キャンペーン・リプレイ

第 二十二話 「 年 明 け の 暗 黒 教 祖 」  平成12年1月10日(月)

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 見ると、先ほどまで辻説法をしていたはずの美少年たちもいなくなっている。まさか。
 アファエルの知らせを聞いたクサナギ、ミオ、モ・エギはすぐさま辺りを捜した。だが、ついに彼女の姿を見つけることが出来なかった。そして美少年たちも……。近くにいた女性に聞いてみるが、先の騒ぎの中で見失ったという。ミオはそのことをすぐさまジュウコーに知らせようとした。が。
「親方!大変、エリファさんが!!」
「Zzzzzzzzzz」
「親方?」
 そのそばで、先ほどまで甘酒を振る舞っていたおばさんが笑いながら言った。
「その人、毎年日の出を見ると、ここで眠っちまうんだよ」
「……」
 結局、クサナギたちはモ・エギにジュウコーを預けて、まだこの辺にいるであろうナバールを捜した。確か彼は先ほどからショバ荒らしをしていた美少年たちを見張っていたはずであろうから、おそらくは連中の動向を目撃しているだろう、と思ったのだ。また、ナバールはもう一つ、盗賊組合の頭領としての肩書きもある。連中がそちらの分野でもショバ荒らしをしているかもしれないことを話せば協力してくれるであろうとミオは考えていた。
 程なくして、木陰で先ほどのお捻りを数えていたナバールを見つけることができた。ミオは彼に自分たちの友人がおそらくは攫われたであろうことと、連中がおそらくは裏で人攫いと生け贄の儀式などをやっているらしいことを話して聞かせた。するとこの先ほどまでホクホク顔をしていた道化の顔が険しくなった。だが、意外にも彼は冷静であった。
「ああ。俺たちの[裏の家業]のほうまでショバ荒らしをしていることはある程度は突き止めているさ。だが、まさか目の前でやられるとは。連中なら街に帰った。が、おそらくあんた等の知り合いを攫ったのはおそらく別動隊だろう」
 そしてミオの協力要請に対してそれを好意的に受け入れた。
「わかった。このことはこちらでも調べておく。そっちでも何かわかったら教えてくれ」
 ナバールの協力を取りつけた一行はすぐさま街に戻った。
 すっかり日が昇ったライバの街は年明けの祭りで賑わっていた。通りには山車や獅子舞い、蛇踊りなど、さまざまな仮面や被り物を着けたものたちが城に向かって練り歩き、そして人々もまた、それを追って行列を作っていた。正午にはライバ城にて王の新年の挨拶もあるという。
 だが、今の一行にその祭りを楽しむ余裕はなかった。こうしている間にも、エリファがどんな目に合わされているかわからないのだ。
 そんな中でも美少年たちが辻説法をあいかわず続けている。しかし今は証拠もなく、彼らを問いつめたところで無駄に終わるであろう。ルシャーナの話によると教祖ロン・グリッチはこのライバの貴族の一人であるローザン家に逗留しているはずである。一行は手掛かりを求めて貴族街へと急いだ。

 貴族街はライバの街の中でも王城と並んで警備の厳しい地区であった。そして本来、一介の旅人如きが入れる場所ではない。だが、門を警備していた衛士達はクサナギの顔を見た途端敬礼した。やはりここでもクサナギは救国の英雄として尊敬されているようだ。
 ミオはここぞとばかりに衛士を得意の口車で言いくるめようとした。
「私たちはノウラのワールモン伯爵の依頼で、ここの伯爵の館に新年のご祝辞を言伝するように言われてるの。そしてここに居るのはあのクサナギヒコ。と、言う訳で通してくれます?」
 クサナギ達がワールモンの知り合いであることは誰もが知っていることであり、そして王朝結社を打ち破り、そして現在もあちこちの街などでの活躍が噂されているクサナギを信用しない訳にも行かず、衛士達は「揉め事だけはご勘弁を」といって門を開けてくれた。まさに[顔パス]であった。
