化されていたが、その獣の大きさは、何と操兵並みだったのだ!。イーリスもそれに気付いた。が、それでも獣に近づいて行く。そして獣もそんなイーリスに興味を持ったのか、ゆっくりと近づいてきた。 獣はイーリスから2リートほど離れたところで停止した。その際、ゼロはその獣の尾の数を数えた。そして、その数が九本を越えた時点で数えるのをやめた。それと同時に、モ・エギが表情を固くした理由を納得した。ゼロはその獣が何者かを理解したのだ。 「あれは[ケモノの主]……機嫌がよければ良いけど、もしご機嫌斜めなら、全員助からないかも……」 モ・エギの言葉に全員が緊張する。この樹界に住まう御仁の姫君であるモ・エギがこれほどまでに脅えるこの[ケモノの主]とはいったいどのような存在なのだろうか。その緊張を知ってか知らずか、その[ケモノの主]はイーリスをじっと見つめていた。そして、ゆっくりとした口調で[話し]掛けてきた。 「……やれやれ……度胸があるのか、それとも何も考えていないのか、全くわからぬ……」 これは[念話]の類いでなく明らかに[肉声]だった。その女性とも男性ともつかない声で、[ケモノの主]は明らかに笑っていた。 |