キャンペーン・リプレイ

第 二十二話 「 年 明 け の 暗 黒 教 祖 」  平成12年1月10日(月)

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 通報を聞きつけて、急いで駆けつけてきた衛士隊にチンピラを引き渡したミオは、すぐさま先の青年の元に駆け寄った。フライパンが当たってしまった頭部には、大きな瘤が痛々しく膨れていた。ミオはすまなそうに詫びを入れながら彼を起こそうとした。やがて青年は目を覚ました。が、ミオの顔を見た青年の目は虚ろであった。
「ここは天国ですね……天使が見える」
 といって、再び黄泉の国へと旅立とうとした。ミオは慌てて彼の頬にビンタして目を覚まさせようとするが、もはや効果がない。その時、
「どうしたんですか?」
 と、ひときわ大きな女性の声が店内に響いた。モ・エギであった。体が大きいために店に入れず、入口から中を覗き込んでいるのだ。ミオは安堵の表情を浮かべて青年の治療を頼もうとした。モ・エギには自分の再生能力をわずかではあるが他人に貸し与える能力があるのだ。もっとも、この行為はモ・エギにとってかなりの負担らしいのだが。
 だが、この時またもや一騒動が起きた。モ・エギを見たエリファがパニックを起こし、手荷物から取り出した短弓をつがえてモ・エギに向けたのだ。その弓は立派な造りで、美しい文様が彫り込まれていた。モ・エギは慌てて敵意がないことを示そうとするが、その大きな声がかえってエリファを脅えさせた。アファエルは彼女をなだめようとした。
「大丈夫ですよ〜。落ち着いてください〜」
「だって巨人が攻めてきたんですよ!。落ち着いてなんかいられませんよ!!」
「あれは〜、私たちの知り合いなんですよ〜」
 呑気に構えているアファエルの姿を見てようやく落ち着きを取り戻したエリファにアファエルが彼女の持つ弓について訪ねた。
「これは、私たちの部族の宝なんです。今は散り散りになってしまいましたけど」
 クサナギはミオに改めてアファエルを紹介した。
「へえ、[耳尖り族]ってとっても機敏なのね」
 ミオのその言葉にエリファは苦笑した。
「あれはアファエルさんの特技でしょう。私たち[エルフ]全員がここまで機敏というわけではありませんよ」
 一通り紹介を終えたところでまたも客人が訪れた。久しく姿を見せていなかったルシャーナであった。彼女はここに先ほどロン・グリッチが訪ねてきたことを知っていた。そして、クサナギたちにこんな話をした。
「[闇と自由の法]団は、私たちの調べではどうやら表では立派な宗教団体の振りをして布施や献金をせびっている似非宗教だが、その裏では何やら怪しげな儀式でさらってきた人間を生けにえにするなど、恐ろしいことを企んでいるようなのだ!」
 この話からでは、全く良いところなど無い様に見える。要するに、どちらにしても悪の組織なのであろう。ルシャーナの話は続く。
「現在、ムワトロに調査させているが、連中はどうやらこの街でも何かを企んでいるようだ。だが教祖は今、パトロンであるローザン家という貴族の屋敷に滞在しているらしい」
 ルシャーナは一息おいてこう言った。
「あまり、関わらんほうが良い。要らぬ正義感に駆られて首を突っ込むと、いずれ酷い目に合うからな……」
 それに対しミオは心の中で、(散々煽っておいて何言ってるのよ!!)と叫んだ。それに気づいたのかルシャーナは、意味ありげな笑みを浮かべた。
 それにしても、アファエルやエリファを見ても何も驚かないルシャーナにクサナギたちは不思議がった。彼女は妖精族の存在を知っているのであろうか。
「何、そなたたちに出会って以来、もはや何を見ても驚かぬ」
 そう言ってルシャーナは店の前に座り込むモ・エギを見上げた。どうやらこれはルシャーナのみならず、この街の住民すべての感情でもあった。なるほど、もっともである。