 旅人街や市民街と違いこの貴族街は全く静かであった。もっとも、殆どの貴族は王城に新年の挨拶に赴いているためにそのほとんどが主人や家族が留守であったためであるのだが。でもそれは、一行にとっても好都合であった。明らかに旅人、といった風貌の彼らはこの街では比較的浮いているのだ。ここでもし往来が多ければ、間違いなく注目を集めてしまっただろう。クサナギの[顔パス]で切り抜けるにしても、目立たぬに越すことは無い。
 程なくして一行は、目当てのローザン家の館を見つけることができた。その敷地は広く、かなりの有力貴族であることが見て取れる。しかし、ここもやはり主人は留守のようだ。
 その時、館の通用門から一人の商人風の男が出てきた。ミオは、外に停めてあった小型の馬車に乗り込もうとしているその男を呼び止めた。どうやら彼はこの貴族街の御用商人の一人のようだ。名は、バルサスといった。ミオはここでもクサナギの名を出し、彼の信用を取りつけた。そしてライバ王から貴族街の調査を内密に依頼されていることにして、それとなくローザン家の様子を聞き出そうとした。それに対しバルサスは、ここでは話しづらい、と言って午後別の場所で改めて、と場所を書き留めて手渡し、そして次の家に向かって行った。
 午後まで時間が空いてしまった一行はとりあえず他の手がかりを求めて貴族街をうろついた。その時、一行は不意に呼び止められた。振り向くとそこには、二日前に酒場の乱闘で巻き添えを食ったあの青年が立っていた。ミオとアファエルは一瞬あせった。それはそうだろう。助けてもらったにも拘らず、盾代わりにカンカン踊りをさせ、あっさり捨てた挙句にフライパンの直撃など、散々な目に合わせてしまったのだから。
 だが意外にも、その青年は機嫌がよく、怒るどころか介抱してくれた礼に一行を自分の屋敷に招きたい、と言うのだ。……何のことはない、彼は自分が気絶してからのことをまるで覚えてなかったようなのだ。二人はとりあえずそのことには触れないようにした。
 彼の名はジョン・アルサスと言った。ジョンはこのライバの貴族の一人で、数年前に家督を継いだばかりだという。だが、若輩である彼にとってそれは重荷であり、今でも時々市民街や旅人街などに赴いてそこで普通に暮らす人々の声を聞いているという。
「まあ、たまにはああいう目にも会いますけど、僕は貴族の堅苦しい生活よりも、庶民の活き活きとした生活のほうに憧れているんです。贅沢かもしれませんがね……」
 と言う彼の表情は既に貴族のそれではなかった。おそらくは先の[王朝結社の乱]において彼は民衆の側について苦労したことだろう。
 ジョンの屋敷まで行く間に一行は、彼にローダン家について聞いてみた。ジョンの話によると、このローダン家は確かに有力貴族ではあった。が、やはり先の[王朝結社の乱]で王朝結社に着いたが為に、ライバ奪還の後に石高を減らされ、没落しかかっているという。そして最近では、何やら宗教に転んだらしい、ということだ。
 そして一行は、アルサス家の屋敷に着いた。そこはローダン家と比べるとやや規模が小さめであるが、自前の操兵格納庫をもつなど施設は充実していた。だが一行はその操兵格納庫に格納されている機体に驚愕した。そのうち一機はおそらく当主のものであろう何かしらのカスタム機であるらしいが、もう一機はよりにもよってあの、[聖騎士]の乗っていたファルラーテであったのだ!。このグラーテ量産型が何故、ここに。
「あ、この操兵はリダーヤ正教聖騎士団の聖騎士で、アヴィアス・リーン卿の機体です。何でも、武者修行の途中だとか……どうしました?」
「ひょっとして、あなたもリダーヤ正教を信仰しているの?」
 ミオのその問いに、ジョンは苦笑して答えた。
