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その少し前、館の中ではアファエルが行動を起こしていた。彼女はラミーネが魔物かどうかを実際に見て確かめるつもりなのだ。 アファエルが寝室の前に来ると、その扉が唐突に開いた。物陰に隠れて様子を見ると、ラミーネが一人部屋を出て行くのが見えた。そしてそのまま玄関のほうへと歩いて行く。アファエルが部屋を除いてみると、ラクトーサは妻が出ていったことに気付かないようで、ぐっすりと眠りについていた。 ラミーネは玄関から寝巻のまま外に出ていった。しかも素足で……。アファエルは気付かれないよう静かにラミーネの後を追った。 ラミーネは屋敷の門を出て村中をさまよい、やがて村の出口付近にある操兵駐機場までたどり着いた。彼女はそこに誰もいないことを確認すると、両手を天に向かって伸ばした。すると、ラミーネの体が霧のようなものに包まれ、そしてその霧が晴れると同時に姿を現したのは、虹色の輝きを放つ大蛇の下半身をもった美しい女性であった。それはまさに、アファエルが自分の故郷で見たことがある[魔獣ラミア]そのものであった。 ラミアは自分のその[美しくも醜い]姿を眺めると、両腕で自分の体を抱きしめ、嗚咽した。その姿を見たアファエルは、彼女が[心優しき魔獣]であると判断し、思い切って話し掛けてみることにした。 「あなたも〜[この世界のもの]ではないのですね〜」 一瞬身を強張らせたラミア、いや、ラミーネはゆっくりと振り返った。そしてアファエルが妖精族であることに気付くと、寂しげながらも安堵感を得た表情で答えた。 「まさかこの[地]で[エルフ]に遭えるとは思ってはいませんでしたわ」 「私は〜、あなたと争う〜つもりはありませんよ〜」 アファエルはそう言ってラミーネを安心させた。そしてラミーネに領主との関係を問いただした。ラクトーサは果たして正体を知っているのか……そして二人の愛は[本物]なのか。ラミーネは悲しげな表情のままゆっくりと話した。 「ラクトーサは、私の正体を知った上で、愛してくれています。私が生きるために人間の血を必要とする、ということを知ってもなお……。確かに私が必要とする血はわずかです。でも、やっぱり耐えられない……あの人から血を啜る、なんて」 アファエルはここで何故、ラミーネがやつれているのかを知った。 「あなた、最近血を吸っていないのですね〜?」 「はい。確かにここ数日は口にしてはいません。それがあの人を苦しめているんじゃないかと思うとどうしても……。そしてさらに、私を庇うことであの人は、ラクトーサはますます苦しむ。果たして……」 ここでラミーネの表情はさらに暗くなった。 「……私にあの人を……人間を愛する資格があるのでしょうか……」 アファエルはラミーネの側にしゃがみ込み、その虹色の大蛇の肌をそっと撫でた。 「ラミーネさん〜旦那さんが苦しむのはあなたに血を吸われることでも、あなたの正体を噂されていることでもありません〜。あなたが苦悩する姿を見て、苦しんでいるんです〜」 「アファエルさん……」 「あなたが笑顔を見せれば、きっと〜旦那さんも元気になりますわよ〜魔物だろうとなんだろうと、人を愛する気持ちは何も変わりません〜」 その時、二人の頭上から女性の声が聞こえてきた。 「あなたは勇気があるわ……。自分の意志を貫いて、好きな人に告白できたんですもの……」 モ・エギであった。いつの間にか駐機場から出てきていたのだ。その巨体にラミーネは驚愕した。が、アファエルの説明でとりあえずは落ち着いた。 そんなことはお構いなしにモ・エギは、ラミーネをその掌に乗せ、そっと持ち上げた。 「それに比べて私は……。でも、あなたはまだいいほうよ。私なんか、この大きさでしょ……。でも、やっぱり忘れられないの。私を庇って操兵に挑んでくれたあと、私が抱きしめたその時の温もりが……」 モ・エギはそう言って空いている左手を眺め、そしてその手を自分の胸にあてた。それを見たアファエルは、それがクサナギの話であろうことに気付いた。 月明かりの下。三人の[人ならざるもの]達は月を眺め、それぞれの思いに耽っていた。 そのころ、ようやくラミーネがいなくなったことに気付いたラクトーサは、彼女を捜すために部屋を出た。するとそこで、おそらくはアファエルと同じ目的のために来たと思われるイーリスと出会った。 