キャンペーン・リプレイ

第 二十二話 「 年 明 け の 暗 黒 教 祖 」  平成12年1月10日(月)

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 ライバ城の王室専用の操兵工房では、一体の操兵がミオ、ジュウコーたちの手で解体調査されていた。王朝結社の残した鳥脚操兵[リグ・アーイン]……彼らの主力操兵であったこの機体が一体どこで製造されたかを調べるためである。操兵の機体はたいてい製造した場所によって特徴が出るため、その部品や組み立て方を見ればどこの工房都市で製造されたかがわかるのだ。
 しかし何故、ライバの工房で行われているのか。それは調査を公平に行うためである。この機体が再生機ではなく、どこかの工房都市で新規製造されたものであることは既に明らかであった。もし調査を依頼した工房都市に王朝結社の息がかかっていた場合、証拠を揉み消されてしまう可能性もある。幸い、このライバは準工房都市と云われるほどの工業力を誇り、仮面そのものを除けば製造が可能なほどの工房を多数有している。そして伝説的な操兵鍛冶師ジュウコーと、王朝結社と戦い、その上で最近ジュウコーの弟子と化している操兵技師ミオの手によって解体することによって上記の証拠隠滅を防ごうというのだ。
 だが、取り出された部品の数々を見たジュウコーとゼノアは首をひねった。その部品がどこの工房都市の物とも一致しないのだ。正確には、細かい部品はあちらこちらの工房の物から掻き集めたものである。が、筋肉筒や仮面などの重要部品がゼノアの知る如何なる工房都市の物とも一致しないのだ。
 筋肉筒くらいなら、ライバ並みの施設があればどうにかなる。だが、仮面の製造、再生は工房都市級の施設や技術を使用しなければならない。王朝結社はどこかにそれほどの施設を所有していたのだろうか。
「いや、彼らがそれほどの施設を所有していたなら、この戦いはもっと長引いたでしょう。その施設はおそらく彼らに協力していたほかの組織……」
「ってことは?」
 ゼノアはいつに無く真剣な表情で言葉を続けた。
「奇面衆……」
 結局、調査は一旦打ち切りとなり、ミオとジュウコーは工房に戻った。
 工房の整備台には、クサナギが以前のリガーブがらみの事件で手に入れた竜操兵[ドラ・ログ・メーア]がファルメス・エルグラーテと並んで入っていた。呆れるミオに、自機の様子を見ていたクサナギが「エルグラーテの礼だ」と言った。
「でも、ここまで壊れてちゃぁねぇ」
 ミオはこの自らの尾を抱えて立つ情けない竜操兵を見上げてそう言った。確かにこのドラ・ログ・メーアは製作した技師の腕が良いのか、なかなか良くできた機体である。副腕として取りつけられた自由に動く竜の首と尾、そしてその首に装備された火炎放射器など、役には立たないもののなるほど変わった機体ではある。が、以前のエルグラーテとの戦闘における損傷がひどく、価値としてはあまり高くは望めそうもなかった。
 とりあえずミオはこの操兵のことは後回しにすることにした。そしてジュウコーとともに工房の大掃除に取りかかった。そう、既に年の暮れを迎えていたのだ。そして気がつけば、クサナギも箒を持たされ掃除させられるはめになっていた。仕方なくクサナギは、工房の屋根に登ってその煤払いを始めた。真冬の風は冷たかった……。
 樹界の探検からはや一月。ライバの街は明日に迫った年越しの日を前に忙しなく動いていた。家々では年越しの準備に追われ、各商店もその為の品々を並べて売り子が声を張り上げていた。王朝結社の事件の傷痕も徐々に癒え、街の人々は安心して年を越せそうだ、と皆が笑顔で言い合っていた。
 そんな中、工房の屋根に登ったクサナギは、町の広場に二人組の美麗な少年を中心にした人だかりが出来ているのを目撃した。彼らはどうやら宗教家で、辻説法の最中のようだ。だが、彼らの周りに集まっているのは大半が女性で、その殆どが話を聞かずに彼らの容姿と美声にただうっとりと酔いしれているだけであった。
「この世の中には様々な[法]が存在します。ですが、人々の[自由]は[神]から与えられたもの。人の定めた[法]などで縛っても良いのでしょうか!!」
 その必死に叫ぶ少年の姿は、年下好みの女性の心を掴んでいた。もう一人のさらに年下の少年は集まった人々に札のようなものを配っていた。
「この札は、我らの教祖で在らせられるロン・グリッチ大司教猊下からあなた方への贈り物です。ロン・グリッチ様は仰っています。人間は、[神]より与えられた[法]のみに従い、そして神によって保障された権利として、[自由]を行使し、人間の法を捨てるべきだ!と。確かに法によって人々が守られているのも確かで、それを失えば世の中は闇に包まれるでしょう……」
