キャンペーン・リプレイ

第 二十四話 「 荒 野 の 諸 々 」       平成12年2月27日(日)

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 その翌日。一行が何事もなく朝を迎え、窓を開けると、宿の外で一騒動が起きているのが目に入った。どうやら貧民区からのようだ。
 一行がその場に行ってみると、そこには一代の霊柩車が停まっており、その前で二人の男が言い争っていた。どうやら、葬儀のことで揉めているようだ。
「……どうして駄目なんだ。このお足じゃ不満か……?!」
「いや、金額は問題無いんだ。銀貨二十枚も貰えりゃどんな奴だって埋葬するさ。だが……」
 苛立った商人風の男は葬儀屋に詰め寄った。
「だがじゃ無いだろう!。街道沿いならともかく、こんな町の中に死体が転がってるのを見たら、放ってはおけんさ。きっと、仏さんもそう願っている!!」
 葬儀屋はため息をついて答えた。
「そりゃ、私だってそうさ。だが、この町じゃ、この爺さんは墓に入る資格はないそうなんだ」
 どうやら、故人はこの町の老人のようだ。
「おいおい、この町の墓に入っている奴等の中には人殺しや無法者、無頼漢もいるんだ。一体どういう資格が……」
 再びため息をついて葬儀屋は呆れるように言った。
「この町じゃ、貧民区のものは墓に入ることができないんだ。逆らえば、蜂の巣にされるからな、おかげで御者が逃げちまったよ」
 その状況を見兼ねたホセが言い争っている二人の間に割り込んだ。
「そういうことだったら、俺が御者になってやる」
「身捨ててはおけんな……私も行く!」
 そういってホセとクサナギは返事も待たずに霊柩車に乗り込むと、早速墓のほうに向かって走らせた。
「ちょっと待ってくれよ!。その霊柩車は高いんだ。壊されちゃ困るよ……!!」
 思わず叫んだ葬儀屋にゼノアが話しかけた。
「私が弁償しましょう」
 そんな光景をロキアはあえて離れて見ていた。彼としてはあまり町の問題そのものに関わりたくはなかったのだ。が、やはりこの事態を放ってはおけないのか、彼は彼なりに行動を起こし、この故人の縁者を捜した。
 二人を乗せた霊柩車はゆっくりと町外れの墓地へと向かっていた。その後を葬儀屋、ゼノア、そしてやじ馬達がその後を追った。その中でロキアは、その野次馬の先頭に、明らかに興味本位ではなく本当に悲しんでいる二人を見つけた。一人は年頃の少女でもう一人はその弟と思われる少年は、名残惜しそうに霊柩車の後を追っていた。ロキアはさりげなくその姉弟に近づいた。
 クサナギとホセは、周りを警戒しながら霊柩車を進めた。
「クサナギ……火、貸してくれねぇか……」
 クサナギはマッチに火をつけ、ホセの煙草に火をつけた。周りでは野次馬達が遠巻きに見ていた。
「止めといた方がいいぞ!。痛い目を見るぞ!!」
 どこからか二人に忠告する怒鳴り声が聞こえて来た。が、そんな野次馬の怒号に引き下がる二人ではない。ホセは構わずに霊柩車を操る。
 不意に感じた気配にクサナギが銃を構えて振り向いた。そこには、一人の銃士と思われる男がいて二人をじっと見ていた。が、クサナギの銃口を見るや両手を前に出して頻りに違う、と訴えかけていた。どうやらこいつも唯の野次馬のようだ。
 その時、近くの建物の窓のカーテンが不自然に動いた。その中に不穏な気配を感じたホセは、その窓から銃口が伸びる前に引き金を引いた。銃声が響き、銃弾が中にいた伏兵に直撃する。その一撃を受けたならず者はかなわないと判断し反撃を諦めた。
 やがて霊柩車は墓地の入口に着いた。その入口の前には、ダルコス家の差し金と思われる四人のならず者が銃を構えて待ち構えていた。
「おい、どうやらお出迎えのようだぜ」
「……そうらしいな……」
 ならず者の一人が二人に向かってこう叫んだ。