 やがてルシャーナも去り、ようやく昼食にありついたクサナギたちは、とりあえずエリファにこの街のことを説明した。案の定エリファは操兵をはじめとする工業関係に全く疎いようで、挙句の果てには操兵とモ・エギたち御仁をゴッチャにしてしまうほどであった。ミオはゆっくりと、そしてわかりやすく説明しようとした。その時。
「何いつまでも油売っているんだ!!」
 と、ジュウコーの声が後ろから聞こえた。ミオの帰りが遅いので様子を見に来たのだ。
「説明でわからねぇなら、実際に見せてやりゃあいいだろう」
 そう言ってジュウコーはエリファを工房に連れて帰った。そしてエルグラーテと(よりにもよって)ドラ・ログ・メーアを見せてひとしきり説明した。だが、それでもエリファは理解していないようだ。だが、
「要するに、[ゴーレム]ですよ〜」
 アファエルのずれた説明でこれが人工物であることは理解したようだ。
 とりあえずの説明が終わったところでジュウコーは再び大掃除を再開した。
「クサナギは表、ミオは工房の埃落とし。でもって」
 ジュウコーはアファエルとエリファにも雑巾を手渡した。
「台所頼むわ。儂は炉の点検をしとるから」
 そう言って去っていくジュウコーの背中を見ながらミオは、呆然とする妖精族2人に両手を合わせた。
 そして夕食時。エリファにとっては久しぶりであろう団らんのときであった。
「ごめんなさい、エリファさん。大掃除を手伝ってもらって」
 申しわけなさそうにミオが改めてエリファに詫びを入れる。
「でも、よかったじゃないですか。これで宿泊費が浮いたんですから〜。それに〜」
 と、アファエルがとりあえずフォローを入れる。そして、
「こんなにいい[友達]ができたんですもの〜それはとっても良いことですよ〜」
 アファエルのその言葉にエリファを始め、クサナギ、ミオは同感、とばかりに頷いた。

 そして翌日。その日の昼にようやく掃除を終えた一行は、ジュウコーの誘いでライバを取り囲む外輪の小山に行くことにした。初日の出を見るためであった。このライバではクサナギとミオ、そしてアファエル、エリファは年を越したことがない。一行はその誘いに乗り、夕刻頃には外輪山へと向かった。
 外輪山には一行のほかにも沢山の人々が初日の出を見るために集まっていた。周りにはいろいろな屋台が並び、新年を祝おうとする人々が屯し、日の出を今か今かと待ち焦がれていた。
 周囲には治安維持のために衛士隊の操兵が配備されている。が、彼らも年の変わり目である今日を祝い、仕事が手につかないようだ。そんな中、クサナギは新年を祝う人々を見て、本当に平和が訪れたことを実感した。
 ジュウコーはおもむろに平らな岩の上にドカっと腰を下ろした。その側では行く人々に甘酒が振る舞われている。ジュウコーがその手を酒を配っているおばさんに差し出すと、彼女は何も言わずにこやかに酒を手渡した。そして酒を受け取ったジュウコーはそのまま日が昇る方角をただじっと見つめていた。どうやらジュウコーにとって、この場所で酒を片手に日の出を待つのは毎年恒例の行事のようであった。ただミオは、
「よかったわー、今年はお弟子さんが一緒に来てくれて」
 と言うそのおばさんの言葉が気になった。
「たかだか一年が過ぎただけなのに、どうして人間はこんなに騒ぐのかしら」
 エリファはこのお祭り騒ぎが理解できなかった。そしてそれは、アファエルも同じであった。
「本当ですね〜。千年くらい経っていたのならわかるのですけど〜」
 千年以上生きると言われている彼女たち妖精族にとって、たかが一年というのはやはり短いのであろう。
「でも、私こんな風に季節を感じられる人間が好き」
 いつからそこにいたのだろうか、頭上から声をかけてきたモ・エギはそう言って屋台の間を往来する人々を見下ろしていた。モ・エギはもはやライバの風景の一つとなっており、もはや彼女の存在に驚愕するのは他所からやってきた旅人くらいなものであろう。モ・エギにとってライバの街は、既に第二の故郷となっていた。