 ここで美少年は一息おいて、そして今までよりもさらに演技掛かった身振りで話し始めた。
「[闇]を恐れてはいけません!。[闇]を恐れぬ勇気があれば、あなた方は真実の自由を得ることができるのです!!。私たち[闇と自由の法]団は、そんな[自由な王国]の素晴らしさを、間もなくこの街に訪れる教祖様に成り代わってお伝えに来たのです……」
 下からジュウコーがクサナギを呼ぶ声が聞こえた。そろそろ昼食にしようと言うのだ。クサナギはとりあえず梯子を伝って下に降り、そして御神酒を買うついでにと竜の牙亭へと向かった。

 そのころ、特にすることもなかった妖精族のアファエルは、竜の牙亭のカウンターでのんびりと寛いでいた。もっとも、仕事もせずに寛いでいたのは、この師走では、渡世人斡旋所の仕事も殆どが公共施設の掃除などであったため、自分に向いたものではないと思ったためでもあったのだが。
 その時、一人の女性が竜の牙亭の入口をくぐってきた。その頭に頭巾をかぶった旅人と思われる女性はおもむろにアファエルの長く尖った耳を見つめた。彼女たちが[エルフ]と呼ぶ妖精族の特徴であるこの耳がやはり珍しいのだろうか。いや……
「この辺りでは、[エルフ]でも平気で居られるのね」
 おもむろに頭巾をはずした女性の耳は、アファエル同様に長く、尖っていた。
 女性はエリファと名乗った。エリファはアファエル同様[剣の世界]と呼ばれる異世界から来た妖精族であった。彼女は久しぶりに同族に出会ったことで饒舌になり、アファエルもまた同族同士ということでエリファと気兼ね無く話をした。
 その中でエリファは急に不安な表情になり、こんなことを言った。
「私此処のところ、誰かに尾行されているみたいなの」
 そう言った矢先、店の入口から4人のチンピラとおぼしき男たちがアファエルとエリファを取り囲むように入ってきた。身構える二人をよそに、チンピラたちは顔を見合わせた。
「確か[耳の長い女]を連れてこいって話だけどさ。どっち連れてきゃいいんだ?」
「かまわねぇ。どっちも連れてきゃいいんだよ!。おい、ネェちゃん!!」
 男は凄みを利かせた顔でアファエルに迫った。
「俺たちと一緒に来てもらおうか!!」
 それに対しアファエルは、いつもの呑気な態度を崩さずに返した。
「嫌です〜。どうして、私たちがあなたたちと一緒に行かなければいけないんですかぁ〜?」
 かっとなった男たちは「つべこべ言わずに着いてくりゃいいんだよ」と、二人を強引に連れ出そうとした。
 その時、隅のほうで飲んでいた青年が立ち上がり、チンピラに向かって抗議の声を上げた。
「き、き、君たち!。おお、女の人にらら乱暴をは、働くなら……ぼぼ僕が相手になな、なるぞ!!」
 その情けない声に男たちは一斉に青年に詰め寄った。アファエルは悲鳴を上げてすかさず青年の後ろに隠れた。青年は脅えながらもチンピラたちに果敢に立ち向かう。
「ここ、この人たちに手を出すのなら」
 青年はおもむろに懐の中に手を入れる。拳銃でも出そうというのか。思わず身構えるチンピラ達。だが、「これでどうだ!」といって取り出したのは、拳銃でも短剣でもなく、金が詰まっていそうな小さな革袋であった。ずっこけるアファエルとチンピラ。気を取り直したチンピラはさりげなく革袋の中を見た。そして中身が思ったよりも少ないと見るや、
「……俺たちが金で釣られるほど[軽い男]と思うなっ!!」
「……チンピラにゃチンビラの[誇り]ってもんがあるんだよぉっ!!」
 と、額によって揺れ動きそうな[誇り]を胸に、青年に殴り掛かった!。その一撃で哀れな青年は伸びてしまった。青年をノしたチンピラが再びアファエルとエリファに迫る。
 そこに、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「待てっ!。もう、そのくらいにしたらどうだ!!」
 その声にチンピラ共は一斉に振り返った。声の主は、我らがクサナギヒコ・ディス・グラーテその人であった。だが、チンピラ共は目の前の人物が、王朝結社壊滅の立役者であることに気が付かなかった。
「色男が邪魔すんじゃネェよコラッ!!」
 チンピラのうち3人がクサナギに掛かっていった。そしてそのうちの一人がクサナギに拳を振るう!。だが、その拳は空しく扉に当たり、自分の拳を痛める結果となってしまった。
「く、こいつ手強いぞ!!」
「……そなたがドジなだけであろう」
 残り一人のチンピラは、そんなバカ3人の様子に苛立っていた。それゆえにアファエルとエリファの動きに気が付かなかった。アファエルは自分たちを助けようとして倒れた青年の元に駆け寄った。介抱するためであろうか。いや、違った。アファエルはその青年を抱き起こすと、自分の目の前に突き出して盾にした挙句に[カンカン踊り]を踊らせたのだ!。おそるべしアファエル。