「このまま回れ右して帰んな!。悪いがお前等みたいな奴は死体になってもこの墓にゃ入れないんだ!!」
 その言葉と同時にならず者達は一斉に銃を二人に向けた。それを見たホセは余裕の表情で煙草をふかし、こう言い返した。
「お前等の方こそ、自分たちを[死体に死体]のか(死体にしたい)?!」
 ……………荒野に再び空っ風が吹いた……。ホセのそんな駄洒落に一瞬呆気に取られたならず者達であったが、その言葉の意味を悟るや烈火の如く怒り狂った。そして銃の引き金に指を掛けた。それを見たロキアはとっさに身を翻し、姉弟を両手に抱えるとすぐに物陰に逃げ込んだ。突然の出来事に姉弟は言葉も出なかった。
 だが、ならず者達はその引き金を引くことが出来なかった。ホセのクイックドローとクサナギのボルトアクションが火を吹き、一人が重傷、もう一人が銃を取り落とした。そして残りはその一瞬の出来事に驚愕し、硬直してしまった。
「おい、二、三人来てくれないか」
 その呼びかけに野次馬から数人がやってきた。そして霊柩車から棺桶を下ろすとそのまま墓地へと運び入れた。その光景を見たならず者はどうするべきかを考えあぐねた。が、ホセの「まだやる気か?」の一言を聞いたと同時にお決まりの捨て台詞を残して去っていった。
 葬儀屋が唐突に叫んだ。
「俺の奢りだ!一杯飲んでくれ!!」
 その光景を目の当りにした野次馬達から歓声が沸き起こった。それを見たロキアは、貧民区を嫌っているのがダルコス家だけであることに気づいた。どうやら、すべてはあいつ等をどうにかすれば済むようだ、ということにようやく気づいたのだ。
「……助けていただいて有り難うございました……」
 姉弟はロキアに救われたことを理解し、礼を言った。姉の名はエメリア、弟はマート。二人は町工場[パルク鉄工所]に住んでいるという。二人は故人の縁者というわけではなかったが、生前世話になったこともあり、出来ればきちんと墓に入れてあげたかったのだが、この町の決まりでそれも出来ずに途方に暮れていたところ、先の商人が葬儀屋を手配し、そしてクサナギとホセが現れた、と云うわけである。
 その時、ホセの操る霊柩車が三人の側を通った。その際ホセは、
「これで爺さんに花でも買ってやんな」
 と、エメリアに銀貨を一枚投げてよこした。それを見たロキアはあまり良い顔はしなかった。それが施しに見えたからだ。余計な哀れみは彼女たちのためにならない、とロキアは考えたのだ。だが、ホセがそんなつもりで渡したのではなく、ただ純粋に死者を弔ってのことであったことを見抜くと、自分も銀貨を渡した。そう、この季節に花を買うには銀貨一枚程度では足りないからだ。
「あ……有り難うございます!」
 二人は改めて礼を言うとその場を去っていった。
 その後、酒場に戻った一行は英雄として歓待受けていた。ホセとクサナギの周りには人々が集まり、二人の活躍を褒め讃え、その話を肴に酒を酌み交わしていた。その中でロキアが一人、目立たぬようにカウンターの隅で軽く酒を口にして周りの様子をうかがうと、この騒ぎの中で一組だけクサナギとホセを面白く思わないもの達が居ることに気付いた。おそらくはダルコス家に雇われたならず者達であろう。
 やがて周りのドンチャン騒ぎが治まったころ、そのならず者達も帰って行った。どうやら先の騒動で実力の差を悟ったのか、この場では手を出してはこなかった。
 しばらくして周りが完全に落ち着いたころ、この宿に先程出会った少年マートがやってきた。マートはまっすぐロキアの元にやってきた。
「おじさん、さっきは有り難う」
 ロキアはさっきのならず者が帰っていることを確認し、安心した。それを見たホセがマートにこんなことを言った。
「マート……もう少しで[まーとになっていたぞ](的になっていたぞ)」
