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ナバールは表の家業として、芸人組合[ナバール一座]を営み、その座長を務めていた。ナバール一座は自分たちの芸人のほかに、このライバに訪れる旅芸人達のための斡旋も行っている。そしてこういう祭りの日は芸人一座はとてつもなく忙しいのだ。 「アーお前、日暮し亭に行ってこい。そっちは、エルサス酒場だ。もー忙しい……そういやアリスどうした!。もう仕事行ったか?」 芸人達に指示を出すナバールは、声をかけてきた一行に今は忙しいから、とジョウに別室に案内させた。別室に通された一行は出されたお茶を何故か用心しながら飲み、そしてナバールを待った。 しばらくして一息ついたナバールが部屋に入ってきた。一行は早速自分たちが得た情報を提示した。そしてローダン家に関する見取図などの情報を求めた。それに対してナバールは、快く承諾した。ただし、案内できるのは屋敷の入口までで、実際の中への侵入までは手助けできないという。 その他にもナバールは、中に侵入した際に使用するためといって、女中服も用意してくれた。が、それを見たミオとアファエルは、何でナバールがそれを持っているのかが気になった。その嫌なものを見るような視線に気付いた道化は、真剣な顔で「仕事じゃぁ!!」と反論した。 一行は早速見せてもらった見取図を元に侵入のための作戦を練った。ナバールの話によると、以前にこの見取図作成のための調査を行った結果、この建物には物置以外の地下室は見当たらなかったという。だが、よく見ると図面上に一ヵ所だけ不自然な部分が見られた。書斎の一ヵ所の壁に空間のようなものがあるのだ。しかもその空間に通じる入口はどこにもなかった。おそらくここに、地下に通じるであろう隠し扉があるのは間違いなかった。 侵入地点が決まった。一行は早速準備を整え、ネズミ仮面ジョウの案内で再び貴族街へと向かった。が、その前にジョウの荷物から[ネズミ仮面参上]の張り紙を置いていかせることを忘れなかった。 貴族街の側まで着いた一行。だが、今度は正面から乗り込む訳にはいかない。するとジョウが盗賊たちが使用する抜け道を案内してくれた。そしてその抜け道を通って貴族街へと入り込んだ一行は、早速ローダン家の屋敷へと急いだ。今日は王城での新年を祝う晩餐会のために主人、そしてロン・グリッチは留守のはずである。機会は今しかなかった。 屋敷にたどり着いた一行は早速侵入を開始した。最初に本職の盗賊であるアファエルが塀を乗り越え、辺りに監視がないことを確認すると、それに続いてクサナギ、ミオも続いて塀を乗り越える。そして、そのまま建物の側まで走り寄り、一旦裏口を廻ってから書斎の窓の側まで寄った。屋敷の中は主人の居ない間の一時とばかりに、使用人と女中達はささやかな新年会に酔いしれており、誰一人一行の侵入に気付くものは居なかった。アファエルは早速書斎の窓を器用に開け、その中に侵入しようとした。 その時、ミオは玄関に[闇と自由の法]団の紋章をつけている馬車が何かを詰め込んで今にも出発しようとしているのを目撃した。何かある、と睨んだミオはアファエルに「後のことはよろしく」と言ってすぐにその馬車を追跡した。が、さすがに徒歩では馬車には追いつけず、せいぜいがその馬車が旅人街へと抜けていった、というところまでしかわからなかった。 だがミオは諦めなかった。街の人々に聞き込み、その馬車が南の門を抜けたことを突き止めると、すぐに貸し馬屋に飛び込んだ。ドウドウ鳥を借りて追跡しようというのだ。だが、「あいにくこいつしか」と連れてこられたドウドウ鳥を見たミオは顔が青ざめた。そのドウドウ鳥は通常のものよりもやや(?)大きく、そして気性が荒そうであった。ドウドウ鳥はミオを見るや(小娘が!!)と言わんばかりに睨みつけた。 それでもミオはその鳥の鞍に身を預けると、すぐさま馬車を追った。そのドウドウ鳥は気性が荒いなんて生易しいものではなく、猛獣か何かに乗っているような錯覚を覚えさせる。