イーリスはラクトーサに、おそらくラミーネが外に行ったのであろう、と告げ、一緒に捜すことを提案した。そしてさらに、一連の騒動がおそらくは、今この村に来ているワールモンの弟にして、ラクトーサの叔父ゼンニンの仕業であろう、ということも示唆した。 ゼンニンのことに関してはイーリスの根拠のない全くのカマかけであった。が、これが功を然してラクトーサはゼンニンについてこんな話を語って聞かせた。 「……叔父上は、五年前に一度この村の領主になったことがある。だが、[とある事件]がきっかけで、兄によって解任、追放されたと聞いている。おそらく、そのことを恨む叔父上が私、そして父上を陥れるために起こしたのかもしれない……」 だが、まだこれは推測に過ぎない。とりあえずはラミーネを捜すことが先決、と、イーリスとラクトーサはセフィロスを呼んで屋敷を出ようとした。 その時、玄関からラマーナが慌てて領主の元に駆けてきた。 「あの……奥様は……?」 ラマーナの知らせで[蛇女]の出現を知ったイーリスとセフィロス、そしてラクトーサは、もしや、と思った。ラミーネがここにいないことでさらに落ちこんだラマーナだが、今はそんなことを考えている暇はなく、三人を案内してミオたちの後を追った。 そのころ、[蛇女]を追っていたミオ、クサナギ、イヴル、ナナは、村の出口近くに差しかかっていた。 「いい加減にしつこいわね……それなら、今日の[食事]はあんた達にしようかね……!」 蛇女はそう言って、四人の方に向き直った。その時、クサナギはその[蛇女]の声が明らかに[別の場所]から発せられている、ということに気付いた。おそらく腹話術の類いであろう。[蛇女]は四人目がけて襲いかかってきた!。透かさずクサナギはボルトアクションの引き金を引いた。銃声が響き渡り、銃弾が[蛇女]の体に食い込んだ。その強烈な一撃に[蛇女]は人間のものとは思えない奇声を発して悶え苦しんだ!。だが、普通なら即死しているはずの一撃を受けたにもかかわらず、[蛇女]は見た目よりも打撃を受けた様子は見られなかった!!。ここで四人はようやく、[蛇女]の全身を見ることができた。それは噂で聞いた[虹色に輝く美しい大蛇]などではなく、全身を鋼のような鱗で包まれた見るもおぞましい化物であった!!。おそらく、ゼノアが語っていた[金属合成獣]とはこの怪物のことであろう。 金属合成獣は尚も攻撃するつもりのようだ。クサナギは銃のボルトを引いた。金属合成獣がクサナギに注意を向けている隙にイヴルとナナは素早く物陰に隠れ、イヴルはおもむろに結印を始めた。そして結印は完成し、その術を金属合成獣に向けて放った!。[烈風操]と呼ばれるこの術は、強烈な突風で相手を転倒させ、さらにその強風で目つぶしをかけるという強力なものである。 術を受けた金属合成獣は、強風のために目をやられ、攻撃を断念した。これはイヴルにとっても幸運である。金属合成獣は練法に対する抵抗力がとても高いので、それ故、本来であればこの程度の術など撥ね除けてしまうのだ。 目をやられた金属合成獣は、不利と判断したのかその場を逃げ出した。それを見たナナは逃がすまいと自分も術の結印に入った。そして[小炎球]と呼ばれる小さな炎を相手にぶつける術を放った!。だが、これは簡単に弾かれ、金属合成獣は逃走を開始した。 そのころ、こちらも金属合成獣の声が腹話術であることを見抜いたミオは、その声のするほうへと向かった。そして草むらの一ヵ所に何者かが潜んでいるのを見つけると、「そこだぁっ!!」と叫んで突っ込んで行った。だが、ミオはその時になって初めて自分が丸腰であることに気付いた。 突っ込んでくるミオを見た敵はすぐさま拳銃を抜き、撃ち放った!。その銃弾はミオの頬をかすめた。だが、ミオはそれに怯まず、敵の一人に体当たりを食らわせてそのまま取っ組み合いに持ち込んだ。それを見たもう一人の敵は仲間をおいて逃走した。 戦意を失った金属合成獣はクサナギに背を向けて完全に逃走に入った。クサナギはその背に向かって再び銃を撃った!。そしてその一撃もまた強烈なものであった。が、それでも金属合成獣は動きを止めることはなかった。とんでもない耐久力と生命力である。 その時、イーリスとセフィロス、そしてラクトーサがラマーナに案内されてようやく追いついた。金属合成獣を見たラクトーサは、 「違う……あれはラミーネなどではない!!」 と叫んで自らリボルバー長銃を構えて金属合成獣に向かおうとした。それを見たイヴルは透かさず銃を抜き、その足もとに向かって撃った。