キャンペーン・リプレイ

第 二十三話 「 貴 婦 人 は 虹 色 の 蛇 身 」 平成12年2月6日(日)

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 その男は一行を見渡すと、こう話を切り出した。
「そう、まさにミランサ司祭の言う通り。領主であるラクトーサが、街道における商隊襲撃が魔物である婦人の所業であることを知りつつ放っておいたとしたら、それはこの村のみならず、この街道すべての危機につながるのです」
 一行が紳士に誰何すると、紳士は丁寧な口調で答えた。
「申し送れました。私の名はゼンニン。ノウラの領主ワールモン伯爵の弟、つまりこのタナル村の領主であるラクトーサの叔父に当たります。しばらく旅に出ておりましたが、戻ってきてみれば村は未曾有の危機、何とか甥の目を覚まし、この村に平和を取り戻したいと思うのです。だが、甥はそんな私の話を聞かず、逆に私を追い出そうとする始末」
 そしてゼンニンは改めてクサナギのほうに向き直った。
「そこで私は決心しました。村のために、心を鬼にして甥を討とうと……。取り返しの付かなくなる前に、甥を村から追放しなければならないのです。今ここに[ライバ救国の英雄]であるあなたがこの村に来たのは何たる幸運!。クサナギヒコ殿、ぜひとも私とともにこの村を救っては下さらないであろうか」
 話を聞いていたセフィロスは、少しふて腐れた感じでこう言った。
「まあ、クサナギは有名人だし、どうせ魔物は操兵でどうにかなるだろうからな……」
 それに対してゼンニンは、
「そんなことはありませんぞセフィロス殿。あのサイラスを倒したあなたの[電光石火の槍技]は街道でも有名な件ですぞ」
 と言った。それを受けたセフィロスは、
「ま、まあな……。それだったら、引き受けても……いいかな……?」
 と、呟いた。意外と単純である。次にゼンニンはイーリスを見た。
「それから、イーリス殿。あなたの[鬼神の如き奮戦]も聞き及んでおりますぞ。味方を裏切った振りをしてまで敵地に侵入したときの苦労、お察しいたしますぞ」
 [鬼神の如き]と言われたイーリスはあまり良い顔をしなかった。イヴルには[魔女]と云われ、怪しい紳士からは[鬼神]と呼ばれ……一体世間では[王朝結社の乱]はどのように伝わっているのだろうか。
 そして今度はミオのほうを(見るな!!とこのときミオは思った)見て言った。
「ミオ殿、あなたの[王朝結社の乱]において様々な策を用いて敵を翻弄する活躍、そしてあの[王家の操兵]を討ち破った最強の操兵[ファルメス・エルグラーテ]の設計、製作は既に有名な話であります」
 ミオはこんな[おっさん]に褒められても嬉しくない、と本気で思った。そんなことは露知らず、ゼンニンは最後にアファエルを見た。
「そして噂に名高い妖精族の異形の少女よ。あなたはどうやら魔物にお詳しいようだ。その知識をどうか、我々に貸してはくれまいか……」
 一行は少し考えて、この[褒め殺し]の依頼を断ることにした。理由は、やはり領主を悪人と決めつけるほどの決め手がないことと、そして何より、このゼンニンがあまりにもウサン臭いということであった。
 一行に断られたゼンニンは特に表情が変わる事もなく
「まぁ気が変わったら声を掛けて下さい。私は郊外の林の中に野営しておりますから。行くぞ、コウメイ、セイダイ」
 といって、店を後にした。
 一行はミランサにゼンニンについて聞いた。ミランサの話によると、どうやら五年前に一度このタナル村の領主になったことがあり、それが何らかの事情で辞任、旅に出たという。そして最後にこう、付け加えた。
「この村の人で、あの人のことを良く云う人はいないようです」
 と。
 ゼンニン、そしてミランサが帰った後、一行は特にすることもなく宿のカウンターにたむろしていた。
「それにしても、領主の夫人がもし魔物だとして、果たして街道に出没する魔物と同一なのだろうか」
 イヴルのその疑問に、不確定情報ですが、と断ってゼノアが答えた。
「私が思うに、その魔物はおそらく[金属合成獣]ではないかと思われるのです」
 [金属合成獣]または[メタルキメラ]と呼ばれるものは、ゼノアの説明によると主に[金門]に属する練法や、何らかの生体工学を用いて生み出されるある主の人造生命である。クサナギ達が以前遭遇した謎の巨人もそういった人造生命の一種であろう。工房都市の記録では様々な形状が確認されており、その中には確かに[上半身が人間型の大蛇]も存在するという。
