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「クサナギヒコ・ディス・グラーテ!。私達の友人を取り戻し、そなた達の狂った所業を挫くためにやってきたのだ!!」 そう言ってクサナギは腰の大太刀を抜き放ち、構えた。アファエルとミオもそれぞれに短弓と長銃を構える。その光景にロン・グリッチは慌てることもなく悠然と構えた。 「クサナギヒコ……やはり日記を盗んだのはお前たちだったのか!。だが」 ここでロン・グリッチはどよめく信者達に向き直った。 「皆さん、ご安心ください。ここで私の[奇跡の力]をご覧に入れましょう!」 ロン・グリッチは数歩下がり、美少年達の後ろへとその身を隠した。そして美少年達に、 「やれっ!!」 と指示を出した。指示を受けた美少年達はそれぞれに突剣を抜き、二人がそれぞれクサナギとアファエルに向かい、そして二人がロン・グリッチを守るための壁となった。 戦闘が始まった。クサナギは向かってきた美少年を相手に大太刀をふるう。美少年の繰り出す突剣はさほど鋭くなく、クサナギはその攻撃を楽にかわす。だが、美少年は教祖に対する忠誠心は厚いようで、クサナギの攻撃を受けながらも必死に耐え、果敢にも剣を繰り出してくる!。 アファエルはエリファの短弓を番えた。もの言えぬ彼女の無念を代わりに果たそうというのだ。そして、その矢をロン・グリッチに向けて狙いを定める。が、そこに美少年が割り込み、教祖に矢を放つことができない。美少年は相手が女性であるにもかかわらず、アファエルにも剣の攻撃を繰り出して来た!。反撃しようにもこの至近距離では矢を放っても意味がない。どうする!。その時、ロン・グリッチが何やら呪文のようなものを唱え始めた。そしてクサナギに向かってこう叫んだ。 「わが奇跡の力[天現力]を受けてみよ!!」 この教祖が放とうとしているのは、[聖霊衡法]と呼ばれる術法の一種である。この術法は本来神に仕える聖職者である[伝導士]のみが召喚を許された奇跡の技である。この術は阿修羅やヴィシュヌなどの[修道士]が体内に宿る[気]の力を利用して発現する[気孔術]とは違い、[神]を通じて万物に宿る[聖霊]に呼びかけてその力を借りるというものであった。これに似た術は時折、ケモノビト達の間にも見られるという。 だが、この[世界]ではその実在が疑わしく、想像上の域のでない[暗黒神]からはその為の[力]を授かれるとは思えない。が、成せばなる、とはよく言ったもので、本気で信じるがあまり自力で術を発現させるまでに至ったようだ。 そして術を完成させたロン・グリッチはその組んだ指をクサナギに向けた。が、その時ミオがそのロン・グリッチを守る美少年達の足下に向けて放った銃弾が破裂!。その煙が濛々と広がり、その場にいるものの視界を奪った。ミオお得意の白煙弾である。その煙はロンの視界も奪った。だが一度発動した術は止められない。目標を見失った術はその煙の中にいる美少年の一人にかかってしまった。 術を受けた美少年はそのまま硬直して動かなくなった。どうやら金縛りの術のようだ。仕方なくロン・グリッチはもう一度術の準備を始めた。どうやらこの術は低位のもので、比較的準備時間の短いものらしい。要するにロン・グリッチの今使える術はこの程度のものくらいということでもあるということだ。 だが、そこにミオが透かさず飛び込んできた。そして煙が晴れないうちに一人の美少年を銃床で殴りつけた!。すぐには気絶しなかったものの、彼はその衝撃で戦闘不能な状態になった。さすがに身の危険を感じたロン・グリッチは術の準備を中断、その場を離れた。その隙にミオは祭壇で拘束されているエリファの元に駆け寄った。 一方クサナギは美少年にてこずっていた。美少年は腕は立たないものの気力は十分で、またクサナギも殺生は忍びないのか、手加減しようと大太刀の背で攻撃しているために絶対的な打撃を与えることができない。だが美少年の攻撃もクサナギに命中はしないので特に危機一髪という状況ではなかった。 むしろ危機的状況寸前なのはアファエルだった。アファエルは美少年の繰り出す剣を脇腹に受けたものの、それほど深手ではないようだ。だがこのままでは矢を放てないのは間違いない。アファエルは攻撃を避けつつ、間合を取ろうとした。その身のこなしについていけない美少年。アファエルは十分間合をとると、その矢をロン・グリッチに向けて撃ち放った!。 だが、その一撃は致命傷にはならなかった。その攻撃に耐えたロン・グリッチは再び術の準備に取りかかった。そして、準備が完成するや否やそれをクサナギに向けて解き放った!。 美少年と戦っていたクサナギは、不意に体が[縛られる]感覚に襲われた。が、クサナギの鍛えられた精神がそれを振り払い、術に耐え切った。クサナギは焦るロン・グリッチにこう、言い返した。 「どうした!。そなたの[奇跡の力]とやらはその程度かっ!!」 その言葉に怒りを露にするロン・グリッチ。そして、教祖を馬鹿にされて怒り狂ったのか、美少年が怒りの剣を繰り出してきた。が 「折ーっちゃーったぁー!!」 繰り出した突剣はクサナギの剣にぶつかってものの見事に折れてしまった。そして、悪いことは続くもので、その側でアファエルと戦っていた美少年が、離された間合を縮めようとして突撃したものの 「折ーっちゃーったぁー!!」 哀れである。 剣を折った美少年はまるで駄々っ児のように両腕を振り回してクサナギに食って掛かった。クサナギは大太刀の背で向かってきた美少年を叩き伏せ、昏倒させた。 