キャンペーン・リプレイ

第 二十三話 「 貴 婦 人 は 虹 色 の 蛇 身 」 平成12年2月6日(日)

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 丁度そのころ、ゼンニン一味は事態の異常に気が付きつつあった。
「ゼンニン様、金属合成獣からの反応が途絶えました!」
 コウメイが何やら杖のようなものを握りしめながら呟いた。どうやらこの小さな杖が金属合成獣を操るカラクリの様だ。もともと練法、あるいは何らかの生体工学によって生み出された金属合成獣は、何らかの目的を持って製造されるのが普通である。おそらくこの杖は、本来何らかの任務についていた金属合成獣を支配下に置くことができるのであろう。
 だが一体、彼らが何故このようなものを持っているのかは、この時点では定かではない。
「一体何を話しているのだ!」
 リダーヤ教聖騎士アヴィアスが、自機ファルラーテの上からゼンニンに話しかけた。その高圧的な態度に腹が立つゼンニンだが、そんなことは顔に出さず、にこやかな表情で返事をした。
「なんでもありませんぞ聖騎士殿。この魔物騒動を収め、タナル村に平和をもたらすには、貴方様の助力が不可欠、時が来たときには、よろしく頼みますぞ」
 どうやら情報通りアヴィアスは、何も知らずにゼンニンに協力しているようだ。ゼンニンとしては自分たちの正当性を村人、そして世間に知らしめるためには彼のような聖騎士の存在が不可欠なのだ。そこで、たまたま訪れたアヴィアスに白羽の矢が立ったのである。大方、ゼンニンの[ほめ殺し]を真に受けたのであろう。
 そうとは知らないアヴィアスは、
「私としても、魔物なるものが村を跋扈しているなど、見捨てては置けぬ。神の名の元に、この私が成敗してくれる!!」
 と、脳天気にも意欲に満ち溢れていた。
 その時、辺りに操兵の駆動音が響いた。そして森の中からファルメス・エルグラーテとダイザッパー、そしてナナ、アファエル、セフィロス、イーリス、ミオが姿を現した。
 それを見たアヴィアスは、ファルラーテを起動させ、その[不埒な]二機の操兵の前に立ちはだかった。
「クサナギか……いったい何の用だ。この村を守ろうという我らの[正義の戦い]の邪魔でもしに来たのか!!」
 そこにゼンニンが割り込み、アヴィアスを宥める。
「まあまあ、アヴィアス殿。クサナギ殿もあなた様同様、この村の人々のために戦うために、ここに来てくれたのです」
 そう言ってエルグラーテの方を見ると、にっこりと微笑んだ。それを見たクサナギは、エルグラーテに持たせていた金属合成獣の死体をゼンニンに突きつけ、叫んだ。
「これは、ここにいる私の仲間、イーリスとセフィロスが倒した、この村を騒がせた化け物の死体だ!。これをそなたに[お返し]申そう!!」
 そのクサナギの言葉にゼンニンはさも困惑した、と云うような表情を作った。 
「はて何のことでしょう……と、ともかく、魔物が討ち滅ぼされた、と云うことは、村に平和が戻った、という訳で、めでたいでは……」
「とぼけるな!。そなたの卑劣な企みは、この手下がすべて白状したぞ!!」
 クサナギはそう叫ぶと、ミオが連れている縛られた手下を指さした。その手下は「ゼンニン様助けてください〜」と、情けない声を出していた。
 それを見たゼンニンは尚もシラを切った。だが、周りの取り巻きが、皆その手下と同じような服装をしているのだ。誤魔化しきれるものではない。
「どういうことだゼンニン!。クサナギの話が本当なら、私は貴様に協力することは出来んぞ……!!」
 アヴィアスの叫びに狼狽するゼンニン。だが、それは時間稼ぎに過ぎなかった。この間にコウメイが逃走のための煙幕弾を用意していたのだ。その素振りに気付いたのはアファエルだった。だが、時遅くコウメイは煙幕弾を一行の前に投げつけた!。そして煙幕弾は破裂し、辺りがものすごい量の煙で包まれた。
 戦闘が始まった。イーリスとセフィロスはともに煙幕の中に突撃して行った。だが、それは先ほどのものよりも濃く、とても敵の側までは行くことができなかった。ナナ、アファエルも同様に、敵の姿を確認できなかった。アヴィアスのファルラーテに至っては、「何だこの煙は!」と混乱していた。彼は訓練通りにしか操兵を動かせないようだ。
 一方、その他の操兵にとってはこのくらいの量の煙幕では視界を遮られないようで、もう一機の敵操兵のアルキュイル型がエルグラーテ目がけて鉄斬爪を繰り出してきた!。
 そこにイヴルのダイザッパーが割り込んできた。その両手に持った短刃による二刀流は敵を幻惑し、回避しきれなかった敵操兵はその一撃をまともに受けてしまった!。だが、短刃自体の破壊力が低いため、致命的な打撃にはならなかった。
 クサナギは煙幕をどうにかしようと、エルグラーテの左肩部に装着されているセラミック盾を左手に持ち替えさせ、その盾を思い切り振り回した。それによって発生する風で煙幕を吹き飛ばそうというのだ!。そしてその試みは成功し、煙幕はほとんどが吹き飛ばされた。
 煙幕がなくなればもうこちらのものである。一行はそれぞれに反撃を開始しようと、一斉に戦闘体制を取った。それを見た敵の傭兵たちは殆どが戦意を失い逃走した。これで残りは敵操兵、コウメイ、セイダイ、そしてゼンニン自身のみとなった。