 そんなアファエルの様子に呆れながらも、エリファは目の前のチンピラに目にものを見せてやろうと、自分の剣を鞘ごと構えて辺りを伺った。その時、カウンターから店内に通じる戸の中に一人の少女がフライパンを手にして潜んでいるのが見えた。それは、ミオであった。ミオはエリファと目が合うと、小声で「ヤッホー」と声をかけて手を振った。
 クサナギはチンピラ3人を相手に奮戦していた。素手の戦闘に慣れていないクサナギはやはり攻撃が思うように命中せず、効果的な打撃を与えることができない。だが、それはチンピラも同じで、実戦で鍛えられたクサナギの巧みな防御に翻弄されていた。
 そんな仲間の不甲斐なさにリーダー格と思われる4人目のチンピラは苛立った。が、そのリーダーにも不幸が襲った。突如両脇から奇襲を受けたのだ。それはミオとアファエルであった。床を滑りこんだミオがその足を蹴倒し、青年を捨てたアファエルがその素晴らしい身のこなしで飛び蹴りを浴びせたのだ!。何が起きたのか理解できぬままリーダーは倒れた。そして立ち上がろうとしたリーダーにミオがフライパンで一撃を加え、そして駄目押しにアファエルが華麗な三角飛びで天井すれすれからそのリーダーの真上に着地!。哀れリーダーは昏倒した。そのあまりにも一瞬の出来事に、後ろから鞘に納まったままの剣で攻撃しようとしたエリファは唖然となった。
 リーダーが一瞬で倒されたと知ったチンピラのうち二人は、すぐさまとって返してそれぞれミオとアファエルに襲いかかろうとした!。が、相手が悪かったというべきだろうか。アファエルに殴りかかったものはその軽業に翻弄され、ミオに向かったものはその拳をまともにフライパンにぶつけてしまい、そのあまりの痛みにしゃがみ込んでしまった。
 ミオとアファエルは透かさず反撃に出た。チンピラの背後に回り込んだアファエルは相手の後頭部を掴んで壁に叩きつけようとした。が、やはり妖精族ゆえの非力さが祟り、どうもうまくいかない。その隣でミオは、しゃがんだチンピラに止めのフライパンを叩きつけた!。その一撃を受けたチンピラは気絶することはなかったものの、激痛に耐え切れずその場に倒れ込んでしまった。 
 やはり持ち前の身軽さで勝負することにしたアファエルは、振り向いたチンピラを再び飛び越え、その背後に回る。そして側にあった椅子を持ち上げてチンピラがアファエルに向き直る直前に殴りつけた!。いくら力がなくとも椅子の角で殴られてはたまらない。チンピラはそのまま倒れてしまった。その光景にエリファは茫然となって、とうとう剣を取り落とした。
 ミオに叩かれたチンピラはそれでもしぶとく立ち上がろうとした。
「意外としぶといじゃない」
 ミオは今度こそとどめ、とばかりにフライパンを振りあげる。が、その獲物はミオの手からスッポ抜け、そのまま宙を舞った。そして、ようやく目を覚ました先の青年の頭上に落下!。青年は再び昏倒した。
 そのころ、一人普通に戦っていたクサナギは、チンピラの執拗な攻撃をかわしつつ、反撃の拳を繰り出す。が、やはり慣れぬ戦術ゆえにその攻撃は一向に命中しない。そこでクサナギは意表をついてチンピラの背後に回り込み、その隙だらけの足を蹴り上げた。これはうまく活き、チンピラは床に倒れた。そしてそのまま転がって逃げようとするチンピラの胸倉を掴んで降伏勧告をした。
「そなた等、もういい加減にしたらどうだ!!」
 その言葉づかいを聞いたチンピラはようやく目の前の相手の正体に気づいた。
「て、テメエはクサナギ!!」
 その時、店の入口に派手な衣装に身を包んだ、明らかに司祭か何かだろうと思われる老年の男が現れた。その男は店の光景を見るや穏やかな口調で話しかけた。
「これこれ、いったい何の騒ぎですかやめなさい」
 かなり怪しい人物であったが、とりあえずクサナギはことの顛末を話した。
「なるほど、この者たちがこのお嬢さん方を襲ったところをあなたが助けに入った。それは素晴らしい。して、あなたの名は?」
「私の名はクサナギ。唯の渡世人だ」
 その名を聞いた男は感歎の声を上げた。
「そうですか、あなたがこの国を救ったという救国の英雄、クサナギヒコ・ディス・グラーテでありましたか。申し送れました。私の名はロン・グリッチ。[闇と自由の法]団の教祖であります」
 どうやら、先の美少年たちの言っていた教祖とは、彼のことらしい。ロン・グリッチは一頻りクサナギたちを褒め讃えた。そして、
「何れ、ゆっくりと話がしたいものですな」
 といって、美少年たちを引き連れてその場を立ち去った。