一方、こちらも剣を折ってしまい茫然としている美少年には構わず、アファエルは再び教祖に狙いを定めて短弓の弦を引き絞った。エリファの短弓はとても軽く、普通の弓の半分の力で引くことができ、その為通常よりも早い時間で次の矢を番えることができる。それでいて威力は落ちるどころか格段に増しているのだ!!。 アファエルはその矢を、またも術の準備をしているロン・グリッチに向けて撃ちはなち、さすがの暗黒教祖も二撃目は耐えられず、ついにその場に倒れてしまった。 この戦闘の最中信者達はずっと、混乱し続けていた。教祖自慢の美少年達が無様にも破れ、奇跡の技の[天現力]もクサナギには通用しないのだ。そして、終いには奇跡の人と信じていた教祖ロン・グリッチがあっさり倒れたことでその混乱はさらに大きなものとなった。自分たちが信じてしまったものが音を立てて崩れ去ってしまったのだ。無理もない。 だが、この混乱の中一人平然としている人物がいた。ルシャーナの参謀であるムワトロであった。彼はルシャーナの命令でこの教団の調査をしていたのだ。エリファがクサナギ達の知り合いであることは知らなかったが、彼としても出来れば助けたいとは思ってはいた。が、その機会を待っているうちにクサナギ達が現れ、先に助け出したのだ。 「やれやれ、やっと[救国の英雄]様の登場か……クサナギが出てきたんじゃここもおしまいだな」 それだけを呟いたムワトロは、混乱に乗じてこの場を去った。 混乱の続く地下神殿。その信者達に向かってクサナギが叫んだ。 「見よ!。これがそなた達の信じたもの達の姿だ!!」 クサナギが指さしたところには、情けない表情で気絶した教祖ロン・グリッチがいた。その姿からは威厳や神々しさと云ったものがひとかけらも残ってはいなかった。 「そなた達は、これを見てもまだ、信じられるというのか!!」 そのクサナギの叫びを聞いた人々はすっかり静かになった。人々は、儀式のために手にしていた蝋燭を、一人一人順番に、祭壇へと捨てていった。その姿はまるで、今までの自分のすべてを捨てさるように見えた。そして人々は、ゆっくりとした歩調で信者全員がこの地下神殿を後にした。 エリファは大分やつれていたものの、命に大事はなかった。一行は彼女を戒めから解き放って、自分たちも神殿を後にした。外ではモ・エギが既に馬車に人々を乗せて待っていた。一行は、ローダンの荘園から追っ手が来る前に大急ぎでこの岩山を離れた。 一行は特に何事もなくライバの街に戻った。そしてロン・グリッチと美少年軍団を証拠の品々とともに衛士隊に引き渡し、新年の挨拶を兼ねて国王レイ・ライバの元を訪れた。 「そうか。[闇と自由の法]団には、そんなとんでもない面があったとは。昨日の晩餐会で逢ったときに嫌〜な感じはしたんだが」 王は眉をしかめて言葉を続けた。 「あの教祖め!無礼にも私に[足の裏を見せろ]などとほざきおったのだ!!」 言いたいことを言ってとりあえず落ち着いた王は、一行に事件解決の礼を述べ、その苦労をねぎらった。 その後、教団に協力したローダン家はお取り潰しが決定し、管理していた荘園も当面は王直轄となって新たな代官が送られたという。無論ライバ王のことだから、教団に関係のなかった家来などにはお咎めがなく、解雇されたわけでもないのは言うまでもなかったが。 そしてエリファは、ライバ一番の療養所で手厚い治療を受けていた。彼女は街に戻る途中でモ・エギの[治癒]を受けたが、ほとんど効果がなかったのだ。もともと自分の再生能力を貸し与えるものであるモ・エギの治癒はどんな怪我でも治すことができるが、体力そのものが衰弱していては意味がない。こうなってしまっては、しっかりした休養と滋養が何よりの治療法となるのだ。 アファエルは療養中のエリファを見舞った。エリファは思ったよりも元気そうだった。アファエルは借りていたエリファの弓を返そうとしたが、エリファはそれを受け取らなかった。 「それは、あなたが持っていて。助けてもらったお礼よ」 「でも、それじゃ〜あなたが旅を続けるときに困るじゃないですか〜」 エリファはかぶりを振った。 「私、当分は旅には出ないわ。この体じゃ、長旅は出来そうにないし。それに、私この城で働くことになったの」 エリファはライバ王にこの国で働かないか、と持ちかけられていたのだ。クサナギ達が訪れたレムの街をはじめとして、最近[妖精族]達との接触事例が増えているという。王としては[彼ら]と平和的に交渉を持つ際に同族であるエリファの協力を仰ぎたい、と言うのだ。当面の間は、ミレーア姫付きの侍女として働きながら、この国について学ぶ、とのことだそうだ。 だが、その話を聞いたミオは、こう言った。 「[賭事]にのめり込まなきゃいいけど」 ミレーアには[賭事好き]という悪癖があったのだ。姫にそれを教えたのは、一人の侍女だという話らしい。 エリファに「弓はあげる」と言われたアファエルは、少し考えた末にこう答えた。 「わかりました。これは〜とりあえず私が預かる、と言うことで〜」 こうして、年明け早々起きた事件は何とか解決した。これでようやくクサナギ、ミオ、アファエル、そしてモ・エギは年明けの祭りの気分に浸れるというものだ。当面の間は、何事も起きないように、と願わずにはいられない一行であった。 だが、その中でモ・エギは一人複雑な心境に陥っていた。日の出前の出来事、自分を庇って単身操兵に挑んだクサナギの姿が脳裏から離れないのだ。 モ・エギは自分の手のひらを見つめながら一人呟いた。 「やっぱり、[大きさ]が違いすぎるよね……」 |