「いえ、僕の家は[リダーヤ凡教]ですよ。凡教は、確かある聖人が宗教改革を行ったときに分離して出来たものなんです。かつては仲が悪かったそうですが、何でも王朝崩壊以来、とりあえず協力しあっている、と言う状態らしいですよ」
 そしてジョンは怪訝そうに問いかけてきた。
「ひょっとして、昨夜リーン卿と何かありましたか?。彼、昨夜どこかに出かけていたみたいで、今朝方帰ってきたとき、やたらと機嫌が悪かったのですが」
 一行は昨夜アヴィアスと何があったのかを説明した。するとジョンはまたも苦笑して答えた。
「まあ、彼は不信心な僕と違って教義を頑なに信じていますからね。もちろん、僕はあのモ・エギさんが悪い[人]とは思ってませんよ」
 とりあえず一行は、この場は立ち去ることにした。ここであのアヴィアスとやらと揉め事を起こすのは願い下げであったからである。が、既に時遅し……
「まさか、こんなところでまた遭うとはな!」
 後ろを振り向くと、そこには聖騎士団の制服と思われるものを纏った一人の威丈夫がそこにいた。昨夜は拡声器越しだったとはいえ、クサナギもアヴィアスも互いにその声を忘れることはなかった。
 アヴィアスはクサナギの前に進み出た。その背丈はクサナギを圧倒するものであった。が、クサナギは怯まずにアヴィアスを睨み返した。
「生身で操兵に挑まんとするその勇気には感服する。だが、生命を賭けてまで守る相手を間違えてはいまいか?」
 クサナギはそれに対して毅然とした態度で反論した。
「私は、何も間違えてはいない。掛け替えのない仲間が侮辱されるのを黙ってみている訳にはいかないのだ!」
 クサナギの言葉はさらに続く。
「そなたこそ、あのような場所に操兵などで乗り込むとは、言語道断、人々の迷惑以外の何物でもない、と言うことがわからないのか!!」
 アヴィアスはその表情をこわ張らせた。
「どうやら、心までもが御仁によって惑わされたようだな!。いいか、我々聖騎士は、神の正義を実現するために、いかなる人間の法をも無視することができる。そう、私はあの場にいた御仁を神の名のもとに征伐しようとしたのだ。それを何故この街のものたちは止めようとするのだ!!」
 そこに、ジョンが割って入った。が、アヴィアスの言葉は止まらない。
「貴様が新生クメーラ帝国樹立を阻止しなければ、今頃は我々リダーヤ正教が、この街の正式な国教として信仰されるはずであったのだ!。……もっとも、それを推し進めていた王朝結社はテロリスト集団だったので、少々複雑な心境であったのだがな」
「私はただ、虐げられている人々をこのまま見過ごすことが出来なかっただけだ!!」
「まあ良い。ここはこの屋敷の主人を立てて引いてやろう。だが、次に遭ったときには容赦はせん。私の前に立ち塞がろうものなら、必ず貴様を斬り伏せる!!」
 アヴィアスはそれだけを言うと、そのまま屋敷の中に消えていった。一行はとりあえずご招待はまた後日ということで、と言ってジョン・アルサスの屋敷、そして貴族街を後にした。

 旅人街では相変わらず美少年が辻説法を続けていた。それを見たミオは、いっそ入会する振りをして忍び込むことを考えていた。が、その集団の中から一人の女性がビラを手に幻滅しながら出てくるのを見つけたアファエルは、そのビラを覗き込んで何故か自分も幻滅した。それを見たミオが女性からビラを取り上げ、その内容を見てみる。それには、入会の手続きとともに、それにかかる費用が載っていた。
「何々?、[入会金銀貨300枚][聖なる壺銀貨1000枚][教祖ロン・グリッチの肖像画銀貨3000枚]いぃぃ!!」
「呆れてものが言えないな……」
「まったくです〜」
 さすがにこんな大金まで払って実行する気はならなかった。
 とりあえず一行は唯一の有力な手がかりと思われる御用商人バルサスの話を聞こうと、指定された商人街の料亭[赤角灯]へと赴いた。その風情あふれる料亭では既にバルサスが一行を待っていて、彼は一行を密会用の個室に招き入れた。そして誰にも聞かれていないことを確認するとようやく話し始めた。