 そんな金属合成獣の共通点は、体のほぼすべてが金属並みの強度をもつ鱗で覆われており、また、その戦闘能力は個体によっては操兵に匹敵するかあるいは上回るという。だが、その戦闘力に反して知能は低く、自分の意志で[人間をたぶらかす]ことなど不可能ということだ。
 その時、再びラマーナがやってきて一行に一通の招待状を差し出した。その差出人は、この村の領主であるラクトーサであった。
「御館様がぜひとも、[ライバ救国の英雄]であるあなた方にお会いしたい、とのことです」
 一行はその申し出を受けることにした。ラクトーサとラミーネに会って、事実を実際に確かめるよい機会であると思ったからである。おそらくラマーナの話もそこで聞けるだろう。
 その夜、一行、そしてイヴル、ナナは領主ラクトーサの館で晩餐の席にいた。
「[王朝結社の乱]において、私の父であるワールモン伯爵はそなた達に大変世話になった。父に代わって、改めて礼を申したい」
 ラクトーサの挨拶の後、イヴルとナナの歌と踊りが披露され、宴が盛り上がった。その中で一行がラクトーサとその夫人ラミーネの様子を見ると、宴の中終止笑顔であったものの、領主、夫人ともにどこかやつれている感じがした。が、それぞれ違う原因のようだ。
 夫であるラクトーサは、おそらくは精神から来るものであろうことが予想できる。無理もない。自分の妻が魔物である、などという噂が村中、下手をすると街道にまで伝わっているのだ。その問題解決のために相当苦労しているのが見て取れる。
 では、妻であるラミーネの方はと言うと、こちらも精神的なものもあるようだが、どうやらそれだけではないようだ。医師としての知識をもつイヴルは、ラミーネが精神的以外にどうやら軽い栄養失調も重なっていることに気づいた。確かに、この問題のために食欲が落ちたのもある。だが、果たしてそれだけなのだろうか。
 イヴルからそのことをそれとなく聞いたナナは、おもむろに厨房に向かった。せめて食後のデザートだけでも栄養のあるものを、と思い立ったのだ。そして厨房に入ると、やたらと威勢の良い料理長を差し置いて早速料理を始めた。
 だが、料理長も黙って見てはいなかった。自分も専用の包丁を取り出し「素人に負けてられへんで!。[京風の大王]と呼ばれたわしの実力見せたるわ!!」と、料理に取りかかった。やがて両者の料理が卓に並んだ。が、それは両者とも甲乙つけがたかった。確かに味のほうは料理長のものが勝ってはいた。が、滋養の付くものとしてはナナのほうが上を行っていたのだ。結局、どちらが優れている、ということには触れずにラミーネは二人に礼を言って(半ば無理をして)両者の[自信作]を食した。
 やがて夜が更けて宴はお開きとなった。一行はそれぞれ部屋を貸し与えられ、この館に宿泊することになった。
 そのころ、一人取り残される形となったゼノアはモ・エギのいる操兵駐機場でふて腐れていた。それもその筈、せっかく宿を確保したのにみんな帰ってこない上にキャンセル料まで払わされたのだ。そんなゼノアをモ・エギは手のひらに乗せて、「よしよし、泣かないの……」と丸くなったその背を撫でて慰めていた。
 深夜。すっかり静まり返った館の中で、一行はそれぞれに行動を起こしていた。イヴルは、クサナギに館の見回りを提案した。クサナギはその申し出を承諾、二人は早速装備を整えて館の外に出た。
 それとは別にナナは、夜風にあたりたい気分になり、こちらは何も持たずにやはり外に出る。そしてアファエル、イーリスはそれぞれずれた時間に自分の部屋を出て領主の寝室に向かった。セフィロスは特に理由がないのか、特に行動は起こさなかった。
 その中でミオは、誰よりも早く動いていた。そして厨房の後片付けに余念がないラマーナを見つけると、早速話しかけた。
「あ、昼間はどうも……」
 と言葉を返すラマーナに、ミオは「とりあえず夜風に当たらない?」といって外に連れ出した。そして外に出たミオとラマーナは、主に手紙では語り切れなかったそれぞれの近況などを語り合った。
「ところで例の魔物騒動のことなんだけども……」
 話がはずんだところでミオは、魔物問題の話を切り出した。果たしてラマーナ自身はこの問題をどう、思っているのだろうか。