 ミオは、まだ人間の社会に慣れているとはいえないモ・エギとアファエル、エリファを案内して屋台を回った。もっとも、ミオ自身もこの街での年越しは初めてで、せいぜい櫛肉をおごってやるのが精一杯であった。が、さすがにモ・エギには。
「あ私は五本ほどで良いです」
 もともと御仁に食事は必要なく、大気から必要な分のエネルギーを効率よく得ることができるため、精神的欲求を満足させるための食事で十分ではある。だが、さすがに普通の人と同じ量というわけにはいかないだろう。実際、モ・エギに振る舞われた大鍋一杯の甘酒も、彼女の感覚では盃一杯分程度であろう。
 やがて夜も更け、四人はそれぞれにこの年越しを楽しんだ。そんな中アファエルは自慢の喉を披露した。その歌声はしっかりしたもので、人々は喜んでおひねりを投げた。だが、許可も取らずにこんなことをしていると、必ず組合に見つかる。案の定ライバの大道芸人の元締ナバールがこちらにやってきた。
 だが、彼の目的はアファエルではなかった。彼はもう一つの人だかりの中に割り込んだ。そこでは、またも[闇と自由の法]団の美少年伝導士が、自分たちの美貌目当てに集まってきた女性たちを相手に辻説法をしていたのだ。ナバールはそれを[芸]とみなしてショバ代を請求した。美少年伝導士はそれに対して反論したが、ナバールは、
「その[顔]は立派な芸だ!!」
 と、頑として譲らなかった。
 その時、その平和な空気を破壊するかのように突如操兵の駆動音と重々しい足音が響いてきた。その方向を見たクサナギとミオは驚いた。その影は何と、ファルメス・グラーテのものであったのだ!。そのグラーテと思われる影は人々を追い散らしながらこちらに向かってきていた。
 それを見たミオは、またエルグラーテが勝手に動き出して、クサナギの後を追いかけてきたのかと勘違いをした。だが、それはありえない。確かに新造古操兵ファルメス・エルグラーテは今までクサナギの危機に何度か操手を乗せずに無人で起動したことがあった。それは、エルグラーテの仮面の額に装着されている[フィールミウムの石]の成せる技であった。しかし、現在のグラーテの仮面にとって、この行為はかなりの負担のはずである。とてもこんな状況で起動するとは思えない。
 やがてその操兵が近づいてきた。その機体は確かにグラーテにそっくりではあった。だが、それは以前のグラーテにであって、今のエルグラーテにではなかった。その機体をよく見ると、ちょうどグラーテとグラーテ改を足したような外観をしていた。しかしその塗装はグラーテと違い白を基調としており、そしてその左胸部装甲には……何と[リダーヤ教]の聖印が取りつけられていたのだ!。
 そのグラーテ似の操兵は自分の周りを取り囲む衛士隊の操兵や、足下の人々のことなど眼中にないようで、我が物顔で歩いてきた。そしておもむろに剣を抜いて、その切っ先をモ・エギに突き出した!。 
「そこの御仁!。人間の里にわざわざ降りてくるとはよい度胸だ。だが、所詮貴様等は[神の教義]に反する存在。この私が退治してくれよう!!」
 モ・エギは一瞬自分が何を言われたかわからなかった。その操兵の言葉が続く。
「そもそも貴様たちはこの世にあってはならない邪悪な存在、居ること自体が間違いなのだ!!」
「あ、あのねぇ!!」
 その言葉を聞いたモ・エギは反論しようとした。が、それより早く動いたものがいた。クサナギであった。
「そこの操兵待てっ!。これ以上彼女を侮辱するのは、この私が許さないぞ!!」
 操兵はクサナギを見下ろした。
「なんだ、貴様は!」
「我が名はクサナギヒコ・ディスグラーテ!。そなたこそ何者だ!!。人々が平和に年を越そうというときに操兵などで乗りつけて迷惑だと思わないのか!!」
 操兵はクサナギに向き直り、高らかに名乗りを上げた。
「私は[リダーヤ教本山]により任命された[聖騎士団]の者である。この地に御仁が出現したと聞き、人々のため、そして何よりも[神の教義]に従い、そやつを退治するためにこの地に赴いたのだ」
 その言葉にクサナギは腹立ちを覚えた。
