キャンペーン・リプレイ

第 二十三話 「 貴 婦 人 は 虹 色 の 蛇 身 」 平成12年2月6日(日)

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 結局一行は、ゼノアの用心棒、という名目でタナル村に行くことになった。これでとりあえずの収入も保証された、という訳だ。その数日後。結局道中は魔物とやらに襲われる事なく一行は、何事もなくタナル村に到着した。ゼノアがもたらした情報通り、操兵のいる商隊は襲わないようだ。
 予想に反してタナル村は活気に満ちあふれていた。人々は笑顔で行き交い、広場では様々な出店が並んでいた。その中には近くのケモノビトの集落から、毛皮や細工物を売りに来るものもいた。
 その中で、人だかりが一際大きいところがあった。そこでは二人の男女で組んだ大道芸人が自分たちの芸を披露していた。この辺りでは珍しい銀色の髪をもつ二人は姉弟であった。弟がリュートを奏で、姉がその音色に乗って踊る。二人の息の合ったその芸は周りの人々の注目を集め、それを魅了するのに十分であった。
 だが、この二人にはもう一つ、秘密の肩書きがあった。二人はこの都市国家郡より北西、丁度トランバキアと樹界を挟んだ反対側に位置する[羅・諸国連合]の国の一つ、[ラパタ]から派遣されて来た密偵であったのだ。二人の任務は王朝結社についての調査であった。もし王朝結社がライバ制圧を成功させ、都市国家郡の統一に乗り出した場合、やはり羅・諸国連合としてもなんらかの対応が必要になる、と上層部が判断したからであった。
 そこで、羅・諸国連合を束ねる[皇帝ラ・ソーラ]は、都市国家郡に一番近い辺境の国であるラパタの僧正(羅・諸国連合では僧侶が国を治めている)に命じて密偵を放ち、彼の組織を調査させることにした。その命令を受諾した僧正は、この二人の姉弟を都市国家郡に赴かせたのだ。が、僧正自身もあまり乗り気でなかったのか「物見遊山のつもりでいいよ」と付け加えた。
 ところが、姉弟が都市国家郡に潜入して間もなく、クサナギ達一行がライバを開放、王朝結社を事実上壊滅状態に追い込んでしまっていたのだ。調査の対象を失った二人は[練法]の術の一つである[遠話]を用いてその状況を報告した。
 [練法]とは、[聖刻石]と呼ばれる不思議な力場をもつ特殊な石から力を引き出し、様々な奇跡を引き起こす秘術である。二人が使用した[遠話]と呼ばれた術もその一つで、自分の思念を離れた場所へと伝える通信手段である。だが、現在このゴンドア大陸では練法を使用できるものは少なく、羅・諸国連合の一部で伝承されている以外には殆ど見ることはできない。この二人とて、完全な意味では練法を極めたとは言えず、低位の術しか使えない[練法使い]と呼ばれる者達であった。
 それでも、低位とはいえ二人の行使する術は強力で、何の知識も持たないものが受ければ、なす術もなく翻弄、撃退されるであろう。だが、やはり[練法使い]でしかない彼らにとってはその低位の術ですら多大な精神力を必要とし、そうは使用できない。しかし、これが[練法師]であったなら、術者によっては念じるだけで簡単に行使でき、そして[仮面]と呼ばれる特殊な術具を用いることによってさらなる高位の術も行使できるという。
 やがて二人は、僧正からの返事を受け取った。だが、それは二人にとって意外なものであった。僧正は二人に「当分の間はその地で羽を伸ばして遊んでなさい」と言ってきたのだ。もちろん、ときどき連絡を寄越すのを忘れないように、とも付け加えたが。
 こうして二人の姉弟はこの都市国家郡に留まり、旅芸人となってあちこちの街や村を廻る旅を続けているのである。

  旅芸人に身をやつし、都市国家郡を渡る練法使いの姉弟ナナとイヴル