 ……………荒野に三度空っ風が吹いた……。幸か不幸かマートは今の言葉の意味が分かってはいないようで、クサナギとホセにも老人を墓に葬ってくれた礼を言った。
「そういえばマート、何か俺に用事でもあるのか?」
「うん……。おじさんにお願いしたいことがあるんだけど……」
 だが、マートはその前に用事がある、といって隅のほうの卓に向かった。その卓を見てクサナギは驚愕した。そこには、[王朝結社の乱]においてライバ王側について[偽聖剣売り隊作戦]などで活躍し、そしてそれ以前の操兵武闘大会においてはクサナギのファルメス・グラーテ改と対戦し、ものの見事に自爆して果てたあの傭兵隊長ザクネーンがそこにいたのだ。
 傭兵としてのザクネーンの噂は同じ傭兵であるロキアも聞いており、かつて戦場で味方同士として雇われたこともあった。絶対無敵、悪逆非道、冷酷無比、危ない奴、破壊魔王など彼に関する噂、風評は後を立たない。だが、何故か戦闘後の略奪や非戦闘員への非道な行為は一切聞いたことがないのが不思議であったのだが。
 その理由をクサナギは知っていた。ザクネーンは実は戦争孤児を集めて孤児院を開いている。その[危ない性格]も宣伝のためのポーズに過ぎないのだ。だが、ノウラでの晩餐の際にそのことをつい洩らしてしまい、ライバ周辺ではその事実を多くの人々に知られてしまった。それ故、先の紛争が終結した直後にライバを離れ、次の戦場に向かった筈であったのだが……。
 マートは迷う事なくそのザクネーンに近づき、こう言った。
「ザクネーンおじさん!昨日の話、引き受けてくれる!!」
 どうやらマートは、ロキアへの頼み事と同じであろうことをザクネーンにも頼んでいたようだ。当のザクネーンはマートの問いに戸惑い、表情を曇らせた。
「ザクネーンじゃないか、どうしたんだ、こんな町で……」
 ロキアがザクネーンに話しかける。
「ロキアじゃねぇか、久しぶりだなぁ。いや何、次の戦場に行く途中に差しかかったまでよ」
 そう言った時ザクネーンは、この宿にクサナギがいることに気付き、そして意味有りげな笑みを浮かべてマートに向かって非道にも「嫌だね」と言い放った。
「どうして……昨日は真剣に話を聞いてくれたじゃないか!!」
「俺はそういう安い仕事はやらねぇんだ!。そう言う仕事だったら、そこにいる……」
 ザクネーンはおもむろにクサナギを指さした。
「そこにいる若造に頼むんだな!!。ああいう奴だったら、ただでも引き受けてくれるだろうさ」
 そう言ってザクネーンは嫌味な笑いをクサナギに向けた。それに対してムッときたクサナギだが、次のザクネーンの行動に呆気に取られてしまった。彼はなんと、マートがクサナギのほうを向いた瞬間、クサナギに向かって両手を合わせて拝む仕草をしたのだ!!。そしてマートが再びザクネーンのほうを見ると、彼は何食わぬ顔で再び嫌味な笑いを浮かべたのだ。一体この行動にはどんな意味があるのだろうか。
 そんなことを数回くり返したザクネーンは、やがてクサナギに唐突に詰め寄った。
「……何だてめぇ……!。俺とやろうってのか……いい度胸だ。表で話を付けてやる!!」
 そう言ってザクネーンはクサナギを強引に連れ出した。数人の野次馬が着いて行こうとするが、ザクネーンが凄みを利かせると、皆着いて行くのをためらった。二人はそのまま外に出て、その後の様子は店の中からは見ることが出来なかった。
 外に出たザクネーンは、周りに誰もいないことを確認するとクサナギに向かって再び両手を合わせた。
「頼むクサナギ!。あの姉弟の頼みを聞いてやってくれ!!」
 いつに無く真剣な表情のザクネーンに、クサナギは話を聞くことにした。それによると、どうやら先に出会った姉弟エメリアとマートに関わる出来事のようであった。