「彼女は何もしていない。それどころか、戦で疲れたこの街の復興に手を貸しているのだ。それをそなた、何の権利があってこのようなことをするのだ。人々はとても迷惑しているんだぞ!!」
 それに対して[聖騎士]も反論した。
「私は[教義]にのみ従う。人間の法など通用しない!。貴様こそ何故、そのような御仁という[人外]を庇うのだ!」
「そなたが人々に迷惑をかけるのを……そしてモ・エギが侮辱されるのを許すことが出来ないからだ!!」
 その[聖騎士]の横暴に衛士隊も動いた。操兵部隊が警棒を構えて[聖騎士]の操兵を取り囲む。
「言ってくれるじゃないか[聖騎士]さんよ……この街の治安を守る俺たちが、そんな横暴を認める訳いかないんだよ!」
 さすがの[聖騎士]も衛士隊全員、そしてこの場に居る市民を敵に廻すつもりはないようだ。彼は「次はないと思え」と捨て台詞を残して去っていった。
 そんな姿を見たアファエルは、こんなことを呟いた。
「どうして人間は、そんな[神]なんて者に縋ろうとするのでしょう〜」
 その言葉に屋台のおばさんが同意した。この辺りの人間はあまり信心深くないようで、むしろ先の[聖騎士]のような者のほうが奇異な存在なのだ。
 ミオは[聖騎士]の乗っていた操兵が気になっていた。いったい何故、あれほど迄にグラーテに似ていたのか。
「あれは、[ファルラーテ]です」
 いつの間にかその場にいたゼノアがミオの疑問に答えた。
「ファルラーテって?」
「別名[グラーテ・マスプロダクション(量産型)]。ファルメス・グラーテが十年前に徹底修理の為、ある工房都市に持ち込まれたのですが、それによって得られた機体構造の資料を参考にして設計、製造された高級機です。当初は大量生産を前提にしていたそうですが」
 その時、クサナギは確かに当時グラーテが工房都市で修理を受けていたことを思い出した。いにしえより伝わる守護操兵であったグラーテもさすがに長い年月を経て、かなり消耗が激しかったのだ。そしてその際、現在のファルメス・エルグラーテに引き継がれている必殺武器である蒸気兵装[蒸気式旋回爆砕槍]が取りつけられたという。
「で、量産型って云うからには大量に出回っているわけ!!」
 ミオの不機嫌そうな質問にゼノアが肩をすくめて答えた。
「いえ残念ながら機体構造が複雑で、あまり大量には出回らなかったようです。やはり現在の技術では古操兵を複製するのは困難なようですな。あ、ですけども性能的にはかなり良いものですよ。もっとも、あなたの製作したエルグラーテには及ばないですけども」
 そしてゼノアは[聖騎士]が立ち去った方角を見つめた。
「私は、ああいう奴等が嫌いです。自分たちの都合の悪いものは力で排除しようという考え方が、王朝結社のような奴等を生んだのですから」
 クサナギはそのゼノアの言葉に頷いた。その時、大きな手がクサナギを優しく掴み、そして包み込んだ。モ・エギであった。モ・エギはクサナギを自分の顔の側まで近づけ、そして微笑みかけた。その瞳は、少しだけ涙で潤んでいた。
「クサナギさん有り難う。私の為にあんなこと言ってくれて」
 クサナギは照れながら答えた。
「私は、そなたがあんな風に謂れのない侮辱を受けるのが許せなかったのだ」
 その言葉にモ・エギは急にこの小さな青年が愛しくなった。
「クサナギさん私嬉しい!。有り難う!!」
 空に向かって最初の朝日が昇ると同時に、モ・エギはクサナギをその胸に抱きしめた。クサナギは苦しさと恥ずかしさに同時に襲われた。そんな光景を見た人々は思わず大声で囃し立てる。
「よっ!熱いよ御両人!!。大きさ違いすぎるけど」
 人々は二人を祝福した。そして何故かお捻りなども飛んできた。それをナバールが大袈裟な仕種で挨拶し、その小銭を拾い集めた。その道化の顔は意外な収入に綻びていた。
「毎年演ってくんねぇかな、これ」
 そんな人々の光景にアファエルもまた微笑ましい気持ちになった。そしてそのことについてエリファに同意を求めた……だが、彼女の姿がなかった。そう、忽然と消えていたのだ!。