が、それだけにその脚力は素晴らしく、半刻も経たないうちに馬車が見える位置まで迫った。 「どう、どう、静まれコクオウ!」 と、訳の分からないことをいってその魔獣のような鳥を止めたミオは、そのままゆっくりとその馬車を追跡した。そしてどのくらいの時間が過ぎただろうか。やがて馬車はどこかの荘園の入口に入っていった。ミオはドウドウ鳥をサボテンにつないで荘園の側に行き、その旗の紋章を確認した。それはローダン家の紋章であった。 馬車は荘園の代官のものであろう屋敷の前まで来ると、門番に何かを手渡し、そして特に荷物を下ろす事なくそのまま走り出した。そして先ほどとは違う門から出ていった。それを見たミオは、再びドウドウ鳥に乗って馬車を追跡した。 次に馬車が着いた場所は巨大な岩山であった。馬車はその岩山の一ヵ所に縦に広がる亀裂の前に止まった。ミオが隠れて様子を見てみると、その亀裂の中から頭巾の着いた長衣を身に纏ったもの達が数人現れ、馬車から下ろされた大きな袋を担いで再び亀裂の奥へと消えていった。だがその時ミオは見逃さなかった。その袋が身じろぎするかのように動いたことを……。 ミオは早速ドウドウ鳥を街に向けて再び走り出させた。ドウドウ鳥は別にミオの気持ちに答えたわけではないのだろうが、それでもその素晴らしい脚力で失踪した。もはやミオはしがみつくのがやっとであった。 そのころ、ミオに置いてけぼりにされたクサナギとアファエルは、仕方無しに自分たちだけで侵入作戦を開始した。アファエルは足音一つ経てずに書斎に入り込み、クサナギもまたそれを見習い何とか入り込んだ。そして、見取図で見た場所を調べると、そこは本棚であった。アファエルがその棚を調べると案の定、そこには隠し扉があった。 扉を開けてみると地下に通じる階段があり、二人は用心しながら中へと忍び込む。そして石造りの階段を下り、直角に曲がった通路を進んで頑丈そうな扉の前に出た。アファエルは慎重に扉を調べた。特に盗賊除けの罠はかかってはいないようだが、やはり鍵がかかっていた。アファエルは特に慌てることもなく(もっとも、彼女に慌てるということはあるのだろうか?)その鍵を難なくこじ開けた。そしてゆっくりと扉を開き、用心しながらその中へと入っていった。 扉の中は大きな部屋であった。その部屋はどうやら連中の礼拝堂として使用されているようで、奥の中央には祭壇も作られていた。見てみるとその祭壇には、人を捕らえるための手枷が取りつけられている。生け贄の儀式のためのものであろうか。祭壇の側まで行った二人は、左右の壁に扉があることに気付いた。 まず、右の扉を開けてみる。そこはどうやら教祖ロン・グリッチの私室のようだ。二人は手分けしてその部屋を捜索した。すると彼の日記のようなものとそして、まちがいなくエリファのものである見事な作りの短弓が出てきた。どうやらここにエリファが捕らえられていることは間違いなかった。 短弓と日記を手に入れた二人は、今度は反対側の部屋を調べてみることにした。慎重に扉を開けてみるとそこは、拷問台のようなもののある部屋であった。そしてその部屋には、つい先刻まで誰かが閉じ込められていた形跡があった。どうやら、一足違いだったようだ。 二人は大急ぎでこの場を立ち去ることにした。そして来たときと同じように慎重に階段を登った。その時、二人は玄関のほうが騒がしいことに気付いた。どうやら主人と教祖が帰ってきたようだ。二人は大急ぎで書斎に出て、すぐさま裏口に廻って脱出しようとした。 だが、この時クサナギが物音を立ててしまい、その音を聞きつけて一人の使用人が現れた。どうやらその男は二人を使用人と女中だと思い込み、主人が帰ってきたのだから出迎えろ、と怒鳴りつけた。二人はその場を取り繕うとしたが、その振る舞いに不自然さを感じた男は二人が賊であることに気付き、大声を上げて知らせた。 二人は他のものが来る前に大急ぎで逃げ出した。そして素早い身のこなしで逃げるアファエルと、それには及ばないまでも必死に走ったクサナギは何とか屋敷を抜け出し、無事に貴族街を脱出した。 何とか竜の牙亭に戻ったクサナギとアファエル。