 バルサスの話によるとどうやらローダン家は確かにジョンが言った通り、王朝結社に組みしたことで石高を減らされるなどでかなり落ち目らしい。それでもこのライバのはずれの荘園を任されるなどまだまだ力のある貴族ではあるようだ。そして、確かにローダンは[闇と自由の法]団に入会し、現在は教祖を逗留させて自分の屋敷をライバでの拠点として提供しているという。
 バルサスが使用人から聞いた話だと、ローダン家の当主は最近旅に出て、その途中でロン・グリッチの[足の裏診断]を受けたのをきっかけに入会したらしい。どうやらその時に、現在の自分の状態をピタリと当てたことに感銘を覚えてのことのようだ。
 ミオはバルサスに酒を勧めながら話を聞いた。静かな庭園に添水が音を立てる。やがて酔いが少しずつ回り、商人の口も少しずつ軽くなっていった。ミオはさらに酒を勧めて話を催促した。が。
「実はですね、ここだけの話なんですが……」
「うんうん」
 バルサスは少し間を置いてこう言った。
「支払いが滞っているんです」
 一行は脱力感に襲われた。ある程度予想していたとはいえ、まさか本当に愚痴をこぼす、などというオチが待っていようとは。
「いや、ローダン様はここのところ彼らへの献金のためにだいぶ財政的にお困りのようですからな」
 ここでミオはアファエルの耳を指さして、こんな人がローダンの館にいなかったかどうかを訪ねた。アファエルの耳を見たバルサスは少し驚いたものの「ま、この街にはモ・エギさんのような御仁も住んでいますから」と開き直った。そして、やはりローダン家の使用人から聞いたのですが、と前置きをして、
「実はですね。今朝方、美少年の従祭の方と一緒にいかつい人が、何やら人ひとり入るほどの袋を、人目を気にしながら運び込んだとか」
 添水がカタン、と鳴り、風車がカラカラと回った。どうやら、やはり本命はローザン家のようだ。
 だが、まだ決め手が足りなかった。その時ミオは、おとといの酒場での乱闘で衛士隊に捕らえられたチンピラたちを思い出した。確か連中は最初からエリファとアファエル、というより妖精族を狙っていたようなのだ。おそらくその背後には連中をけしかけた黒幕がいるはずだ。
 一行は衛士隊の詰め所に出向き、チンピラたちとの面会を求めた。特に問題もなく面会は認められ、チンピラたちは一行の前に引き出された。
「で、俺たちに何が聞きたいんだ」
 ふて腐れるチンピラにイラついたミオは、彼らを脅すようにこう、切り出した。
「いいの?あんた達。このままじゃ縛り首は確実だよ!」
 が、チンピラは動じなかった。
「このライバで縛り首だってぇ?。馬鹿言うんじゃねぇよ、ねぇちゃん!」
 しかし、それで引き下がるミオではない。
「あんた達は牢屋にいて知らなかったでしょうけど、昼の王の演説で、犯罪者を放っておくと王朝結社みたいなのが出てくるから刑法をより厳しくするって話があったんだけどね」
 もちろん嘘である。第一ミオはおろか、クサナギもアファエルも王の演説など聞いてもいないのだから。だが、そこでミオはこう切り出した。
「でもここで、知っていることを洗いざらい話せば、減刑してもらえるかもね。あんた達もせっかくの新年祭、牢の中で祝いたくないでしょ?」
 にっこりと笑うミオにチンピラ達は「そういうことかっ、汚っねー!!」と毒つきながらも、自分たちはただ、黒服の男に頼まれただけだ、ということを話した。
「確か、どっかの貴族の使用人みたいだったよな。裏路地まで連れてくれば小遣いをやるって言うからさ」
 どうやら、チンピラからは黒幕へはたどり着けそうにもなかった。ちなみに衛士の話によると彼らはあと数日もたてば出られるという。次に一行は協力を約束したナバールの元に行ってみることにした。