 ナナはラクトーサから借りてきた銃をコウメイに向け、その引き金を引いた!。銃声とともに発射された銃弾はものの見事にコウメイに命中、反撃もならぬままコウメイは倒れた。
 イーリスはセイダイを攻撃目標とし、その駿足で一気に間合を縮めた。だが、それを待っていたかの如くセイダイは小剣と短剣による二刀流で反撃してきた!。短剣は回避したものの、続く小剣の攻撃を受けて負傷するイーリスだが、幸運にも傷は浅く、返す穂先刃の一撃が炸裂し、セイダイはそのまま地に伏した!。
 ダイザッパーの攻撃を受けつつもアルキュイルは先に定めた攻撃目標である、クサナギのエルグラーテ目がけて攻撃した。だが、操手としての実力と操兵の性能差に開きがありすぎ、その攻撃は簡単に回避されてしまった。
 アルキュイルの鉄斬爪を難なく回避したクサナギは、エルグラーテに大太刀を構えさせるとそのまま攻撃した。[御仁の太刀]の一撃はすさまじく、アルキュイルの装甲を一撃で半壊させた。もとよりスクラップを再生した様なポンコツ操兵など、新造古操兵ファルメス・エルグラーテの敵ではなかったのだ。その圧倒的な差に敵操兵は、呆気なく降参した。
 部下が次々と倒される中、ゼンニンは振り向かずにひたすら走り続け、この場からの逃走を計ろうとした。だが、それをアファエルが見逃さなかった。
「人の恋路を邪魔する人は許しません〜!!」
 アファエルはラミーネの怒りを代弁するように叫ぶと、その怒りを乗せた矢をゼンニンに向けて放った!。同族である妖精族の少女エリファから譲り受けた部族の秘宝[エルブンボウ]の威力は凄まじく、その一撃でゼンニンはその場に倒れた。
 戦闘が終わった。ゼンニン達を縛り上げ、ラクトーサの館に戻る支度をしている一行の元にアヴィアスがやってきた。クサナギはアヴィアスにこの事件のすべてを伝えた。もちろんアファエルはラミーネの正体について何も語らなかった。さしものアヴィアスも、証拠の死体を見せられた以上信じるしかなく、よりにもよって伯爵の子息であるラクトーサの夫人を化け物呼ばわりした自分を恥じた。そして、金属合成獣の死体を見て、
「本当に、この化け物を操兵無しで倒したというのか……?!」
 といってセフィロスとイーリスを驚愕の眼差しで見つめた。
 その翌日、村人に前に金属合成獣の死体が引き出され、ラクトーサ、ラミーネが一行とともに事件の顛末を説明した。すべてはゼンニン一味の仕業であることを知り納得した村人達は、アヴィアス同様自分たちがしたことを恥じ、それぞれに詫びを入れた。ラミーネが魔物であることを最初に目撃した侍従も、辻褄が合わないことが気になりながらも、自分が見たものが夢か何かであったと無理やり納得した。目の前に死体があるのだから、とりあえずそうするしかあるまい。それは、一行に最初に事件解決を依頼しようとした女性司祭ミランサも同様だった。どうやら彼女はこの件に関しては、信仰心や使命感よりも自分の嫉妬心が先行していたようだ。そう、ミランサは密かにラクトーサに恋をしていた。だが、ラミーネを見たときに「自分は叶わない」と考えて身を引き、結婚式の際には司祭として承認までしたのだ。
 ところが、そのラミーネが魔物であると聞いたとき、その嫉妬心が再び首をもたげて来たのだ。だが、結局魔物の正体が(本当は噂通りなのだが)全くの別ものであると判明したことがきっかけで自分の嫉妬心に気づいてしまった。ミランサはそんな自分を恥じ、一人懺悔室に籠り瞑想した。
 ゼンニン一味は後日、通報を受けたノウラの衛士隊に証拠とともに引き渡された。いかに肉親とはいえ、今度はワールモンも容赦しないだろう。
「……そういえば、ゼンニンが領主を解任されたって云う事件って何だったの?」
 ミオの質問にラクトーサは言いづらそうに答えた。
「……確か、村の娘に[乱暴]を働いたとか……」
 それを聞いたミオ、イーリス、ナナ、そしてアファエルは絶句し、激怒した。もし彼女たちが最初にそのことを聞いていたら、ゼンニンはとうに生きてはいなかっただろう。
 とりあえず、事件を解決した一行はこれ以上居る理由もないのでライバに戻ることにした。
「……で、私が宿で一人寂しく夜を過ごしている間にそんなことがあったんですか……!!」
 ゼノアの嘆きを聞きながら一行は、村人の見送りを受けてタナル村を後にした。そんな一行の背を見送りながらラマーナは、すっかり元気を取り戻したラミーネに赤面しながらこう言った。
「奥様。これに懲りたら、夜はちゃんと、お部屋の戸を閉めて、お二人の時間をお過し下さいませ。まだ、根本的には何も解決してはいないんですから……」
「ラマーナさん……あなた、私の正体を……」
 ラマーナはその言葉を遮った。そして、今まで見せたことがない笑顔を二人に見せた。
「私は、お二人のことが大好きです。いつまでもずっと、幸せでいて下さいね!!」
 その言葉を聞いたラクトーサ、そしてラミーネもまた、ラマーナに笑顔を返した。確かにラミーネが魔物であることを隠し続ける以上、いつまたこの騒動が起きるかもしれないのだ。だが、このゴンドア大陸にはラマーナや一行のように自分達に理解を示してくれるもの達もいるのだ。決して乗り越えられないものではないのだ。
「モ・エギさん……あなたの想い、きっとクサナギ様も気付いてくれます。諦めないで、勇気を出して。私のように……」
 ラミーネは立ち去るモ・エギの背に向けて、そっと呟いた。