キャンペーン・リプレイ

第 二十四話 「 荒 野 の 諸 々 」       平成12年2月27日(日)

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 ……都市国家群の北東に位置する小国が資源を巡って無謀にもトランバキアに挑んだ戦争、その戦場でロキアは戦っていた。ロキアの故郷は資源に乏しいため、国全体が傭兵稼業で成り立っていた。が、勇猛果敢な戦いぶりを見せた最強の傭兵軍団も、銃の登場により衰退していた。
 それでも自分たちの誇りを守り、敢えて銃や操兵に対して斧と盾だけで挑むロキアの一族……だが、挑んだ相手が悪かった。
 最初に攻めてきたのは武装したドウドウ鳥による騎馬に跨った重装甲兵団であった。その騎馬軍団は土煙をあげながら怒濤の如く突進してきた。それは自分たちにとって望むところである。ロキアたちは大盾を構え、その突進を迎え撃った。
 が、それは罠であった。接近してきた騎馬軍団はロキアたちの隊が塹壕から出てくるのを確認するや、突如きびすを返し、大量の投擲爆弾を一斉に投げつけてきたのだ!。もはや勢いに乗っていた隊はそれを止められず、そのまま爆弾に身をさらす結果となり、隊は大打撃を被ってしまった!!。
 相手は[トランバキア帝国装甲兵団]であった。この兵団は全員がセラミック装甲に身を包み、同様に武装したドウドウ鳥に跨った装甲騎馬軍団である。一見すると操兵登場以前の旧来の騎士団のように見えるが、その実態は高度な指揮管制により統率された、神速による機動戦闘を旨とした装甲兵団だったのだ。
 この、重装甲の上に機動力の高い騎馬軍団は、その突進力を用いた蹂躙攻撃の他に、上記のような戦術、神速を生かした機動戦など様々な戦闘に力を発揮、そしてその身に纏うセラミック装甲は軽量かつ堅固で、歩兵の使用する剣や銃などを殆ど弾いてしまう、まさに攻防一体の軍団であった。
 そんな軍団と戦術の前にロキアのいる部隊は壊滅寸前であった。それでも、彼が尊敬する隊長ラン・バラルは混乱した部隊をまとめ率いて勇猛果敢に戦っていた。が、そのラン・バラルも伏兵に狙撃され、軍は完全に敗北してしまった。
 それから五年の歳月が流れた。残党狩りから逃れたロキアは傭兵として方々を巡る旅を続けていた。が、かつての敗北にも関わらずロキアは未だに戦斧と大盾のみ、という故郷に伝わる戦術で戦っていた。さすがに無謀に突っ込むだけではだめだ、と銃や操兵に関する知識こそは得たものの、その基本姿勢は変えてはいない。あくまでこの戦術を守ることが、今の自分という存在を肯定する唯一の手段であると考えたからであろうか……。

 戦斧と大盾に命を預けて戦う重戦士ロキア
 
 ロキアは今、ホセと共にマザの街の近くにある開拓町レクサを訪れていた。ホセとは幾度か用心棒としての仕事で知り合って以来の親友であった。本来傭兵は友を作らないものだが、ロキアはこのホセという人物に引かれ、気がついたら腐れ縁となっていたのだ。
 二人がレクサに着いてみるとそこは予想以上に寂れた町であった。人口千人程度と規模は小さく、また街道からはかなり離れた町ではあるが、それだけではこの活気の無さは説明がつかない。
「全く、何でこんなシケた町に来たんだ」
「……仕方ないだろ……すぐに着きそうな町はここしかなかったんだから……」
 ロキアは毒つくホセをなだめながら自分もため息をついた。
「(……こんな町じゃ、仕事は入らんな……)」
 次の日になったらすぐに立とう、と思ったその時、二人はこの町に場違いなものを見た。それは、三機の操兵であった。この辺りで操兵そのものは珍しくはない。だが、そのうちの二機は明らかに変わっていた。
 うち一機、褐色の機体の操兵は古操兵独特の形状をしてはいるが、その中でもこの機体は重装甲の部類に入るのであろうか、かなりの大型機であった。左腕部には盾を装備しており、予備武器であろうか、その盾に白い手槍を取り付けていた。その機体は今、誰も搭乗していないのか、駐機状態であった。
 もう一機の黒鉄色の機体はさらに変わった形状をしていた。その外観はまるで重装甲に身を包んだ人間、といった出立ちなのだが、その右腕が以上に長く、よく見るとその背には第三の腕を装備していた。こちらの機体は操手が搭乗しているようで、稼働中であった。が、その動きは明らかに生き物のそれで、とても機械仕掛けの操兵には見えなかった。
「ありゃぁ、クサナギのエルグラーテじゃねぇか」
「……知っているのか?、ホセ……」
「ああ。俺の知り合いの、クサナギの操兵だ」
 ホセはロキアにクサナギを紹介しようと、エルグラーテの元に行こうとした。その時……。