クサナギはミオが戻るまでの間、手に入れたロン・グリッチの日記を読んでみた。これを読めばおそらく、この教祖が何を企んでいるのかがわかる、と思ったからだ。 そして案の定、その日記にはとんでもないことが書かれてあった。それによるとこのロン・グリッチという男の家は、先祖の代からこの[闇と自由の法]団の教祖であったようで、しかも現在に至るまで自分の教義を何の疑いもしていない、意外と信心深い家系のようだ。 現在のロン・グリッチの目的はどうやら自分たちの[神]をこの[現世]に復活させることであった。彼らの[神]は[フェラリス]または[ハラリス]と呼ばれ、[暗黒]と[混沌]を司り、それが蘇ればこの世は法や秩序に縛られない[自由なる世界]が訪れるという。だが、彼の求める[自由なる世界]とはすなわち[混沌の世界]、無秩序で破壊的方向性をもつものであり、到底容認できるものではない。 そしてクサナギはその日記を朝方までかけて読み進むうちにとんでもない記述を見つけた。それは、連中の[神]を呼び出す儀式に[神の体となる生け贄]が必要である、と云うことだ。しかも[剣の世界から来た来訪者]である妖精族が一番適しているという。何故なら、その[神]もまた[剣の世界]の[神]であり、[現世]に下ろすにはやはり[同じ世界の住人]が一番適しているからであるというのだ!。 その日記は最後に、「生け贄は手に入った。これで悲願である[神の降臨]が実現出来るのだ」という文で締めくくられていた。ようするにこのままではエリファが[暗黒の神]とやらの慰みものになってしまうということなのだ!。 その時、アファエルが不意に呟いた。 「あの〜[フェ]でも[ハ]でもなく[ファ…]なんですけども〜」 だが、その呟きは今のクサナギには届いてはいなかった。 「そんな訳の解らない[迷信]のためなどにエリファを犠牲にさせるものか!!」 その時、竜の牙亭の入口に血相を変えたミオが飛び込んできた。連中の秘密宮殿と思われる場所を発見したミオはドウドウ鳥を一晩中走らせ、というよりは暴走したドウドウ鳥にしがみ付きながらライバの街まで戻り、ドウドウ鳥が勝手に貸し馬屋に戻ったところでやっとの思いでここまでたどり着いたのだ。 クサナギとアファエルはミオと情報を交換し、早速エリファ救出のための準備を始めた。その時、店の表の大通りを二台の馬車が走り抜けていった。そのうちの一台には[闇と自由の法]団の紋章が描かれていた。どうやらロン・グリッチが日誌を盗まれたのに気づいて事を急ごうとしているようだ。 こうしてはいられない。クサナギはエルグラーテを起動させ、街の門へと向かわせた。ミオはアファエルと一緒にモ・エギのところに向かった。相手の戦力が解らない以上、こちらも万全の戦力で望む必要があったからだ。知らせを受けたモ・エギは早速、戦鎧紅葉武頼を装着、ミオとアファエルを抱えてエルグラーテと合流し、その馬車の後を追いかけた。 やがてエルグラーテとモ・エギは、ミオが突き止めた岩山の近くに到着した。見ると入口には既に馬車が停められ、その中から大勢の人々が降りていた。そして入口で白い長衣を与えられ、それを纏って中へと消えていった。どうやらその人々はライバで集めた信者のようだ。 ここで一行は相談した。岩山の中では操兵やモ・エギは使えず、また、エリファがいるために強硬な策は使えない。そこで内部に侵入するための作戦を立てることにした。そしてその手順を確認するとその作戦を実行に移した。 やがて信者を降ろした馬車は荘園のほうに向かって進み出した。クサナギは馬車が岩山から離れたところをねらって待ちぶせをした。突如現れたエルグラーテに困惑し、逃げようとする馬車。だが後ろからはモ・エギが押さえ込み、完全に取り押さえられた。 モ・エギの手の上からミオが馬車の御者にやさしく話しかけた。 「ちょっとあんた達、私たちに協力してくれない?。さっき信者達に渡していた長衣を貸して欲しいの」 クサナギも操手槽を開けて嘆願した。 「頼む!私たちの友人を助けだしたいのだ!!」 