 ナナとイヴルがお捻りを拾っていると、一人の客が[クサナギを讃える歌]をリクエストしてきた。ここのところ旅の吟遊詩人の間では[王朝結社の乱]を歌にするのが流行なのだ。その中でも特に人気が高いのは[クサナギヒコの活躍の歌]である。クサナギの駆るファルメス・エルグラーテと[王家の操兵]ファルメス・エンペラーゼの対決は戦場における[最後の操兵戦]として人々の記憶に残っているのだ。
「わかった。[ク・サナギの歌]だな」
 イヴルはそういうと、リュートを奏で[ク・サナギの歌]を歌い始めた。どうやらイヴルは誤って覚えてしまったようだ。
「[ク・サナギ]じゃねぇ![クサナギ様]だ!!」
 突然の怒鳴り声がイヴルを襲った。見ると一人の巨漢がナナとイヴルを見下ろしていた。二人は知らなかったが、見るとその男はまるでクサナギと同じ服を着ていた。クサナギのような扮装は特に珍しいという訳ではないのだが、この男の服はまるでクサナギのそれをまるっきり自分に合わせて複製したようなものであった。
 男はイヴルに向かってさらに怒鳴るように話を続けた。
「これからは[俺様]の歌を歌うときは気をつけるんだな!」
 ナナはその男に話しかけた。
「すると、あなたが[クサナギ]なんですの?」
「[クサナギ]じゃねぇ![クサナギ様]だ!!。俺様の名を呼ぶときは、必ず最後に[様]をつけることを忘れるな!!」
 どうやらこの男、クサナギの名をかたる偽物のようだ。だが、本物に遭ったことがない二人でもこの男が偽物であろうということは予想がついた。
「でも、私の聞いた[クサナギ]は[白馬に乗った美形の王子様]って聞いているんだけど……」
 ナナのその一言に男は激怒した。その時、男に声をかけたものがいた。イーリスであった。
「[クサナギ]さん?」
「[クサナギ様]だ!!」
「[クサナギ様]もし、あなたが本物でしたら、ぜひとも剣の相手をしてくれませんか?」
 それを聞いた[クサナギ様]は、一瞬返す言葉を失った。イーリスは笑っているが、その笑みにはどこか危険な香りが感じられたのだ。が、すぐに立ち直り、こう言った。
「俺様は得にならない戦いはしない主義でな……。俺様と戦うなら操兵を持ってこい!」
 そこにようやく本物の[クサナギヒコ・ディス・グラーテ]が登場した。
「やめろ!。二人が嫌がっているじゃないか!。それ以上やるのなら、私が相手だ!!」
 クサナギのお決まりの台詞に[クサナギ様]は鼻で笑った。
「ふぅん。その格好からすると、どうやら俺様にあやかっているようだが……いいだろう。てめぇが操兵を持っているんなら、相手になってやる。その代わり……」
「その代わり……?」
「俺様が勝ったら、てめぇの操兵の仮面を頂くぜ!!」
 どうやらこの[クサナギ様]、最初からこれが狙いのようだ。[クサナギ]の名前はこの辺りでは十分に有名である。それ故、その名前にビビッて弱腰になるものもいるだろう。それを利用して相手を威嚇、その隙をねらって楽に勝利しようというのだろう。だが、この[クサナギ様]は相手と場所を完全に間違えたようだ。
 そして勝負が始まった。クサナギはファルメス・エルグラーテを広場まで移動させた。対する[クサナギ様]は既に操兵に乗り、広場で待ち構えていた。その機体は確かに、左腕部に盾を装着、しかも長槍まで取りつけられていた。そこまではままいい。が、それ以外は全くデタラメで、どう見てもスクラップの寄せ集め操兵にしか見えなかった。
 二機の操兵が揃ったところで、無責任な男が二つの笊を地面に置いて賭を始めた。それを見たイーリスは「金貨はだめかしら」と言ったが、胴元は「そいつは勘弁してくれ」と突っ撥ねた。だが、どっち道賭は成立しなかった。周りの人々はそのすべてが本物のクサナギのほうに賭けたのだ。ここタナル村はノウラのすぐ側、本物のクサナギを知る者が多いのである。[クサナギ様]がいくらがなり立てようが、だぁれも聞きゃしないのだ!。
 だが、そんなことに気付かず[クサナギ様]は機体をエルグラーテに向けた。
「てめぇの操兵の名前を聞いておこうか」
「ファルメス・エルグラーテ!!」