 一方そのころ、クサナギは三機目の操兵である[レストアール三型]に搭乗し、井戸堀の作業をしようとしていた。
 一体何故クサナギがこの町に居てこんなことをしているのか。それは、数日前に溯る。何もすることがなかったクサナギは、ゼノアの依頼でこのレクサの町に貧民区の改善工事の用心棒としてモ・エギと共に雇われることになった。何故、そのような工事に用心棒が必要なのか。それは、この工事を進めようとすると、何者かが妨害、というよりは嫌がらせを掛けてくるのだという。 ゼノアはそれが何者によるものかはわかってはいた。おそらくはこの街の有力者であるダルコス家の手の者であろうと。だが、実質の支配者であるダルコス家を告発するには証拠が足りなかった。そこで、当面の護衛だけでも、とクサナギとモ・エギを連れてきたのだ。
 が、その嫌がらせは日に日に増していき、とうとうレストアール三型の操手が逃げてしまったのだ。そこでクサナギが代わりにこの作業用再生機に乗り込み、この工事を進めることになったということだ。
 クサナギは機体を立ち上がらせると、右腕の変形機構を作動させ、通常の腕と井戸堀用の掘削機を換装した。この[レストアール三型]はライバの工房が独自に開発した簡易作業用操兵[レストアールシリーズ]の三番目の機体で、戦闘こそは向いていないものの作業能力は従来のものよりも向上している。
 最大の特徴は腕の変形機構である。イランド博士の考案によるこの機構は今までの副腕とは違い、その場に合わせて腕を切り替えることができる。これによって同時使用は出来ないものの、操縦性を犠牲にする事なく様々なオプションを搭載、そして短い時間に換装させることができ、一機の操兵で様々な作業をこなすことができるようになった。現在この機構は戦闘用操兵への応用も検討されているという。
 作業現場までレストアールを歩かせたクサナギは、早速そのポイントに掘削機の先端を当てた。その時、
「その作業を中止してもらおうか……!!」
 と、少年らしい甲高い声が飛び込んできた。それは、拡声器を通した声だった。クサナギがその方向を見ると、そこには見たこともない真っ黒な操兵が立っていた。手持ち武器のようなものは装備してはいなかったが、その左腕は鉄斬爪が取り付けられており、背中からは大きな放熱版が翼のように伸びていた。操兵は再び少年の声で話しかけてきた。
「君は……強いのかい?!」
「……何のつもりかは知らないが、工事の邪魔をしないでくれ……!!」
 クサナギの抗議もむなしく、その操兵は攻撃体制を取った。
「僕の仕事はこの工事の邪魔をすることなんだ、行くぞ!!」
 その言葉と共に黒い操兵はまるで疾風のような速さで突っ込んできた。クサナギは慣れぬ機体を操って、その攻撃をかわそうとした。が、やはり機体の性能差は遺憾ともしがたく、閃光の如く繰り出された鉄斬爪にレストアール三型はものの見事に切り刻まれ、その一撃に耐えられずに機体は粉砕されてしまった!!。
「なんだ……大したこと無いじゃないか、つまらない……!!」
 不満そうにそう言い放つと黒い操兵は、きびすを返してその場を去って行った。
「クサナギさん!!」
 モ・エギがすぐに駆け寄り、倒れた操兵の胸部装甲をはがすと、そこからクサナギがやっとの思いで這い出てきた。モ・エギの手に乗ってゼノアのところまで戻ったクサナギは、彼に今の操兵が何者かを訪ねた。
「全く見たことがない機体ですね……。おそらくはかなりの高級機を母体にしたカスタム機でしょう」
 その光景を見ていた工事の現場監督がその問いに答えた。
「ありぁ、ダルコス家に雇われた奴だ……確か、クロウとか云ったか」
「やはりダルコス家の奴等ですか」
 その時、今の惨状を目撃したホセとロキアが駆け付けてきた。
「クサナギ、偉い目にあったな!!」
「ホセ!。ホセじゃないか……!!。格好の悪いところを見せてしまったな……」
 ホセはクサナギにロキアを紹介し、クサナギも自己紹介と、ゼノアとモ・エギを紹介した。モ・エギが操兵でなく、御仁族の姫君であることを知ったロキアは思わず魔除けの印を切った。まあ、これは当然の反応であろう。御仁を見て驚かないものは普通いないのだ。が、ホセとクサナギの説明で彼女の精神が人間と差して変わらないことを知るや恐怖と畏怖の感情は無くなった。
「ところで、ダルコス家は何故、この工事の妨害をするのだ?」
 クサナギの問いにゼノアと監督がそれぞれ答えた。それによると、この貧民区に住む人々は、元々このマザ国の奴隷階級の者達であったという。それが十年前の奴隷解放令によって解き放たれ、自由民として認められたという。
 ところが、成り上がりとはいえそれなりの貴族であったダルコス家としてはそれが面白くないらしく、この町の実質的な支配者の権限を活かして今でも彼らを差別しているという。それ故貧民区が改善されることはダルコス家の意思に反することになるのだ。が、彼らは正式な意味ではこの町の支配者ではない。だからこうして嫌がらせなどで工事を妨害しているのだそうだ。
 とにかく、肝心の作業用操兵がこの状態では仕事にならない。一行はとりあえず、この町唯一の宿[花盛り亭]へと向かった。
 宿に入った一行は、とりあえず部屋を確保すると食事をとるべく隅の卓に腰を下ろした。店の中には客は居るものの、あまり活気はないようであった。その殆どは旅の渡世人のようで、それぞれが勝手気ままに酒を飲んだり雑談に耽っていた。だが、あまり景気が良い話は聞こえては来なかった。
 一行はそれぞれに今まで自分たちにあった出来事を身の上話として語り合っていた。そんな中、ロキアが今後の方針をゼノアに聞いてきた。それに対してゼノアは、操兵の修理が済み次第工事を再開させる、といきまいていた。が、ダルコス家をどうにかしない限りおそらくは妨害されて先程と同じ結果になってしまう。
 ゼノアはここでせっかく知り合ったことだし、と二人に用心棒として雇いたい、と持ちかけた。とりあえず目的の無かった二人はゼノアの提示した報酬が悪いものではなかったこともあり、それを引き受けることにした。その際、ホセはこう返事をした。
「それでいーど……(井戸)」
 ……………荒野に空っ風が吹いた……。この一言を聞いたとき、クサナギは改めてホセと再会した、という気がした。