 エメリアとマートは父ロバートとともに[パルク鉄工所]を切り盛りしていた。が、ある日材料の仕入れにマザに向かったロバートが帰ってこなかったのだ。そしてその数日後、事件は起こった。ダルコス家の使者が訪れて、唐突にロバートがダルコス家から金貨百枚もの借金をしており、その返済期限が迫っている、と言ってきたのだ!。
 もちろん、そんな借金などした覚えがない。だが、確かにロバートのものと思われる署名のある借用書を盾にダルコス家は返済を迫って来たのだ。もちろん、小さな町工場に金貨百枚などという大枚を払うことなど出来はしない。そこでダルコス家は借金の返済の代わりとして、以下の条件を突きつけてきた。
 それは、この工場を明け渡すか、それともエメリアがダルコス家の子息であるエリックとの婚約に同意するかのどちらかというものであった。どうやらこの婚約のほうが狙いのようだ。何故なら、エリックは再三に渡ってエメリアにプロポーズし、その度に断られていたというのだ。
 この条件を突きつけられてエメリアは苦悩した。ダルコス家に嫁ぐなど絶対に嫌であるが、こうしないと自分たちの工場が取られてしまう。果たしてどうすればよいのか……。そして父はどこに行ってしまったのか……。
 そんな姉を見兼ねたマートは、たまたまこの町に立ち寄っていたザクネーンに頼んでみることにした。なけなしの貯金の入った箱を抱えて、彼に事件の解決を頼んだのだ。
「泣かせる話じゃねぇか……姉さんを救うために、勇気を奮ってこんなならず者に頼みに来るなんて……」
 ザクネーンは目頭を押さえて話を続けた。
「俺の推測じゃ、おそらくロバートはダルコスの奴等に捕まったんじゃねぇかと思うんだ……。クサナギ!!」
 突然自分のほうに向き直ったザクネーンの気迫に一瞬クサナギは言葉を失った。
「頼むっ!。あの姉妹を助けてやってくれっ!!。足りねぇ報酬は俺が出すっ!!!」
「なら、何故自分がその依頼を受けないのだ……!」
 クサナギの問いにザクネーンは罰が悪そうに答えた。
「……いや、ほら。俺っていわゆる[残虐非道な傭兵]だっていう噂が広まってるのは知っているだろ……。でもよ、この前のノウラでの一件以来、どうも俺に対する見方が変わっちまったようで……それで、そろそろ戦場を変えようって時に、こんな依頼を素直に受ける訳にゃいかねぇんだ。部下たちを食わせにゃならねぇし……」
 ザクネーンはさらに言葉を続けた。
「でもよ、やっぱりあの姉弟を放っていくことも出来ねえし、どうしたらいいか迷ってたところに、あんたが来たって訳だ。俺は見ての通り戦争屋だ。戦いの中に喜びを感じていることも認める。だが、自己矛盾かも知れねぇが、あんな姉弟が酷い目に合っているのを見過ごす訳にもいかねぇんだ!!」
 そのザクネーンの言葉にクサナギは彼の意外な、あるいは本当の姿を見たような気がした。
「……分かった。困っている人を放っておくことは出来ない。その依頼を受けよう……!」
 そのクサナギの返事を聞いたザクネーンは小躍りして喜んだ。
「有りがてぇ!。そう言ってくれると思ったんだ。それじゃ、俺は俺なりに支援するから、後のことは頼んだぞ!!」
 ザクネーンはそれだけを言うと、突然「ぐわぁっ!!」と悲鳴を上げて店の入口に向かって吹っ飛んでいった。そして立ち上がるやわざとらしく、
「くそっ、やっぱりクサナギにゃ叶わねぇや……手前らずらかるぞっ!!」
 と叫んで部下共々転がるように逃げていった。その背中を見て事情を悟ったロキアは、何となくザクネーンに哀れみを感じた。
 そんなことは露知らず、あのザクネーンを[殴り飛ばした]クサナギに、マートはすっかり夢中となっていた。
「兄ちゃんすごいや!。あのザクネーンをやっつけちゃったんだ……。兄ちゃん、僕たちを……姉さんと父さんを助けてよ!!」
 だが、当のクサナギはザクネーンの去っていった方角を見つめて「あの……………」と、無意識のうちに手を伸ばしていた。