「どこまでも、俺様にあやかろうって訳かい。おめでたい奴だぜ!」
 その直後、[クサナギ様]はどっちが[おめでたい奴]かを知ることになった。ミオがクサナギにこう、声をかけたのだ。
「クサナギ〜。出来ればそいつ、なるだけ壊さずに倒してね!!」
 それを聞いた[クサナギ様]はようやく、自分の目の前にいるものが何者かを知った。
「……本……者……」
 その呟きはだれにも聞こえなかった。[クサナギ様]は精一杯の虚勢を張って、こう言った。
「ふ、ふんっ!まあ、見たところ、機体も操手も大した腕じゃ無さそうだ…。そんな奴を倒しても[クサナギ様]の名前が上がるわけじゃ、ないし……今日のところは……か、勘弁してやる。とっとと俺様の前から消えな!!」
 その言葉とともに[クサナギ様]の操兵が後退り、そのまま走り去ろうとした。どうやら自分のほうが消えるべきであることはわかっているようだ。が、慌てて操縦を誤り機体を転倒させる。そして再び機体を立ち上がらせ、今度こそこの場を立ち去った。クサナギはすっかり呆れ返って[クサナギ様]を追うことをしなかった。
 騒動は終わった。クサナギがエルグラーテを操兵駐機場に戻し、一行の元に戻るやイヴルとナナは[本物]のクサナギに話しかけた。
「あなたが本物の[ク・サナギ]さん?」
「……[クサナギ]だ……」
「やっぱり[白馬の王子様]じゃないのね……」
 ナナは本物のクサナギを見て落胆した。イヴルとナナがとある吟遊詩人から聞いていた印象とあまりにも違っていたのだ。二人の話を聞いてみると一行のそれぞれが色々な姿で描かれていた。クサナギは[白馬の王子]、イーリスが[赤い髪の魔女]、セフィロスは[電光石火の槍使い]、そしてミオは[策略に長けた美少女天才技師]。
 セフィロスはそのままなのでまだ良い。イーリスは[魔女]と呼ばれ少しむっとした。クサナギなどは[操兵に乗っているのだから馬になど乗れぬが……」と悩む始末。そしてミオは、[美少女]という言葉に首をかしげた。自分のことだとはついぞ思わなかったようだ。だが、イヴルの次の言葉を聞いた途端落ち込んだ。
「…だけど、おれが最初に聞いた話では[美少年]だって聞いていたが……」
 アファエルはそんなミオの側に座って彼女を励ました。
 イヴルはクサナギのことを相変わらず[ク・サナギ]と呼んでいた。当然クサナギは反論する。が、イヴルはなかなか聞き入れようとはしなかった。
 その時、イヴルとナナの頭上からひときわ大きな女性の声が聞こえてきた。
「[ク・サナギ]じゃありません!クサナギさんです……!!」
 二人が見上げると、そこには風変わりな操兵が自分たちを見下ろしていた。全体の外観は見事なまでに鎧武者を模したものであったが、何故かその右腕は異様に長く、その背中には第三の腕が伸びていた。そして今の声は明らかに拡声器のものではなく、とてつもなく巨大な人間の肉声であったのだ!。
 その正体は言うまでもなくモ・エギであった。彼女は戦鎧紅葉武雷の兜を脱いだ。その姿にナナとイヴルは言葉を失い、そしてその巨体を見上げて茫然としていた。まさかこの人里で、伝説に名高い[御仁]に出会うなどとは……。
 その時、落ち込んでいるミオに一人の少女が声をかけた。
「ひょっとして、ミオさん?」
 その声にミオが振り向くと、そこにはあのラマーナが侍女服を着て立っていた。その姿は以前よりも活き活きとしており、かつての暗い面影は無くなっていた。
「ああ、手紙を見て来てくださったんですね!」
 ラマーナは心底からミオとの再会を喜んでいた。挨拶もそこそこに、ミオはラマーナに手紙の真意を問いただそうとした。が、ラマーナは今は仕事があるからまた後で、とその場を離れた。そしてナナとイヴルに一通の手紙を差し出した。それは、このタナル村の領主ラクトーサからの公演の依頼であった。
 その後一行の元に一通りの用事を済ませたゼノアがやってきた。そして一行とナナ、イヴルに立ち話も何だから、と近くの宿に入ることを勧めた。一行はその勧めに従い、このタナル村唯一の宿である[はやぶさ亭]に入った。