どうやら止めに入ったつもりのようだ。その意図に気付いたラクトーサはとりあえず落ち着きを取り戻した。 銃を抜いたイヴルは、今度はミオのほうを向いて「手助けは要るか?」と聞いた。ミオは「お願い!」と言いながらも敵を押えつけようとした。イヴルは敵に向けて銃を撃った。肩を狙って気絶させるつもりのようだ。だが、取っ組み合う間にミオと敵の位置が入れ代わり、よりにもよってミオの背に命中してしまったのだ!!。 それでもミオは執念で敵を放さなかった。そこにセフィロスが駆けつけて、その槍の石突きで敵を気絶させた。そしてセフィロスは、イーリスを援護するため金属合成獣に向かっていった。[小炎球]が効かなかったことを確認したナナは、今度はより高位の[大炎球]の術の準備に入った。そして術が完成するやすぐに金属合成獣のすぐ側に火の玉を召喚した。この火の玉が炸裂すると周囲のものを巻き込んだ大爆発となるのである。 ところが、その前に金属合成獣が先に移動し、有効範囲から出てしまったのだ!。この火の玉は風門の術である[烈風操]の手助けを借りなければ動くことができないのだ。 イーリスは金属合成獣にその駿足の[技]で接敵し、穂先刃で切りつけた。その太刀筋は通常の相手であれば真っ二つになるほどの鋭さであった。ところが、何とその刀が、鋼のような鱗に阻まれ手傷一つつけられなかった。驚愕するイーリス。 そこでクサナギがさらなる射撃を行い、そしてナナも今度は[炎杖矢]の術を放った。この術は本来、蝋燭程度の炎をあらかじめ媒体として発生させておく必要がある。そこでナナは、先に発動させた[大炎球]の火の玉を利用したのだ。そしてボルトアクションの銃弾と、練法による炎の矢が同時に金属合成獣に炸裂し、さしもの化け物も苦悶の表情を浮かべ、奇声を上げた。だが、それでも止めには至らない。まるで操兵並みの耐久力である。 刀が効かなかったイーリスだが、それでも自らの技を繰り出して金属合成獣を攻撃した。その時、周りの草むらから何者かが煙幕弾を撃ち込んできた。たちまちイーリスの周りが煙で包まれ、視界が封じられる。イーリスにとって幸運だったのは、ここで金属合成獣の攻撃を受けなかったことであろう。もし、この状態で攻撃を受けたらいかにイーリスと云えどその身を敵の鋭い爪に曝すことになるからだ。 その光景を見たセフィロスは、一瞬突っ込むのをためらった。だが、イーリスが追跡を諦めてないことを確認するや、覚悟を決めてその煙の中に身を投じた。 クサナギ、イヴルが撃った銃声はアファエルとモ・エギ、ラミーネにも聞こえてきていた。それが気になったモ・エギは二人を抱えあげると、全速力でその銃声のした方へと向かった。 イーリスとセフィロスが金属合成獣を追いかけ始めたころ、クサナギ、イヴル、ナナはミオが命懸けで捕らえた敵の下っぱと思われる男を縛り上げていた。 「ミオさん、大丈夫ですか……なんて傷!!」 ラマーナがミオに駆け寄ってきた。そして出来うる限りの応急手当を試みた。 その間にイヴルは捕らえた敵に銃を突きつけた。そして、その男が知りうる限りの情報を聞き出そうとした。男は最初、頑なに拒んだが、イヴルの拷問にすっかり脅えておとなしく自白した。それによると、敵の頭は予想通りゼンニンであった。彼は以前、この村の領主に任命されたが、兄のワールモンと違い、自分の権力を私利私欲のためにしか用いず、そしてある事件をきっかけに解任、追放されたという。そのことを恨んだゼンニンは、時間をかけて復讐の準備を進めた。そんなときに例の魔物騒動が村に広がったので、それを利用して再び領主に返り咲き、そしてあわよくば兄であるワールモンを追い落とそうとしたという。 これで誰を倒せば良いのかがはっきりした。イヴルはさらに手下を追求し、敵の戦力を聞き出した。それによると敵はゼンニンの他にコウメイとセイダイ、傭兵が多数、さらに操兵が二機もいるという。しかもそのうちの一機は[リダーヤの聖騎士]が乗っているという。 それを聞いたクサナギとミオは、年明けのときに出会ったリダーヤ教の聖騎士を名乗っていたアヴィアスという男を思い出した。確かに彼ならば、このような魔物騒動を聞きつければ、必ずやってくるであろう。だが、その下っぱの話によるとアヴィアスは、どうやら事実を知らずにゼンニンに着いているという。うまくすれば説得に応じるかもしれない。 一方、二人だけで金属合成獣を追ったイーリスとセフィロスは森の入り口付近へと差しかかっていた。