「ラマーナ。あんた、ラミーネさんの正体が本当に魔物だって思ってるの?」
 それについてラマーナは答えなかった。だが、ミオが街道を襲う魔物の話を持ち出すと、ラマーナは強い口調で、
「……奥様が……ラミーネ様が[たとえ魔物であった]としても、決してそんな[悪い人]ではないと思います!」
 と、反論した。
「奥様はとても優しい[方]です。たとえその姿がどうあろうと、その心はとても奇麗な方です。魔物だからって、愛した人と一緒になるのは……いけないことなのですか?!」
 どうやら、ラマーナは婦人の正体を知っているようだ。そして、その上で二人の恋を支持しているのであろう。そしてミオは、それに対して呆気なく「いいんじゃない?」と答えた。それを聞いたラマーナはうれしい反面、何か肩透かしを食らったような気がした。もっと反論されるのではないかと思ったからだ。ミオはフフンと鼻で笑って見せた。
「その熱意は買うけどさ、こんな物分かりの良い友達を説得するよりも、奥方への"嫌疑"を解くのが先決じゃない?あたしはその為に呼ばれたんだと思ったんだけどなぁ」
 ミオにとってみれば、「ラマーナが奥方を信じて助けたがっている」ことが重要であり、「奥方が悪い魔物か否か」はどーでも良いことなのだ(このあたりが事の善悪を問うクサナギとの違いであろう)。友の本心さえ確認すれば、あとはその意に添う策(人はこれを悪知恵と呼ぶ)を出すだけである。改めてミオの本性(?)を垣間見て、ラマーナは呆れると同時に妙な安堵感を憶えるのだった。
 しかしその時、
「ふうん……そこまで信用されていたとは嬉しいわねぇ……」
 と、ラミーネらしき女性の声が聞こえてきた。だが、それは先ほどまでの雰囲気とは違い、まるで妖艶な悪女の雰囲気を醸し出していた。
 二人が声のするほうを見ると、そこには一人の女性が立っていた。その女性の顔は月の光を背後に背負っているためよくは見えないが、その姿は上半身が人間で、下半身が巨大な蛇という、まさに噂通りの魔物であった。
 ミオはとっさにラマーナを庇う。だが、下級だったとはいえ[元奇面衆]であるラマーナはミオなど足下にも及ばぬ戦闘技術を持っている。だが、それをわかっていても庇ってしまうのはミオの心情というものだろうか。
 その魔物はそんな二人を見下ろしてこう言った。
「でも、[真実]ってものは案外残酷なものだねぇ……あたしがラクトーサに近づいたのは、ただ単に[手軽な食事]が欲しかったからなのさ……」
 その一言一言は、奇面衆の洗脳の影響からか脆くなっているラマーナの精神を少しずつ傷つけていく。だが、
「こっちの純情な侍女さんならともかく、このミオさまの目は誤魔化せないよ!」
 わざとらしく目撃者の前で悪女を演じるとは、領主の奥方を貶めんとする陰謀に違いない……いや、自分ならそうする!(だからコイツは偽物だよ)と。ミオらしい論法に励まされ、ラマーナは何とか持ちこたえた。
「さて、今日も血が足りないし、どこかの商隊でも襲いましょうかね」
 埒があかないと思ったか、魔物はそう言いすてると、二人を無視してきびすを返した。本当にどこかの商隊を襲うつもりなのだろうか。
「ラマーナ。あんたはすぐに館に戻ってラミーネさんがそこにいるかどうか確かめて!」
 ミオはそれだけを言うと、何も持たずに蛇女を追いかけていった。
 その騒ぎは外で夜風に身をさらしていたナナも気付いた。ナナはすぐにイヴルに知らせるべく、[遠話]の術を準備した。[練法]は聖刻石から[力]を引き出す際、[結印]と呼ばれる行為を取る。結印とは、主に指先、格の高い術になると体全体を使用して空中に印を描き、[呪句]を[詠唱]し、精神を統一するための行為である。これによって、頭に浮かべた術のイメージを明確化し、望みの術を発現させるのだ。
 だが、この結印は時間がかかり、また、非常に複雑なもので熟練者でも時折失敗する時があるという。ナナは慌てて結印したせいか、最後の最後で指の位置を掛け間違ってしまった!。結局遠話は発動せず、仕方なくナナは、ミオの後を追って自分も走り出した。
 それとほぼ同時に、クサナギとそのイヴルも魔物出現に気付いた。二人は、ミオとナナが何も持たずに追いかけているのを見て、自分たちもすぐに走り出した。このままでは女性二人が危ない、と判断したからだ。