 宿に入った一行は、店の雰囲気に違和感を覚えた。外のお祭り騒ぎとは裏腹に、はやぶさ亭の主人は何故か沈んだ感じであったのだ。部屋を取り、とりあえずの食事を注文した一行が主人にその訳を問いただしてみると、どうやら例の魔物騒動が気になって仕方がないようだ。 
 主人が一行に詳しい話をしようとしたその時、店の入口をどこかの宗派の司祭服を着た一人の女性が飛び込んできた。
「ここに、クサナギ様が来ていると聞いたのですが」
「私がクサナギだが、そなたは……?」
 女性司祭は身なりを整えると、クサナギに向き直った。
「私は、リダーヤ凡教の司祭でミランサといいます」
 リダーヤ教と聞いてクサナギとミオ、そしてアファエルは言葉に詰まった。リダーヤ教といえば、年明けに出会った聖騎士アヴィアス・リーンを思い出させるからである。
 三人のそんな態度を気にせず、ミランサと名乗った司祭は早速話を切り出した。
「皆さんは、この村の領主ラクトーサ様の夫人の噂はご存じですね。実は、そのことでご相談に参ったのです」
 ミランサの話を要約すると、この村の領主であるラクトーサが今の夫人であるラミーネという女性と知り合ったのは、着任前の旅先でのことであったらしい。その詳しい経緯、そして婦人の素姓などはわかってはいないという。だが、その高貴な雰囲気、それでいて親しみやすい雰囲気から悪い人物には見えず、おそらく、どこかの貴族か商人の令嬢ではないかと村の人々は思ったという。
 ところが、夫人が実は貴族の令嬢などではなく、それどころか人間ですらない、という話が飛び出した。それを最初に目撃したのは侍従の一人であった。彼が火の始末が心配になって館に戻った際、偶然ラクトーサの部屋の前を通ったときに、とんでもないものを見てしまったという。
 それは、若い領主に巻きつくように寄り添う大きな虹色の大蛇であった。しかもその上半身は婦人のラミーネの姿そのままであったという。しかもラミーネは、ラクトーサの首筋に牙を立て、その血を啜っていたというのだ。翌日、侍従が夫人が魔物であったことを領主に話すと、彼は悲しそうな顔で「今後そのことには触れないでもらいたい」といい、その侍従に暇を与えたという。そこで、これは領主は夫人が魔物であることを知りつつ、妻に迎えたのであろう、と村の人々の噂になったという。
「まあ、あの優しい領主様のことじゃ……口封じなどということは考えられなかったんじゃろう」
 年老いた主人は、遠い目でそう呟いた。
 ミランサは暗い表情で、そしてそれでいて強い口調で話を続ける。
「魔物と人が契りを結ぶ、などということはあってはならないことなのです。それは、神の教義に反するからです」
 だが、ここでミランサの表情がさらに落ち込んだ。
「……もし、そのことが事実であるとしたら、私は大変な過ちを犯したことになります。と言うのも、二人の結婚式の際、式を取りしきったのはこの私なのですから……」
 だが、そのミランサの言葉にクサナギを始め一行は同情出来なかった。
「しかし、互いに愛し合っているのならそれで良いではないか。何故、[魔物]だからといって邪険にするのだ!」
 そしてアファエルもクサナギ達に話した[魔物]に関する知識をミランサにも伝え、さらに言葉を付け加えた。
「確かに[ラミア]は魔物ですけども、すべてが邪悪と言うわけではありませんよ〜」
 その言葉にミランサは、返す答えに困りつつ、それでも何とかこう言った。
「で……でも、それが魔法でたぶらかされたからかもしれませんし、何よりも街道に出没するものが夫人だとしたら、それはもはやこの村だけの問題ではないのですよ!」
「その通り!!」
 不意に宿の入口から中年男性の声が聞こえてきた。見るとそこに一人の紳士が二人の部下と思われる男を連れて立っていた。その紳士、どことなくノウラの領主ワールモン伯爵に似ているような気がした。