これ以上奥に入られては不利、とイーリスはセフィロスに敵を挟み撃ちにすることを持ちかけ、セフィロスも了承した。そしてイーリスが金属合成獣の前に踊り出た。 その駿足で突然前を取られた金属合成獣は防衛本能から反撃に転じた。その鋭い爪をかわしながらイーリスも[技]を繰り出し刀を振るう。その一撃一撃はその鱗に少しずつではあるが傷を付けていく。だが、とても決定打とはいえなかった。 そこにセフィロスがひとすじの風となって金属合成獣の背に向けて飛んできた。そう、文字通り飛んだのだ!。流派に伝わる技の一つ[風流]である。この技は足裁きと遠間を組み合わせたもので、複数回にわたって水平跳躍による突撃を繰り返すことができるのだ。 だが、金属合成獣はその動きを読んでいた。セフィロスが仕掛けてくるタイミングを狙ってその長い尾で絡め取ろうとしたのだ!。しかしその攻撃をセフィロスは辛うじて回避、鋭い槍をその背に突き立てた!!。が、それも致命傷にはならなかった。 セフィロスは再び[風流]の体勢を取り、そしてもう一度攻撃を仕掛けた。が、金属合成獣は一度見た技は通用しない、とばかりに今度は絶妙なタイミングで尾を振るった。その巨大な大蛇の尾にセフィロスは捕まってしまい、身動きが取れなくなってしまった!。金属合成獣は、捕らえただけでは飽き足らないのか、さらにその尾をセフィロスに食い込ませ、締めつけ始めた!!。このままではセフィロスが危険である、と考えたイーリスは、さしもの金属合成獣でもここには鱗はないだろう、とその目を狙って攻撃を仕掛けようとした。さすがに眼を庇おうとする怪物……その時、巨大な尾に捕らえられたままのセフィロスが、幸運にも自由なままのその手で破斬槍を繰り出した!!。その不利な体勢から突き出された起死回生の槍はセフィロスの思いを組み取ってか、金属合成獣の鱗を紙のように貫き、その体を串刺しに!!。そしてその一撃で、金属合成獣はようやく、その活動を停止させた。 動かなくなったその尾から抜け出したセフィロスは、イーリスとともにその場に座り込んだ。武繰使用によるものと戦闘の負傷による体力の消耗が激しいためである。また、自分たちではこの巨大な金属合成獣の死体を持ち帰ることも困難なこともあり、二人はここで、他のものたちが来るのを待つことにした。 同じころ、先の銃声を聞きつけたアファエル、モ・エギ、ラミーネはクサナギたちと合流した。事情を聞いたモ・エギは早速ミオを治療する。ここに来る前に人間の姿に戻っていたラミーネは、夫であるラクトーサの元に駆け寄った。 「ラミーネ……無事だったのか……!!」 「あなた……心配かけてごめんなさい!」 二人は自分たちの愛情を確かめるように抱き合った。その光景に影ながら二人を支持していたラマーナも思わず涙をこぼす。 ラクトーサはクサナギ、ミオ、イヴルとナナ、そしてモ・エギとアファエルをそれぞれ見てこう言った。 「本来なら、私自身が決着を着けねばならないことなのだが……ぜひともこの騒動の元である叔父上を捕らえてはくれぬか。そなたたちになら、任せることができる」 ラマーナも一行に向かってこう言った。 「お二人は私がお守りします。奴等が逃げないうちに早く……!!」 もとよりそのつもりであった一行は早速準備に入った。モ・エギの手を借りて駐機場に戻ったクサナギとイヴルはそれぞれ自分たちの操兵に乗り込んだ。そしてクサナギのエルグラーテと、イヴルの操兵[ダイザッパー]が、駆動音を上げた。 出発直前になったとき、モ・エギがこんなことを呟いた。 「あ……[聖騎士]さんがいるんだったら、私は来ない方がいいかも……」 アヴィアスは年明けの祭りのとき、モ・エギを[神に仇なすもの]として目の敵にしていた。もし彼を説得するのなら、自分がいないほうが良いと、モ・エギは判断したのだ。戦力としては申し分のないモ・エギが抜けるのは痛かったが、確かに彼女の言う通りでもあるので仕方なく一行は、モ・エギにラクトーサとラミーネ、ラマーナの警護を頼むと、自分たちだけで出発することにした。 それぞれの操兵と合流した一行は、イーリスとセフィロスが金属合成獣を追って行った方向を目指して進んだ。そして程なくして、金属合成獣の死体の側にいた二人を見つけた。 二人と合流し、その勝利を讃えた後、一行はその死体をエルグラーテに担がせて、捕らえた下っぱの案内でゼンニン達が潜む森のほら穴へと向かった。 |