「私からもお願いします」 アファエルも縋り付くような眼差しで御者を見つめた。 だが、その一行の言葉を聞いた御者は顔をこわ張らせてこう言った。 「そうかお前等、[教祖様]の大事な儀式をぶち壊す気だな!そうはさせんぞ!!」 それを聞いたミオの目がすぅっと、細くなった。 「ク〜サ〜ナ〜ギ〜!!」 その言葉がなにを言わんとしているかを理解したクサナギはエルグラーテの両手をその御者に向けた。それを見た御者はその場から逃げようとするが、モ・エギの手の上からミオとアファエルがそれぞれ長銃と短弓を構えるのを見るや、観念して降参した。 御者をモ・エギに預けた一行は早速打ち合わせた通りに作戦の準備に取りかかった。クサナギとミオは残されていた長衣を身に纏い、アファエルを「いかにも捕らえてきた」、といった感じで両側に押さえ込み、岩山の亀裂の側まで行った。もう一人の生け贄を捕らえた、という振りをしてロン・グリッチの側まで行こうというのだ。 信者に化けた一行を見た見張りは芝居に気づいた様子もなく、もうすぐ儀式が始まることを告げた。ミオは見張りに「もう一人の生け贄を連れてきた!」と捲くし立て、そのことをロン・グリッチに伝えるように言いつけた。アファエルの長い耳を見た見張りは大急ぎで中に駆け込んだ。そしてすぐに戻ってきて、一行に中に入って待つように伝えた。 亀裂の奥には、自然の洞窟を利用して作られた地下神殿が広がっていた。そしてその中では、儀式の準備がほぼ完了し、教祖の登場を今か今かと待っていた。 その時、神殿中に荘厳な音楽が鳴り響いた。そしてその音楽とともに派手に着飾り、美少年軍団に守られた教祖ロン・グリッチが、拍手に出迎えられた登場した。祭壇にあがったロン・グリッチは、人々に向かって大きく手を挙げ、叫んだ。 「皆さん[最高]ですかぁーっ!!」 「[最高]でーすっ!!」 教祖の声に答える信者達。ロン・グリッチはさらに言葉を続けた。 「今日の[天声]。[とうとう暗黒神がこの現世に降臨する日が来たよ。これで法や秩序のない自由な世界が訪れるね]。そうです。今日、この日に暗黒の[神]が降臨なせれるのは、太古より定められた[定説]なのです!!」 その言葉に信者達が歓声を上げた。ロン・グリッチは美少年の一人に指示を出した。すると美少年はかねてより打ち合わせしてあったかのか、てきぱきと儀式の最終準備をした。そして、生け贄を吊す台を準備し終えると、奥のほうからこの儀式の主役を連れてきた。 それは、紛れもなくエリファであった。彼女は薄絹一枚を着せられているだけの裸同然の姿であった。薬か何かで眠らされているのだろうか、エリファは身じろぎ一つしなかった。 「ここに一人のいたいけな少女がいます。この少女の体を[神の御体]として、[暗黒神]がこの[現世]に降臨なされるのです」 その言葉を聞いた信者達がエリファに惜しみない拍手を送る。その拍手を聞いたクサナギ、アファエル、ミオは焦りを覚えた。[暗黒神]なるものの存在は肯定しないものの、このままではエリファの身が無事であるはずがない、ということは事実であったからだ。だが、ここは機会を待つしかない。 そしてとうとうその機会が訪れた。一人の信者がロン・グリッチに耳打ちをした。すると彼はにこやかな笑みとなり、再び信者に向かって高らかに演説した。 「皆さん、よい知らせです!。[神の御体]となる少女がもう一人駆けつけてくれたのです。拍手をもって出迎えましょう!!」 その言葉を聞いたクサナギとミオは、アファエルをの両腕を抱え、信者達の間をゆっくりと、祭壇へと向かっていった。信者達はそんな三人を拍手で迎え入れる。祭壇では護衛の美少年が道を開け、ロン・グリッチが両手を広げて大袈裟に出迎えていた。 その時、クサナギは壇上にいるロン・グリッチに向かって高らかに叫んだ。 「[暗黒神]に成り代わり、この私が、そなた達の終わりを告げよう!!」 その言葉に信者達、そして美少年達はどよめいた。 「神聖なる儀式を汚すとはきさま何者だ!!」 クサナギは長衣を自ら脱ぎ捨て、その名を叫んだ。 |